台風で会社が休みなら給料は出る?「6割」の正体は日給の4割
大型で強い台風25号が関東に接近し、Xでは「臨時休業」「台風の影響」がこの日のトレンドに並びました。気になるのは休みになった日の給料です。「台風は不可抗力だから無給で当然」と思われがちですが、厚生労働省のQ&Aが示す原則はむしろ逆。そして払われる「平均賃金の6割」を実際に計算すると、普段の日給の40.5%、賞与を含めた年収ベースでは32.7%にしかなりませんでした。
この記事でわかること
- 台風で休みになったとき、給料が出るケースと出ないケースの分かれ目
- 「会社の建物が無事かどうか」で結論が反転する理由
- 休業手当の「平均賃金の6割」が、実際には日給の何割にあたるのか
- 会社が勝手に有給休暇を使わせることの可否
2026年9月21日、台風25号で何が起きていたか
気象庁の発表によると、台風25号(ドゥージェン)は9月21日12時の時点で八丈島の西約80kmにあり、中心気圧960hPa、中心付近の最大風速40m/s、最大瞬間風速55m/sの「大型で強い」勢力のまま、時速25kmで北北東へ進んでいました。暴風域は中心から半径185kmに及び、関東の太平洋側は午後から夜にかけて風雨のピークを迎える予想でした。
X(旧Twitter)の日本のトレンドにも、この日は「台風の影響」「臨時休業」「避難指示」「緊急速報」「東海道新幹線」が同時に並びました。鉄道の計画運休や商業施設の臨時休業が広がると、必ず一緒に浮上するのが「明日から会社はどうなるのか」「休みになったら給料はどうなるのか」という不安です。
2026年9月21日は敬老の日、22日は国民の休日、23日は秋分の日で、多くの会社は休みです。休業手当は「所定労働日」に会社を休業させたときに発生するものなので、もともと休みの日には発生しません。問題になるのは、台風が去ったあとの平日に交通機関や施設の影響が残った場合です。
まず結論:台風の休みは3パターンに分かれる
台風による「会社が休み」は、実は法律上まったく違う3つの状態が混ざっています。給料が出るかどうかは、ここで決まります。
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| どういう休みか | 法律上の扱い | その日の給料 |
|---|---|---|
| ① 会社の建物・設備が壊れて働けない 浸水、停電、断水、倒壊など |
不可抗力 使用者の責に帰すべき事由に当たらない | 休業手当の支払義務なし(就業規則等でより手厚い定めがあればそちら) |
| ② 建物は無事だが会社が「危ないから休み」と決めた 電車が止まった、取引先が動かない等も含む |
原則あり 原則として使用者の責に帰すべき事由に当たる | 平均賃金の6割以上の休業手当(労基法26条) |
| ③ 会社は通常営業だが自分が行けない 計画運休、道路冠水など |
労働者側の事情 会社の責めでも会社の指示でもない | 原則として無給(ノーワーク・ノーペイ)。年次有給休暇を自分で請求すれば有給 |
世間でいちばん誤解されているのが②です。「台風は天災だから会社に責任はない=無給で当たり前」と考えている人が多いのですが、厚生労働省の見解はその逆です。
「建物が無事なら原則として休業手当が必要」という国の見解
労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と定めています。ポイントは「使用者の責に帰すべき事由」に当たるかどうかです。
不可抗力と認められるには2つの要件が要る
厚生労働省が公表している「自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」は、天災事変等の不可抗力について次の2要件を示しています。
① その原因が事業の外部より発生した事故であること
② 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
この2つを両方満たさなければ不可抗力とは認められず、休業手当の支払義務が残ります。
そのうえで同Q&Aは、ケースを2つに分けています。
- 事業場の施設・設備が直接的な被害を受けた場合(A1-4)…「原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しない」=休業手当は不要
- 施設・設備は直接的な被害を受けていない場合(A1-5)…取引先や鉄道・道路が被害を受けて休業するときであっても、「原則として『使用者の責に帰すべき事由』による休業に該当する」=休業手当が必要
つまり、会社のオフィスが無傷なのに「電車が止まっているから今日は休み」「危ないから出社しなくていい」と会社が決めた場合、出発点は「休業手当が要る」側なのです。例外として不可抗力になるのは、上の2要件を満たすときだけで、Q&Aは「取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する」としています。
労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。暴風域に入る日に無理に出社させないのは、安全配慮義務の面では適切な判断です。休ませる判断の是非と、その日の賃金をどうするかは別の問題だと切り分けて考えてください。
就業規則で「満額」と決めていたら減らせない
同じQ&AのA1-2は、労働契約・労働協約・就業規則・労使慣行にもとづいて、これまで不可抗力による休業にも賃金や手当を支払ってきた会社が、災害を理由にそれを支払わないとすることは労働条件の不利益変更に該当すると明言しています。適法な変更手続をとらずに「今回は天災だから無給」とすることはできません。自社の就業規則の「休業」の章を一度確認しておく価値があります。
また、労働基準法26条はあくまで最低ラインです。会社側の帰責性が強いケースでは、民法第536条第2項の「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない」により、賃金の全額を請求できる余地があります。
「平均賃金の6割」を実際に計算したら、日給の4割だった
ここからが本題です。「6割も出るなら悪くない」と感じるかもしれませんが、この6割は月給の6割でも、日給の6割でもありません。かけ算のもとになる「平均賃金」の定義に、大きな落とし穴があります。
平均賃金は「働いた日数」ではなく「暦の日数」で割る
労働基準法第12条は、平均賃金を「算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」と定めています。この「総日数」は、大分労働局の解説資料が明記しているとおり「所定労働日数ではなく、暦の日数」です。
つまり、土日も祝日も含めた90日前後で割ります。月給制の人は、働いていない土日の分だけ1日あたりの単価が薄まった状態で「6割」を掛けられることになります。
労基法12条1項には、賃金の総額を「労働した日数」で割った額の60%を下回ってはならないという最低保障の規定があります。ただしこれは日給制・時給制・出来高払制の人に適用されるもので、完全な月給制の人には働きません。皮肉なことに、月給制のほうが不利になりやすい構造です。
月給別に計算するとこうなる
賃金締切日を月末、休業日を9月とすると、算定期間は6月1日〜8月31日の92日です。年間の所定労働日数は、厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」の労働者1人平均年間休日総数116.6日を365日から引いた248.4日として計算しました。
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| 月給(総支給) | 平均賃金(1日) | 休業手当(1日) | 普段の1日分の給料 | 実質の補償率 |
|---|---|---|---|---|
| 20万円 | 6,521円 | 3,913円 | 9,662円 | 40.5% |
| 25万円 | 8,152円 | 4,891円 | 12,077円 | 40.5% |
| 30万円 | 9,782円 | 5,870円 | 14,493円 | 40.5% |
| 35万円 | 11,413円 | 6,848円 | 16,908円 | 40.5% |
| 40万円 | 13,043円 | 7,826円 | 19,324円 | 40.5% |
| 50万円 | 16,304円 | 9,783円 | 24,155円 | 40.5% |
右端の列に注目してください。月給がいくらであっても40.5%で一定です。これは偶然ではありません。「3か月分の給与÷92日×0.6」と「12か月分の給与÷248.4日」の比は給料の額に依存しないため、月給制である限り、誰にとっても同じ数字になります。法律が「6割」と書いているものの正体は、普段の1日分の給料の約4割ということです。
賞与を入れると3分の1まで下がる
さらに、平均賃金の計算からは3か月を超える期間ごとに支払われる賃金、つまり賞与が除かれます(労基法12条4項)。ボーナスを含めた年収の感覚で比べると、補償率はもっと下がります。厚生労働省「毎月勤労統計調査」2025年分確報(事業所規模5人以上)の実額を当てはめると、次のようになりました。
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| 区分 | 休業手当(1日) | 月例給ベースの補償率 | 年収ベースの補償率 |
|---|---|---|---|
| 就業形態計 月収35万5,941円 |
5,624円 | 40.5% | 32.7% |
| 一般労働者 月収46万5,923円 |
7,202円 | 40.5% | 32.0% |
| パートタイム労働者 月収11万4,527円 |
2,158円 | 40.5% | 39.0% |
フルタイムの一般労働者が5日間休業した場合、休業手当の合計は3万6,010円。同じ5日間ふつうに働いていれば年収ベースで11万2,542円に相当しますから、差は7万6,532円です。賞与の比率が小さいパートタイム労働者だけ、年収ベースの補償率が39.0%と月例給ベースに近くなります。ボーナスが厚い人ほど、休業時の目減りが大きいという逆転が起きます。
おまけ:同じ給料でも「休んだ月」で手当が変わる
平均賃金は暦日数で割るため、算定期間にあたる3か月の日数(89日〜92日)によって金額がわずかに動きます。月給30万円の人について、2026年の暦で試算すると次のとおりです(うるう年は2月を含む期間が1日増えます)。
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| 休業した月 | 算定期間の暦日数 | 平均賃金 | 休業手当(1日) |
|---|---|---|---|
| 5月 | 89日 | 10,112円 | 6,067円 |
| 3月・4月 | 90日 | 10,000円 | 6,000円 |
| 7月・12月 | 91日 | 9,890円 | 5,934円 |
| 9月(今回) | 92日 | 9,782円 | 5,870円 |
もっとも有利なのは、2月を含む算定期間になる5月の休業で、9月に休業する場合より1日あたり197円、率にして3.4%高くなります。台風シーズンの9月は、この観点では一年でもっとも不利な部類に入ります。
半日で帰された、在宅になった、自分で休んだ
午前中だけ働いて帰された場合
台風接近を受けて昼で業務を打ち切るケースです。この場合も26条は生きています。群馬労働局・桐生労働基準監督署の資料は、「その日の労働で発生した賃金額が休業手当の額を下回る場合には、差額分を休業手当として支払う必要がある」と説明しています。午前中の労働に対する賃金が4,000円、1日分の休業手当が5,000円なら、差額1,000円の追加支払いが必要という例が示されています。
在宅勤務を命じられた場合
これは休業ではなく通常の労働です。勤務場所が変わっただけなので、賃金は全額支払われます。6割になることはありません。
自分の判断で休んだ場合
会社は営業しているのに、電車が止まって出社できなかった、危険だと判断して休んだというケースは、③のパターンです。労働を提供していない以上、原則として賃金は発生しません(ノーワーク・ノーペイ)。この日を有給にしたければ、自分から年次有給休暇を請求することになります。
会社が勝手に有給休暇を充てるのは原則できない
「台風で休みにするから、その日は有給を使って」と会社から言われることがあります。しかし労働基準法第39条第5項は、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と定めており、いつ有給を取るかを決めるのは労働者です。
例外は同条第6項の計画年休で、労使協定を結んだうえで、年5日を超える部分についてのみ、会社があらかじめ時季を定めることができます。台風の当日になって一方的に有給へ振り替えることは、この枠組みに収まりません。休業手当の支払いを避けるために有給を消化させる、という扱いには注意が必要です。
台風で休みが出たら、この順番で確認する
- STEP 1「会社が決めた休み」か「自分が行けなかった」かを区別するここがすべての分岐点です。会社からの休業指示はメールやチャットの文面を保存しておきましょう。
- STEP 2会社の施設・設備が被害を受けたかを確認する浸水・停電などの直接被害があるかどうかで、不可抗力の判断が変わります。
- STEP 3就業規則の「休業」「賃金」の章を読む法律の6割より手厚い定めがあれば、そちらが優先します。過去に支払われた実績(労使慣行)も根拠になります。
- STEP 4給与明細で何日分がどう処理されたかを確認する欠勤控除なのか、休業手当なのか、有給消化なのか。名目が違えば意味も違います。
- STEP 5納得できなければ労働基準監督署に相談する休業手当の不払いは労働基準法違反にあたります。全国の労働基準監督署のほか、労働条件相談ほっとラインでも相談できます。
よくある質問
Q. 台風は天災なので、休業手当は出ないのが普通ですか?
A. 会社の施設・設備が直接被害を受けて休業する場合は、原則として不可抗力にあたり支払義務はありません。しかし施設が無事で、交通機関の停止や取引先の被害を理由に休業する場合は、厚生労働省のQ&Aが「原則として『使用者の責に帰すべき事由』による休業に該当する」としており、平均賃金の6割以上の休業手当が必要になります。
Q. 休業手当の「平均賃金の6割」は、月給の6割ですか?
A. 違います。平均賃金は直前3か月の賃金総額を「暦の日数」(90日前後)で割った額です。土日祝も日数に入るため1日あたりの単価が薄まり、月給制の場合、普段の1日分の給料と比べると約40.5%にとどまります。賞与を含めた年収ベースでは約32.7%です。
Q. 会社が通常営業なのに、電車が止まって出社できませんでした。給料は出ますか?
A. 原則として出ません。労働を提供していないため、ノーワーク・ノーペイの考え方により賃金は発生しないのが原則です。その日を有給にしたい場合は、自分から年次有給休暇を請求する必要があります。なお、就業規則で特別休暇などを定めている会社もあります。
Q. 会社から「台風の日は有給を使って」と言われました。従う必要はありますか?
A. 労働基準法第39条第5項により、有給休暇をいつ取るかを決めるのは労働者です。会社が一方的に日を指定できるのは、労使協定を結んだ計画年休(年5日を超える部分)に限られます。当日になって一方的に有給へ振り替えることは、この枠組みに収まりません。
Q. 午前中だけ働いて、午後は帰されました。この場合はどうなりますか?
A. その日の労働に対して支払われる賃金が1日分の休業手当(平均賃金の6割)を下回る場合は、差額を休業手当として支払う必要があります。労働基準監督署の解説資料でも、午前中の賃金4,000円に対し休業手当5,000円なら1,000円の追加支払いが必要という例が示されています。
Q. 在宅勤務に切り替えられた場合も6割になりますか?
A. なりません。在宅勤務は休業ではなく通常の労働なので、賃金は全額支払われます。勤務場所が変わっただけという扱いです。
Q. 休業手当が支払われなかった場合、どこに相談すればよいですか?
A. 事業場を管轄する労働基準監督署です。休業手当の不払いは労働基準法違反にあたります。会社からの休業指示が分かるメールやチャット、就業規則、給与明細を手元に用意して相談してください。
まとめ
この記事のポイント
- 台風の休みは「①施設が被災」「②会社が休業を決めた」「③自分が行けない」の3つに分かれ、給料の扱いがまったく違う
- 施設が無事なのに会社が休業を決めた場合は、原則として休業手当が必要。不可抗力と認められるには厚労省が示す2要件を両方満たす必要がある
- 休業手当の基準となる平均賃金は暦の日数で割るため、「6割」の実質は普段の日給の40.5%、賞与込みの年収ベースでは32.7%
- 一般労働者が5日休業すると、年収ベースで7万6,532円の目減りになる
- 会社が一方的に年次有給休暇へ振り替えることは、計画年休の労使協定がない限りできない
参考・出典
- 労働基準法(e-Gov法令検索)第12条・第26条・第39条
- 民法(e-Gov法令検索)第536条
- 労働契約法(e-Gov法令検索)第5条
- 厚生労働省「自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」(令和3年7月15日)
- 大分労働局・労働基準監督署「休業手当(平均賃金の60%以上)の計算方法」
- 群馬労働局・桐生労働基準監督署「休業手当について」
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」第1表 月間現金給与額
- 厚生労働省「令和7(2025)年就労条件総合調査の概況」年間休日総数
- 気象庁「台風情報」台風第25号(ドゥージェン)2026年9月21日12時発表


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