原油はなぜ100ドルを超えたのか。日本の国家備蓄は4か月で43日分減っていた
イエメンの武装勢力フーシ派が紅海の出口を押さえ、サウジアラビアの「ホルムズ迂回路」も止まりました。北海ブレント原油は9月15日に1バレル108.75ドル。それでも日本のガソリン店頭価格は169.9円で動いていません。価格が動かない代わりに、何が減っているのか。石油連盟と資源エネルギー庁の公表データを集計して確かめました。
2026年9月19日時点のデータで作成
(9月15日・3か月高値)
(9月14日調査)
(制度開始以降で最大)
(7月末・3月は146日分)
結論:世界の混乱は、日本では「価格」ではなく「備蓄と財政」に出ている
2026年9月、原油価格が世界的に跳ね上がりました。北海ブレント原油は7月1日に1バレル71.57ドルまで下がっていたのが、9月15日には108.75ドル。約2か月半で52%の上昇です。
ところが日本のガソリン価格は、ほとんど動いていません。資源エネルギー庁の週次調査によれば、9月14日のレギュラーガソリン全国平均は169.9円で、前週比わずか−0.1円でした。
これは市場が落ち着いているからではありません。政府が補助金を出して、店頭価格を170円に貼り付けているからです。9月14日調査の時点で補助額は1リットルあたり36.0円。補助がなければ、同じ週の価格は205.9円でした。そして9月17日からは、補助額が51.0円に引き上げられています。
つまり日本では、原油高の衝撃が価格には現れず、別の2か所に現れています。ひとつは国家備蓄、もうひとつは国の財布です。この記事では、その2つがどれだけ減ったのかを公表データから集計しました。
・9月に原油が100ドルを超えた直接のきっかけ(フーシ派の南下と、サウジの迂回パイプライン停止)
・日本の国家備蓄が3月末から7月末までに何キロリットル減ったか(石油連盟データの自前集計)
・1リットル51円の補助が、1日あたりいくらの公費になっているかの試算
・欧州・韓国・米国と比べた日本のガソリン価格の位置
何が起きたのか──フーシ派が紅海の「出口」を押さえた
発端は、イエメンの親イラン武装勢力フーシ派による大規模な進攻です。AP通信の報道によれば、フーシ派は9月11日ごろから紅海沿岸を南下し、要衝であるモカ港を制圧。続けてバブエルマンデブ海峡付近のいくつかの島を押さえました。
バブエルマンデブ海峡は、紅海とアデン湾を結ぶ細い出口です。平時には世界の貿易量の約12%がここを通ります。スエズ運河を抜けた船は、必ずこの海峡を通らなければ外洋に出られません。
- 9/11フーシ派が紅海沿岸を南下、モカ港を制圧数年ぶりの大規模な支配地拡大となり、12年続くイエメン内戦が再燃しました。国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、約12万5千人が家を追われています。
- 9/11-12サウジの東西パイプラインが停止イラク国内の親イラン民兵によるとみられる攻撃を受け、予防措置として停止。これがサウジにとって決定的でした(後述)。
- 9/13紅海の通航量はいったん回復海運分析会社Windwardによれば、進攻前は1日35隻だった通航が直後に25隻まで落ち込み、13日の日曜には45隻まで戻しました。フーシ派は「標的はサウジ関連船舶だけ」としています。
- 9/15ブレント原油が108.75ドルまで上昇3か月の高値。9月9日に101.21ドルと100ドルの大台を突破してから、わずか4営業日でさらに7ドル以上値を上げました。
- 9/16日本政府が補助額を51.0円に引き上げ前週の36.0円から15.0円の拡大。それまでの最高だった4月上旬の49.8円を上回り、2022年の制度開始以降で最大の単価になりました。
フーシ派は現在、ジブチの対岸わずか32キロの地点まで達しています。ジブチには米軍をはじめ各国の基地が置かれています。また内陸では、石油が出るマアリブ州をめぐって激しい戦闘が続いています。
本当の打撃は、サウジの「ホルムズ迂回路」が止まったこと
市場が最も強く反応したのは、海峡そのものよりも東西パイプライン(East-West Pipeline)の停止でした。
このパイプラインは、サウジ東部の油田から紅海側の港まで原油を横断輸送する設備です。ホルムズ海峡を通らずに原油を積み出せる、主要な迂回ルートでした。報道ベースで日量約400万バレル、世界供給の約4%に相当します。
2026年3月に始まったイラン情勢の緊迫で、ホルムズ海峡の通航はすでに大きく落ち込んでいました。産油国と市場が「ホルムズが使えないなら紅海側から出せばいい」と頼っていたのが、この東西パイプラインです。その迂回路が止まり、さらに紅海の出口にあたるバブエルマンデブにフーシ派が迫った。逃げ道が2本とも細くなったことが、9月の急騰の正体です。
なぜ日本に直撃するのか──原油の9割超が中東から来る
資源エネルギー庁は、日本について「原油の中東依存度が9割を超えている」と説明しています。中東から日本へ原油を運ぶタンカーは、ホルムズ海峡を通ります。つまり今回の混乱は、地理的に遠い出来事ではありません。
政府はこの状況を2026年3月の時点で「緊急事態」と判断しました。3月11日、高市総理はぶら下がり会見でこう述べています。
この発言の日に「緊急的激変緩和措置」が指示され、3月19日から実施されました。ガソリンの全国平均小売価格が170円程度を超える見込みになったら、超えた分を全額(10分の10)補助するという仕組みです。軽油・重油・灯油はガソリンと同額、航空機燃料はガソリンの4割相当が補助されます。
1リットル51円は、どうやって決まっているのか
9月17日から30日までの補助額51.0円は、政府が公表している算定式で完全に再現できます。
今週の全国平均価格 169.9円 + 前週の支給額 36.0円 + 原油価格の変動分 15.1円 = 想定小売価格 221.0円
221.0円 - 基準価格 170.0円 = 支給単価 51.0円
ここで注目したいのは「原油価格の変動分15.1円」です。ブレント原油がこの間に約7ドル上がったことが、1リットルあたり15円という形で日本の価格に跳ね返ってきている。その15円を、まるごと国が引き受けている計算になります。
51.0円は、2022年に燃料油への補助が始まって以降で最大の単価です。それまでの最高は2026年4月上旬の49.8円でした(日本経済新聞2026年9月16日)。資源エネルギー庁のグラフをさかのぼると、2022年の資源高局面では41.4円、2023年秋には37.6円です。
ガソリン補助金が最大に 1リットル51円、原油価格上昇でhttps://t.co/BZyRlhR5Ie
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) September 16, 2026
| 時期 | 1リットルあたり補助額 | 局面 |
|---|---|---|
| 2022年(第1次高騰) | 41.4円 | ウクライナ侵攻後の資源高局面 |
| 2026年3月16日 | 補助前・190.8円 | 緊急的激変緩和措置の直前 |
| 2026年6月1日 | 37.2円 | 措置が効き、店頭は169.5円に |
| 2026年4月上旬 | 49.8円 | 今回までの最高額(日本経済新聞の報道による) |
| 2026年9月10日〜16日 | 36.0円 | フーシ派進攻の直前 |
| 2026年9月17日〜30日 | 51.0円 | 制度開始以降で最大 |
給油のたびに実感する形にすると、こうなります。9月17日以降、60リットルの給油には51.0円×60リットルで約3,060円の補助が乗っています。算定式にある想定小売価格221.0円のままなら60リットルで13,260円ですが、実際の支払いは170円換算の約10,200円です。
国家備蓄は4か月で43日分減った
ここからが、この記事でいちばん確かめたかった部分です。価格が止まっている間に、国の石油備蓄はどう動いたのか。
石油連盟が公表している「石油備蓄日数」(出所は資源エネルギー庁)の月末データから、2026年の推移を抜き出して集計しました。
| 2026年 | 国家備蓄 原油(万kL) | 国家備蓄 日数 | 産油国共同備蓄(万kL) | 備蓄合計 日数 |
|---|---|---|---|---|
| 1月末 | 4,177 | 146日 | 191 | 248日 |
| 2月末 | 4,177 | 145日 | 188 | 243日 |
| 3月末 | 4,168 | 146日 | 184 | 233日 |
| 4月末 | 3,578 | 126日 | 20 | 210日 |
| 5月末 | 3,078 | 109日 | 80 | 204日 |
| 6月末 | 2,973 | 105日 | 80 | 203日 |
| 7月末 | 2,899 | 103日 | 112 | 206日 |
数字が示していることは明快です。
・国家備蓄は3月末の4,168万kLから7月末の2,899万kLへ、1,269万kLが放出された
・日数では146日分から103日分へ、4か月で43日分が消えた
・産油国共同備蓄は3月末の184万kLから4月末に20万kLへ。ほぼ空になった
・備蓄合計は233日分から206日分へ
放出のペースは月ごとに違います。4月が−590万kL、5月が−500万kLと突出して大きく、6月は−105万kL、7月は−74万kLと落ち着いてきています。3月から5月にかけての急性期に一気に取り崩し、その後は小刻みに続けている、という形です。
この動きは、政府の説明とも一致します。資源エネルギー庁は「2026年1月末時点では約8か月分(7,289万キロリットル)の石油が備蓄されており、そのうち1か月分(約850万キロリットル)を3月26日以降に順次放出」「さらに5月1日からは、新たに約20日分の放出を始めています」と公表しています。発表された放出計画が、月末在庫の実データとしてそのまま現れていることが確認できました。
あわせて、民間に課している備蓄義務も引き下げられています。通常は消費量の70日分ですが、2026年7月末時点では55日分まで15日分引き下げられました。民間が積んでいた分も市場に出す、という措置です。
石油連盟会長、原油調達「11月分までめど」 海峡外でも受け取りhttps://t.co/UH449CCQAu
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) September 18, 2026
補助金は、1日あたりいくら使っているのか
もうひとつの「減っているもの」が公費です。政府は補助の所要額を週次では公表していないため、公表されている販売量から試算しました。
石油連盟の「石油製品バランス」によれば、2026年7月の国内販売量はガソリン389.97万kL、軽油268.73万kL、灯油26.73万kL、重油87.50万kL。合計772.93万kLが、1リットル51.0円の補助対象です。航空機燃料(ジェット)は45.25万kLで、補助は40.8円です。
| 項目 | 試算値 | 考え方 |
|---|---|---|
| 51.0円対象の月間販売量 | 772.93万kL | ガソリン+軽油+灯油+重油(2026年7月実績) |
| 月額の所要額 | 約4,127億円 | 51.0円分3,942億円+航空機燃料185億円 |
| 1日あたり | 約133億円 | 月額を31日で割った額 |
| 1週間あたり | 約932億円 | 同上 |
| 1年続けた場合 | 約5.2兆円 | 2025年度の販売量実績に51.0円を掛けた額 |
比較の目安を置きます。政府資料によれば、燃料油価格支援の累計予算額は9兆5,804億円。2022年から4年以上かけて積み上げてきた総額です。いまの51.0円という単価が1年続けば、それだけで累計額の半分を超える規模になります。
出口見えぬガソリン補助、過去最高 予算規模9兆円、首相のこだわり https://t.co/svBJBwwhiN
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) September 18, 2026
直近で手当てされている予備費は、令和7年度が7,948億円、令和8年度が6,136億円です。1日133億円という試算をそのまま当てはめると、令和8年度予備費は約46日分という計算になります。
実際には、補助の財源は予備費だけでなく「燃料油価格激変緩和基金」の残高も使われています(高市総理も3月11日に「基金の残高を活用する」と述べています)。基金残高は公表されていないため、上の「46日分」は予備費だけを見た機械的な目安です。また支給単価は週ごとに変わるため、原油が下がれば所要額も下がります。それでも、いまのペースが年単位で続けられる規模ではないことは読み取れます。
世界と比べると、日本のガソリンはどの位置にいるのか
「170円は高い」と感じる方は多いと思います。ただし国際比較をすると、位置づけは変わります。資源エネルギー庁が公表した5月25日時点の各国価格(日本円換算)です。
| 国 | ガソリン価格(円/L換算) | 日本との差 |
|---|---|---|
| フランス | 395.7円 | +225.7円 |
| ドイツ | 380.0円 | +210.0円 |
| 英国 | 346.2円 | +176.2円 |
| 韓国 | 220.0円 | +50.0円 |
| 米国 | 189.6円 | +19.6円 |
| 日本 | 170円程度 | — |
欧州の半額以下、産油国である米国よりも安い水準です。ただしこれは「日本の燃料が本質的に安い」という話ではありません。補助金で下から支えた結果としての170円であり、その原資が備蓄と公費だという点が、この記事全体の論点です。
これから何を見ればいいのか
先行きを左右する要素は、いまのところ3つに絞られます。
1つめは、サウジの東西パイプラインが再開するかどうかです。ホルムズが細っている状況で迂回路が戻れば、価格は素直に下を向きます。
中東からの調達が細ったことで、日本は2026年5月と6月にロシア産原油を買い直しています。その直後にアメリカでロシア産エネルギーの購入国に関税を課す法律が成立しました。その経緯と、日本のロシア依存が品目ごとにどう違うのかはロシア産LNGだけ減らない日本|米の新制裁法と100%関税の条件で貿易統計から集計しています。
2つめは、米国とイランの交渉です。AP通信によれば、米国はホルムズ海峡の全面再開とイランの核開発の後退を求め、イランは制裁解除を求めており、夏に成立しかけた暫定合意が崩れて以降、双方に動きがありません。フーシ派に影響力を持つのはイランだけであり、ここが動かない限り海峡の緊張は続きます。オマーンでは先週末、米国とフーシ派の代表者が会っています。
3つめは、日本国内の補助単価です。支給単価は原則として週ごとに見直され、政府の専用サイトで公表されます(今回は9月17日〜30日の2週間分)。原油が下がれば単価も下がり、上がれば単価も上がる。店頭価格が170円で動かないぶん、この単価が「本当はいくらなのか」を映す温度計になっています。
そして為替も無視できません。9月19日時点でドル円は156円台後半です。原油がドル建てである以上、円安は補助の所要額をそのまま押し上げます。
よくある質問
Q. ガソリンが170円から動かないのはなぜですか?
A. 2026年3月19日に始まった「緊急的激変緩和措置」で、全国平均の小売価格が170円程度を超える見込みになった場合、超えた分を全額補助する仕組みになっているためです。市場価格が上がっても、その上昇分を国が肩代わりするので店頭価格が動きません。9月14日調査の時点では補助額が1リットル36.0円、補助なし価格は205.9円でした。9月17日からは補助額が51.0円に引き上げられています。
Q. 日本の石油備蓄はあと何日分ありますか?
A. 2026年7月末時点で、国家備蓄・民間備蓄・産油国共同備蓄を合わせて206日分です(IEA基準では176日分)。このうち国家備蓄は103日分で、3月末の146日分から43日分減っています。民間備蓄の義務量も通常の70日分から55日分に引き下げられています。
Q. なぜフーシ派の動きで原油が上がるのですか?
A. フーシ派が制圧した島々はバブエルマンデブ海峡に面しており、この海峡は平時で世界貿易の約12%が通る要衝です。加えて9月12日にサウジアラビアの東西パイプラインが攻撃を受けて停止しました。このパイプラインはホルムズ海峡を通らずに原油を出荷できる唯一の大動脈で、日量約400万バレル(世界供給の約4%)に相当します。ホルムズと紅海、2つのルートが同時に細ったことが急騰の理由です。
Q. バブエルマンデブ海峡は封鎖されているのですか?
A. 2026年9月18日時点では完全な封鎖には至っていません。海運分析会社Windwardによれば、1日あたりの通航は進攻前の35隻から直後に25隻へ落ちましたが、9月13日の日曜には45隻まで回復しています。フーシ派は攻撃対象を「サウジ関連の船舶」に限定していると表明しています。ただし専門家は、フーシ派が「サウジ関連」の判定基準を広げて圧力を強める可能性を指摘しています。
Q. 補助金はいつまで続きますか?
A. 終了時期は決まっていません。政府は「中東情勢の動向や原油価格の水準も見極めながら、事態が長期化した場合には支援の在り方を柔軟に検討する」としています。財源は令和8年度予備費6,136億円などで、本記事の試算(1日約133億円)では予備費だけなら約46日分にあたります。実際には基金残高も使われるため、これより長く持つ見込みです。
Q. 備蓄を放出すると、何か問題がありますか?
A. 備蓄は本来、供給が途絶えたときの最後の保険です。石油備蓄目標では、国家備蓄と産油国共同備蓄の2分の1をあわせて、輸入量の90日分程度(IEA基準)を下回らないこととされています。2026年7月末時点では国家備蓄がIEA基準で89日分、産油国共同備蓄が3日分ですから、目標に掲げられた水準のすれすれの位置にあります。放出は価格抑制に効く一方で、事態が長期化した場合の余力を削ることになります。
・資源エネルギー庁「石油製品小売市況調査」2026年9月16日公表(9月14日調査分)
・経済産業省 資源エネルギー庁「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」支給単価および全国平均価格の推移(2026年9月16日更新)
・資源エネルギー庁「イラン情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置について」令和8年3月11日
・資源エネルギー庁「燃料油価格に関する支援策の推移」
・資源エネルギー庁「石油備蓄の現況」令和8年9月(令和8年7月末現在)
・石油連盟「05. 石油備蓄日数」「02. 石油製品バランス」2026年9月更新(出所:経済産業省)
・資源エネルギー庁「日本のガソリン価格は世界と比べて安い?高い?」2026年5月15日
・日本経済新聞「ガソリン補助金が最大に 1リットル51円、原油価格上昇で」2026年9月16日
・AP通信/NPR “What to know after a week of Houthi attacks that threaten Saudi oil” 2026年9月18日
・原油価格・為替はYahoo Finance(ブレント原油先物・ドル円)の日次終値
※備蓄の推移および補助金の所要額試算は、上記の公表データをもとに当サイトが集計・計算したものです。


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