動物・検証
豚の体脂肪率は本当に15%?出典を辿って畜産データで検証した
「豚の体脂肪率は14〜18%でスーパーモデル並み」という話が、SNSやまとめサイトで広く引用されています。ところがこの数字の出どころを辿ると、学術データではなくダイエット食品会社が2019年に出したプレスリリースに行き着き、そこには出典が一切示されていません。一方、実際に豚の屠体を解剖して測った畜産の研究では、脂肪の割合は29.03%から41.16%。化学分析による枝肉の脂肪割合は21.0%から23.7%でした。なぜここまで数字が違うのか。そしてそもそも人間の体脂肪率と比べられるのかを、一次資料で確かめます。
この記事の結論
- 「豚の体脂肪率14〜18%」に学術的な出典はありません。この数値が広まった有力な起点は、2019年12月10日にダイエット食品会社サニーヘルスが出したプレスリリースで、掲載されたどの数値にも出典が示されていません。
- 実際に豚の屠体を解剖して筋肉・脂肪・骨に分離した1964年の研究では、脂肪の割合は背脂肪の厚さによって29.03%から41.16%でした。
- 化学分析で脂質量を測った1989年の研究では、枝肉の脂肪割合は21.0%から23.7%。測り方が違えば数字も変わります。
- そもそも人間の体脂肪率と同じ土俵の数字は公表されていません。人間は全身の脂肪を体重で割りますが、豚で測られているのは頭や内臓を外した屠体や枝肉の脂肪割合だからです。
- 豚の脂肪の約8割は皮下脂肪です(皮下78.4%、筋間12.83%、内臓8.27%)。だから「太って見える」という印象は、見た目としては正しいことになります。
- ただし品種改良で脂肪が減り続けているのは事実です。背脂肪の厚さは1世代あたり約0.1cmずつ薄くなっており、格付基準もそれを前提に設計されています。
結論:数字が独り歩きしていた
「このブタ!」が悪口として成立するほど、豚は肥満の代名詞として扱われてきました。そこへ「実は体脂肪率15%でモデル並み」という話が登場すると、意外性があって広まりやすくなります。実際この話はテレビ、SNS、雑学まとめサイトで繰り返し引用されています。
ただ、こうした数字は出どころを確かめないと検証できません。そこで今回、日本語で流通している「14〜18%」説の起点と、畜産分野で実際に測定された値の両方を調べました。結果は次のとおりです。
「14〜18%」はどこから来たのか
日本語で「豚 体脂肪率」を検索すると、養豚場のブログ、クリニックのコラム、SNSの投稿、雑学メディアが並びます。そのほとんどが14〜18%前後の数字を挙げていますが、出典を示しているものはほぼありません。
遡っていくと、広く引用されている資料のひとつが2019年12月10日にサニーヘルス株式会社が配信したプレスリリース「『豚みたい』は褒め言葉!?動物の体脂肪率ランキング」です。同社はダイエット食品「マイクロダイエット」を手がける企業で、リリースには次の数値が並んでいます。
| 対象 | 掲載された体脂肪率 | 出典の明示 |
|---|---|---|
| 豚(食用) | 14〜18% | なし |
| 豚(野生) | 13%前後 | なし |
| チーター | 4〜5% | なし |
| 馬(競走馬) | 5〜8% | なし |
| 人間(男性の標準) | 10〜19% | なし |
リリースには「性別、筋肉量、環境などで誤差があります」という注記はあるものの、どの数値についても根拠となる調査や論文は挙げられていません。ダイエット商材の文脈で作られた読み物であり、学術的な測定結果として提示されたものではない、という点はおさえておく必要があります。
「豚15%」という数字は、意外性があり、覚えやすく、会話のネタになります。だからこそ引用のたびに出典が落ち、やがて「豚の体脂肪率は15%」という既成事実だけが残ります。この記事の以前のバージョンも、その数字をそのまま紹介していました。今回、一次資料にあたって全面的に書き直しています。
【一次資料1】1964年、屠体を解剖して測った
豚の体の組成は、畜産分野で古くから研究されています。最も直接的なのが、屠体を実際に筋肉・脂肪・骨に分離して重さを量る方法です。
農林省大宮種畜牧場茨城支場の高橋明・吉岡勝・松崎格による論文「豚の屠体の筋肉, 脂肪, 骨の割合について」(日本養豚研究会誌 1巻2号、1964年12月)は、豚産肉能力検定の飼料給与基準設定試験に用いたランドレース種17頭の左半丸屠体を解剖学的に分離した結果を報告しています。
背脂肪層(カタ・セ・コシの平均)の厚さで3段階に分けた結果が次のとおりです。
| 背脂肪層の厚さ | 筋肉 | 脂肪 | 骨 |
|---|---|---|---|
| 2.49cm以下 | 57.91% | 29.03% | 9.30% |
| 2.50〜2.99cm | 56.01% | 32.22% | 9.59% |
| 3.00cm以上 | 46.12% | 41.16% | 8.39% |
最も脂肪が少ないグループでも29.03%、背脂肪が3cmを超えるグループでは41.16%です。「15%」とは大きく開きがあります。
同じ論文はロースの断面積でも分けており、断面積が15.0〜16.9cm²のグループで筋肉51.08%・脂肪35.43%・骨9.18%、17cm²以上で55.40%・30.59%・9.56%と報告しています。ロースが大きい個体ほど筋肉が多く脂肪が少ないという、直感どおりの関係です。
【一次資料2】1989年、化学分析で測った
もうひとつの測り方が、屠体を化学分析して純粋な脂質の量を求める方法です。
宮城県畜産試験場の鈴木啓一ほかによる「豚の生体密度による体脂肪割合改良の検討」(日本畜産学会報 60巻5号、1989年)は、閉鎖群育種中のランドレース種について、選抜第1世代から第4世代までの枝肉の化学的脂肪割合を次のように報告しています。
4世代の平均は約22.6%。ここでも15%には届きません。同じ研究は背脂肪厚の選抜反応が1世代あたり雄で-0.089cm、雌で-0.103cmだったことも示しています。品種改良によって脂肪が着実に減ってきたのは事実ですが、それでも枝肉の脂肪は2割を超えていました。
なぜ1964年と1989年で数字が違うのか
29〜41%と21〜24%。差の理由は2つあります。
- 理由1測っているものが違う解剖分離で量るのは脂肪組織の重さです。脂肪組織には結合組織や水分も含まれます。一方の化学分析は、組織から脂質だけを抽出して量ります。同じ個体でも、解剖分離のほうが数字は大きくなります。
- 理由225年分の品種改良が入っている1964年と1989年の間に、赤身を増やし脂肪を減らす改良が進みました。背脂肪厚の選抜反応が示すとおり、世代を重ねるごとに脂肪は薄くなっています。
そもそも人間の体脂肪率と比べられるのか
ここが最も大事な点です。「豚の体脂肪率」と「人間の体脂肪率」は、同じ定義で測られた数字ではありません。
人間の体脂肪率は、全身の脂肪量を体重で割った値です。対して畜産で測られているのは、頭・内臓・血液などを外した屠体や枝肉に占める脂肪の割合です。食肉としての価値を評価するための指標なので、生きている豚の全身を対象にしていません。
日本食肉格付協会の豚枝肉取引規格でも、評価に使うのは体脂肪率ではなく枝肉重量と背脂肪の厚さです。たとえば枝肉重量30.0kg以上39.0kg未満の場合、背脂肪厚の基準は極上で1.5〜2.1cm、上で1.3〜2.4cm、中で0.9〜2.7cmと定められています。業界が管理しているのは「厚さ」であって「率」ではありません。だから人間と同じ土俵の数字は、そもそも公表されていないのです。
つまり「豚の体脂肪率は人間より低い」という比較は、異なる定義の数字を並べたものということになります。どちらが高いかを断定する根拠は、現時点では見当たりません。
「太って見える」のは、実は正しい
では豚が丸く見えるのは錯覚なのか。1964年の論文には、この点に直接答えるデータがあります。脂肪がどこに付いているかの内訳です。
| 脂肪の部位 | 全脂肪量に占める割合 | 見た目への影響 |
|---|---|---|
| 皮下脂肪 | 78.4% | 体型に直結する |
| 筋間脂肪 | 12.83% | ほぼ見えない |
| 内臓脂肪 | 8.27% | 見えない |
| 骨盤脂肪 | 0.20% | 見えない |
論文は「皮下脂肪が全脂肪量のうち80%近くをしめている」と述べています。豚の脂肪はほとんどが体の表面側に付いているわけです。人間で内臓脂肪型と皮下脂肪型が分かれるのと違い、豚は極端に皮下型です。
脂肪が皮のすぐ下に厚く乗っていれば、当然、外から見て丸く見えます。「豚は太って見える」という印象は、脂肪の付き方から見れば妥当だということになります。誤解だったのは見た目の話ではなく、「15%」という数字のほうでした。
それでも豚が「痩せてきた」のは本当
数字の検証としては以上ですが、豚がかつてより脂肪の少ない動物になっているのは事実です。
- 1964年解剖分離で脂肪29〜41%ランドレース種17頭の屠体。背脂肪が3cmを超える個体では脂肪が4割を占めていました。
- 1989年化学分析で枝肉の脂肪21〜24%閉鎖群育種の第1世代23.7%から第4世代22.8%へ。背脂肪厚は1世代あたり約0.1cmずつ薄くなりました。
- 現在格付基準が「薄すぎても落ちる」設計に日本食肉格付協会の規格では、背脂肪厚が薄ければよいのではなく、極上は1.5〜2.1cmという上限と下限のある範囲で評価されます。脂肪が少なすぎる肉は食味が落ちるためです。
赤身を増やす改良を続けた結果、いまの豚は「脂肪を減らしつつ、減らしすぎない」ところで管理されている動物です。「モデル並みに絞られている」わけではありませんが、放っておいて太った動物でもありません。
よくある質問
Q. 豚の体脂肪率は結局何%ですか?
A. 測り方によって変わります。屠体を解剖して脂肪組織を分離した1964年の研究では29.03%から41.16%、化学分析で脂質量を測った1989年の研究では枝肉の21.0%から23.7%でした。人間の体脂肪率と同じ定義で測った公式な数値は公表されていません。
Q. 「豚の体脂肪率は14〜18%」という話はどこから来たのですか?
A. 広く引用されている起点のひとつが、2019年12月10日にダイエット食品会社サニーヘルスが配信したプレスリリース「『豚みたい』は褒め言葉!?動物の体脂肪率ランキング」です。豚(食用)14〜18%などの数値が並んでいますが、いずれの数値にも出典は示されていません。
Q. 豚の体脂肪率は人間より低いのですか?
A. 断定できません。人間の体脂肪率は全身の脂肪を体重で割った値ですが、豚で測られているのは頭や内臓を外した屠体や枝肉に占める脂肪の割合で、定義が異なります。日本食肉格付協会の規格でも、豚の評価に使うのは体脂肪率ではなく枝肉重量と背脂肪の厚さです。
Q. 豚が太って見えるのは錯覚ですか?
A. 錯覚とは言えません。1964年の研究によれば、豚の脂肪は皮下脂肪が78.4%、筋間脂肪が12.83%、内臓脂肪が8.27%、骨盤脂肪が0.20%で、約8割が皮下に付いています。脂肪が体の表面側に集中しているため、外見に直接反映されます。
Q. 豚は品種改良で痩せたのですか?
A. 脂肪は減っています。1989年の研究では背脂肪厚の選抜反応が1世代あたり雄で-0.089cm、雌で-0.103cmでした。ただし現在の格付基準は薄ければよい設計ではなく、極上の背脂肪厚は1.5cm以上2.1cm以下という範囲で定められています(枝肉重量30.0kg以上39.0kg未満の場合)。
Q. 野生のイノシシと家畜の豚では違いますか?
A. 本記事で確認できた一次資料は、いずれも家畜として飼育されたランドレース種を対象にしたものです。野生個体を同じ方法で測定した日本語の公表データは確認できなかったため、この記事では野生の数値には言及していません。
あわせて読みたい
出典・参考資料
- 高橋明・吉岡勝・松崎格「豚の屠体の筋肉, 脂肪, 骨の割合について」日本養豚研究会誌 1巻2号(1964年12月)(農林省大宮種畜牧場茨城支場)
- 鈴木啓一ほか「豚の生体密度による体脂肪割合改良の検討」日本畜産学会報 60巻5号(1989年)(宮城県畜産試験場)
- 公益社団法人日本食肉格付協会「豚枝肉取引規格」
- サニーヘルス株式会社「『豚みたい』は褒め言葉!?動物の体脂肪率ランキング」(2019年12月10日)
本記事は公開されている学術論文と業界規格にもとづく検証です。畜産分野の測定は食肉としての評価を目的としており、人間の体脂肪率と定義が異なります。引用した研究は対象頭数や実施年が限られるため、現在飼育されているすべての豚に当てはまるものではありません。
あわせて読みたい
動物の雑学・生態まとめ60選|犬猫の飼い方から珍獣まで一気読み

コメント