2026年7月、一時払い終身保険の予定利率が28年ぶりの水準に上がりました。ではその保険にお金を入れると、実際には年何%で増えるのか。保険会社が公表している改定後の保険料表と、厚生労働省の平均余命を突き合わせて計算したところ、男女ともに年1.75%という同じ答えが出ました。予定利率との差は、ちょうど0.50ポイントです。
(2026年7月〜)
実質の年利(本記事の試算)
実質年利の差
の税引後利率(今月)
結論——利回りで見るなら、いまの国債とほぼ引き分けです
先に答えを書きます。予定利率2.25%に引き上げられた一時払い終身保険にお金を入れ、平均余命どおりの年数を生きた場合、受け取る保険金は年1.75%で回したのと同じでした。一方、2026年9月に募集している個人向け国債(固定5年)の利率は年2.24%、税金を引いたあとで年1.78%です。
つまり「28年ぶりの高利率」と言われる保険の実質は、いま普通に買える国債とほとんど変わりません。それでも保険を選ぶ理由があるとすれば、それは利回りではなく、税制と「下ろせないこと」です。この記事では、その計算の過程と、保険側に残る取り柄を順番に見ていきます。
予定利率2.25%とは、そもそも誰の数字なのか
まず何が起きたのかを整理します。住友生命保険は2026年6月25日、一時払い終身保険の保険料率を改定すると発表しました。予定利率は1.75%から2.25%へ、同年7月1日の契約から適用されています。対象は「5年ごと利差配当付終身保険」の一時払契約と、「スミセイのかんたん告知終身保険90」です。
ここで押さえておきたいのは、予定利率は「保険会社が保険料を運用するときに見込む利率」であって、契約者の手取りの利回りではないという点です。預けたお金は、まるごと利率で回るわけではありません。保障のための費用と会社の経費が先に引かれ、残った部分が予定利率で運用されます。
だから「予定利率2.25%」と「あなたの年利2.25%」はイコールになりません。では実際はいくらなのか。ここからが本題です。
【独自試算】平均余命で割ると、年1.75%になる
予定利率そのものは外から検証できませんが、保険料と保険金の実数は公表されています。住友生命が公表した改定前後の比較表には、60歳が一時払いで契約した場合の具体的な金額が載っています。これを使えば、実質の年利は逆算できます。
計算に使うのは2つの数字だけです。
- 払う額と受け取る額:保険料1,000万円を一時払いすると、改定後の保険金は男性1,507万9,000円、女性1,652万5,000円(いずれも60歳契約)
- 何年後に受け取るか:厚生労働省の令和6年簡易生命表で、60歳男性の平均余命は23.63年、60歳女性は28.92年
平均余命どおりに亡くなったと仮定して、払った額が受け取る額になるまでの年平均の増え方(複利)を求めます。
| 60歳・一時払い | 保険料 | 保険金 | 年数 | 実質の年利 |
|---|---|---|---|---|
| 男性・改定前 | 1,000万円 | 1,367.4万円 | 23.63年 | 1.33% |
| 男性・改定後 | 1,000万円 | 1,507.9万円 | 23.63年 | 1.75% |
| 女性・改定前 | 1,000万円 | 1,467.1万円 | 28.92年 | 1.33% |
| 女性・改定後 | 1,000万円 | 1,652.5万円 | 28.92年 | 1.75% |
男女で答えがぴたりと揃いました。男性は1.753%、女性は1.752%。年数も保険金も違うのに同じ数字になるのは、保険会社が同じ予定利率から男女それぞれの死亡率で逆算しているためで、計算が正しく噛み合っていることの裏づけでもあります。
同じことを「保険金1,000万円を買う」側から見ても答えは変わりません。60歳男性が保険金1,000万円の一時払い終身を契約する場合、保険料は改定前731万3,100円が改定後663万1,900円へ、68万1,200円安くなりました(女性は681万6,200円→605万1,500円で76万4,700円安)。663万1,900円が23.63年で1,000万円になる計算は、やはり年1.75%です。
今月の個人向け国債と、並べてみる
比較相手を用意します。財務省が2026年9月2日に発表した個人向け国債の発行条件は次のとおりです(募集期間は9月3日〜9月30日、発行日は10月15日)。
| 商品 | 表面の利率 | 税引後 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 変動10年(第198回) | 1.95% | 1.554% | 半年ごとに見直し |
| 固定5年(第186回) | 2.24% | 1.785% | 満期まで固定 |
| 固定3年(第196回) | 1.96% | 1.562% | 満期まで固定 |
| 一時払い終身(予定利率2.25%) | — | 1.75%(試算) | 死亡時に受取 |
ここが今回いちばん伝えたいところです。予定利率2.25%の保険の実質(1.75%)と、個人向け国債・固定5年の税引後(1.785%)は、ほとんど同じ水準にあります。「28年ぶりの高利率」という見出しの強さに比べると、拍子抜けするほど普通の数字です。
しかも国債側には、1年経てばいつでも中途換金できる(直前2回分の利子相当額×0.79685が差し引かれます)、1万円から買える、といった身軽さがあります。金利そのもので差をつけたいなら、政策金利が2.25%になると何が起きるかのように、金利環境そのものを見ておくほうが実りがあります。
それでも保険に残る、3つの取り柄
ここまで利回りの話をしてきましたが、「だから保険はダメ」という結論にはなりません。国債にはなくて保険にあるものが3つあります。
① 死亡保険金の非課税枠
相続人が受け取る死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」まで非課税という枠があります(国税庁タックスアンサーNo.4114)。国債は額面そのものが相続財産になるので、この枠のぶんだけ保険が有利です。ただし相続人以外の人が受け取った死亡保険金にはこの非課税枠は使えません。受取人を誰にしているかで結論が変わります。
② 生命保険料控除——2026年分から枠が広がった
意外と知られていませんが、ここは今年から変わっています。新契約の一般生命保険料控除は所得税で最大4万円ですが、令和8年分(2026年分)以降の申告では、23歳未満の扶養親族がいる場合に限り、新生命保険料の控除額が最大6万円に拡大されました。年間12万円超の保険料で一律6万円になります。子育て世帯にとっては、今年から効いてくる変更です。
③ 下ろしにくいこと
「使ってしまわない」という効果は、実際に効きます。ただしこれは積立定期預金でもほぼ同じことができるので、下ろしにくさのためだけに保険を選ぶ理由にはなりません。
積立型は、もっと差が開きます
ここまでは一時払い、つまりまとまったお金を一度に入れるケースでした。窓口でよく勧められるのは、むしろ毎月コツコツ払う積立型です。こちらはどうなるか。
月2万円を30年払い、返戻率110%で受け取るモデルで計算します。払込総額は720万円、受取は792万円です。毎月少しずつ払うので、最初に入れた2万円は30年働きますが、最後の2万円はほとんど働きません。この形でお金の増え方を求めると——
| 月2万円×30年(元本720万円) | 30年後 | 元本との差 |
|---|---|---|
| 貯蓄型保険(返戻率110%) | 792.0万円 | +72.0万円 |
| 普通預金 年0.40% | 764.8万円 | +44.8万円 |
| 国債 変動10年(税引後1.554%) | 916.5万円 | +196.5万円 |
| 国債 固定5年(税引後1.785%) | 951.4万円 | +231.4万円 |
返戻率110%を年利に直すと、年0.63%にしかなりません。「110%も戻ってくる」という言い方は、30年かけて戻ってくることを言っていないだけです。同じ月2万円を今月の国債(固定5年の税引後)で積めば951万円で、差は約159万円になります。
学資保険も構造は同じです。月1万円×18年で返戻率105%(216万円→227万円)なら、年利に直すと年0.55%。看板の数字と、年あたりの増え方は、まったく別の話です。外貨預金の「年6%」の看板と同じ読み替えが要ります。
動画で見る:予定利率2.25%はあなたの利回りではない
この記事と同じテーマを、記者ずんだもんが5件の取材でまとめた解説動画でも公開しています。FPと元・保険会社の商品設計担当、学資保険を18年払い切った母親、税理士への取材を通して、予定利率・返戻率・解約返戻金の関係を20分で追いかけます。
よくある質問
Q. 予定利率2.25%なら、100万円が毎年2.25%ずつ増えるのですか?
A. 増えません。予定利率は保険会社が保険料を運用するときに見込む利率で、保障の費用と経費を引いた残りにしか効きません。住友生命が公表した改定後の保険料表から逆算すると、60歳の一時払い終身で平均余命どおりに亡くなった場合の実質は年1.75%でした。
Q. 28年ぶりの高い予定利率なら、いまが入りどきではないのですか?
A. 予定利率が上がったこと自体は契約者に有利な変化で、同じ保険金がより安い保険料で買えるようになりました(60歳男性の保険金1,000万円で68万1,200円の値下げ)。ただし実質の年利で見ると年1.75%で、2026年9月募集の個人向け国債・固定5年の税引後1.785%とほぼ同じです。「保険だから特別に増える」わけではありません。
Q. 返戻率110%の積立なら、10%増えて戻ってくるということですか?
A. 10%増えるのは事実ですが、それが何年かかるかが抜けています。月2万円を30年払って返戻率110%なら、年利に直すと年0.63%です。学資保険で返戻率105%・18年なら年0.55%になります。
Q. 相続対策として貯蓄型保険に入る意味はありますか?
A. 相続人が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」までの非課税枠があり、これは国債や預金にはない利点です。ただし相続税がかかるのは、令和6年に亡くなった方のうち10.4%です。まず自分の家がその範囲に入るかを確かめるのが先です。
Q. いま入っている貯蓄型保険は解約したほうがいいですか?
A. この記事は解約をすすめるものではありません。低解約返戻金型は払込期間中の解約で返戻金が通常の7割程度まで下がる商品が多く、途中でやめると損が確定します。契約年齢・契約時期・商品によって条件はまったく異なるので、手元の設計書と約款で確認してください。
まとめ
2026年7月の予定利率引き上げは、契約者にとって間違いなく有利な変化でした。同じ保障が安く買えるようになったからです。けれども「2.25%」という数字をそのまま自分の利回りとして読むと、実態より0.5ポイントほど高く見積もることになります。公表されている保険料表と平均余命から逆算した答えは、男女ともに年1.75%でした。
同じ時期に、個人向け国債の固定5年は税引後で年1.785%です。利回りだけを比べるなら、この2つはほぼ引き分けです。差がつくのは、死亡保険金の非課税枠と、生命保険料控除と、途中で下ろせないこと——つまり利回り以外の部分です。保険を保険として選ぶなら納得のいく話ですが、「増やす手段」として比べているなら、もう一度並べ直してみる価値があります。
あわせて読みたい
- 外貨預金はなぜ元本割れする?「年6%」の看板と手数料の罠を解説——看板の利率と手取りがずれる構造は、保険とまったく同じです。
- 政策金利2.25%になると何が起きる?住宅ローンと預金への影響を試算——予定利率が上がった背景にある、金利環境そのものの話。
- NISAは商品ではなく“箱”?正体と損益通算できない落とし穴を解説——「制度の名前」と「中身の商品」を分けて考える練習に。
- 資産運用は「長期・分散・積立」が最強?初心者でも失敗しない始め方——積立の年利をどう見るかの基本。
【出典】住友生命保険「一時払終身保険の保険料率改定について」(2026年6月25日)/財務省「個人向け国債の発行条件等」(2026年9月2日発表・変動10年第198回債ほか)/厚生労働省「令和6年簡易生命表」主な年齢の平均余命/国税庁タックスアンサーNo.4114「相続人が生命保険金を受け取ったとき」・No.1140「生命保険料控除」/国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(2025年12月)。実質の年利は公表されている保険料と保険金、および平均余命から編集部が複利で逆算した試算値です(税引前・平均余命ちょうどで死亡した場合)。積立の年利は内部収益率で計算しています。


コメント