静岡県の温泉地・熱川に、日本でたった1頭しかいない動物が暮らしています。その名はアマゾンマナティー。熱川バナナワニ園の「じゅんと」は1969年にアメリカから来園し、2026年で飼育57年目・推定62歳になる、世界的にも貴重な長寿個体です。この記事では、アマゾンマナティーとはどんな動物なのか、じゅんとの半世紀を超える物語、長生きの秘密である「温泉」、そして実は今の日本で世界のマナティー3種がすべて見られるという意外な事実まで、わかりやすく解説します。
熱川ただ1か所
推定62歳
熱川温泉の熱
今の日本で全部見られる
アマゾンマナティーとは? 世界でいちばん小さなマナティー
アマゾンマナティー(学名 Trichechus inunguis)は、カイギュウ目マナティー科に分類される水生哺乳類です。世界に3種いるマナティーのうち、唯一、一生を淡水だけで過ごす種類で、南米アマゾン川の流域にのみ生息しています。
学名の「inunguis(イヌングイス)」はラテン語で「爪がない」という意味。ほかのマナティーには前びれの先に小さな爪がありますが、アマゾンマナティーにはありません。マナティー科では最小の種で、それでも最大で体長2.8メートルほどに育ちます。
おっとりした草食動物で、水面にゆらゆら浮かびながら水草を食べる姿から、ジュゴンとともに「人魚伝説のモデル」になったともいわれます。野生では乱獲や生息地の破壊で数が減り、絶滅が心配されている動物です。
日本でここだけ 熱川バナナワニ園の「じゅんと」

そのアマゾンマナティーに、日本で唯一会えるのが静岡県東伊豆町の熱川バナナワニ園です。飼育されているのはオスの「じゅんと」、ただ1頭。世界の動物園・水族館を見渡しても、アマゾンマナティーを展示している施設はごくわずかしかありません。
1969年、マイアミから伊豆へ
じゅんとが熱川にやって来たのは1969年(昭和44年)4月12日。アメリカ・マイアミから、推定5〜6歳で来園しました。以来ずっと熱川の水槽で暮らし、2026年で飼育57年目。推定年齢は62〜63歳になります。体長は約240センチ、体重は約300キロ。おなかの白いブチ模様がトレードマークです。
マナティーの寿命は数十年といわれますから、還暦を超えたじゅんとは世界的に見ても指折りの長寿個体。半世紀以上にわたって、伊豆の温泉街で愛され続けてきました。
長生きの秘密は「温泉」
アマゾンマナティーは水温25〜30度ほどの温かい水を好む、寒さに弱い動物です。熱川バナナワニ園では、豊富にわき出す熱川温泉の熱を利用して水槽を一年中あたため、アマゾンの環境に近い水温を保っています。ワニやバナナの温室で知られる同園ならではの「温泉パワー」が、じゅんとの長寿を支えてきたのです。
ポイント:「温泉街だからこそ熱帯の動物を飼える」——熱川バナナワニ園は1958年開園の老舗で、温泉熱を使った温室でワニや熱帯植物を育ててきました。じゅんとの飼育も、この仕組みがあってこそです。
食事は1回2時間 ヒゲで「選り好み」する
じゅんとの食事は1日2回。大好物のキャベツや白菜、ニンジンなどの野菜と水草を、口のまわりの感覚毛(ヒゲ)で確かめながら、好きなものから順に食べていきます。1回の食事にかける時間は、なんと約2時間。急がずマイペースに食べ進める姿は、見ていて飽きません。
性格はおだやかで人なつっこく、気に入った人が水槽の前に来るとガラス越しに近寄ってくることもあるそうです。
名前は「じゅんと」=ポルトガル語で「一緒」
長らく名前がなかったこのマナティーに、2017年、来園者からの公募で名前がつきました。それが「じゅんと(Junto)」。アマゾンマナティーのふるさと・ブラジルの公用語であるポルトガル語で「一緒」という意味です。「これからもずっと一緒にいられますように」という願いが込められています。
じゅんとに会いに行くには
じゅんとがいるのは、熱川バナナワニ園・本園の植物園エリアにあるマナティープールです。園の玄関口は伊豆急行「伊豆熱川駅」から徒歩1分という、温泉街のまんなかにあります。
おすすめは食事タイム。水面に浮かべられた野菜を、ヒゲを器用に動かしながら食べる様子をじっくり観察できます。ワニ園・植物園と合わせて半日楽しめるので、伊豆旅行の行程にも組み込みやすいスポットです。
実は今、世界のマナティー3種が日本で全部見られる
あまり知られていませんが、世界に3種いるマナティーは、2026年現在そのすべてを日本国内で見ることができます。それぞれ飼育しているのは全国でただ1か所ずつ。まさに「ここだけ」の3兄弟です。
メモ:香川県の新屋島水族館でもアメリカマナティーを飼育していますが、2025年4月からリニューアルのため休館中です(2027年春に再開予定)。
マナティーはどの種も高齢化や単独飼育が進んでおり、日本の動物園・水族館から姿を消しつつある動物のひとつです。「いつでも見られる」とは限らない動物だからこそ、会えるうちに会いに行きたいですね。
マナティーとジュゴンはどう違う?
マナティーとよく混同されるのがジュゴンです。どちらも同じカイギュウ目の仲間で「人魚のモデル」といわれますが、見分けるポイントははっきりしています。
- 尾びれの形:マナティーは丸いしゃもじ型、ジュゴンはイルカのような三日月型
- すみか:マナティーは川や河口など淡水域にも入る(アマゾンマナティーは淡水専門)。ジュゴンは海だけで暮らす
- 口の向き:海底の海草を食べるジュゴンは口が下向き。水面の水草も食べるマナティーはやや前向き
ちなみにジュゴンも、日本で会えるのは三重県の鳥羽水族館ただ1か所(メスの「セレナ」1頭)です。マナティーとジュゴンの「日本で1頭」コンビをはしごするなら、鳥羽と熱川の旅がおすすめです。
アマゾンマナティーのよくある質問
Q. アマゾンマナティーは日本のどこで見られますか?
A. 静岡県東伊豆町の熱川バナナワニ園ただ1か所です。飼育されているのはオスの「じゅんと」1頭で、分園のマナティープールで展示されています。
Q. じゅんとは何歳ですか?
A. 1969年4月に推定5〜6歳で来園したため、2026年時点で推定62〜63歳です。飼育期間は57年を超え、世界的にも指折りの長寿マナティーとされています。
Q. マナティーとジュゴンの違いは何ですか?
A. いちばん分かりやすいのは尾びれの形で、マナティーは丸いしゃもじ型、ジュゴンは三日月型です。またジュゴンは海だけで暮らすのに対し、アマゾンマナティーは一生を淡水で過ごします。
Q. アマゾンマナティーは絶滅危惧種ですか?
A. はい。かつて皮や油を目的に乱獲された影響などで数が減り、絶滅危惧種に指定されています。ワシントン条約で国際取引も厳しく規制されているため、新たな来日はきわめて難しく、じゅんとは文字どおり「日本で唯一」の存在です。
まとめ 温泉街の「日本にここだけ」に会いに行こう
アマゾンマナティーの「じゅんと」は、日本でただ1頭、世界でも数少ない飼育個体です。1969年から半世紀以上、熱川温泉の熱に守られて、キャベツをのんびり2時間かけて食べる毎日を送っています。伊豆に出かける機会があれば、ぜひ温泉街の「日本にここだけ」に会いに行ってみてください。
参考(一次情報):熱川バナナワニ園 公式サイト「日本でここだけ!アマゾンマナティー」/国立科学博物館 海棲哺乳類データベース「アマゾンマナティ」
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