2,821万口座・買付額71兆円——大人のおよそ4人に1人が持つ制度の正体
「NISAという商品」は、
この世に存在しません。
「わたしもNISA、始めたのよ」——銀行や証券会社の窓口で口座を開き、こう話す人が増えています。金融庁の最新調査によると、NISA口座は2025年12月末で2,821万口座、買付額は累計71兆円。18歳以上の人口で割ると、大人のおよそ4人に1人が持っている計算です。
ところが、「NISAとは何ですか?」と聞かれて正確に答えられる人は意外と少なく、なかには「NISAという商品を買った」「NISAだから安心」と思い込んでいる人もいます。実はここに、この制度のいちばん大事なポイントと、いちばん危ない落とし穴が隠れています。この記事では、NISAの正体を「箱と中身」というシンプルな整理で解説し、公式資料ではあまり強調されない弱点——損をしたときに救済がないという性質まで、公表データにもとづいて説明します。
NISAは商品ではなく「箱」——あなたが買ったのは中身のほう
結論から言うと、NISA(少額投資非課税制度)は商品の名前ではなく、口座の名前です。銀行や証券会社に「NISA口座」という特別な入れ物=箱を開き、その箱の中で投資信託や株式を買う——これがNISAの正しい姿です。「NISAを買った」と言うとき、実際に買っているのは箱の中に入れた投資信託や株、つまり「中身」のほうです。

では、箱に入れると何がいいのか。答えは税金です。ふつうの課税口座(特定口座など)で投資をして利益が出ると、利益に対して20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の税金がかかります。NISAの箱の中なら、これがゼロになります。
| 口座 | 税金 | 手取り |
|---|---|---|
| 課税口座(特定口座など) | 約10万1,575円(20.315%) | 約39万8,425円 |
| NISA口座 | 0円 | 50万円まるごと |
これがNISAのほぼ唯一の、しかし強力な効き目です。逆に言えば、NISAがしてくれるのはこれだけです。お金を増やす力は、箱自体には1円分もありません。増やすのも減らすのも、あなたが選んだ中身と、かけた時間です。
箱の大きさ——年間最大360万円・生涯1,800万円・期限なし
2024年1月に生まれ変わった現在のNISA(いわゆる新NISA)は、箱の大きさと使い勝手が大幅に拡充されています。スペックを整理すると次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| つみたて投資枠 | 年間120万円(長期の積立・分散に適した一定の投資信託) |
| 成長投資枠 | 年間240万円(上場株式・投資信託等) |
| 年間の合計 | 最大360万円(両枠は併用可) |
| 生涯の非課税保有限度額 | 1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで) |
| 非課税期間 | 無期限(制度も恒久化) |
| 売却したら | 売却分の枠(簿価ベース)が翌年に復活 |
| 対象年齢 | 18歳以上(2027年からの拡大予定は後述) |
ポイントは「無期限」と「枠の復活」です。慌てて売らないかぎり、非課税の箱は一生使い続けられます。一方で、売った枠が戻るのは翌年なので、短期間に売り買いを繰り返す使い方には向いていません。制度の作りそのものが、長い時間をかけてコツコツ積み立てる使い方を前提にしています。
2,821万口座・71兆円——政府目標を2年前倒しで突破
利用の広がりは、政府の想定を上回るペースです。金融庁が2026年7月3日に公表した調査結果によると、2025年12月末時点のNISA口座数は2,821万口座、買付額は累計71兆円。政府は「2027年末までに3,400万口座・買付額56兆円」という目標を掲げていましたが、買付額は2年前倒しで目標を追い越しました。
NISA口座数
2,821万
2025年12月末
買付額(累計)
71兆円
政府目標56兆円を突破
大人の保有率(概算)
約4人に1人
18歳以上人口比

背景にあるのは、2024年1月の抜本的拡充です。旧NISA時代の2023年末に2,125万口座・35兆円だった数字は、新制度開始からわずか2年で口座数1.3倍・買付額2倍に伸びました。「貯蓄から投資へ」の流れが、数字にはっきり表れた形です。
最大の落とし穴——箱の中の損は「なかったこと」になる
ここからが、この記事でいちばん伝えたい部分です。NISAの「非課税」という言葉には、あまり知られていない裏側があります。NISA口座の中で出た損失は、税金の世界では「なかったもの」として扱われるのです。
ふつうの課税口座なら、Aの株で50万円もうけて、Bの株で50万円損をした場合、利益と損失を相殺して税金をゼロにできます。「損益通算」という仕組みです。さらに、相殺しきれない損失は翌年以降3年間繰り越して、将来の利益とぶつけることもできます(繰越控除)。ところが、NISA口座の中の損失は、この損益通算にも繰越控除にも一切使えません。

・NISA口座の損失は損益通算できない(他の口座の利益と相殺不可)
・繰越控除(3年)もできない
・つまり「もうかれば最強、損をすると税制上の救済なし」
・値動きの激しい商品の短期売買には構造的に不向き
もうかったときの恩恵だけを見て、損をしたときの扱いを知らずに使っている人はとても多いはずです。NISAは「もうかれば最強」の箱ですが、損をしたときには課税口座より不利になり得る——この非対称性を理解しているかどうかが、制度と正しく付き合えるかの分かれ目です。
「NISAだから安心」は箱と中身の混同
もうひとつの誤解が「NISAだから安心」「NISAだから減らない」というものです。ここまで読んだ方はもうお分かりのとおり、これは箱と中身の混同です。箱(NISA口座)が守ってくれるのは「利益にかかる税金」だけで、中身(株や投資信託)は市場が動けばふつうに値下がりします。元本保証ではありません。
箱と中身を混同しないための3か条
- 投資は当面使わないお金で。生活費や近々使う予定のあるお金まで箱に入れないこと。株式の投資信託は短期間で2〜3割下がることが普通に起こります。
- 中身を説明できない商品は買わない。「何に・毎月いくら・手数料何%で」投資しているかを言えない状態は危険信号です。似た中身で手数料が大きく違う商品も存在します。
- 迷ったら「長期・分散・つみたて」を基本に。つみたて投資枠の対象が一定の条件を満たす投資信託に絞られているのは、初心者の失敗を減らすためでもあります。
2027年からどう変わる——0〜17歳にも「つみたて」が拡大予定
NISAはこれからも進化します。2025年12月に閣議決定された令和8年度税制改正大綱には、2027年(令和9年)からつみたて投資枠の年齢要件を撤廃する方針が明記されました。いわゆる「こどもNISA」と呼ばれる拡大です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象年齢 | 0〜17歳もつみたて投資枠を利用可能に |
| 年間投資枠 | 60万円(非課税保有限度額600万円) |
| 18歳になったら | 大人のNISAへ自動的に移行 |
| 払い出し | 12歳以降、子の同意を得た場合に可能 |
| 対象商品の拡充 | 債券中心の投資信託等を追加。対象指数に読売株価指数・JPXプライム150を追加 |
大学進学など、成人後のライフイベントに備えた長期積立を後押しする狙いです。詳細は今後の法改正で確定するため、続報が出ましたらこの記事に追記します。
よくある質問
Q. 銀行で「NISA」をすすめられて買いました。何を買ったことになるのですか?
A. 買ったのは「NISAという商品」ではなく、NISA口座という箱の中に入れた金融商品——銀行の場合はほとんどが投資信託です。まず「毎月いくら・何という商品を・手数料何%で」買っているかを、取引報告書やアプリで確認してみてください。箱は安全でも、中身は値下がりすることがあります。
Q. NISAで損をしたら税金はどうなりますか?
A. 何も起きません——そしてそれが落とし穴です。NISA口座の損失は税務上「ないもの」とされるため、他の口座の利益との損益通算も、翌年以降への繰越控除もできません。課税口座なら使える税の救済が、NISAでは使えないということです。
Q. NISAは元本保証ですか?
A. 元本保証ではありません。NISAが保証するのは「利益が出た場合に税金がかからないこと」だけで、中身の株や投資信託は値下がりすれば損失になります。「NISAだから安心」は箱と中身の混同で、この誤解のまま退職金などの大きなお金を投じるのがいちばん危険なパターンです。
Q. こどもNISAはいつから始まりますか?
A. 令和8年度税制改正大綱では2027年(令和9年)からの開始が予定されています。0〜17歳が年間60万円まで(非課税保有限度額600万円)つみたて投資枠を使えるようになり、18歳で大人のNISAへ自動移行する設計です。正式な開始時期や手続きは今後の法改正・金融機関の対応で確定します。
Q. NISAで買った商品を売ったら、非課税枠はなくなりますか?
A. なくなりません。売却した分の枠(買ったときの金額ベース)は翌年に復活します。ただし復活は「翌年」なので、同じ年のうちに売り買いを繰り返すと年間投資枠を使い切ってしまいます。短期売買ではなく長期保有向けの設計です。
まとめ——箱のせいにも、箱だのみにも、しない
NISAは商品ではなく、利益への税金20.315%をゼロにする「箱」です。年間最大360万円・生涯1,800万円・無期限という箱の性能は世界的に見ても強力で、2,821万口座・71兆円という数字はその証明です。一方で、箱の中の損は「なかったこと」にされ、損益通算も繰越控除もできません。箱は税金から守ってくれますが、値下がりからは守ってくれません。
「NISAだから安心」でも「NISAだから危険」でもない——増やすのも減らすのも箱ではなく、中身と時間です。箱のせいにも、箱だのみにもせず、当面使わないお金で、説明できる中身を、長く積み立てる。それがこの制度との正しい距離感だと考えます。
この記事の内容は、動画でも解説しています。FP・金融庁・個人投資家・税理士、そして「NISA口座」さん本人(?)への取材形式で楽しく学べます。
本記事は制度の一般的な解説であり、特定の金融商品の勧誘・推奨や投資助言ではありません。投資には元本割れのリスクがあります。数値は2026年8月時点の公表資料にもとづきます。2027年からの拡大は税制改正大綱に基づく予定であり、今後変更される可能性があります。
出典・参考
- 金融庁「NISA口座の利用状況に関する調査結果(令和7年12月末時点)」(2026年7月3日公表)
- 金融庁「令和8(2026)年度税制改正について」(2025年12月)
- 金融庁 NISA特設ウェブサイト


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