防災
「車の中なら安心」ではない――真夏の車中泊避難に潜む2つの命の危険
2026年7月28日に最大震度7を観測した熊本の地震では、余震への不安から多くの方が車中泊による避難を続けています。そんな中、車中泊をしていた70代の女性が熱中症の疑いで亡くなり、今回の地震で初めての「災害関連死」の疑いがあると発表されました。実は2016年の熊本地震でも、犠牲者の約8割は建物の下敷きなどの直接死ではなく、避難生活の負担による災害関連死でした。本記事では、車中泊避難がなぜ危険なのか、熱中症とエコノミークラス症候群という2大リスクの仕組みと、今日からできる具体的な対策をわかりやすく解説します。
車中泊避難とは、地震などの災害時に自宅や避難所ではなく、自家用車の中で寝泊まりして避難生活を送ることです。余震が来ても建物のように潰れる心配がない、プライバシーが守られる、ペットと一緒にいられる――そうしたメリットから選ばれやすい一方、夏の車内は熱中症、長時間の同じ姿勢はエコノミークラス症候群という、命に関わる2つのリスクを抱えています。
車中泊避難はなぜ危険?2016年熊本地震の教訓
車中泊避難の危険性が広く知られるきっかけになったのが、2016年4月の熊本地震です。震度7の揺れが2回続いたため「建物の中は怖い」と感じた人が多く、避難者の実に約7割が車中泊を経験したとされています。
その結果どうなったか。熊本県の集計では、熊本地震の犠牲者のうち災害関連死は218人と、全体の約8割を占めました。建物の倒壊などによる直接死(50人)より、避難生活の負担で亡くなった方のほうがはるかに多かったのです。そして災害関連死のうち少なくとも60人は車中泊をしていたことが分かっています。エコノミークラス症候群で心肺停止となり救急搬送される人も相次ぎました。
今回の令和8年熊本地震は、震度7の地震が真夏の酷暑期に起きたという、近年例のない状況です。避難所には約9,200人が身を寄せていますが、車中泊などの自主避難者は行政も把握しきれていません。2016年の教訓に「夏の暑さ」が上乗せされた、極めて危険な避難環境だといえます。
危険その1:真夏の車内は熱中症の危険地帯
8月2日、熊本県の木村知事は、車中泊による避難をしていた70代の女性が熱中症の疑いで死亡し、今回の地震で初めての災害関連死の疑いがあると発表しました。発見時、車はガソリンが尽きてエアコンが動かない状態だったと報じられています。
JAFのテストでは、真夏にエンジンを止めた車内の温度は短時間で50℃以上に達することが確認されています。車のボディは鉄板とガラスでできた「温室」のようなもので、日なたに停めた車内は外気温よりはるかに高温になります。エアコンが頼みの綱になりますが、被災地ではガソリンスタンドの営業も限られ、今回のように燃料切れがそのまま命の危険に直結します。
特に高齢の方は暑さやのどの渇きを感じにくく、気づかないうちに脱水が進みます。「我慢できるから大丈夫」ではなく、日中の暑い時間帯は車内で過ごさないことを原則にしましょう。
危険その2:エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)
車中泊避難のもうひとつの大きなリスクがエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)です。狭い座席で脚を曲げたまま長時間動かずにいると、脚の深部の静脈に血のかたまり(血栓)ができ、それが立ち上がった拍子などに血流に乗って肺の血管に詰まると、肺塞栓症という命に関わる状態を引き起こします。
2016年の熊本地震では、地震発生の数日後からエコノミークラス症候群による搬送が相次ぎ、車中泊との強い関連が指摘されました。次のような条件に当てはまる人は、特にリスクが高いとされています。
| リスク要因 | 理由 |
|---|---|
| 座ったままの睡眠 | 座席で脚を下げて曲げたまま眠ると、ふくらはぎの血流が滞り血栓ができやすい |
| 水分を控えること | 「トイレに行きたくないから」と水分を我慢すると血液が濃くなり、血栓のリスクが上がる |
| 高齢・持病・服薬 | 高齢の方、糖尿病などの持病がある方、脚に静脈瘤がある方はもともと血栓ができやすい |
| 女性・小柄な体格 | 2016年の熊本地震で搬送された方は中高年の女性が多かったと報告されている |
それでも車中泊するときの安全対策6ステップ
本来は避難所や後述の2次避難が安全ですが、余震への不安やペットの事情などで車中泊を選ばざるを得ない場合は、次の6つを徹底してください。
- 駐車場所は日陰・風通しの良い平らな場所に直射日光を避けられる場所を選び、がれきや土砂でマフラーがふさがれない場所に停めます。ガソリンは早め早めに補給し、残量に常に余裕を持たせます。
- 座席はできる限りフルフラットに座ったまま眠るのが最も危険です。シートを倒し、すき間はタオルや毛布で埋めて、脚を伸ばして水平に近い姿勢で眠れるようにします。
- 水分と塩分をこまめにとるトイレを気にして水分を控えるのは絶対にやめましょう。水やお茶に加え、汗をかいたら塩分も補給します。アルコールは脱水を進めるため避けます。
- 数時間おきに車の外へ出て歩く最低でも3〜4時間に一度は車外に出て体を動かします。日中の暑い時間帯は、車内ではなく避難所や日陰の風通しの良い場所で過ごしてください。
- 車内でもできる「足の運動」を習慣にかかとの上げ下げ、足首を回す、ふくらはぎを揉む――座ったままでもできる運動を1時間に1回を目安に行い、血流を保ちます。
- 夜間は換気と防犯を両立する網戸用ネットやサンシェードを活用して風の通り道を作りつつ、施錠と貴重品管理も忘れずに。エンジンをかけたまま眠るのは避けます。
「車中泊を続けない」という選択肢も忘れずに
最も確実な対策は、危険な環境での車中泊を長く続けないことです。熊本県と国は今回、ホテル・旅館など73施設・最大約2,200人分の2次避難先を確保する方針を示しており、高齢者の移動手段の確保も進められています。
「避難所は人が多くて気を使うから」「自宅や地元を離れたくないから」と車中泊を続けた結果、体調を崩してしまっては元も子もありません。特に高齢の方、持病のある方、妊娠中の方、小さなお子さんがいるご家庭は、市町村の窓口や避難所の運営スタッフに2次避難を早めに相談してください。冷房のある環境で脚を伸ばして眠れるだけで、熱中症とエコノミークラス症候群のリスクは大きく下がります。
車中泊避難に関するよくある質問
Q. 車中泊避難はなぜ危険なのですか?
A. 夏は車内温度が50℃以上に達する熱中症のリスクと、狭い空間で長時間同じ姿勢を続けることによるエコノミークラス症候群のリスクがあるためです。2016年の熊本地震では災害関連死218人のうち少なくとも60人が車中泊をしており、今回の令和8年熊本地震でも車中泊中の70代女性が熱中症の疑いで亡くなっています。
Q. エコノミークラス症候群を防ぐにはどうすればいいですか?
A. こまめな水分補給、数時間おきに車外へ出て歩くこと、かかとの上げ下げなど足の運動、座席をフルフラットにして脚を伸ばして眠ることが基本です。医療用の弾性ストッキングの着用も有効とされています。トイレを気にして水分を控えるのは最も危険な行動です。
Q. 夏の車中泊で熱中症を防ぐ方法はありますか?
A. 日中の暑い時間帯は車内で過ごさず、避難所や日陰で過ごすことが大前提です。駐車は日陰を選び、水分と塩分をこまめにとり、ガソリンの残量に常に余裕を持たせてください。エンジンをかけたまま眠るのは一酸化炭素中毒の恐れがあるため避け、夜間は網戸ネットなどで換気を確保します。
Q. 車中泊避難をしていても支援は受けられますか?
A. 受けられますが、行政に避難者として把握されていることが前提です。近くの避難所で避難者名簿に登録すれば、物資の配布や保健師の健康チェックの対象になります。また熊本県ではホテル・旅館など73施設・約2,200人分の2次避難先の確保が進められており、市町村の窓口で相談できます。
まとめ:車中泊避難は「短く・備えて・登録して」
車中泊避難の危険は、正しい知識があれば大きく減らせます。最後に要点を整理します。
- 2016年熊本地震の犠牲者の約8割は災害関連死――車中泊はその大きな要因だった
- 夏の車内は熱中症の危険地帯。日中は車内で過ごさず、燃料切れとエンジンかけっぱなしの就寝に注意
- エコノミークラス症候群は「水分・運動・脚を伸ばして眠る」で予防できる
- ふくらはぎの腫れや痛み、急な息切れはすぐ受診
- ホテル・旅館への2次避難や避難者登録を活用し、危険な車中泊を長く続けない
余震が続く中で「建物の中は怖い」と感じるのは自然なことです。だからこそ、車中泊を選ぶなら安全なやり方で、そして少しでも早く、冷房のある安全な環境へ移ることを考えてください。この記事が、避難生活を送るご本人はもちろん、被災地に家族や知人がいる方の声かけのきっかけになれば幸いです。


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