経済ニュース解説
1〜7月で50件――前年同期の1.35倍に急増
1ドル=163円台まで進んだ歴史的な円安で、輸入コストの上昇に耐えきれない企業の倒産が増えています。この記事では「なぜ円安で会社が倒産するのか」という仕組みから、最新の件数データ、実際の倒産事例、日米協調介入後の見通しまで、まとめて解説します。
2026年の日本経済で静かに進行しているのが、「円安倒産」の急増です。東京商工リサーチの調査によると、2026年1〜7月の円安関連倒産は累計50件と前年同期の1.35倍に達し、2022年以降の円安局面で同期間の最多だった2024年の48件を上回るハイペースで推移しています。
7月1日には円相場が一時1ドル=162円台後半と、1986年12月以来およそ39年半ぶりの円安・ドル高水準を記録。その後の政府・日銀による為替介入、さらに日米の協調介入で相場は155円台まで戻したものの、輸入コストの高止まりは続いており、体力の乏しい中小企業の倒産は当面高水準が続くとみられています。
円安倒産とは?なぜ円安で会社が潰れるのか
円安倒産(円安関連倒産)とは、円安による輸入コストの上昇や為替差損などが主因となって企業が倒産することを指します。東京商工リサーチや帝国データバンクといった信用調査会社が、倒産理由をヒアリングして集計・公表しています。
「円安は輸出企業に有利」とよく言われますが、それはトヨタのような海外に商品を売る大企業の話です。国内で仕入れて国内で売る中小企業にとって、円安はコスト増でしかありません。日本は食料・エネルギー・原材料の多くを輸入に頼っているため、円の価値が下がるほど仕入れ値が上がっていくのです。
倒産に至る典型的な3つのパターン
円安が倒産の引き金になる流れは、大きく3つに整理できます。
① 仕入コストの直撃――輸入品や輸入原材料の価格が円安分だけ上昇し、粗利が削られる。
② 価格転嫁ができない――取引先や消費者への値上げ交渉が通らず、コスト増を自社で抱え込む。特に問屋(卸売業)は板挟みになりやすい。
③ 資金繰りの限界――赤字の穴埋めで借入が膨らみ、コロナ融資(ゼロゼロ融資)の返済とも重なって資金がショートする。
ポイントは、円安「だけ」で倒産する企業はむしろ少なく、物価高・人手不足・コロナ融資の返済といった複数の負担に円安が最後の一押しとして重なるケースが大半だということです。実際、円安を含む「物価高」を一因とする倒産は2026年7月に単月93件と、2022年以降の円安局面で最多を更新しています(1〜7月累計533件・前年同期比26.6%増)。
2026年の円安倒産は過去最多ペース――最新データ
1〜7月で50件、前年の1.35倍に
東京商工リサーチの集計による、直近の円安倒産の推移がこちらです。
| 期間 | 円安倒産の件数 | 備考 |
|---|---|---|
| 2024年(年間) | 83件 | 卸売業が37件で44.5%を占める |
| 2025年1〜7月 | 約37件 | 相場がやや落ち着き小康状態(※増加率から逆算) |
| 2026年1〜7月 | 50件 | 前年同期比35.1%増・過去最多ペース |
2026年7月単月では5件(前年同月比66.6%増)と、5月から3カ月連続で前年を上回りました。一方で7月の負債総額は16億9,900万円と前年比24.1%減っており、大型倒産よりも小規模・零細企業の倒産が増えているのが今回の局面の特徴です。体力のある大企業は為替予約や海外生産でリスクをヘッジできますが、中小企業にはその余力がありません。
業種別では「卸売業」が半数を占める
2026年上半期(1〜6月)の円安倒産45件を業種別に見ると、卸売業への集中が際立ちます。
| 業種 | 2026年上半期 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 卸売業 | 23件(51.1%) | 14件 |
| 小売業 | 9件 | 5件 |
| 製造業 | 5件 | 7件 |
| サービス業ほか | 4件 | 5件 |
| 運輸業 | 3件 | 2件 |
※東京商工リサーチが公表した主な業種の内訳(計44件)。残り1件の業種は公表されていません。
卸売業は、輸入した商品や原材料をメーカー・小売に納める「中間」の立場です。仕入れ値は円安で上がるのに、納入先への値上げは嫌がられる――この板挟み構造ゆえに、価格競争力の乏しい卸売業者から順に脱落しているのが実態です。
実際にあった円安倒産の事例
2026年に入ってからの代表的な円安倒産には、次のようなケースがあります。
(株)ティーレックス(大阪・ベビー用品販売)――負債9億4,100万円で破産。海外生産のベビー用品を輸入販売していたが、円安で仕入コストが上昇し採算が悪化した。7月の円安倒産では最大。
ジュピターコーヒー(株)(東京・コーヒー豆販売)――負債59億300万円で上半期の円安倒産では最大規模。主力のコーヒー豆価格の上昇に伴う採算悪化に、店舗拡大の投資負担や粉飾決算の発覚が重なり、民事再生法の適用を申請した。
ティーレックスのケースは、商品が売れなくなったのではなく為替による仕入コスト上昇だけで採算ラインが崩れた典型例です。一方ジュピターコーヒーのように、原材料高騰や経営上の問題など複数の要因に円安が重なって倒産に至るケースも多く、円安はまさに「最後の一押し」として働いています。
背景にあるのは39年半ぶりの円安と物価高
今回の円安倒産ラッシュの背景を、時系列で整理してみましょう。
- 2022年3月〜日米の金利差拡大で急速な円安が始まる。10月に一時1ドル=151円台。輸入物価が急騰し「円安倒産」が増え始める。
- 2024年7月に161円台まで下落。円安倒産は年間83件に達し、政府・日銀は複数回の為替介入を実施。
- 2026年7月1日円相場が一時162円台後半となり、1986年12月以来およそ39年半ぶりの円安水準を更新。
- 2026年7月30日政府・日銀が大規模な円買い介入を実施(市場推計で6兆〜8.45兆円規模)。相場は一時157円台へ急反発。
- 2026年7月31日〜8月3日米国時間7月31日、日米が円買いの協調介入を実施(円買いでの日米連携は1998年以来28年ぶり)。8月3日に共同声明を発表し、円は一時155円台まで上昇。
相場が155円台へ戻しても、一度上がった仕入価格や物価はすぐには下がりません。東京商工リサーチも「物価下落への期待は薄く、中小企業の収益悪化が続く」と分析しており、円安倒産・物価高倒産は当面高水準で推移する見通しです。倒産統計は景気の「遅行指標」であり、為替の反転から数カ月〜1年遅れて効いてくる点に注意が必要です。
今後の見通しと、中小企業にできる備え
今後の焦点は、①日米協調介入で円安の流れが本当に反転するか、②上がりきった輸入物価がどこまで落ち着くか、の2点です。仮に為替が落ち着いても、価格競争力の弱い卸売業・小売業・製造業を中心に、円安倒産はしばらく高水準が続くというのが調査会社の共通した見方です。
一方で、同じ円安下でも生き残っている中小企業には共通点があります。一般に有効とされる備えは次のとおりです。
・価格転嫁の交渉――原価上昇分を根拠資料つきで取引先に説明し、値上げを通す。国も「価格交渉促進月間」などで転嫁を後押ししています。
・為替予約などのヘッジ――将来の輸入代金の為替レートをあらかじめ固定し、急変動の影響を抑える。
・調達先の分散・国内回帰――輸入一本足をやめ、国内調達や複数国からの仕入れに切り替える。
・早めの資金繰り相談――資金がショートする前に、取引金融機関や公的な経営相談窓口(よろず支援拠点など)に相談する。
よくある質問
Q. 円安倒産とは何ですか?
A. 円安による輸入コストの上昇や為替差損が主な原因となって企業が倒産することです。東京商工リサーチなどの信用調査会社が集計しており、2026年は1〜7月で50件と前年同期の1.35倍に急増し、同期間として過去最多ペースで推移しています。
Q. なぜ円安になると倒産が増えるのですか?
A. 日本は食料・エネルギー・原材料の多くを輸入に頼っているため、円安になると仕入コストが自動的に上昇します。値上げ(価格転嫁)ができない中小企業はコスト増を自社で抱え込み、赤字と借入の増加で資金繰りが行き詰まって倒産に至ります。特に仕入と納入の板挟みになる卸売業が全体の約半数を占めています。
Q. 円安で倒産しやすい業種はどこですか?
A. 2026年上半期のデータでは卸売業が23件(51.1%)で突出しており、次いで小売業9件、製造業5件、サービス業4件、運輸業3件です。輸入品を扱いながら価格転嫁が難しい業種ほどリスクが高い傾向にあります。
Q. 為替介入で円高に戻れば円安倒産は減りますか?
A. すぐには減らないとみられています。一度上がった仕入価格や物価は簡単には下がらず、倒産は為替の反転から数カ月以上遅れて表れる遅行指標だからです。日米協調介入で相場は155円台まで戻しましたが、調査会社は円安倒産・物価高倒産とも当面高水準が続くと予想しています。
まとめ:円安倒産は「対岸の火事」ではない
2026年の円安倒産は1〜7月で50件と過去最多ペースに達し、その半数を卸売業が占めています。歴史的な円安は一服したものの、上がった物価と輸入コストはすぐには戻らず、倒産の増加はむしろこれから本格化する可能性があります。
勤め先や取引先の経営、日々の物価、そして為替相場――円安倒産のニュースは、私たちの生活と地続きです。当ブログでは為替と経済の動きを引き続き追いかけていきますので、関連記事もあわせてご覧ください。
【参考・一次ソース】
・東京商工リサーチ「7月の『円安』倒産5件、1-7月累計は50件」
・東京商工リサーチ「2026年上半期(1-6月)『円安』倒産45件」


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