総務省の最新調査で、地方公務員採用試験の競争率は4.1倍と過去10年で最低になりました。「若者が減ったから」と説明されがちですが、同じ10年で大学の卒業者は2万6千人増えています。10年分の数字を分解すると、別の絵が見えてきます。
(10年前は6.6倍)
38万8,996人まで減少
9万4,999人で過去最多
調査開始以来の最多
この記事でわかること
- 地方公務員試験の競争率は令和6年度で4.1倍。平成27年度の6.6倍から2.5ポイントの下落
- 倍率低下の約7割は受験者の減少、約3割は合格者の増加によるもの(本記事で寄与を分解)
- 「18歳人口が減ったから」では説明がつかない。大学卒業者はむしろ4.7%増えている
- 県庁(3.3倍)より市役所(4.7倍)のほうが狭き門という、直感と逆の序列
- 合格しても採用に至らない人が2万7,125人。合格者の28.6%で過去最高水準
- 北海道では5年で3.7倍→1.9倍。受験者が半減する一方、合格者は増えた
1.地方公務員試験の競争率は4.1倍。10年で6.6倍から下がった
総務省が毎年公表している「地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」の最新版(令和6年度、公表は令和8年1月)によると、都道府県・市区町村が実施した職員採用競争試験の状況は次のとおりです。
受験者数は38万8,996人で前年度から1万203人減少。一方、合格者数は9万4,999人で前年度から8,246人増加しました。その結果、競争率(受験者数÷合格者数)は4.1倍となり、前年度から0.5ポイント下がっています。
10年分を並べると、下落が一過性ではないことがはっきりします。
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| 年度 | 受験者数 | 合格者数 | 採用者数 | 競争率 |
|---|---|---|---|---|
| 平成27年度 | 536,627 | 81,920 | ― | 6.6倍 |
| 平成28年度 | 520,400 | 79,945 | 61,546 | 6.5倍 |
| 平成29年度 | 498,259 | 80,058 | 62,268 | 6.2倍 |
| 平成30年度 | 469,823 | 80,502 | 61,454 | 5.8倍 |
| 令和元年度 | 440,126 | 78,284 | 60,132 | 5.6倍 |
| 令和2年度 | 468,530 | 78,765 | 59,695 | 5.9倍 |
| 令和3年度 | 465,028 | 79,926 | 59,540 | 5.8倍 |
| 令和4年度 | 438,651 | 84,804 | 62,286 | 5.2倍 |
| 令和5年度 | 399,199 | 86,753 | 63,908 | 4.6倍 |
| 令和6年度 | 388,996 | 94,999 | 67,874 | 4.1倍 |
注目したいのは右の2列です。受験者数が10年で14万7,631人(27.5%)減ったのに対して、合格者数は1万3,079人(16.0%)増え、採用者数も6万1,546人(平成28年度)から6万7,874人へ10.3%増えています。椅子の数が減って争いが緩んだのではなく、椅子はむしろ増えているのに座りに来る人が減った、という構図です。
総務省の定義は「受験者数÷合格者数」です。申込者ではなく実際に受験した人が分母なので、申込ベースの倍率より低めに出ます。また、教育委員会が実施する教員採用選考は含まれません。
2.「若者が減ったから」では説明できない。大学卒業者はむしろ増えている
競争率の低下は、よく「少子化で母集団が減ったから」と説明されます。しかしこれは数字で確かめられます。文部科学省の学校基本調査で、地方公務員試験の主要な母集団である大学(学部)卒業者数を同じ期間で並べてみました。
| 区分 | 平成27年 | 令和6年 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 大学(学部)卒業者(3月卒) | 564,035人 | 590,487人 | +4.7% |
| うち就職者(3月卒) | 409,759人 | 451,794人 | +10.3% |
| 卒業者に占める就職者の割合 | 72.6% | 76.5% | +3.9pt |
| 地方公務員試験の受験者(年度) | 536,627人 | 388,996人 | −27.5% |
18歳人口が減っているのは事実ですが、大学進学率の上昇がそれを打ち消しており、大学卒業者数は10年で2万6,452人(4.7%)増えています。就職する人の数に至っては10.3%増。それでも公務員試験の受験者だけが27.5%減っているのですから、「人がいない」のではなく「いる人に選ばれていない」と読むのが素直です。
実際、民間の採用意欲は高いままです。リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査では、2027年卒の求人倍率は1.62倍(2026年卒は1.66倍)。売り手市場が続くなかで、民間との併願者が公務員を選ばずに済む状況が長く続いています。
3.倍率低下の7割は「受験者減」、3割は「合格者増」
「受験者が減った」と「合格者が増えた」はどちらも倍率を下げますが、どちらがどれだけ効いたのかは、そのままでは分かりません。競争率は受験者数÷合格者数という割り算なので、対数を取れば両者の寄与をきれいに切り分けられます。
平成27年度(6.55倍)から令和6年度(4.09倍)への変化を分解すると、次のようになりました。
| 要因 | 動き | 倍率低下への寄与 |
|---|---|---|
| 受験者の減少 | 536,627人 → 388,996人(−27.5%) | 約68.5% |
| 合格者の増加 | 81,920人 → 94,999人(+16.0%) | 約31.5% |
つまり倍率低下のおよそ7割は受験離れ、残り3割は自治体側が門戸を広げた結果です。後者を軽く見てはいけません。合格者を1万3千人増やしたのは自治体の意思決定であり、人手不足に対する明確な反応だからです。
競争率R=受験者数V÷合格者数Gなので、対数を取るとln(R)=ln(V)−ln(G)。10年間の変化はln(388,996/536,627)=−0.3218(受験側)とln(81,920/94,999)=−0.1483(合格側)に分かれ、合計−0.4701。それぞれを合計で割ると68.5%と31.5%になります。
4.県庁より市役所が狭き門。区分別で見ると序列が逆転する
「県庁=上級、市役所=その次」というイメージがありますが、競争率で見ると逆です。令和6年度の区分別を並べます。
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| 団体区分 | 大学卒業程度 | 短大卒業程度 | 高校卒業程度 | 全体 |
|---|---|---|---|---|
| 都道府県 | 3.2倍 | 3.2倍 | 3.5倍 | 3.3倍 |
| 市区(政令市を含む) | 4.9倍 | 3.2倍 | 5.1倍 | 4.7倍 |
| 町村 | 4.0倍 | 2.5倍 | 4.1倍 | 3.8倍 |
| 合計 | 4.2倍 | 3.1倍 | 4.3倍 | 4.1倍 |
都道府県が3.3倍でもっとも入りやすく、市区が4.7倍でもっとも入りにくいという結果です。これは今年に限った話ではなく、平成27年度でも大学卒業程度試験の競争率は都道府県5.8倍に対して市区7.8倍でした。10年通して市区のほうが高いままです。
理由は単純で、市役所は転居を伴う異動が少なく、志望者にとって「生活が読める」職場だからです。北海道のような広域自治体は転勤の負担が大きく、そこが敬遠される。逆に言えば、勤務地が動かないことが、いまの就職市場ではそれ自体が強い待遇になっているということです。
ちなみに令和6年度でもっとも競争率が低かったのは町村の短大卒業程度試験で2.5倍。2,009人が受験して793人が合格しています。
5.合格しても入らない2万7,125人。辞退は過去最高の水準に
この調査には合格者数と採用者数の両方が載っています。その差が「合格したのに、その自治体には入らなかった人」です。併願先に流れた人、民間に決めた人が含まれます。
| 年度 | 合格者−採用者 | 合格者に占める割合 |
|---|---|---|
| 平成28年度 | 18,399人 | 23.0% |
| 平成30年度 | 19,048人 | 23.7% |
| 令和2年度 | 19,070人 | 24.2% |
| 令和4年度 | 22,518人 | 26.6% |
| 令和5年度 | 22,845人 | 26.3% |
| 令和6年度 | 27,125人 | 28.6% |
合格者の約3.5人に1人が、その自治体に入っていません。しかも割合は平成28年度の23.0%から、令和5年度のわずかな足踏みを除いて上がり続けています。
ここに、合格者を増やしている理由の一端があります。辞退が増えるほど、予定人数を埋めるには多めに合格を出さざるを得ない。すると見かけの競争率はさらに下がり、「公務員試験は簡単になった」という評判が立ち、また受験者が分散する――という循環です。
発表される競争率には、こうした「掛け持ち合格者」が含まれています。受験者数÷採用者数で見ると令和6年度は5.7倍で、4.1倍よりかなり高い。数字の甘さをそのまま実力判定に置き換えるのは危険です。
6.北海道では5年で3.7倍→1.9倍。受験者が半減した
全国平均では実感しにくいので、ひとつの自治体を追います。北海道人事委員会が公表している道行政職員採用試験の実施状況を、令和2年度と令和7年度で比べました。
| 区分 | 令和2年度 | 令和7年度 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 申込者数 | 5,245人 | 2,920人 | −44.3% |
| 受験者数 | 3,916人 | 2,085人 | −46.8% |
| 最終合格者数 | 1,049人 | 1,124人 | +7.2% |
| 競争率(受験÷最終合格) | 3.7倍 | 1.9倍 | −1.8pt |
5年で受験者はほぼ半減し、合格者は増えた。全国で起きていることが、ひとつの道庁のなかで極端な形で現れています。看板区分である一般行政Aだけを見ても、令和2年度は1,059人が受験して203人が最終合格(5.2倍)だったのに対し、令和7年度は618人が受験して309人が最終合格(2.0倍)でした。
職種別にはさらに厳しい数字が並びます。令和8年度試験の途中経過では、農業Aの専門試験方式は受験4人・第1次合格4人、水産Aの専門試験方式は受験1人・第1次合格1人。技術系の一部では、受けに来た人がそのまま次の段階に進む状態になっています。
7.自治体側は手をこまねいてはいない。SPI・中途採用・女性比率
専門試験をやめてSPIへ
北海道は一般行政Aで「SPI方式」と「専門試験方式」を併設しています。令和8年度の申込を見ると、SPI方式574人に対して専門試験方式は191人。申込者の4分の3がSPIを選んでおり、民間との併願を前提にした設計が受け入れられていることが分かります。同じ流れは全国の自治体に広がっています。
中途採用の受け皿が一気に広がった
令和6年度に中途採用試験を実施したのは、都道府県47団体すべてと指定都市20団体すべて、市区町村は1,722団体のうち1,134団体(65.9%)でした。受験者は合計8万3,634人、採用者は1万3,586人にのぼります。
| 試験の種類 | 受験者/採用者 | 受験者÷採用者 |
|---|---|---|
| 経験者採用試験 | 45,296人/7,627人 | 5.9倍 |
| 経歴不問の中途採用 | 38,338人/5,959人 | 6.4倍 |
| 中途採用試験 合計 | 83,634人/13,586人 | 6.2倍 |
興味深いのは、中途採用のほうが倍率が高いことです。新卒中心の競争試験は同じ「受験者÷採用者」で5.7倍ですから、社会人枠のほうが狭き門。「公務員は倍率が下がった」という話は、少なくとも社会人からの転職ルートには当てはまりません。
採用者の半数近くが女性に
令和6年度に採用された6万7,874人のうち、女性は48.5%。市区では52.5%、町村でも50.9%と、女性が男性を上回っています(都道府県は40.5%)。国家公務員でも2026年度春の総合職試験で女性合格者の割合が35.7%と過去最高を更新しました。人手確保の局面で、採用の重心が動いていることが数字に出ています。
8.国家公務員はどうか。倍率は下がったが、申込は4年ぶりに増えた
人事院が発表した2026年度国家公務員採用総合職試験(春)の結果は次のとおりです。
前年度比+3.8%
3年ぶりに増加
前年度から0.5pt低下
過去最高
倍率は下がったものの、申込者数は2022年度以来4年ぶりに増加しました。秋の教養区分を含めた秋・春合計では1万8,400人で前年比9.8%増。受験しやすくするための制度変更(春にも教養区分を新設するなど)が効いた形です。
地方が受験者減を止められていないのに対し、国は下げ止まりの兆しを見せている。ここは対照的で、今後1〜2年の注目点になります。
9.これから受ける人にとって、この数字は何を意味するか
- 入りやすさ「受かりやすくなった」は概ね事実合格者数が過去最多で、採用者数も増えている。6.6倍の時代と同じ努力量が必要な状況ではありません。特に都道府県の大学卒業程度(3.2倍)と町村(3.8倍)は緩んでいます。
- ただし公表倍率は辞退者で水増しされている合格者の28.6%は入庁しません。受験者÷採用者で見れば5.7倍。「4.1倍だから4人に1人」という感覚は実態とズレます。
- 狭い道社会人からの転職ルートは逆に厳しい中途採用試験は6.2倍で、新卒系より高い。募集枠が広がった分だけ応募も増えており、「社会人採用は穴場」とは言えません。
- 選び方市役所志望なら競争率は上がる覚悟を市区は4.7倍で全区分中もっとも高い。転勤の少なさが人気に直結しているため、この傾向は当面続くとみられます。
- 技術系土木・農業・水産などの専門区分は例外的に緩い北海道の例では受験者が一桁の区分がいくつもあります。該当する専門を持っているなら、いまは歴史的に有利な局面です。
よくある質問
Q. 公務員試験の倍率が下がっているのは、採用を減らしているからですか?
A. 逆です。令和6年度の採用者数は6万7,874人で、この調査で採用者数を取り始めた平成28年度(6万1,546人)以降で最多です。合格者数も9万4,999人と過去10年で最多。採用枠は増えており、倍率低下の約7割は受験者そのものが減ったことによるものです。
Q. 少子化が原因ではないのですか?
A. 18歳人口は減っていますが、大学進学率の上昇でそれが相殺されており、大学(学部)卒業者数は平成27年3月の56万4,035人から令和6年3月の59万487人へ4.7%増えています。母集団は縮んでいないため、少子化だけでは27.5%の受験者減を説明できません。
Q. 県庁と市役所はどちらが入りやすいですか?
A. 令和6年度の競争率は都道府県が3.3倍、市区が4.7倍で、都道府県のほうが低い数字です。大学卒業程度試験に限っても都道府県3.2倍に対し市区4.9倍。転居を伴う異動の少なさが市役所人気の背景にあるとみられます。
Q. 社会人経験者の採用枠は増えていますか?
A. 増えています。令和6年度は47都道府県と20指定都市のすべて、市区町村の65.9%が中途採用試験を実施し、1万3,586人を採用しました。ただし受験者は8万3,634人で倍率は6.2倍。新卒中心の試験(受験者÷採用者で5.7倍)より高く、競争は緩んでいません。
Q. この数字はいつの試験のものですか?
A. 総務省の調査は令和6年度に実施された試験が対象で、主に令和7年4月採用に対応します。公表は令和8年1月です。北海道の個別データは令和7年度(2025年度)実施分まで確定しており、令和8年度分は年度途中の途中経過です。
あわせて読みたい
出典
- 総務省「令和6年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」(表15・表16・表17)
- 総務省「令和元年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」(表12、平成27〜令和元年度の数値)
- 文部科学省「令和6年度学校基本調査(確定値)」表3 大学(学部)卒業後の状況
- 人事院「2026年度国家公務員採用総合職試験(春)の合格者発表」「同 申込状況等について」
- 北海道人事委員会「令和2年度・令和7年度・令和8年度 北海道行政職員採用試験 実施状況」
- リクルートワークス研究所「第43回 ワークス大卒求人倍率調査(2027年卒)」
※競争率は特記のない限り「受験者数÷合格者数」。寄与分解と増減率は本記事で公表値から算出したものです。


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