飲料水を備えている人 69.8%
携帯トイレを備えている人 27.2%
内閣府の最新の世論調査で、3日分以上を備蓄している家庭の割合です。水と食料は多くの人がそろえている一方で、トイレだけが4人に1人しか備えていません。しかも必要量を国のガイドラインで計算すると、市販の防災セットに入っている数回分ではまったく足りないことがわかります。この記事では、防災セットを買っただけでは足りない3つのものを、公的データから具体的な「数」で示します。
防災セットを買ったのに「足りない」と言われるのはなぜか
防災セットは、リュックひとつで最低限の避難ができるように設計された商品です。ライト、ホイッスル、アルミブランケット、簡易食など、30〜45点ほどが入ったものが主流になっています。問題は、そのほとんどが「避難所へ逃げる最初の1日」を想定した中身だという点にあります。
ところが実際の災害で長引くのは、逃げた後の生活のほうです。国が家庭に求めている備蓄の考え方は「最低3日分、できれば1週間分」。この差を埋めるのは、リュックの中身ではなく自宅に置く備蓄です。そして自宅備蓄でいちばん抜け落ちやすいのが、トイレ・水・電気の3つでした。
足りないもの① 携帯トイレ 1人1日5回が国の目安
内閣府の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)は、自治体がトイレを確保する際の基準として、次の数字を挙げています。
・その後、避難が長期化する場合には、20人当たり1基
・女性用と男性用トイレの比率 3:1
・トイレの平均的な使用回数は、1日5回出典:内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(平成28年4月/令和6年12月改定)
このうち家庭の備蓄に直結するのが「1日5回」です。断水や停電で水洗トイレが使えない期間、1人あたり1日5回ぶんの携帯トイレが要る、という計算になります。人数と日数を掛けると、必要な数はこうなります。
| 世帯人数 | 3日分 | 7日分(1週間) |
|---|---|---|
| 1人暮らし | 15回分 | 35回分 |
| 2人 | 30回分 | 70回分 |
| 3人 | 45回分 | 105回分 |
| 4人(夫婦+子2人) | 60回分 | 140回分 |
| 5人 | 75回分 | 175回分 |
一方、市販の防災セットに入っている簡易トイレの量は商品によってまちまちで、1人あたり数回分から10回分程度にとどまるものが少なくありません。たとえば定番の「地震対策30点避難セット」に入っている保存水は500ml×4本=2リットルで、後述する1人1日3リットルという基準に照らすと1日分にも届きません。持ち出し袋は「逃げるその日」の装備として設計されている、と考えるのが実態に合っています。
つまり4人家族が1週間を想定するなら、セットとは別に100回分以上を買い足す必要があることになります。50回分入りの箱を家族の人数ぶんそろえる、というのがひとつの現実的な目安です。トイレの備えは車中泊避難を選ぶ場合にも同じだけ必要になります。
足りないもの② 水 「飲む3L」と「使う水」は別に要る
農林水産省の「災害時に備えた食品ストックガイド」は、水の必要量をこう示しています。
これを世帯人数と日数で置き換えると、必要量は一気に重くなります。2リットルのペットボトル換算も添えました。
| 世帯人数 | 3日分 | 7日分 | 7日分の本数(2L) |
|---|---|---|---|
| 1人暮らし | 9L | 21L | 約11本 |
| 2人 | 18L | 42L | 21本 |
| 3人 | 27L | 63L | 約32本 |
| 4人 | 36L | 84L | 42本(6本入り7箱) |
| 5人 | 45L | 105L | 約53本 |
ここで見落とされがちなのが、この3リットルは飲用と調理の分だけだという点です。手洗い、食器、体を拭く、歯みがきといった生活用水は含まれていません。断水が続く間、その分は給水車に頼ることになります。
そして給水所で配られるのは水そのものであって、容器は自分で持っていく必要があります。ポリタンクは満水にすると重くて運べないため、背負えるタイプの給水バッグや、キャリーカートを組み合わせるのが現実的です。ここは防災セットにまず入っていない部分なので、単体で用意しておく価値があります。
足りないもの③ 電気 懐中電灯はあっても電源がない
同じ内閣府の調査では、大地震に備えて「停電時に作動する足元灯や懐中電灯などを準備している」と答えた人が51.3%と、対策のなかで最も多くなっています。明かりの備えは進んでいるわけです。
一方で、停電時にいちばん困るのは明かりではなくスマートフォンの電池だという声が多く聞かれます。安否確認、避難情報、給水や入浴支援の案内まで、災害時の情報はほぼスマホに集まるためです。
ここでも必要量を計算しておくと判断しやすくなります。モバイルバッテリーは変換ロスがあるため、実際に取り出せるのは公称容量の6〜7割程度とされます。10,000mAhのモバイルバッテリーで使えるのは6,000〜7,000mAhほど。最近のスマートフォンの電池容量が3,000〜5,000mAhなので、フル充電できるのは1回半から2回ぶんという計算です。
| 電源 | スマホの充電回数(目安) | 向いている使い方 |
|---|---|---|
| モバイルバッテリー 10,000mAh | 約1.5〜2回 | 持ち出し用・1人分の1〜2日 |
| モバイルバッテリー 20,000mAh | 約3〜4回 | 家族で数日をしのぐ |
| ポータブル電源 500Wh級 | 数十回(扇風機や電気毛布も可) | 在宅避難の主力 |
| 手回し・ソーラー式ラジオ | 緊急用(充電は非常に遅い) | 情報収集の最後の手段 |
なお停電から復旧するときには、倒れた家電や傷んだ配線から出火する通電火災にも注意が必要です。避難で家を離れるときはブレーカーを落としてから出るのが基本になります。
4人家族が1日1回ずつ充電すると、1週間で28回ぶんが必要になります。モバイルバッテリーだけでは到底届かない量で、在宅避難を前提にするならポータブル電源が現実的な選択肢になります。乾電池式のラジオとライトを併用して、スマホの消費そのものを減らすのも有効です。
「3日分」ではなく「1週間分」が推奨される理由
備蓄の目安が3日から1週間に伸びてきたのには、はっきりした根拠があります。農林水産省は理由をこう説明しています。
実際の災害では、この「1週間」ですら足りないことがあります。時間の流れで見ると次のようになります。
- 発災〜3日道路が寸断され、支援物資が届かない期間。行政も被災しているため、この間は完全に自宅の備蓄でしのぐ前提になります。
- 〜1週間店の在庫が尽き、物流も止まっているため買い足しができません。復旧が始まっても、電気に比べて水道やガスは時間がかかる傾向があります。
- 2019年 台風15号(房総半島台風)東京電力の検証資料によると、最大停電軒数は約93万4,900軒。9月9日の上陸から、復旧完了は9月24日19時で、2週間を超えました。9月の残暑のなかでの長期停電となり、熱中症の危険も重なっています。
- 2024年 能登半島地震内閣府の被害状況報(令和6年5月8日14時現在)によると、発災から4か月以上たった時点でも石川県内で約3,110戸が断水を続けていました。上下水道は復旧に最も時間がかかるライフラインです。
買い足す前に決めておきたい3つのこと
買い足す優先順位に迷ったら、備蓄率の低いものから埋めるのが合理的です。内閣府の調査で3日分以上を備蓄している割合は、飲料水69.8%、食料品59.8%、衛生用品38.4%、食品加熱用熱源27.7%、携帯トイレ・簡易トイレ27.2%の順でした。多くの家庭で薄いのは、後ろの3つ——つまり衛生用品・カセットコンロなどの熱源・携帯トイレです。熱源については、カセットボンベが何本必要かを公式データから計算した記事も用意しました。衛生用品のリストと必要量も別記事にまとめています。すでに水と食料があるなら、次に買うべきものはこの並びから選べば外しません。
よくある質問
Q. 携帯トイレは何回分あれば足りますか?
A. 内閣府のガイドラインが示すトイレの平均使用回数「1日5回」で計算します。1人1週間なら35回分、4人家族なら140回分が目安です。市販の防災セットに入っている簡易トイレは商品によってまちまちで、1人あたり数回分程度のものも多いため、50回分などの大容量パックを別に用意するのが現実的です。
Q. 備蓄は3日分で足りますか?
A. 農林水産省は「最低3日分〜1週間分」を推奨しています。支援物資が3日以上届かないこと、1週間は店で食品が買えないことが理由です。農林水産省は、地域によっては2週間分など多めに備えることも大切だとしています。
Q. 水は1人あたり何リットル必要ですか?
A. 飲用と調理用だけで1日3リットルが目安です。3日分で9リットル、1週間分なら21リットル。4人家族の1週間分は84リットル、2リットルのペットボトルで42本になります。手洗いなどの生活用水はこれとは別に必要です。
Q. 防災セットは買う価値がありますか?
A. あります。避難する最初の1日に必要なものが一通りそろっているため、ゼロから集めるより早く安く準備できます。ただし中身は「持ち出し用」なので、自宅にとどまる場合の日数分の備蓄は別に用意する前提で考えてください。
Q. 防災グッズはどこに置けばいいですか?
A. 1か所にまとめず分散させるのが基本です。持ち出し用のリュックは玄関か寝室の枕元、備蓄品は納戸やキッチンの床下、車を持っているなら車内にも一部を置いておくと、家に戻れない場合や部屋が使えない場合に備えられます。
Q. 賞味期限の管理が面倒です。良い方法はありますか?
A. ローリングストックが有効です。ふだん食べる缶詰やレトルト、水を少し多めに買って古いものから消費し、減った分を買い足します。専用の非常食より安く、期限切れで捨てる無駄も出ません。
まとめ
防災セットは「最初の1日」を助けてくれる商品で、これ自体は買う価値があります。足りないのは点数ではなく、そのあとに続く日数分の量です。国の基準で計算すると、4人家族の1週間分で携帯トイレは140回分、水は84リットル、スマホの充電は28回分。この3つを数字で押さえておけば、何をどれだけ買い足せばいいかは自動的に決まります。
備蓄率が最も低いのは携帯トイレの27.2%。防災用品の買い足しに迷ったら、まずここから埋めるのが最短の対策です。実際に被災した場合は、災害救助法による支援も受けられます。あわせて確認しておくと安心です。
参考にした一次情報
・内閣府「防災に関する世論調査(令和7年8月調査)」有効回収数1,707人
・内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定・PDF)
・農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」
・内閣府「令和6年能登半島地震に係る被害状況等について」(令和6年5月8日14時現在)
・東京電力ホールディングス「台風15号に伴う停電復旧対応の振り返り(中間整理)」(2019年10月31日・PDF)


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