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秋吉台で世界最大のナガコムシ新種|体長13mm・名前まで73年
山口県美祢市の秋吉台の洞窟にすむナガコムシが新種と分かり、「アキヨシホラアナナガコムシ」と名づけられました。京都大学によると、触角と尾角を除いた体長は最大13mmで、ナガコムシ科(ナガコムシのなかま)の世界最大種です。存在は少なくとも1953年には知られていたのに、学名がないまま70年以上が過ぎていました。論文と過去の新種記載をもとに、どれくらい大きいのか、なぜ名前がつくまで時間がかかったのかを数字で整理します。
この記事の結論
- 秋吉台(山口県美祢市)の洞窟にすむナガコムシが新種として記載され、和名アキヨシホラアナナガコムシ、学名Pacificampa dodecasと命名されました(京都大学の発表)。
- 体長は最大13mm。これまで最大とされた北九州市のP. daidarabotchi(記載論文の最大値10.1mm)より2.9mm、約1.3倍大きい計算です(当ブログ集計)。
- Pacificampa属は今回で6種になり、そのうち3種が日本の洞窟の種です。本州からの正式な記録は今回が初めてです。
- 存在は少なくとも1953年には知られていましたが、学名がつくまで73年。秋吉台では1927年の論文から2018年の新種記載まで91年かかったヨコエビの例もあります。
- 秋吉台の石灰岩地域(約100km²)には450を超える洞窟があり、1km²あたり約4.5か所の計算です。今回の種が採集されたのはそのうち4か所です。

アキヨシホラアナナガコムシとは?発表の要点
京都大学は2026年10月27日、「山口県美祢市の『秋吉台』で世界最大のナガコムシを発見・命名」という研究成果を発表しました。論文はZoological Science誌に10月9日付でオンライン公開されています。発表と論文の抄録から、基本情報を1つの表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 和名 | アキヨシホラアナナガコムシ(生息地の「秋吉台」にちなむ) |
| 学名 | Pacificampa dodecas Yokogawa, Murakami & Nakano, 2026 |
| 分類 | コムシ目 ナガコムシ科 Pacificampa属 |
| 体長 | 最大13mm(触角と尾角を除く) |
| 採集場所 | 秋吉台(山口県美祢市)の4つの洞窟 |
| 研究グループ | 京都大学 理学部・大学院理学研究科 動物系統学研究室(中野隆文准教授、横川智之さん=学部生)と美祢市観光政策課(村上崇史 環境保全専門員) |
| 掲載誌 | 国際学術誌「Zoological Science」(日本動物学会)43巻6号 |
| 公開日 | 2026年10月9日にオンライン公開、京都大学の発表は10月27日 |
出典:京都大学 研究成果(2026年10月27日)、Yokogawa, Murakami & Nakano(2026)Zoological Science 43(6)の抄録。
ナガコムシ科は、昆虫に近い原始的な特徴を多く持つ「コムシ目」のグループで、おなかの先に2本の細長い尾角があります。主に土の中や地下にすんでいます。京都大学によると、Pacificampa属のナガコムシは東アジアに広く分布するものの、本州からの正式な記録はありませんでした。
論文の抄録によると、新種は体の大きさ、胸と腹の背中に生える太い毛(マクロセタ)の並び方、体長に対する触角の長さの比で、同じ属のほかの種と区別できます。4つの洞窟から採った標本のミトコンドリアDNA(COI遺伝子の一部)も、4か所の個体が同じ種で、日本のほかのPacificampaとは別の系統であることを支持しました。
見つかった場所と暮らし方
毎日新聞(10月30日)によると、今回の標本は美祢市の村上崇史さんが2019年6〜8月に、コウモリのふんが積もった洞窟の地面などで採集しました。目にあたる器官がなく光は感じませんが、振動には敏感に反応するといいます。洞窟内のコウモリのふんなどの有機物を栄養にしていると考えられています。
京都大学は、新種を秋吉台の洞窟に広く生息する「真洞窟性動物」(一生を洞窟の中で過ごし、洞窟の外では暮らせない動物)としています。発表資料の写真は、2021年9月4日に秋吉台の「大久保の小穴」で撮影されたものです。
分類の見直しにもつながる発見
論文では、18S rRNA遺伝子による系統解析で、Pacificampa属が土の中にすむクワヤマナガコムシ属(Metriocampa)に近いと推定されました。一方で「ナガコムシ亜科」が1つのまとまり(単系統)にならない可能性も示され、京都大学はナガコムシ科の分類体系の見直しが必要になると説明しています。
「世界最大」はどれくらい?ナガコムシの大型種を論文で比べる
ナガコムシ科は、生物の分布データベースGBIFの分類表で59属392種が登録されている大きなグループです(今回の新種はまだ反映されていません)。そのなかで「世界最大」とはどの程度なのか。洞窟にすむ大型の種とPacificampa属の全種について、記載論文に載っている体長を当ブログで並べました。
| 種 | 体長 | 根拠・産地 | 記載 |
|---|---|---|---|
| Pacificampa dodecas アキヨシホラアナナガコムシ |
13.0mm | 最大値/山口県・秋吉台の洞窟(4か所) | 2026年(京都大学) |
| Hubeicampa melissa | 10.4mm | 雌の副模式標本/中国の洞窟 | 2021年(Sendra et al. 2021) |
| Pacificampa daidarabotchi | 10.1mm | 雌の完模式標本/福岡県北九州市の目白洞 | 2018年(Sendra et al. 2018) |
| Pacificampa birsteini | 7.0mm | 雌の完模式標本/ロシア沿海地方の洞窟 | 1978年(Sendra et al. 2021) |
| Pacificampa wudonghuii | 6.9mm | 雌(6.5〜6.9mm)/中国・遼寧省の洞窟 | 2021年(Sendra et al. 2021) |
| Pacificampa caesa | 6.8mm | 雄の完模式標本/ロシア沿海地方の洞窟 | 1978年(Sendra et al. 2021) |
| Pacificampa nipponica | 6.3mm | 標本4.8〜6.3mm/九州と高知県の洞窟 | 2018年(Sendra et al. 2018) |
出典:京都大学(2026)、Sendra, Yoshizawa & Ferreira(2018)Subterranean Biology 27、Sendra et al.(2021)European Journal of Taxonomy 731(ロシアの2種は1978年の原記載にもとづく完模式標本の値)。体長は触角・尾角を除く値。バーは13mmを100%とした長さ。測り方は論文ごとに細部が異なる可能性があります。
今回の新種の13mmは、これまで最大とされていたP. daidarabotchi(記載論文の標本で最大10.1mm)より2.9mm大きく、約1.29倍です。毎日新聞も「数ミリ上回り」と伝えています。大陸(ロシア・中国)のPacificampaは最大でも7mmほどなので、それと比べると約1.9倍になります。
ダイダラボッチの名を持つ「前の最大種」
P. daidarabotchiは2018年にSubterranean Biology誌で記載された種で、福岡県北九州市の観光洞「目白洞」だけで見つかっています。論文は「これまでに知られている最大のナガコムシ科」と書き、日本の伝説の巨人ダイダラボッチにちなんで名づけました。同じ論文で記載されたP. nipponicaとともに、日本の洞窟から見つかった初めてのコムシ目でもありました。
なお、2021年にEuropean Journal of Taxonomy誌で記載された中国の洞窟のHubeicampa melissaは、雌の副模式標本が10.4mmと、数字の上ではP. daidarabotchiをわずかに上回ります。同論文自身は両種を「1cmを超える」最も長いナガコムシとして並べています。いずれにしても、今回の13mmはこの10.4mmも2.6mm上回っており、「世界最大」という結論は変わりません。
「世界最大」はナガコムシ科の中での話
京都大学の発表は「ナガコムシ科の世界最大種」としています。コムシ目にはハサミのような尾をもつハサミコムシ科など別の科もあり、それらを含めた「コムシ目で最大」という意味ではありません。また、13mmは触角と尾角を除いた体長で、触角や尾角まで含めた全長ではない点にも注意が必要です。
Pacificampa属は6種、うち3種が日本の洞窟に
Pacificampa属は1978年にロシア極東の洞窟の種をもとに設けられた属です。GBIFの分類表には今回の新種を除く5種が載っていて、アキヨシホラアナナガコムシで6種になりました。上の表のとおり、ロシアに2種、中国に1種、日本に3種です。
- ロシア沿海地方:P. birsteini、P. caesa(1978年)
- 中国・遼寧省:P. wudonghuii(2021年)
- 九州・四国:P. daidarabotchi(北九州市)、P. nipponica(九州と高知県の洞窟)(2018年)
- 本州・秋吉台:P. dodecas(2026年)
2018年の論文によると、それまで日本で知られていたナガコムシ科は1931年にシルベストリ(Silvestri)が記載した5種などで、いずれも土の中の種でした。洞窟の種は2017年の調査で初めて見つかり、そこから9年で日本のPacificampaは3種に。属の半分(3/6)を日本の種が占め、属の中で大きい順の上位2種(13mmと10.1mm)もどちらも日本の洞窟の種です(当ブログ集計)。
2018年の論文は、P. daidarabotchiが見つかった目白洞の近くで採石場が操業していることに触れ、生息地の保護に配慮すべきだと書いています。洞窟の種は1つの洞窟や狭い地域にしかいないことが多く、見つかった場所そのものが大切になります。
なぜ名前がつくまで73年かかった?秋吉台の「名前のなかった生き物」
京都大学によると、アキヨシホラアナナガコムシの存在は少なくとも1953年には知られていましたが、分類学的な研究は行われず、学名のない状態が続いていました。2026年の命名まで73年です。秋吉台では、ほかにも洞窟の生き物の新種記載が続いています。京都大学が例に挙げた2種について、論文から「知られてから名前がつくまで」を並べました。
| 種 | 最初の記録・採集 | 新種として記載 | かかった期間 |
|---|---|---|---|
| アキヨシホラアナナガコムシ(ナガコムシ) | 1953年までに存在が知られる | 2026年 | 73年 |
| アカツカメクラヨコエビ(ヨコエビ) | 1927年の論文で秋芳洞から記録 | 2018年 | 91年 |
| カゲキヨツメジムカデ(ジムカデ) | 2018年2月に景清穴で採集 | 2019年3月 | 約1年1か月 |
出典:京都大学(2026)、Ando(2019)Subterranean Biology 32(アカツカメクラヨコエビ=Pseudocrangonyx akatsukai Tomikawa & Nakano, 2018)、Tsukamoto et al.(2019)ZooKeys 830(カゲキヨツメジムカデ=Arrup akiyoshiensis)。期間は当ブログが計算。
アカツカメクラヨコエビは、秋芳洞の生き物を扱った最初の論文(1927年)で既知の別種(Pseudocrangonyx shikokunis)として記録されていたヨコエビが、2018年になって新種だと分かったものです。一方、カゲキヨツメジムカデは、景清穴で採集されてから約1年で新種として発表され、論文では18S rRNA遺伝子の塩基配列も比べられています。京都大学は、近年の新種記載が相次ぐ背景に遺伝子解析技術の飛躍的な進歩と、洞窟探検の進展による調査範囲の拡大を挙げています。
採集から論文まで約7年
今回の新種も、ほかの種との区別には体の毛(マクロセタ)の並び方や触角の長さの比といった細かな特徴の比較と、遺伝子解析が使われました(論文の抄録より)。2019年に採集された標本が論文として公開されるまで約7年かかっています。毎日新聞によると、論文をまとめたのは京大理学部4年の横川智之さんで、3年がかりだったといいます。
秋吉台の洞窟はどんな場所?450を超える洞窟の宝庫
秋吉台は、京都大学の発表では約12km×8kmの広がりを持つ石灰岩地域で、ユネスコ世界ジオパークに認定された日本最大級のカルスト台地です。Mine秋吉台ジオパークの公式サイトによると、石灰岩が広がるのは約100km²。世界の石灰岩地域と比べると狭いものの、地表には多数の窪地(ドリーネやウバーレ)、地下には450を超える洞窟が高密度に存在します。単純に割ると1km²あたり約4.5か所です(当ブログ計算)。
今回の新種が採集されたのは、このうち4つの洞窟(全体の1%未満)です。京都大学は、秋吉台では1920年代から洞窟の生物の研究が行われてきたとし、今後も多くの未知の生物が見つかることが期待されるとしています。
洞窟ごとに遺伝子が違う?地形の成り立ちの手がかりにも
毎日新聞によると、外の世界から隔てられた洞窟にいるナガコムシは、すんでいる場所ごとに遺伝子に違いが生じていて、その違いをたどることがカルスト地形の成り立ちを解き明かすのに役立つといいます。洞窟の生き物の研究は、生き物そのものだけでなく、地下の洞窟のつながりを知る手がかりにもなるわけです。
見学するときは
Mine秋吉台ジオパークの公式サイトは、秋吉台や観光洞窟の中を歩くときは遊歩道から外れないよう呼びかけています。洞窟の生き物は限られた場所にしかいないことが多く、生息環境を荒らさないことが大切です。
アキヨシホラアナナガコムシ 命名までの動き
- 1920年代秋吉台で洞窟生物の研究が始まる京都大学の発表より
- 1953年ナガコムシの存在が知られる少なくともこの年には知られていた
- 1978年Pacificampa属が設けられるロシア極東の洞窟の2種で
- 2018年10月北九州市の洞窟でP. daidarabotchi記載最大10.1mm。日本初の洞窟性コムシ目
- 2019年6〜8月秋吉台で今回の標本を採集毎日新聞より
- 2021年中国でHubeicampa melissaなど記載雌の副模式標本10.4mm
- 2026年10月9日新種として論文をオンライン公開Zoological Science誌
- 10月27日京都大学が発表和名アキヨシホラアナナガコムシ
アキヨシホラアナナガコムシのよくある質問
Q. アキヨシホラアナナガコムシとはどんな生き物ですか?
A. 山口県美祢市の秋吉台の洞窟にすむ、コムシ目ナガコムシ科の新種です。学名はPacificampa dodecas。目にあたる器官がなく、おなかの先に2本の細長い尾角があります。2026年10月に新種として記載されました。
Q. どれくらいの大きさですか?
A. 触角と尾角を除いた体長が最大13mmです。これまで最大とされていた北九州市の洞窟の種(記載論文の最大値10.1mm)を2.9mm上回り、ナガコムシ科の世界最大種とされています。
Q. ナガコムシは昆虫ですか?
A. 京都大学は、コムシ目を「昆虫の中でも原始的な特徴を多く有する」グループと説明しています。毎日新聞も「原始的昆虫」と伝えています。
Q. なぜ今まで名前がなかったのですか?
A. 存在は少なくとも1953年には知られていましたが、分類学的な研究が行われず、学名のない状態が続いていました。今回、形の比較と遺伝子解析で未知の種と確かめられ、73年越しに命名されました。
Q. どこで見られますか?
A. 秋吉台の洞窟の中にすむ真洞窟性の動物で、論文では4つの洞窟から採集されています。観光で見られるとは発表されていません。洞窟を見学するときは遊歩道から外れないようにしましょう。
Q. 秋吉台ではほかにも新種が見つかっていますか?
A. はい。京都大学は、カゲキヨツメジムカデ(2019年記載)やアカツカメクラヨコエビ(2018年記載)など、洞窟の生き物の新種記載が相次いでいると説明しています。
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出典・参考資料
- 京都大学:山口県美祢市の「秋吉台」で世界最大のナガコムシを発見・命名(2026年10月27日)/発表資料PDF
- 論文:Yokogawa T, Murakami T, Nakano T (2026) A New Species of Pacificampa (Diplura: Campodeidae) from Akiyoshidai, Honshu Island, Japan, and the Phylogenetic Position of the Genus. Zoological Science 43(6)
- 論文:Sendra A, Yoshizawa K, Ferreira RL (2018) New oversize troglobitic species of Campodeidae in Japan (Diplura). Subterranean Biology 27: 53–73
- 論文:Sendra A et al. (2021) Asian cave-adapted diplurans, with the description of two new genera and four new species. European Journal of Taxonomy 731: 1–46
- 論文:Tsukamoto S et al. (2019) A new species of the genus Arrup from a limestone cave in Akiyoshi-dai, Western Japan. ZooKeys 830: 33–51/Ando K (2019) The study of amphipods in rimstone pools of Akiyoshi-do Cave, Japan. Subterranean Biology 32: 81–94
- GBIF:Campodeidae(GBIF Backbone Taxonomy、APIの集計値)(2026年11月1日閲覧)
- Mine秋吉台ジオパーク:公式サイト
- 報道:毎日新聞「山口・秋吉台の洞窟で新種発見 『世界最大』未解明の原始的昆虫」(2026年10月30日)/マイナビニュース TECH+(2026年10月30日)
数値は2026年11月1日時点で公表されていたものです。体長の比較表、「名前がつくまで」の表、洞窟密度は上記の資料をもとに当ブログが作成・計算しました。論文の日本語訳は当ブログによります。写真:Miné-Akiyoshidai Karst Plateau Geopark「Entrance to Akiyoshidō Cave」(Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0、縮小)。アイキャッチ:そらみみ「Akiyoshi Plateau from Akiyoshidai Karst Observation Deck (northeast) 2」(Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0、トリミング・明るさ調整・文字入れ)。
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