国際・エネルギー
フーシ派のリヤド攻撃で原油は上がる?過去6回の攻撃後の値動き
イエメンの親イラン武装組織フーシ派が2026年10月3日(土)、サウジアラビアの首都リヤドにある国営石油会社サウジアラムコの施設を攻撃したと発表しました。週明けの原油価格はどうなるのか。2019年以降にサウジの石油施設が攻撃された主な6回について、米エネルギー情報局(EIA)の公式データで「攻撃のあと最初の取引日」の値動きを調べました。
この記事の結論
- 10月3日、リヤド南部のアラムコの施設から炎と黒煙が上がりました。フーシ派は弾道ミサイルと無人機で攻撃したと主張していますが、サウジ当局とアラムコは被害を発表していません(10月4日時点)。
- 2019年以降の主な6回の攻撃で、翌取引日のブレント原油(現物)は上昇3回・下落3回。大きく上がったのは、実際に生産が止まった2019年9月のアブカイク攻撃(+11.7%)と、ロシア情勢と重なった2022年3月20日(+7.0%)だけです。
- 今回とよく似た9月19日(土)のリヤド攻撃の後は、月曜に−2.9%と逆に下落しました。トランプ米大統領がイランとの対話に前向きな姿勢を示したことが勝ちました。
- 週明けの焦点は、アラムコの被害の有無と、10月2日に米政権の主要閣僚がキャンプ・デービッドで協議したイラン・イエメンへの対応です。被害が小さく外交が動けば下落、米国が軍事行動に踏み切れば上昇という構図です。
フーシ派のリヤド攻撃で何が起きた?10月3日の経緯
AFP通信によると、10月3日の午後、リヤド南部にあるサウジアラムコの施設から炎と黒煙が上がるのをAFPの記者が確認しました。時事通信は同社の製油所から炎と煙が上がったと伝えています。フーシ派のヤヒヤ・サリエ報道官は同日夜、弾道ミサイルと無人機を使ってリヤドの石油施設を攻撃し、火災を起こしたと主張しました。
フーシ派は、サウジ主導の連合軍がイエメンの首都サヌアを空爆したことへの報復だとしています。一方、Al Jazeeraによると、サウジ当局は攻撃があったことを発表しておらず、アラムコも火災の原因についてコメントしていません。
製油所から炎が上がり、消防隊が消火にあたる様子はAl Jazeeraが写真つきで伝えています。NHKもサウジとフーシ派の対立が続いていると報じました。
Yemen’s Houthis have claimed an attack on the Aramco refinery, a major oil facility in Saudi Arabia.
The claim came after flames were seen rising from the refinery on Saturday, and firefighters tackled the blaze.
🔴 LIVE updates: https://t.co/K2o8zvY8Hh pic.twitter.com/hkzhDEOKTn
— Al Jazeera English (@AJEnglish) October 4, 2026
サウジアラビアと隣国イエメンの反政府勢力フーシ派 対立続くhttps://t.co/Lbt7mjamOD #nhk_news
— NHKニュース (@nhk_news) October 3, 2026
9月からの流れ
- 2026年7月イエメン内戦の休戦が崩れる2022年から続いていた不安定な休戦が崩れ、サウジとフーシ派の戦闘が再燃しました。
- 9月中旬フーシ派がモカ港と海峡の島を制圧紅海の出口・バブエルマンデブ海峡に迫り、サウジの東西パイプラインも停止。ブレント先物は9月15日に108.75ドルまで上がりました。
- 9月19日(土)リヤドを初めて攻撃7月の戦闘再燃後、首都への攻撃は初めて。リヤドの空港付近でアラムコの燃料タンクが燃え、紅海側の積み出し港ヤンブーも狙われました。サウジは迎撃したと発表しています。
- 9月29日(火)聖地メディナの発電所が攻撃されるサウジ主導の連合軍がフーシ派の攻撃と非難し、フーシ派は否定しました。
- 10月2日(金)米政権の主要閣僚がキャンプ・デービッドで協議Axiosによると、イランでの大規模な戦闘の再開や、サウジから求められているフーシ派への空爆を数時間にわたって話し合いました。
- 10月3日(土)リヤドのアラムコ施設で火災フーシ派が攻撃を主張。サウジ側はイエメンのサヌアなどを空爆したとされます。
土曜日の攻撃なので、原油市場がこのニュースに反応するのは週明けです。ブレント原油の先物は、日本時間の月曜朝から取引が始まります。
過去6回の攻撃で原油はどう動いた?翌取引日の値動き
フーシ派(2019年9月は米国がイランの関与を指摘)によるサウジの石油施設への攻撃のうち、市場で大きく報じられた6回を選び、攻撃の直前の終値と、攻撃のあと最初の取引日の終値を比べました。平日に起きた攻撃は、その日の終値で比べています。
| 攻撃日 | 攻撃された場所 | 翌取引日 | 5営業日後 | その時の事情 |
|---|---|---|---|---|
| 2019年5月14日(火) | 東西パイプラインのポンプ場2か所(無人機) | +0.2% 72.35→72.53ドル |
+1.2% | 送油を一時停止。被害は限定的 |
| 2019年9月14日(土) | アブカイクとクライスの石油施設 | +11.7% 61.25→68.42ドル |
+6.5% | 日量570万バレル(世界供給の約5%)が一時停止 |
| 2021年3月7日(日) | ラスタヌラの貯蔵タンク地区など | −2.8% 69.95→68.00ドル |
−1.5% | サウジは「人的・物的被害なし」と発表 |
| 2022年3月20日(日) | ジッダ・ヤンブー・ジザンの石油施設 | +7.0% 114.32→122.29ドル |
+7.3% | ヤンブーの製油所が一時減産。ロシア産原油の禁輸論議と重なる |
| 2022年3月25日(金) | ジッダの石油貯蔵施設(F1開催中) | −1.1% 123.98→122.67ドル |
−13.5% | 5営業日後の3月31日に米国が戦略備蓄の大量放出を発表 |
| 2026年9月19日(土) | リヤド空港付近の燃料タンク、ヤンブー | −2.9% 119.66→116.15ドル |
−3.1% | 直後にトランプ氏が「イラン大統領との会談に前向き」と発言 |
米エネルギー情報局(EIA)「Europe Brent Spot Price FOB」(日次)から筆者が計算。変化率は攻撃直前の取引日の終値との比較。ブレント先物で計算すると、2019年9月は+14.6%、2026年9月は−3.4%。
大きく上がったのは「生産が止まった」とき
6回のうち、翌取引日に5%以上上がったのは2回だけです。2019年9月のアブカイク攻撃は、サウジの生産の半分にあたる日量570万バレルが一時止まった、過去最大級の供給ショックでした。ブレント先物は1日で14.6%上がりました。ただし生産の復旧が早く、5営業日後には上昇幅が半分ほどに縮んでいます。
2022年3月20日の攻撃は、ロシアのウクライナ侵攻で原油がもともと急騰していた時期でした。翌日の上昇には、EUがロシア産原油の禁輸を議論していたことも重なっています。
被害が小さければ、むしろ下がる
逆に、2021年3月のラスタヌラ攻撃や2026年9月19日のリヤド攻撃では、翌取引日に下がりました。2021年はサウジがすぐに「被害なし」と発表しています。攻撃のニュースそのものより、実際に原油の供給が減ったかどうかが値動きを分けてきたことがわかります。
前回9月19日のリヤド攻撃のあと、原油はなぜ下がった?
今回にいちばん近いのは、2週間前の9月19日(土)の攻撃です。曜日も標的も同じで、リヤドのアラムコの燃料タンクが燃えました。ところが週明け9月21日(月)のブレント先物は前週末の103.87ドルから100.34ドルへ3.4%下落し、一時は100ドルを割りました。
CNBCによると、理由は3つありました。
- トランプ大統領が対話に前向きな姿勢:9月20日(日)のFoxニュースで、国連総会に合わせたイランのペゼシュキアン大統領との会談に「たぶん応じる」と発言しました。
- 米国がフーシ派への空爆を見送った:サウジの要請にもかかわらず、当面はイエメンを空爆しないと決めたとニューヨーク・タイムズが報じました。
- 供給が思ったほど減っていなかった:東西パイプライン停止の影響は当初の懸念ほどではなく、ホルムズ海峡を通る中東からの輸出は戦争前の約8割まで戻っていました。
Oil falls as crude flows remain 'surprisingly strong' https://t.co/sQjvwBCd9l
— CNBC (@CNBC) September 21, 2026
攻撃のニュースより、外交と実際の供給量のニュースのほうが強かったわけです。その後のブレント先物は99〜107ドルの間で上下し、10月2日(金)の終値は102.25ドル。1回目のリヤド攻撃の直前(103.87ドル)とほぼ同じ水準で今回の週末を迎えました。
現物と先物の差が11ドル以上
EIAが公表するブレントの現物価格は9月29日に113.96ドルで、同じ日の先物(102.59ドル)より11.37ドル高い状態です。「今すぐ届く原油」が先の受け渡し分より大幅に高いということで、足元の原油が不足していることを示しています。ニュースで見る「1バレル102ドル」は先物の価格で、実際の取引の現場ではもっと高い価格がついています。
週明けの原油はどうなる?月曜に見るべき4つのポイント
過去の値動きからは、「攻撃があった」だけでは原油は上がり続けないことがわかります。週明けは次の4つのニュースで方向が決まりそうです。
| ポイント | 下落につながるニュース | 上昇につながるニュース |
|---|---|---|
| アラムコの被害 | サウジ・アラムコが「被害なし」「稼働に影響なし」と発表 | 製油所や出荷が止まったと判明 |
| 米国の判断 | イランとの交渉再開、フーシ派への空爆を見送り | イランでの戦闘再開、フーシ派への空爆に参加 |
| サウジとフーシ派 | 仲介や停戦の動き | サウジの地上攻勢、紅海の船舶への攻撃 |
| ホルムズ海峡 | 通航量の回復が続く | タンカーへの攻撃が増える |
過去の攻撃後の値動きと、9月21日の原油安についてのCNBCの報道をもとに筆者が整理。
とくに大きいのは2つ目です。Axiosによると、10月2日(金)のキャンプ・デービッドでの協議はバンス副大統領が仕切り、ルビオ国務長官やヘグセス国防長官、ベッセント財務長官らが出席しました。イランとの交渉が行き詰まるなか、トランプ大統領は大規模な戦闘の再開を検討しており、サウジからはフーシ派への空爆を求められています。前回はこの「米国の判断」が原油を押し下げましたが、今回は逆向きに働く可能性もあります。
Al Jazeeraによると、トランプ大統領は週末、イランについての決断が近いことを示し、「簡単な方法か、難しい方法か、どちらかだ」と述べました。
Scoop: Trump's top national security aides meet secretly at Camp David on Iran, Yemen https://t.co/EBTcBNg4NM
— Axios (@axios) October 3, 2026
US President Donald Trump signalled that a decision on Iran is coming and said “the only question is, it’ll either be the easy way or the hard way”.
Yemeni forces carried out air strikes on Houthi-controlled capital Sanaa.
🔴 Follow our LIVE coverage: https://t.co/HrCht5WdbF pic.twitter.com/jCE41nAsEo
— Al Jazeera English (@AJEnglish) October 4, 2026
FXは月曜朝の「窓」に注意
原油が急に動くと、資源国通貨や円にも波及します。週末にニュースが出たときは、月曜の朝に金曜の終値から離れた値段で取引が始まる「窓」が開きやすくなります。ドル円の週明けの窓がふだんどのくらいの大きさなのかは、下の記事で144週分を数えています。
日本のガソリン代への影響は?
日本は原油の9割以上を中東から輸入しています。それでもレギュラーガソリンの全国平均は、政府の補助金で170円前後に抑えられています。原油が上がると、店頭価格の代わりに補助金の額(=国の負担)が増える仕組みです。9月17日からは1リットルあたり51.0円と、制度開始以降で最大の補助が出ています。
原油高が日本のどこに表れているのか(国家備蓄の減少と補助金の財政負担)は、次の記事で公表データを集計しています。
フーシ派の攻撃と原油価格についてよくある質問
Q. フーシ派はサウジのどこを攻撃したのですか?
A. 2026年10月3日(土)に、首都リヤドにある国営石油会社サウジアラムコの施設を弾道ミサイルと無人機で攻撃したと主張しています。AFP通信の記者はリヤド南部のアラムコの施設から炎と黒煙が上がるのを確認しました。サウジ当局とアラムコは、10月4日時点で被害を発表していません。
Q. サウジの石油施設が攻撃されると、原油価格は上がりますか?
A. 必ずしも上がりません。2019年以降の主な6回の攻撃では、翌取引日のブレント原油(現物)は上昇3回・下落3回でした。大きく上がったのは、実際に日量570万バレルの生産が止まった2019年9月のアブカイク攻撃(+11.7%)などに限られます。
Q. 前回のリヤド攻撃のあと、原油はどう動きましたか?
A. 2026年9月19日(土)の攻撃のあと、週明け9月21日(月)のブレント先物は3.4%下がり、一時100ドルを割りました。トランプ大統領がイラン大統領との会談に前向きな姿勢を示し、米国がフーシ派への空爆を見送ったことが影響しました。
Q. 今の原油価格はいくらですか?
A. ブレント原油の先物は、10月2日(金)の終値が1バレル102.25ドルです。EIAが公表する現物価格は9月29日時点で113.96ドルで、先物より11ドル以上高くなっています。
Q. 週明けの原油相場は何に注目すればいいですか?
A. アラムコが被害や稼働への影響を発表するか、そして米国がイランとの戦闘再開やフーシ派への空爆に踏み切るかの2点が大きな材料です。被害が小さく外交が進めば下落、軍事行動が広がれば上昇しやすいと考えられます。
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出典・参考資料
- 米エネルギー情報局(EIA):Europe Brent Spot Price FOB (Dollars per Barrel), Daily(2026年9月29日までのデータ)
- AFPBB News:フーシ派がリヤド近郊の石油施設を攻撃、サウジはイエメン首都を空爆か(2026年10月4日)
- 時事ドットコム:フーシ派、サウジ首都石油施設に攻撃 イエメン空爆の報復、応酬続く(2026年10月4日)
- 時事ドットコム:フーシ派、サウジ首都を攻撃 7月以降初、石油施設で火災も(2026年9月20日)
- Al Jazeera:Houthis claim strike on Saudi energy facility as Yemen fighting intensifies(2026年10月4日)
- CNBC:U.S. crude oil tumbles back below $100 after Trump says he’s open to talking to Iran at UN(2026年9月21日)
- Axios:Trump’s top national security aides meet secretly at Camp David on Iran, Yemen(2026年10月3日)
過去の攻撃後の変化率は、EIAのブレント現物価格をもとに筆者が計算したものです。ブレント先物の終値はICE Futures Europeの期近物(Yahoo Financeのデータ)。2019年5月・9月、2021年3月、2022年3月の攻撃の内容は当時の各社報道による。将来の価格を予想・保証するものではありません。アイキャッチ背景:B.alotaby「Riyadh Skyline.jpg」(Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0)をトリミング・明るさ調整・文字入れ。


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