(9月4〜7日)
=じわじわ染み込んだ量
(2026年6月30日時点)
死者・行方不明者数の差
「土砂崩れ」と聞くと、多くの人はバケツをひっくり返したような豪雨を思い浮かべます。ところが実際に崩れる現場では、雨がすでに弱まっていた、あるいは前日でやんでいたというケースが少なくありません。2026年9月8日に静岡県川根本町で起きた土砂崩れも、直前に警報級の雨が降っていたわけではありませんでした。
なぜそんなことが起きるのか。そして崩れる前に出るサインを、私たちはどこまで見分けられるのか。気象庁と国土交通省が公開している一次データを実際に取り寄せて、数字で確かめていきます。
静岡・川根本町の土砂崩れで何が起きたか
まず、報道されている事実を時系列で整理します。(本記事は2026年9月8日昼時点の情報にもとづきます。作業員の容体や崩落の原因については、この時点で発表がありません。)
- 9:30ごろ「工事現場で土砂崩れ、1人が巻き込まれた」と119番通報現場は静岡県榛原郡川根本町千頭の林道。寸又峡温泉へ向かうエリアにあたり、周辺は大井川沿いの急峻な山地です。工事関係者から消防に通報が入りました。
- 崩落規模縦およそ50メートル、横およそ40メートル林道の工事中に斜面が崩れたと伝えられています。面積にすると2000平方メートル規模で、25メートルプール(25m×13m)およそ6面分にあたります。
- 10:40ごろ巻き込まれた男性作業員1人を救助通報からおよそ1時間後、現場の作業員らによって救出されました。ただし容体は明らかになっていません。
- その後二次崩落のおそれがあり、活動は慎重に一度崩れた斜面は不安定な状態が続きます。救助・復旧の現場では、二次災害を避けるために作業が制限されるのが通例です。
第一報を伝えた報道各社の投稿です。いずれも2026年9月8日昼の時点のもので、作業員の容体はまだ判明していません。
LINE NEWS @news_line_me・2026年9月8日 12:31【速報】土砂崩れで工事作業員1人生き埋め…1時間後救出されるも容体不明 林道の工事中に縦50m・横40mの大きな土砂崩れ発生 静岡・川根本町(静岡朝日テレビ)Xで元の投稿を見る
【独自集計】現場周辺に降っていたのは「1時間7.5ミリ」の雨だった
気象庁のアメダス観測所「川根本町」(標高290メートル)の日別データを、過去の気象データ検索から取り出しました。9月1日から7日までの降水量は次のとおりです。
| 日付 | 降水量合計 | 最大1時間 降水量 |
最大10分間 降水量 |
|---|---|---|---|
| 9月1日 | 0.0mm | 0.0mm | 0.0mm |
| 9月2日 | 0.0mm | 0.0mm | 0.0mm |
| 9月3日 | 0.0mm | 0.0mm | 0.0mm |
| 9月4日 | 16.0mm | 3.0mm | 1.0mm |
| 9月5日 | 4.5mm | 2.0mm | 1.0mm |
| 9月6日 | 35.0mm | 5.0mm | 1.5mm |
| 9月7日 | 23.5mm | 7.5mm | 3.0mm |
| 4日間計 | 79.0mm | 最大7.5mm | 最大3.0mm |
ここで注目してほしいのは「最大1時間降水量」の列がすべて一桁だということです。4日間を通じて、1時間に10ミリを超えた時間帯が一度もありません。気象庁の表現でいえば「やや強い雨(1時間10〜20ミリ)」にすら達しておらず、大雨警報も土砂災害警戒情報も出ないレベルの、ごく普通の雨です。
それでも、4日間の合計は79.0ミリになりました。9月1日から3日までは完全な無降水だったので、この79ミリはまるごと「新しく地面に入った水」です。そして雨は8日の朝までにいったん収まっていました。雨が弱まったあとに崩れたという構図です。
じつは気象庁自身が、この日の昼に同じ趣旨の呼びかけを出しています。土砂崩れの発生とほぼ同じ時間帯の投稿です。
気象庁防災情報 @JMA_bousai・2026年9月8日 12:30【引き続き大雨に警戒!】前線の活動が活発となる影響で、西日本や東日本を中心に10日にかけて大雨となる見込み。特に、四国地方や東海地方では線状降水帯発生のおそれ。太平洋側を中心にすでに総雨量が多くなっており、少しの雨量でも土砂災害の危険度が高まる。最新の防災気象情報に留意!Xで元の投稿を見る
「すでに総雨量が多くなっており、少しの雨量でも危険度が高まる」——これは前章で見た川根本町の雨(4日間で79.0ミリ、最大1時間7.5ミリ)が、なぜ危険になり得たのかをそのまま説明しています。強い雨が来るかどうかではなく、すでにどれだけたまっているかが判断の軸です。
なぜ雨がやんだ後に土砂崩れが起きるのか
その仕組みを説明するのが、気象庁の土壌雨量指数という考え方です。気象庁は、降った雨が土の中にどれだけたまっているかを「タンクモデル」という手法で数値化しています。
イメージは、穴の開いたバケツを縦に3段重ねたものです。雨は一番上のバケツに入り、底の穴からゆっくり下のバケツへ落ちていきます。横の穴から流れ出す分が「川へ流れる水」、下へ抜ける分が「地中に染み込む水」です。ここで決定的に重要なのが、雨が止まっても、たまった水がなくなるまでには時間がかかるという点です。
- 1雨が降る地表から水が浸透し、土の粒と粒のすき間を満たしていきます。この段階では斜面はまだ安定しています。
- 2土の重さが増し、粘り強さが落ちる水を含んだ土は重くなり、同時に粒どうしをつなぎとめる力(せん断強度)が下がります。斜面を押し下げる力は増え、支える力は減る、という両側からの悪化が起きます。
- 3雨がやんでも、地中の水は残る土壌雨量指数は蓄積値なので、降水が止まってもすぐには下がりません。地表が乾いて見えても、内部はまだ限界に近いままということが起こります。
- 4支える力が限界を割った瞬間に崩れるきっかけは小さな余震、わずかな追加の雨、あるいは掘削のような人の手でも足ります。だから「もう雨はやんだから大丈夫」は成り立ちません。
土砂災害3つの型と、それぞれの前兆現象
ひとくちに土砂災害といっても、動き方は3種類に分かれます。前兆の出方もそれぞれ違うので、型ごとに覚えるのが実用的です。
がけ崩れ(急傾斜地の崩壊)
急な斜面が突然崩れ落ちるもの。土砂災害のなかで件数がいちばん多い型です。前ぶれの時間が短く、崩れ始めてから逃げるのはほぼ不可能だと考えてください。
- がけにひび割れができる
- 小石がパラパラと落ちてくる
- がけから水が湧き出る。湧き水が濁る
- 地鳴りがする
土石流
谷や斜面にたまった土砂が、水と一体になって一気に流れ下るもの。時速20〜40キロに達することもあり、逃げ切れる速さではありません。沢や渓流の近くにいるときは、次のサインを覚えておくと生死を分けます。
- 山鳴りや、立木が裂ける音、石がぶつかりあう音が聞こえる
- 川の水が濁り、流木が混ざり始める
- 腐った土の臭いがする
- 降雨が続いているのに川の水位が下がる
地すべり
比較的ゆるやかな斜面で、地下水の影響により斜面全体がゆっくり動き出すもの。1日に数ミリという目に見えない動きが続いたあと、突然数メートル動くことがあります。前兆が最も長く出る型なので、気づけるチャンスがあります。
- 地面に段差や亀裂が発生する。地面が陥没する
- 地面から水が噴き出す
- 井戸や沢の水が濁る
- 地鳴り・山鳴りがする
- 樹木が傾く
避難のタイミングは「キキクルの色」で決める
気象庁の土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)は、土壌雨量指数などをもとに、土砂災害の危険度を地図上で色分けして表示するものです。5段階の警戒レベルと対応しています。
| キキクルの色 | 意味 | 警戒レベル | とるべき行動 |
|---|---|---|---|
| 黄色 | 注意 | レベル2 | ハザードマップで自宅の危険度を確認する。避難先と経路を思い出す。 |
| 赤色 | 警戒 | レベル3相当 | 高齢者等は避難開始。それ以外の人も避難の準備を整える。 |
| 紫色 | 危険 | レベル4相当 | 全員避難。ここが行動の期限だと考える。 |
| 黒色 | 災害切迫 | レベル5相当 | すでに災害が発生しているおそれ。命を守る最善の行動をとる。 |
実務上のポイントは「紫が出たら動く」と決めておくことです。黒(レベル5相当)は、すでに逃げる時間がない状態を指します。黒を待ってはいけません。
【独自集計】土砂災害警戒区域は全国72万1014区域
「うちは山の近くじゃないから関係ない」と思っている人ほど、一度確認してほしいデータがあります。国土交通省が公表している土砂災害警戒区域等の指定状況(2026年6月30日時点)のPDFを取り寄せ、47都道府県の数字を集計しました。
(イエローゾーン)全国計
(レッドゾーン)=86.2%
=全体の66.9%
=全体の30.8%
まず驚くのが、警戒区域72万1014のうち86.2%にあたる62万1287が「特別警戒区域(レッドゾーン)」だという点です。レッドゾーンは、建物が壊れて住民の生命に危害が生じるおそれがある区域を指し、住宅の新規立地が規制されるほど厳しい指定です。それが全体の9割近くを占めています。
都道府県別に多い順に並べると、次のようになりました。
| 順位 | 都道府県 | 警戒区域 (計) |
うち特別 警戒区域 |
全国に 占める割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 広島県 | 47,897 | 45,079 | 6.6% |
| 2 | 長崎県 | 41,481 | 39,041 | 5.8% |
| 3 | 島根県 | 32,209 | 20,801 | 4.5% |
| 4 | 長野県 | 28,601 | 22,817 | 4.0% |
| 5 | 熊本県 | 26,309 | 24,230 | 3.6% |
| 6 | 大分県 | 25,847 | 23,837 | 3.6% |
| 7 | 山口県 | 25,725 | 23,842 | 3.6% |
| 8 | 鹿児島県 | 23,857 | 20,476 | 3.3% |
| 9 | 和歌山県 | 21,924 | 20,319 | 3.0% |
| 10 | 兵庫県 | 21,547 | 12,810 | 3.0% |
広島県が4万7897区域で全国最多です。2014年の広島市土砂災害、2018年の西日本豪雨と、大きな被害を繰り返してきた背景がそのまま数字に表れています。
今回の事故が起きた静岡県は1万8250区域(土石流5034、急傾斜地の崩壊1万2869、地すべり347)で、うち特別警戒区域が1万5830。全国では11番目の多さにあたります。大井川上流の川根本町のような山間部だけでなく、県内の市街地に近い斜面も数多く含まれています。
件数は2.5倍差、死者は29倍差——危険を決めるのは「どこで起きたか」
もうひとつ、見落とされがちな事実があります。土砂災害の発生件数と、亡くなる人の数は連動しないということです。直近2年を並べると、その落差が際立ちます。
| 項目 | 2024年 (令和6年) |
2025年 (令和7年) |
差 |
|---|---|---|---|
| 発生件数 | 1,433件 | 578件 | 2.48倍 |
| 死者・行方不明者 | 58人 | 2人 | 29.0倍 |
| 住宅全壊 | 214戸 | 15戸 | 14.3倍 |
| 住宅半壊 | 174戸 | 32戸 | 5.4倍 |
| 住宅一部損壊 | 317戸 | 194戸 | 1.6倍 |
件数の差は2.48倍にすぎないのに、死者・行方不明者は29倍も違います。なぜこうなるのか。2024年の内訳を見ると答えが出ます。
2024年の1433件のうち、石川県だけで702件——全体の49%を占めました。能登半島地震で地盤が緩んだところに雨が重なった結果で、国土交通省は「単一県で発生した件数として歴代1位」としています。人が暮らす場所が集中的に、しかも繰り返し崩れた年だったのです。
一方の2025年は578件で、直近10年の平均(約1499件)の4割にも届かない少なさでした。内訳は土石流等91件、地すべり43件、がけ崩れ444件。死者2人、負傷者4人にとどまっています。
今日のうちにやっておきたい4つのこと
- 自宅・職場・通学路が警戒区域か調べる国土交通省の「重ねるハザードマップ」か、お住まいの都道府県の土砂災害警戒区域図で住所を検索します。イエローゾーンかレッドゾーンかで、避難の緊急度が変わります。5分で終わります。
- キキクルをスマホのホーム画面に置く気象庁のキキクルは10分ごとに更新されます。「紫が出たら避難」と家族で決めておけば、判断に迷いません。ブラウザのブックマークではなく、ホーム画面に追加するのがコツです。
- 避難先を「上」ではなく「横」で決める浸水は上へ逃げれば助かりますが、土砂は建物ごと押し流します。土砂災害では斜面から水平方向に離れるのが原則です。どうしても外に出られないときは、崖と反対側の2階以上の部屋へ移動します。
- 雨がやんだ後も2〜3日は斜面を見る土壌雨量指数はすぐには下がりません。自宅の裏山や擁壁に、ひび割れ・湧き水の濁り・小石の落下がないか、大雨のあと数日は意識して見てください。異変があれば市町村の防災担当に連絡を。
土砂崩れについてよくある質問
Q. 土砂崩れの前兆にはどんなものがありますか?
A. 型によって違います。がけ崩れは「がけのひび割れ」「小石がパラパラ落ちる」「がけから水が湧き出る・湧き水が濁る」「地鳴り」。土石流は「山鳴りや石がぶつかる音」「川の水が濁り流木が混ざる」「腐った土の臭い」「降雨が続くのに川の水位が下がる」。地すべりは「地面の段差・亀裂・陥没」「地面から水が噴き出す」「井戸や沢の水の濁り」「樹木が傾く」です。ただし前兆が出ないまま崩れることもあるため、前兆に頼りきらず、キキクルと避難情報で判断してください。
Q. 雨がやんだのに土砂崩れが起きるのはなぜですか?
A. 地面に染み込んだ水がすぐには抜けないためです。気象庁は土の中の水のたまり具合を「土壌雨量指数」として数値化していますが、これは蓄積値なので、降水が止まっても急には下がりません。地表が乾いて見えても内部は限界に近い、という状態が数日続くことがあります。実際に2026年9月8日の静岡県川根本町の現場では、直前4日間の雨量は79.0ミリでしたが、最大1時間降水量は7.5ミリと弱い雨でした。
Q. 自分の家が土砂災害警戒区域かどうかはどう調べますか?
A. 国土交通省の「重ねるハザードマップ」で住所を入力し、土砂災害の項目を表示すると確認できます。都道府県が公開している土砂災害警戒区域図でも調べられます。全国の指定数は2026年6月30日時点で72万1014区域あり、うち86.2%が特別警戒区域(レッドゾーン)です。東京都で1万5748区域、千葉県で2万451区域が指定されているとおり、都市近郊も数多く含まれます。
Q. いつ避難すればいいですか?
A. 土砂キキクルが紫色(危険・警戒レベル4相当)になった時点が行動の期限です。黒色(災害切迫・レベル5相当)は、すでに災害が発生しているおそれがある状態を指すので、待ってはいけません。土砂災害警戒区域にお住まいの場合や、夜間に大雨が予想される場合は、赤色(警戒・レベル3相当)が出た段階で日没前に動くほうが安全です。
Q. 土砂災害警戒情報が解除されたら家に戻っていいですか?
A. 解除は「帰宅してよい」という意味ではありません。国土交通省の資料でも、雨がほとんど降っていない状況下で災害が発生する場合があると指摘されており、解除の判断に現地確認を組み込んでいる都道府県があります。戻るかどうかは、市町村が出す避難情報を確認したうえで判断してください。また戻ったあとも数日は、斜面のひび割れや湧き水の濁りに注意を払ってください。
まとめ
- 2026年9月8日午前9時半ごろ、静岡県川根本町千頭の林道工事現場で縦50メートル・横40メートルの土砂崩れが発生。作業員1人が巻き込まれ、約1時間後に救助されました(容体・原因はいずれもこの時点で発表なし)。
- 気象庁アメダス「川根本町」の実測値では、9月4〜7日の総雨量は79.0ミリ、最大1時間降水量はわずか7.5ミリ。警報級には届かない弱い雨が4日続いていました。
- 土砂災害を決めるのは1時間雨量ではなく地中にたまった水の量(土壌雨量指数)。蓄積値なので、雨がやんでもすぐには下がらず、危険が数日残ります。
- 前兆は型ごとに違います。とくに「降雨が続くのに川の水位が下がる」は土石流の重大サイン。ただし前兆なしで崩れることもあります。
- 全国の土砂災害警戒区域は72万1014区域(2026年6月30日時点)。うち86.2%がレッドゾーンで、東京1万5748、千葉2万451と都市近郊にも広がっています。
- 2024年は1433件で死者・行方不明者58人、2025年は578件で2人。件数の差2.5倍に対し死者の差は29倍。危険を決めるのは件数ではなく「人のいる場所で起きたか」です。
参考・一次情報
・国土交通省「土砂災害警戒区域等の指定状況等」(2026年6月30日時点):https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/linksinpou.html
・国土交通省 報道発表「令和6年の土砂災害発生件数を公表」:https://www.mlit.go.jp/report/press/sabo02_hh_000156.html
・気象庁「土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)」:https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/doshakeikai.html
・全国治水砂防協会「2025(令和7)年の土砂災害の概要」:https://www.sabo.or.jp/saigai/2025saigai.htm
・気象庁「過去の気象データ検索」アメダス川根本町(静岡県)の日別値:https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php
※降水量は気象庁アメダス「川根本町」観測所の日別値を筆者が集計。都道府県別の警戒区域数は国土交通省公表PDF(2026年6月30日時点)から筆者が集計・順位付けしました。


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