2026年10月施行|社会保険の適用拡大
「106万円の壁」は2026年10月に撤廃されます。ただし壁が消えるのではありません。47都道府県の最低賃金で計算すると、この壁はすでに1円も機能しておらず、代わりに「週20時間」という別の壁が全員に効き始めます。
2026年10月、パート・アルバイトの社会保険加入をめぐる「月額賃金8.8万円以上(年収106万円)」という条件が撤廃されます。ニュースでは「106万円の壁がなくなる」と報じられがちですが、これは正確ではありません。撤廃されるのは加入条件4つのうちの1つだけで、しかもその1つは最低賃金の上昇によって、すでに全都道府県で自動的に満たされてしまっているからです。
この記事では、厚生労働省・日本年金機構・全国健康保険協会の一次資料を使い、47都道府県すべてについて「週20時間働くと月額賃金はいくらになるか」「加入したら保険料は本人がいくら払うのか」を実際に計算しました。そのうえで、2026年10月以降に本当に意識すべき数字は何かを整理します。
この記事の結論
- 撤廃されるのは4条件のうち「所定内賃金が月8.8万円以上」の1つだけ。週20時間・学生でない・2か月超の雇用見込み・勤務先の企業規模という条件は残ります。
- 令和7年度の最低賃金で週20時間働くと、47都道府県すべてで月8.8万円を超えます(最低の高知・宮崎・沖縄でも88,660円)。壁はすでに空文化しています。
- 実質的な分かれ目は週20時間。週19時間と週20時間では、年収が約6万円増えるのに手取りは約12万円減る逆転が起きます(東京の最低賃金で試算)。
- 払った厚生年金保険料の元が取れるのは約16.7年後。65歳の平均余命は男19.68年・女24.52年なので、平均まで生きれば回収できる計算です。
1. 2026年10月に消えるのは、4つの条件のうち1つだけ
まず前提を正確に押さえます。パート・アルバイトが勤務先の健康保険・厚生年金に加入するのは、日本年金機構が「短時間労働者」と呼ぶ次の条件をすべて満たしたときです。2026年10月に撤廃されるのは、このうち(3)の賃金要件だけです。
| 条件 | 内容 | 2026年10月以降 |
|---|---|---|
| 勤務先 | 厚生年金の被保険者が51人以上の企業(特定適用事業所)など | 残る2027年10月から36人以上へ拡大 |
| (1) 労働時間 | 週の所定労働時間が20時間以上 | 残るこれが事実上の唯一の分かれ目に |
| (2) 学生か | 学生でないこと(夜間・定時制・休学中の人などは加入対象) | 残る |
| (3) 賃金 | 所定内賃金が月額8.8万円以上 | 撤廃いわゆる「106万円の壁」 |
| 雇用期間 | 2か月を超えて使用される見込みがあること | 残る |
厚生労働省の資料「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」(2026年1月作成)は、撤廃の理由をこう説明しています。時給1,016円以上の人が週20時間働けば、月額賃金は自動的に8.8万円以上になる。だから賃金要件は判定条件としての意味を失った、という理屈です。
そして令和7年度、全都道府県の地域別最低賃金が1,016円を超えました。これが撤廃のスイッチになりました。
施行日について。厚生労働省・日本年金機構はいずれも「令和8(2026)年10月に賃金要件を撤廃予定」と明記していますが、正式な施行期日は政令で定められます(令和7年年金制度改正法・令和7年6月20日公布)。最終的な日付は厚生労働省の発表をご確認ください。
2. 【独自試算】47都道府県で調べたら、106万円の壁はすでに機能していなかった
本当に「壁は空文化しているのか」を確かめるため、令和7年度の地域別最低賃金(厚生労働省)で週20時間ちょうど働いた場合の月額所定内賃金を47都道府県すべてで計算しました。月額換算は、1年を52週・12か月として計算する方式(時給×週20時間×52÷12)によります。日本年金機構が所定労働時間を週あたりに換算するときに用いる比率と同じ考え方です。
つまり「週20時間働きながら、月8.8万円未満に抑える」ことは、最低賃金で働く限り不可能です。106万円の壁は、撤廃を待つまでもなく、最低賃金の上昇によってすでに壊れていました。2026年10月の改正は、機能しなくなった条文を法律から消す後始末にすぎません。
あわせて、その金額で実際に加入したとき本人が毎月いくら払うことになるのかも計算しました。健康保険料率は全国健康保険協会(協会けんぽ)の令和8年度の都道府県別料率、厚生年金保険料率は18.300%、子ども・子育て支援金率は0.23%を使い、いずれも労使折半の本人負担分です(40歳未満・介護保険料なしの場合)。
| 都道府県 | 最低賃金 | 週20時間の月額賃金 | 健康保険料率 | 本人が払う保険料 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 1,075円 | 93,167円+5,167 | 10.28% | 14,117円年169,404円 |
| 青森 | 1,029円 | 89,180円+1,180 | 9.85% | 12,487円年149,844円 |
| 岩手 | 1,031円 | 89,353円+1,353 | 9.51% | 12,338円年148,056円 |
| 宮城 | 1,038円 | 89,960円+1,960 | 10.10% | 12,597円年151,164円 |
| 秋田 | 1,031円 | 89,353円+1,353 | 10.01% | 12,558円年150,696円 |
| 山形 | 1,032円 | 89,440円+1,440 | 9.75% | 12,443円年149,316円 |
| 福島 | 1,033円 | 89,527円+1,527 | 9.50% | 12,333円年147,996円 |
| 茨城 | 1,074円 | 93,080円+5,080 | 9.52% | 13,744円年164,928円 |
| 栃木 | 1,068円 | 92,560円+4,560 | 9.82% | 12,474円年149,688円 |
| 群馬 | 1,063円 | 92,127円+4,127 | 9.68% | 12,412円年148,944円 |
| 埼玉 | 1,141円 | 98,887円+10,887 | 9.67% | 13,818円年165,816円 |
| 千葉 | 1,140円 | 98,800円+10,800 | 9.73% | 13,847円年166,164円 |
| 東京 | 1,226円 | 106,253円+18,253 | 9.85% | 14,758円年177,096円 |
| 神奈川 | 1,225円 | 106,167円+18,167 | 9.92% | 14,794円年177,528円 |
| 新潟 | 1,050円 | 91,000円+3,000 | 9.21% | 12,206円年146,472円 |
| 富山 | 1,062円 | 92,040円+4,040 | 9.59% | 12,373円年148,476円 |
| 石川 | 1,054円 | 91,347円+3,347 | 9.70% | 12,421円年149,052円 |
| 福井 | 1,053円 | 91,260円+3,260 | 9.71% | 12,426円年149,112円 |
| 山梨 | 1,052円 | 91,173円+3,173 | 9.55% | 12,355円年148,260円 |
| 長野 | 1,061円 | 91,953円+3,953 | 9.63% | 12,390円年148,680円 |
| 岐阜 | 1,065円 | 92,300円+4,300 | 9.80% | 12,465円年149,580円 |
| 静岡 | 1,097円 | 95,073円+7,073 | 9.61% | 13,789円年165,468円 |
| 愛知 | 1,140円 | 98,800円+10,800 | 9.93% | 13,945円年167,340円 |
| 三重 | 1,087円 | 94,207円+6,207 | 9.77% | 13,867円年166,404円 |
| 滋賀 | 1,080円 | 93,600円+5,600 | 9.88% | 13,921円年167,052円 |
| 京都 | 1,122円 | 97,240円+9,240 | 9.89% | 13,926円年167,112円 |
| 大阪 | 1,177円 | 102,007円+14,007 | 10.13% | 14,903円年178,836円 |
| 兵庫 | 1,116円 | 96,720円+8,720 | 10.12% | 14,038円年168,456円 |
| 奈良 | 1,051円 | 91,087円+3,087 | 9.91% | 12,514円年150,168円 |
| 和歌山 | 1,045円 | 90,567円+2,567 | 10.06% | 12,580円年150,960円 |
| 鳥取 | 1,030円 | 89,267円+1,267 | 9.86% | 12,492円年149,904円 |
| 島根 | 1,033円 | 89,527円+1,527 | 9.94% | 12,527円年150,324円 |
| 岡山 | 1,047円 | 90,740円+2,740 | 10.05% | 12,575円年150,900円 |
| 広島 | 1,085円 | 94,033円+6,033 | 9.78% | 13,872円年166,464円 |
| 山口 | 1,043円 | 90,393円+2,393 | 10.15% | 12,619円年151,428円 |
| 徳島 | 1,046円 | 90,653円+2,653 | 10.24% | 12,659円年151,908円 |
| 香川 | 1,036円 | 89,787円+1,787 | 10.02% | 12,562円年150,744円 |
| 愛媛 | 1,033円 | 89,527円+1,527 | 9.98% | 12,544円年150,528円 |
| 高知 | 1,023円 | 88,660円+660 | 10.05% | 12,575円年150,900円 |
| 福岡 | 1,057円 | 91,607円+3,607 | 10.11% | 12,602円年151,224円 |
| 佐賀 | 1,030円 | 89,267円+1,267 | 10.55% | 12,795円年153,540円 |
| 長崎 | 1,031円 | 89,353円+1,353 | 10.06% | 12,580円年150,960円 |
| 熊本 | 1,034円 | 89,613円+1,613 | 10.08% | 12,588円年151,056円 |
| 大分 | 1,035円 | 89,700円+1,700 | 10.08% | 12,588円年151,056円 |
| 宮崎 | 1,023円 | 88,660円+660 | 9.77% | 12,452円年149,424円 |
| 鹿児島 | 1,026円 | 88,920円+920 | 10.13% | 12,610円年151,320円 |
| 沖縄 | 1,023円 | 88,660円+660 | 9.44% | 12,307円年147,684円 |
※「週20時間の月額賃金」の下段は8.8万円との差額。保険料は所定内賃金のみで標準報酬月額を決めた場合の概算で、実際には通勤手当なども含めて等級が決まるため、多くの人はこれより高くなります。
この表から見えた3つのこと
- 負担額の地域差は年間3.2万円。本人負担の年額がいちばん軽いのは新潟の146,472円、いちばん重いのは大阪の178,836円。同じ「週20時間の最低賃金労働」でも、住む場所で年3万円以上変わります。
- 賃金より高い等級を当てられる県がある。北海道は月93,167円の賃金に対して標準報酬月額98,000円が適用され、負担率は15.2%に達します。標準報酬月額は実際の賃金を等級に丸めるため、境界を少し超えると負担率が跳ねます。
- 厚生年金には「下限88,000円」がある。月8.8万円未満の賃金でも、厚生年金の標準報酬月額は最低88,000円。賃金が8万円でも保険料は88,000円ベースで計算されるため、賃金に対する負担率は9.15%を超えます。
3. 本当の壁は「週20時間」──1時間減らすと手取りが12万円増える逆転
賃金要件が消えると、加入するかどうかは週の所定労働時間が20時間以上か未満かだけで決まります。この1時間の差がどれほど大きいかを、東京・大阪・高知の最低賃金で計算しました。
| 働き方 | 東京(1,226円) | 大阪(1,177円) | 高知(1,023円) |
|---|---|---|---|
| 週19時間の年収 | 1,211,288円 | 1,162,876円 | 1,010,724円 |
| 週19時間の手取り | 1,211,288円社会保険料ゼロ | 1,162,876円社会保険料ゼロ | 1,010,724円社会保険料ゼロ |
| 週20時間の年収 | 1,275,040円 | 1,224,080円 | 1,063,920円 |
| 週20時間で引かれる額 | 183,471円社保177,096+雇用6,375 | 184,956円社保178,836+雇用6,120 | 156,220円社保150,900+雇用5,320 |
| 週20時間の手取り | 1,091,569円 | 1,039,124円 | 907,700円 |
| 手取りの差 | 週19時間が11.9万円多い | 週19時間が12.3万円多い | 週19時間が10.3万円多い |
週20時間以上になると、社会保険料だけでなく雇用保険料(令和8年度・労働者負担5/1,000)も発生します。雇用保険の加入要件も「週の所定労働時間20時間以上」だからです。20時間という線は、社会保険と雇用保険の両方が同時に立ち上がる境界になっています。
なお、この比較は社会保険料・雇用保険料だけを引いたものです。住民税(年1〜2万円程度)を加えても、週19時間のほうが手取りが約11万円多いという結論は変わりません。所得税は、令和7年分から給与所得控除の最低額が65万円に、基礎控除が95万円(合計所得132万円以下の場合)に引き上げられ、給与収入160万円まで課税所得がゼロになるため、いずれのケースでもかかりません。
取り戻す線は「週22.3時間」──3県とも同じ場所だった
では、加入して減った手取りを働いて取り戻すには、何時間まで増やせばよいのでしょうか。週19時間のときの手取りに並ぶ労働時間を3県で計算したところ、どの県も週22.3時間という同じ答えになりました。
| 県 | 週19時間の手取り | 並ぶのは | そのときの年収と手取り |
|---|---|---|---|
| 東京 | 1,211,288円 | 週22.3時間 | 年収1,421,670円手取り1,213,634円 |
| 大阪 | 1,162,876円 | 週22.3時間 | 年収1,364,849円手取り1,168,869円 |
| 高知 | 1,010,724円 | 週22.3時間 | 年収1,186,271円手取り1,012,292円 |
つまり週3.3時間(月に約14時間)を上乗せして、ようやく元の手取りに戻るということです。最低賃金で働く限り、この「取り返しに必要な時間」は住む場所が変わってもほぼ動きません。そこから先は働いた分だけ手取りが増えていきます。
中途半端に線を越えるのがいちばん損で、越えるなら週22時間より先まで行くか、週19時間以下で止めるか、という二択になります。
4. 払った保険料の元が取れるのは16.7年後──計算してみた
手取りが減る話だけでは判断できません。厚生年金に入ると老齢厚生年金が一生上乗せされます。いくら増えて、何年で元が取れるのかを計算します。
老齢厚生年金(報酬比例部分)の計算式は、日本年金機構の「老齢年金ガイド 令和8年度版」に明記されているとおり平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数です。1年(12か月)加入した場合の増加額と、そのために本人が払う厚生年金保険料を並べます。
| 標準報酬月額 | 本人が払う厚生年金保険料(年) | 増える年金(年・終身) | 元が取れるまで |
|---|---|---|---|
| 88,000円 | 96,624円 | 5,788円 | 16.7年 |
| 98,000円 | 107,604円 | 6,446円 | 16.7年 |
| 104,000円 | 114,192円 | 6,840円 | 16.7年 |
注目すべきは、標準報酬月額がいくらでも回収年数が16.7年で一定になることです。保険料率(本人9.15%)も給付乗率(5.481/1000)も報酬に比例するため、割り算すると報酬が消えて0.0915 ÷ 0.005481 = 16.69年という定数になります。収入が多い人も少ない人も、厚生年金の損益分岐点は同じ場所にあります。
年金以外にもらえるもの
さらに、第3号被保険者(配偶者の扶養)のままでは受け取れない給付が付きます。金額はいずれも標準報酬月額88,000円で計算した例です。
- 傷病手当金:1日あたり約1,953円。病気やけがで働けず給与が出ない日に、通算1年6か月まで支給されます。丸1か月休むと約5.9万円。第3号のままではゼロです。
- 出産手当金:産前42日・産後56日。同じ日額で支給されます。合計98日なら約19.1万円。
- 障害厚生年金:3級でも最低保障635,500円(令和8年度)。国民年金だけでは障害等級3級に年金はありません。厚生年金に入っていれば3級でも年金が出ます。
- 遺族厚生年金。万一のとき、遺族に報酬比例部分の4分の3が支給される可能性があります。
老後の上乗せだけを見れば「16.7年待ち」ですが、傷病手当金と障害厚生年金は明日から効く保険です。健康保険料はその保険料だと考えると、評価はかなり変わります。
保険料を軽くする制度が3年間だけある
厚生労働省は、企業規模要件の見直しなどで新たに加入対象となる短時間労働者のうち、従業員50人以下の企業などで働き、標準報酬月額が12.6万円以下の人を対象に、3年間の保険料調整措置を設けています。事業主が希望すれば労使折半の割合を変えて本人負担を減らすことができ、事業主の追加負担分は制度全体で支援されます。勤務先が小規模なら、この制度を使えるか確認する価値があります。
5. 自分の番がいつ来るかは、会社の人数で決まっている
2026年10月の賃金要件撤廃で影響を受けるのは、いまのところ厚生年金の被保険者が51人以上の企業(特定適用事業所)で働く人だけです。50人以下の会社で働く人の番は、そのあと10年かけて順番に回ってきます。厚生労働省の公表スケジュールは次のとおりです。
- 現在従業員51人以上週20時間以上かつ月8.8万円以上で加入。2026年10月に賃金要件が消え、週20時間だけが条件になります。
- 2027年10月従業員36人以上対象が36〜50人の企業に拡大。日本年金機構も「令和9年10月から36人以上」と明記しています。
- 2029年10月従業員21人以上同時に、個人事業所の適用対象が法定17業種から全業種(常時5人以上)に拡大。ただし施行時点で既にある事業所は当分の間は対象外です。
- 2032年10月従業員11人以上対象が11〜20人の企業に拡大。
- 2035年10月従業員10人以下も対象企業規模要件が完全撤廃。週20時間以上・学生でない・2か月超の雇用見込み、の3つだけが条件になります。
「うちは小さな店だから関係ない」は危険です。企業規模は店舗単位ではなく法人単位で数えます。日本年金機構は「法人事業所の場合は、同一法人格に属する(法人番号が同一である)すべての適用事業所の被保険者数の総数」と定義しています。10人の店舗でも、同じ法人の全国合計が51人以上なら特定適用事業所です。全国チェーンのパートは、ほぼ全員が最初のグループに入ります。
6. 記事にあまり書かれない、見落としやすい5つのルール
(1) 加入判定に通勤手当は入らないのに、保険料には入る
8.8万円の判定に使う「所定内賃金」からは、通勤手当・家族手当・精皆勤手当・残業代・賞与が除外されます(日本年金機構)。ところが加入したあと保険料を決める「報酬月額」には、通勤手当も残業手当も精皆勤手当も含めると同じ機構が定めています。入口の判定では無視されるのに、保険料の計算では加算される——この非対称は覚えておく価値があります。2026年10月に判定が消えれば、通勤手当は「保険料を増やすだけの手当」になります。
(2) 「週20時間」は契約上の時間であって、実際に働いた時間ではない
判定に使うのは所定労働時間、つまり就業規則や雇用契約書に書かれた時間です。契約が週19時間なら、忙しい月にシフトが増えて実働が20時間を超えても、原則として加入対象にはなりません。ただし厚生労働省は「週20時間以上で働く状況が2か月を超えて続くようであれば、加入対象となることがある」としています。常態化すれば契約の見直しが必要になります。
(3) 週単位の契約でない場合の換算方法
所定労働時間が月単位で決まっている場合は1か月の所定労働時間×12/52、1年単位なら1年の所定労働時間÷52で週あたりに換算します(1年を12か月・52週として計算)。月87時間の契約なら週20.08時間となり、加入対象です。
(4) 学生でも加入対象になる人がいる
学生は原則として対象外ですが、卒業見込証明書があり卒業後も同じ職場で働く予定の人、休学中の人、夜間・定時制の人は加入対象です。「学生だから関係ない」とは限りません。
(5) 賃金要件撤廃後も、例外的に加入しない人がいる
厚生労働省の資料には注釈があります。最低賃金法には一定の場合に最低賃金の減額を認める特例があり、その特例の対象で月額賃金が8.8万円未満の短時間労働者は、原則として社会保険に加入しない(申出による任意加入は可能)とされています。賃金要件は完全に消えるのではなく、この例外のためだけに残る形です。
7. 130万円の壁はどうなるのか
よく混同されますが、106万円と130万円はまったく別のルールです。整理するとこうなります。
| 項目 | 106万円の壁 | 130万円の壁 |
|---|---|---|
| 正体 | 勤務先の社会保険に入る条件(月8.8万円) | 配偶者の扶養(第3号被保険者)でいられる収入の上限 |
| 2026年10月 | 撤廃 | そのまま残る |
| 超えるとどうなる | 勤務先の健康保険・厚生年金に加入(労使折半) | 扶養から外れ、国民年金・国民健康保険を全額自己負担 |
| 誰の壁か | 条件を満たすすべての短時間労働者 | 週20時間未満で働く人 |
2026年10月以降、週20時間以上働く人は年収に関係なく勤務先の社会保険に入るため、130万円の壁を意識する必要がなくなります。逆に言えば130万円の壁は「週20時間未満で働く人だけの壁」に縮小します。週19時間・時給1,300円だと年収は約128万円で、130万円の壁がすぐ目の前に来ます。時給が上がるほど、週20時間未満に抑えても130万円に当たる人が増えていきます。
なお、残業などで一時的に収入が上がった場合は、事業主の証明によって引き続き扶養が認められる特例があります。扶養から外れるかどうかは、勤務先や配偶者の健康保険組合に確認してください。
8. 2026年10月に向けて、いま確認すべき3つのこと
制度の話を、明日からの行動に落とし込みます。
確認1:勤務先の「厚生年金の被保険者数」を聞く
51人以上なら2026年10月がその日です。50人以下なら、上のカレンダーで自分の番が何年後かがわかります。正確な人数は日本年金機構の事業所検索でも調べられます。
確認2:雇用契約書の「週の所定労働時間」を見る
ここに書かれた数字がすべてです。19.5時間なのか20時間なのかで、年間10万円以上の手取り差が生まれます。シフト制で明記がない場合は、勤務先に確認してください。
確認3:どちらの側に立つかを決める
選択肢は実質3つです。
| 選択肢 | 向いている人 | 注意点 |
|---|---|---|
| 週19時間以下に抑える | 手取りの最大化が最優先。配偶者の扶養に入っている | 年金は増えず、傷病手当金・障害厚生年金もなし。時給上昇で130万円の壁に当たる可能性 |
| 週20時間で加入する | 保障を重視。長く働き続ける予定 | 手取りが年10〜12万円減る「谷」に入る。いちばん損な位置になりやすい |
| 週22時間より先まで働く | 時間に余裕があり、世帯収入を増やしたい | 週22.3時間で元の手取りに戻り、そこから先は働いた分だけ増える。配偶者の会社の家族手当の条件は要確認 |
いちばん避けたいのは、何も決めないまま週20時間ちょうどで働き続けることです。谷の底に座り続けることになります。
よくある質問
Q. 2026年10月から、パート全員が社会保険に入ることになるのですか?
A. いいえ。2026年10月に変わるのは賃金要件(月8.8万円以上)が消えることだけで、週の所定労働時間20時間以上と勤務先が厚生年金の被保険者51人以上の企業であることは残ります。週19時間以下で働く人、50人以下の会社で働く人は、この時点では対象外です。
Q. 106万円の壁が撤廃されたら、年収106万円を超えても手取りは減らないのですか?
A. 逆です。壁が撤廃されるというのは「106万円未満なら加入しなくてよい」という逃げ道がなくなるという意味で、週20時間以上働いていれば年収に関係なく加入します。ただし実際には、最低賃金で週20時間働くと全都道府県で月8.8万円を超えるため、この逃げ道はすでに使えなくなっています。
Q. 週20時間ちょうどの契約ですが、加入したくありません。どうすればよいですか?
A. 加入要件を満たす場合、本人の希望で加入しないことはできません。加入を避けたい場合は、雇用契約の所定労働時間を週20時間未満に変更してもらう必要があります。ただし週19時間に減らすと年収も5〜6万円下がる点、将来の年金や傷病手当金がなくなる点を踏まえて判断してください。
Q. 社会保険に入ると、夫(妻)の税金は増えますか?
A. 社会保険への加入と、配偶者控除・配偶者特別控除は別の制度です。自分が社会保険に加入しても、配偶者の税金がそれだけで増えることはありません。むしろ自分が払った社会保険料は全額が社会保険料控除の対象になり、自分自身の所得税・住民税は下がります。一方で、配偶者の会社が支給する家族手当・配偶者手当は独自の収入基準を設けていることが多いため、そちらは個別に確認が必要です。
Q. パートで厚生年金に入ると、いま受け取っている国民年金(基礎年金)は減りますか?
A. 減りません。第3号被保険者から第2号被保険者に変わっても、老齢基礎年金の計算上は同じ扱いで、満額(令和8年度は月70,608円)に向けた加入期間としてカウントされます。厚生年金は、その基礎年金に上乗せされる部分です。払った保険料は純粋に上乗せ分の対価になります。
Q. 短期間しか働かないのに加入しても意味がないのでは?
A. 老齢厚生年金には加入期間の下限がありません。1か月でも加入すれば、その分だけ一生涯の年金が増えます(標準報酬月額88,000円なら1か月あたり年482円)。また加入期間中は傷病手当金や障害厚生年金の対象にもなります。
まとめ
2026年10月の改正は「106万円の壁がなくなって働きやすくなる」という話ではありません。すでに壊れていた壁を法律から消し、残った「週20時間」という壁を全員に見えるようにする改正です。
47都道府県の最低賃金で計算すれば、週20時間の月額賃金は最も低い高知・宮崎・沖縄でも88,660円。8.8万円という基準は、もうどこにも効いていません。一方で週19時間と週20時間の間には、年間10万円を超える手取りの段差が残ります。この段差は、時給が上がるほど大きくなっていきます。
そして自分の番がいつ来るかは、勤務先の人数で決まっています。2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上、2035年10月にすべての企業。10年かけて、この段差は全国のすべての職場に届きます。いま確認すべきなのは年収ではなく、雇用契約書に書かれた「週の所定労働時間」と、勤務先の従業員数の2つです。
この記事で使った一次資料
- 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」/「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」(2026年1月作成)
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(2026年4月17日更新)/「老齢年金ガイド 令和8年度版」/「障害年金ガイド 令和8年度版」
- 厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧」/「令和7年簡易生命表の概況」/「令和8年度の年金額改定について」/「令和8年度 雇用保険料率のご案内」
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」(47都道府県分)


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