床上浸水と「半壊」はどう違う?半壊が2倍以上に増えた理由
千葉県の発表で、住宅の半壊が699棟へと倍以上に増えました。建物が新たに壊れたわけではありません。罹災証明書の被害認定調査が進み、それまで「床上浸水」と数えられていた家が「半壊」に振り替わったためです。浸水の深さと判定の関係、そして「半壊」で受けられる支援を整理します。
2026年8月29日 公開/出典・内閣府、千葉県、千葉市
千葉豪雨から2週間、住宅の「半壊」が2倍以上に増えた
2026年8月13日から14日にかけて千葉県を襲った記録的な大雨は、気象庁により「令和8年8月千葉豪雨」と命名されました。千葉市中央区では24時間降水量367.0ミリ、1時間降水量115.0ミリを観測し、1966年の観測開始以来の記録をいずれも更新しました。
発災から2週間が経った8月27日、千葉県は住宅の半壊が699棟にのぼり、前回の発表から2倍以上に増えたと発表しました。県はその理由を「床上浸水の被害を受けた被災者の罹災証明の手続きが進み、新たに半壊に分類されたため」と説明しています。
一方、内閣府が同じ8月27日の午前10時時点でまとめた全国集計(消防庁情報)では、千葉県の住家被害は全壊3棟・半壊302棟・床上浸水2,218棟・床下浸水1,987棟・一部破損87棟の計4,597棟となっています。同じ日なのに半壊の数が302棟と699棟でまったく違う。この「ズレ」こそが、いま被災地で起きていることを表しています。
なぜ数字が動くのか──「被害の実態」ではなく「調査の進み具合」を映している
災害直後に発表される「床上浸水◯棟」という数字は、消防や自治体が現場で確認した速報値です。内閣府の資料にも「住家被害の棟数は、災害対策基本法に基づく被害認定調査を受けた棟数とは必ずしも一致しない」と明記されています。
これに対し「全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊」という区分は、被災者が罹災証明書を申請し、市区町村の職員が住家の被害認定調査を行って初めて確定するものです。つまり、申請と調査が進むほど、速報段階で「床上浸水」に計上されていた家が「半壊」へと移っていきます。
- 8/13-14記録的大雨が発生千葉市中央区で24時間367.0ミリ。レベル5大雨・土砂災害特別警報が発表された。
- 8/13県内25市町に災害救助法を適用法適用日は13日。翌14日までに追加適用を含め25市町へ拡大。避難所の設置や住宅の応急修理などの救助が国と県の負担で行われる。
- 8/21住宅の応急修理の受付開始千葉市が受付を開始。罹災証明書の被害認定調査も本格化する。
- 8/27半壊が302棟→699棟へ罹災証明の手続きが進み、床上浸水として数えられていた住宅が半壊に振り替わった。
- 8/27激甚災害の指定見込みを表明高市首相が関係閣僚会議で表明。農地などの復旧事業への国庫補助がかさ上げされる。
- 8/29-30千葉市が臨時窓口を開設中央区役所と緑区役所に罹災証明書の臨時窓口。以降は各区役所の平日窓口へ。
半壊が増えたのは、被害が悪化したからではなく「申請と調査が進んだから」です。逆に言えば、罹災証明書を申請していない世帯は、まだどの区分にも入っていません。申請しなければ「床上浸水」のまま、支援の入口に立てない可能性があります。
床上浸水と半壊は「別のものさし」──浸水の深さで区分が決まる
「床上浸水」は水がどこまで来たかという事実の描写、「半壊」は住家がどれだけ経済的な損害を受けたかという判定区分です。似た言葉ですが、まったく別のものさしだと考えてください。
判定のルールは内閣府の「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(令和8年6月)で全国共通に定められています。住家全体に占める経済的被害の割合(損害割合)が下の表の区分にあてはめられます。
| 被害の程度 | 損害割合 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 全壊 | 50%以上 | 住家として再使用が困難 |
| 大規模半壊 | 40%以上50%未満 | 大規模な補修をしなければ住めない |
| 中規模半壊 | 30%以上40%未満 | 相当規模の補修が必要 |
| 半壊 | 20%以上30%未満 | 補修すれば元通り住める |
| 準半壊 | 10%以上20%未満 | 一定の補修が必要 |
| 準半壊に至らない | 10%未満 | いわゆる一部損壊 |
水害では、浸水の深さがそのまま区分になる
木造・プレハブの戸建て(1〜2階建て)の場合、第1次調査は外観の損傷状況と浸水深を見て判定します。水流やがれきの衝突で外壁・建具が壊れていない、いわゆる「水に浸かっただけ」のケースでは、次のように判定されます。
| 浸水深(外力による破壊なし) | 損害割合 | 被害の程度 |
|---|---|---|
| 床上1.8m以上 | 40〜50%未満 | 大規模半壊 |
| 床上1m以上1.8m未満 | 30〜40%未満 | 中規模半壊 |
| 床上0.1m以上1m未満 | 20〜30%未満 | 半壊 |
| 床上0.1m未満 | 10〜20%未満 | 準半壊 |
| 床下浸水 | 10%未満 | 準半壊に至らない |
赤くした行が今回の千葉豪雨で最も多いと見られるケースです。床の上に10センチでも水が入れば、第1次調査の目安では「半壊」になります。床上浸水1,996棟という速報値のかなりの部分が、調査の進行とともに半壊へ移っていく計算になります。699棟という数字は、まだ途中経過に過ぎません。
一方、津波や河川の氾濫による水流・がれきの衝突で外壁や建具が壊れている場合は、より重い判定になります。
| 浸水深(外力で外壁・建具が破壊) | 損害割合 | 被害の程度 |
|---|---|---|
| 住家流失または床上1.8m以上 | 50%以上 | 全壊 |
| 床上1m以上1.8m未満 | 40〜50%未満 | 大規模半壊 |
| 床上0.5m以上1m未満 | 30〜40%未満 | 中規模半壊 |
| 床上0.5m未満 | 20〜30%未満 | 半壊 |
| 床下浸水 | 10%未満 | 準半壊に至らない |
同じ「床上1m」でも、水に浸かっただけなら中規模半壊、水流で外壁が壊れていれば大規模半壊。判定を分けるのは深さだけではありません。だからこそ、片づける前に浸水の跡や壊れた箇所の写真を残しておくことが決定的に重要になります。
「半壊」だと、支援はどこまで受けられるのか
ここが今回いちばん大事な話です。区分が一つ違うだけで、受け取れる金額は大きく変わります。被災者生活再建支援金(複数世帯の場合)を見てみましょう。
| 被害の程度 | 基礎支援金 | 加算支援金(建設・購入/補修/賃借) | 最大合計 |
|---|---|---|---|
| 全壊 | 100万円 | 200/100/50万円 | 300万円 |
| 大規模半壊 | 50万円 | 200/100/50万円 | 250万円 |
| 中規模半壊 | なし | 100/50/25万円 | 100万円 |
| 半壊 | なし | なし | 対象外 |
単数世帯(一人暮らし)の場合は、いずれも上の額の4分の3になります。そして注意してほしいのが最後の行です。被災者生活再建支援金は「中規模半壊」以上が対象で、「半壊」は対象外です。床上10センチで半壊、床上1メートルで中規模半壊。わずかな水位の差が100万円の差になります。
支援金の対象外でも、災害救助法に基づく住宅の応急修理は半壊・準半壊も使えます。千葉市の場合、大規模半壊・中規模半壊・半壊は757,000円以内、準半壊は367,000円以内。屋根や床、壁、台所やトイレなど、日常生活に必要不可欠な部分を市が業者に直接発注して修理する仕組みです。
ただし、応急修理には見落としやすい条件があります。市が修理業者へ直接支払う制度のため、自分で業者と契約して支払いを済ませた工事は対象になりません。原則として災害発生日から3か月以内に完了させる必要もあります。また原則として応急仮設住宅(みなし仮設を含む)とは併用できません(半壊以上で修理に1か月を超えると見込まれる場合は例外があります)。
このほか、罹災証明書は税金や保険料の減免、各種融資、災害見舞金、義援金の配分などの申請にも使われます。床下浸水(準半壊に至らない)でも罹災証明書自体は交付されるので、まず申請しておくことに意味があります。
判定に納得できないときは、調査をやり直してもらえる
被害認定調査は一度きりではありません。運用指針は3段階の仕組みを用意しています。
- 第1次調査外観と浸水深を見る調査外から浸水の跡や損傷を確認して判定する。多くの世帯はここで区分が決まる。
- 第2次調査被災者の申請で行う内部立入調査立ち会いのもとで室内に入り、傾きや部位ごとの損傷を細かく見て損害割合を算定し直す。
- 再調査第2次調査の結果にも納得できない場合依頼の内容を精査したうえで必要な点を再調査し、判定結果は理由とともに示される。
千葉市では、被害の程度が軽い場合に写真だけで判定する「自己判定方式」も選べます。急いで罹災証明書がほしいときには便利ですが、その分、実態より軽い区分で確定してしまう可能性もあります。浸水が床上に達した家は、現地での被害認定調査を受けたほうが安全です。
被害状況が分かる写真(建物の外観・浸水の跡・部屋ごとの被害)、本人確認書類、代理申請なら委任状。千葉市は窓口・郵送・電子申請に対応していますが、電子申請は世帯主本人または所有者本人に限られます。8月29日と30日には中央区役所と緑区役所に臨時窓口が開設されます。
よくある質問
Q. 床上浸水すれば必ず「半壊」になりますか?
A. 木造・プレハブの戸建てで、水流やがれきによる外壁・建具の破壊がない場合、第1次調査では床上0.1m以上1m未満の浸水が「半壊」の目安とされています。ただし最終的な判定は調査の結果次第で、第2次調査で部位ごとの損傷を見た結果、区分が変わることもあります。
Q. 「半壊」だと被災者生活再建支援金はもらえないのですか?
A. 国の被災者生活再建支援金は中規模半壊(損害割合30%以上)からが対象で、半壊は対象外です。ただし災害救助法に基づく住宅の応急修理(千葉市で757,000円以内)や、税・保険料の減免、義援金の配分など、半壊でも使える制度は複数あります。
Q. 発表される被害の棟数が日によって違うのはなぜですか?
A. 災害直後の数字は現場で確認した速報値で、罹災証明書の被害認定調査を受けた棟数とは一致しません。申請と調査が進むにつれ、床上浸水として数えられていた住宅が半壊などに振り替わっていきます。8月27日に半壊が699棟へ倍増したのは、まさにこの振り替わりによるものです。
Q. 床下浸水でも罹災証明書は出ますか?
A. 交付されます。区分は「準半壊に至らない(一部損壊)」となり、支援金や応急修理の対象にはなりませんが、自治体の見舞金や税・保険料の減免、義援金の配分などで必要になる場合があります。まず申請しておくことをおすすめします。
Q. 判定結果に納得できません。どうすればいいですか?
A. 第1次調査の結果に納得できない場合は第2次調査(内部立入調査)を申請できます。第2次調査の結果にも納得できない場合は、さらに再調査を依頼できます。いずれも窓口への相談から始めてください。その際、片づける前に撮った写真が判断材料になります。
Q. 激甚災害に指定されると、個人への支援は増えますか?
A. 激甚災害の指定は、主に自治体が行う復旧事業への国庫補助をかさ上げする制度で、個人に直接お金が支払われるものではありません。ただし中小企業への融資の特例など、間接的に暮らしへ及ぶ措置も含まれます。個人向けの支援の入口は、あくまで罹災証明書です。
まとめ──数字が増えることは、支援が届き始めた証でもある
半壊699棟という数字は、住宅が新たに壊れたことを意味しません。被災者が罹災証明書を申請し、市区町村が一軒ずつ調査した結果が、ようやく統計に反映され始めたということです。床上浸水1,996棟という速報値を考えれば、この数字はまだ増えていく可能性が高いと言えます。
逆に言えば、申請していない世帯はいつまでも「床上浸水」のままです。床の上まで水が来たなら、それは制度上「半壊」になり得る被害です。片づけの前に写真を撮り、区役所の窓口へ。そこがすべての支援の入口になります。
参考・一次情報:内閣府「令和8年8月千葉豪雨による被害状況等について」/内閣府「災害に係る住家の被害認定」/千葉市「罹災証明書・被災証明書の交付」/千葉市「災害救助法に基づく住宅の応急修理」/都道府県センター「被災者生活再建支援金 支給概要」


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