動物園で生まれた赤ちゃんに、ある日「ヒヨリ」や「チャコ」といった名前がつきます。あの名前は、飼育員さんが決めているのでしょうか。それとも、来園者が選んでいるのでしょうか。
調べてみると、決め方は園によってはっきり違っていました。そして、公表されている投票結果を全部数えていくと、「いま名前投票はかつてないほど参加しやすくなっている」という、なかなか明るい事実が見えてきます。この記事では、実際の数字で名付けの舞台裏を追いかけます。
集計対象:埼玉県こども動物自然公園が「どうぶつニュース」で公表した名前決定のお知らせのうち、投票総数が明記されている21回。筆者が公式ページを1件ずつ読んで集計しました。
まず結論:動物園の名付けには3つの方式がある
全国の園館の発表を読み比べると、赤ちゃんの名前の決め方は大きく3つに分かれます。どれか1つだけを使う園もあれば、時期や動物によって使い分ける園もあります。
| 方式 | だれが名前を出すか | だれが決めるか | 実例 |
|---|---|---|---|
| 候補投票型 | 飼育担当者が候補を用意 | 来園者・ウェブの投票 | 埼玉県こども動物自然公園、よこはま動物園ズーラシア、福知山市動物園 |
| 2段階型 | 一般から自由に募集 | 飼育員が絞り込み、投票で決定 | とべ動物園(ジャガー)、男鹿水族館GAO(ホッキョクグマ) |
| 命名権型 | 命名権を得た人が自由に命名 | 命名者本人 | 埼玉県こども動物自然公園のビンゴ大会・福袋 |
いちばん多いのは候補投票型です。飼育担当者が4〜5個の候補を用意し、来園者が好きな1つに投票します。自由に名前を考えて応募できるわけではないので、「名付け親になる」というより「選ぶ側にまわる」形です。
一方で、とべ動物園や男鹿水族館GAOが採っているのが2段階型です。まず誰でも自由に名前を応募でき、そのなかから飼育員が候補を絞り、最後に投票で決めます。自分が考えた名前がそのまま採用される可能性があるのはこの方式です。
男鹿水族館GAOでは、2025年12月4日に生まれたオスのホッキョクグマが「モモ太」と命名されました。同館の発表によると、一次募集で「モモ太」と応募した人はおおよそ500件にのぼったといいます。母親の名前が「モモ」なので、多くの人が同じ発想にたどり着いたわけです。自由応募でも、思いつく名前は意外と重なります。
名前投票21回・3万9533票を全部数えた
方式の違いはわかりました。では実際、どれくらいの人が投票しているのでしょうか。投票結果を長年きちんと公表し続けている埼玉県こども動物自然公園(東松山市)の「どうぶつニュース」を、2020年までさかのぼって1件ずつ読みました。
投票総数が明記されていたのは21回。合計するとのべ3万9533票になります。
| 発表日 | 動物 | 決まった名前 | 総投票数 | 名前の由来 |
|---|---|---|---|---|
| 2020/7/24 | キリン | ルン | 696票 | 父マル+母リンから1字ずつ |
| 2020/8/9 | クオッカ | ダイ・チャメ・リコ・ビビ | 3,785票 | 4頭それぞれの性格から |
| 2020/12/4 | クオッカ | パイン・ピオニ | 3,268票 | 公表なし(母ビビの子・母リコの子) |
| 2021/7/30 | クオッカ | ミモザ | 3,779票 | 公表なし |
| 2021/9/4 | キリン | レン | 1,326票 | 7月8日の誕生花「蓮」 |
| 2022/2/14 | コアラ | ミラ・スピカ | 2,670票 | オーストラリアで見える恒星 |
| 2022/7/12 | クオッカ | チャチャ | 5,012票 | 公表なし |
| 2022/11/8 | キリン | マリスケ | 2,141票 | 父マル+母リン+「スケ」 |
| 2023/3/21 | クオッカ | チャコ | 7,749票 | 公表なし |
| 2023/5/5 | キリン | アップ | 3,591票 | 母ステップから「ステップアップ」 |
| 2024/5/28 | クオッカ | ミア | 957票 | 2月20日の誕生花「カルミア」 |
| 2024/9/18 | コツメカワウソ | ナシ・クリ・コーン | 216票 | 東松山市の農産物 |
| 2025/4/14 | コアラ | さち | 610票 | 幸福の「幸」と母の名から |
| 2025/4/14 | クオッカ | ムスビ | 586票 | おむすび顔から |
| 2025/4/14 | コツメカワウソ | ピン・テン・ハナ・クロ | 234票 | 4頭それぞれの鼻の特徴 |
| 2025/7/7 | キリン | スズマル | 549票 | 母リン→鈴+父マル |
| 2025/7/28 | プーズー | スイ | 173票 | 母スミレ+父サイから1字ずつ |
| 2025/10/21 | クオッカ | ピコ | 701票 | 父パイン+母チャコから |
| 2025/12/15 | キリン | ジャンプ | 313票 | 母ステップから連想 |
| 2026/2/25 | コアラ | ヒヨリ・ポル | 1,004票 | 母コハル→小春日和/母ミラ→恒星ポルックス |
| 2026/8/18 | プーズー | イチハ | 173票 | 18日生まれの語呂合わせ |
21回の平均は1883票。最多は2023年3月のクオッカ「チャコ」で7749票、最少は2025年と2026年のプーズーで、どちらも173票でした。その差は44.8倍です。
集まる票は、動物によって18倍違う
動物別に平均をとると、差がはっきりします。
| 動物 | 回数 | 平均投票数 | 最多 | 最少 |
|---|---|---|---|---|
| クオッカ | 8回 | 3,230票 | 7,749票 | 586票 |
| キリン | 6回 | 1,436票 | 3,591票 | 313票 |
| コアラ | 3回 | 1,428票 | 2,670票 | 610票 |
| コツメカワウソ | 2回 | 225票 | 234票 | 216票 |
| プーズー | 2回 | 173票 | 173票 | 173票 |
クオッカの平均3230票に対し、プーズーは173票。約18.7倍の開きがあります。クオッカは「世界一幸せな動物」として知られ、同園は国内で数少ない飼育施設のひとつです。人気がそのまま票数に出ています。
逆にいえば、プーズー(南米に住む世界最小級のシカ)やコツメカワウソの回は、200票前後の勝負です。同じ園の、同じ形式の投票なのに、参加のしやすさがまったく違うわけです。
勝った候補の得票率がわかる13回を計算すると、中央値は39.5%でした。4〜5択の投票で4割を取れば勝てる計算です。候補ごとの得票が公表された6回のうち、最も僅差だったのは2022年11月のキリンです。1位「マリスケ」594票に対し、2位「テラ」は578票。その差はわずか16票でした。2022年7月のクオッカも、1位「チャチャ」1234票、2位「デイジー」1097票、3位「ミイ」1092票と、上位3つが142票差のなかにひしめいています。
いま、1票の重みはピーク時の12倍になっている
年ごとに平均を出すと、はっきりした変化が見えます。
| 年 | 回数 | 1回あたり平均投票数 |
|---|---|---|
| 2020年 | 3回 | 2,583票 |
| 2021年 | 2回 | 2,552票 |
| 2022年 | 3回 | 3,274票 |
| 2023年 | 2回 | 5,670票 |
| 2024年 | 2回 | 586票 |
| 2025年 | 7回 | 452票 |
| 2026年 | 2回 | 588票 |
2023年の平均5670票に対し、2025年は452票。1回あたりの投票数は12分の1になっています。同園は投票数が変わった理由を公表していないため、原因を断定することはできません。ただ、票が集まらなくなったぶん、投票する側から見れば1票の影響力は劇的に大きくなりました。
2023年のクオッカ投票なら、1票は7749分の1です。2026年のプーズー投票なら173分の1。同じ「1票」でも、結果を動かす力は45倍違います。名付けに関わってみたいと思っているなら、いまはかなり良いタイミングだといえます。
表3のとおり、票が集まりにくいのは、プーズーやコツメカワウソのように一般的な知名度が高くない動物の回です。こうした回は投票期間が2週間前後と短いことも多いので、行きたい園の公式サイトやSNSを定期的に見ておくと取りこぼしがありません。
選ばれる名前には、はっきりした「型」がある
21回の由来を並べると、名前の付け方には繰り返し登場するパターンがあります。
型1:両親の名前から1字ずつもらう(最多)
いちばん多いのがこれです。キリンの「ルン」は父マル+母リン、その弟の「マリスケ」も同じ組み合わせ、さらにその後の「スズマル」は母リンから連想した鈴+父マル。プーズーの「スイ」は母スミレ+父サイ、クオッカの「ピコ」は父パイン(Pine)+母チャコ(Chako)からです。家系がそのまま名前に刻まれていくのが、動物園の名付けの特徴といえます。
型2:誕生日や誕生花にちなむ
キリンの「レン」は誕生日7月8日の誕生花「蓮」、クオッカの「ミア」は2月20日の誕生花「カルミア」から。2026年8月に決まったプーズーの「イチハ」は、18日生まれの「1(いち)8(は)」という語呂合わせでした。
型3:地元や生息地にちなむ
2020年のプーズー「ゼル」は、埼玉県の木であるケヤキの英名ゼルコヴァ(zelkova)が由来。2024年のコツメカワウソ3頭「ナシ・クリ・コーン」は、園のある東松山市の農産物(梨・栗・トウモロコシ)です。コアラの「ミラ」「スピカ」「ポル」は、ふるさとオーストラリアで見える恒星の名前から取られました。
生息地の言葉を使う園もあります。よこはま動物園ズーラシアは2026年1月に生まれたアカアシドゥクラングールの愛称候補を、生息地ベトナムの言葉から「ミー(美しい)」「ティー(詩)」「ヴィー(小さく可憐)」の3つ用意しました。結果は同園の公式Xで発表されており、総投票数584票のうち274票を集めた「ミー」に決まっています。
#アカアシドゥクラングール の赤ちゃんの愛称が決定しました!
総投票数584票中、274票を獲得した「ミー」に決定しました!
たくさんの投票ありがとうございました。ミーの成長をこれからも見守ってくださいね。#ズーラシア #ZOORASIA #RedshankedDoucLangur #絶滅危惧種 #世界一周の動物旅行 pic.twitter.com/SXbpkhomg4— 【公式】横浜市立よこはま動物園 ズーラシア (@ZOORASIA_office) May 11, 2026
京都の福知山市動物園も、カピバラの愛称候補を生息地パンタナール湿原の名やポルトガル語・スペイン語から選んでいます。
型4:見た目や性格をそのまま名前にする
2025年のコツメカワウソ4頭は「ピン・テン・ハナ・クロ」。ピンク色の鼻、黒い点のある鼻、鼻の形に黒い、鼻の周りも黒い、という4頭の見分けポイントがそのまま名前になりました。2020年のクオッカ4頭「ダイ・チャメ・リコ・ビビ」も、体が大きい・お茶目・お利口・ちょっとびびり、という性格由来です。
ビンゴ大会や福袋で命名権を得た人が名前をつけるケースでは、命名者自身や家族の名前が由来になる例が目立ちます。フェネックの「マナピィ」(他園に移動してもわかるよう自分の名前を入れた)、「イロハ」(娘の名前から)、ギンガオサイチョウの「ヒカル」「エマ」(いずれも命名者自身の名前)、エミューの「みらなみゅー」(3人の子どもの名前を合成)など。投票型が「親から一字」なら、命名権型は「命名者から一字」です。
9月20日、とべ動物園でジャガーの双子の名前が決まる
ちょうどいま進行中の名付けもあります。愛媛県立とべ動物園では、2026年6月16日にジャガーの「卯月佐助」と「ミワ」の間に2頭の赤ちゃんが生まれました。同園の発表によると、命名は2段階で進んでいます。
- 2026年8月10日〜9月6日名前候補の募集Googleフォームで誰でも応募でき、応募数の制限は設けられませんでした。黄色の仔(メス)と黒色の仔(オス)それぞれの名前と由来を書いて応募する形式です。同園公式Xによると、集まった名前候補は総数3018票。そこから飼育員が5つの候補に絞り込みました。
- 2026年8月25日一般公開スタート中獣舎の屋外放飼場で公開が始まりました。当初の公開時間は9時〜10時30分でしたが、9月15日から9時〜12時に延長されています。
- 2026年9月8日〜9月19日来園者投票飼育員が選んだ5つの候補から、来園した人が1人1枚の投票用紙で選びます。南米獣舎屋外の投票所に投票箱が置かれています。
- 2026年9月20日 11時〜名前発表中獣舎のジャガー前で名前が発表され、あわせて赤ちゃんの成長についてのガイドが行われます。当日は9時から12時ごろまで公開予定です。
実際の告知は、同園の公式Xでも順に発信されています。
#ジャガー仔 の名前候補、ご応募いただきありがとうございました✨
総数3018票の中から、次の5つの候補に決まりました‼️
この中からお好きな名前に投票していただき、投票数の一番多い名前に決定します❣️#とべ動物園 #ジャガー
詳細はこちら⬇️https://t.co/pCRvtopfNZ pic.twitter.com/JyiDVic8WX— 愛媛県立とべ動物園【公式】 (@tobezooofficial) September 7, 2026
🐈公開についてのお知らせ🐈⬛#ジャガーの仔 の公開時間を、本日15日(火)より9:00~12:00に延長します🐾
ぜひ会いに来てくださいね❣️
⚠️体調管理等により、変更・中止する場合があります#とべ動物園 #ジャガー pic.twitter.com/0NPyZSAs6c— 愛媛県立とべ動物園【公式】 (@tobezooofficial) September 14, 2026
この記事の公開時点では投票期間の終盤です。愛媛まで行ける方は、2頭の名前を決める1票を投じられる最後のチャンスということになります。
名付けに参加したいときの、現実的な動き方
ここまでの集計を踏まえると、参加のコツは3つに整理できます。
候補投票型では、用意された選択肢から選ぶだけです。自分の考えた名前を採用してほしいなら、とべ動物園や男鹿水族館GAOのように一般募集を行う園を探しましょう。多くはウェブフォームで、遠方からでも応募できます。
クオッカやコアラの回は数千票規模になります。一方、プーズーやコツメカワウソの回は200票前後。同じ1票でも、結果に効く度合いが桁違いです。
とべ動物園のように来園者だけが投票できる方式や、福知山市動物園のように園内2カ所のQRコードから投票する方式もあります。投票期間は2週間前後と短いので、行きたい園の公式サイトの「お知らせ」欄を月に一度ほど確認しておくと逃しません。
よくある質問
Q. 動物園の赤ちゃんの名前は、飼育員が決めているのですか?
A. 園と動物によります。飼育担当者が用意した候補から来園者が投票して決める「候補投票型」が最も多く、一般から自由に応募を受けて飼育員が絞り込む「2段階型」、ビンゴ大会や福袋で命名権を得た人が決める「命名権型」もあります。血統管理上の正式な個体名とは別に、来園者向けの「愛称」として決めるケースもあります。
Q. 名付け親になることはできますか?
A. できる場合があります。とべ動物園や男鹿水族館GAOのように一般から名前を募集する園なら、自分の考えた名前が採用される可能性があります。また埼玉県こども動物自然公園のように、当選した名前に投票した人のなかから抽選で「名付け親認定証」を贈る運用をしている園もあります。
Q. 投票は動物園に行かないとできませんか?
A. 方式次第です。とべ動物園の来園者投票や福知山市動物園の園内QRコード投票は、園に行くことが前提です。一方で、名前候補の募集をウェブフォームで行う園もあり、その段階なら遠方からでも参加できます。
Q. どんな名前が選ばれやすいですか?
A. 埼玉県こども動物自然公園の21回を見るかぎり、両親の名前から1字ずつ取った名前、誕生日や誕生花にちなんだ名前、地元や生息地にちなんだ名前が繰り返し選ばれています。勝った候補の得票率は中央値で39.5%で、4〜5択なら4割取れば勝てる計算です。
Q. 名前が決まった赤ちゃんには、いつから会えますか?
A. 多くの園では、命名より前に一般公開が始まります。とべ動物園のジャガーは2026年8月25日に公開が始まり、名前の発表は9月20日です。ただし赤ちゃんは体調や天候で公開が中止になることがあるため、出かける前に公式サイトの当日情報を確認することをおすすめします。
参考にした一次情報
・埼玉県こども動物自然公園「どうぶつニュース」(名前決定のお知らせ21件を集計)
・愛媛県立とべ動物園「今年誕生したジャガーの公開と命名について」
投票数・得票率は各園の公表値をもとに筆者が集計しました。数値は2026年9月17日時点の公表情報にもとづきます。アイキャッチ写真:Tiomax80「Curious quokka twins」/Wikimedia Commons(CC BY 2.0)。
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