「来月から家賃を○円値上げします」——そんな通知が突然届いたら、あなたはどうしますか?「断ったら追い出される?」「法律的に拒否できるの?」と不安になる方が多いですが、借地借家法という法律があなたを守っています。家賃値上げ通知は、必ずしも従わなければならないものではありません。この記事では、断れるケース・断り方・交渉術を法律の観点から徹底解説します。
【2026年最新】値上げ通知の相談が急増中——東京都の窓口に5か月で約1,900件(2026年9月1日追記)
この記事の公開後、状況は大きく動いています。建物の所有者が代わった(オーナーチェンジ)のをきっかけに、正当な理由のない急激で過大な家賃の値上げを通知される相談が急増し、東京都は2025年10月10日に専用の「賃料値上げ特別相談窓口」(03-5320-4958・平日9時〜17時30分)を新設しました。開設から約5か月で寄せられた相談は約1,900件にのぼります。
2026年3月3日には東京都消費生活総合センターも注意喚起を公表し、あらためて次の原則を示しました。家賃の変更は貸主と借主の「合意」で決まる。通知に納得できなければ直ちに応じる必要はなく、従来どおりの家賃を払って住み続けることができる——本記事で解説してきた内容が、行政の公式見解としても明確に示された形です。
出典:東京都「賃貸住宅における『賃料値上げ特別相談窓口』を設置」(2025年10月9日)
東京都消費生活総合センター「賃貸住宅の家賃値上げトラブルに注意!」(2026年3月3日)
東京都住宅政策本部「賃貸住宅のオーナーチェンジを契機とした家賃値上げトラブルについて」
▼この記事の内容は、動画でも解説しています(記者ずんだもんが窓口・体験者・弁護士など5件を取材/約21分)
この記事でわかること

- 家賃値上げ通知を法律的に断れるケース・断れないケース
- 借地借家法第32条の正しい理解
- 大家・管理会社との具体的な交渉術
- 値上げを拒否した場合の流れと最悪のシナリオ
- 調停・裁判になった場合の対応方法
1. 家賃値上げの法律的根拠——借地借家法第32条とは
日本の賃貸契約は「借地借家法」という法律に守られています。第32条には次のような規定があります。
「土地や建物の借賃が、経済事情の変動、近隣相場の変化、建物の利用状況などに照らして不相当になったとき、当事者は将来に向かって賃料の増減を請求できる」
つまり大家は値上げを「請求」できますが、借主が同意しない限り自動的に値上げは成立しません。大家が一方的に「来月から値上げ」と通知しても、それだけでは法的効力を持ちません。
2. 家賃値上げを断れるケース
ケース① 契約期間中の一方的値上げ
契約がまだ残っているのに「来月から値上げ」と通知してきた場合、双方の合意がない限り無効です。契約期間中は、大家も借主も一方的に賃料を変更することはできません。毅然と「契約期間中のため応じられません」と伝えてOKです。
ケース② 周辺相場と比べて値上げ後の家賃が高すぎる場合
大家が「近隣相場が上がった」と主張しても、同エリア・同条件の物件と比べて値上げ後の家賃が明らかに高い場合、不当と判断されやすいです。SUUMO・HOME’S・CHINTAIなどで相場を調べて「周辺相場は○円程度です」と反論することが有効です。
ケース③ 建物の状態が悪い・修繕が必要な場合
雨漏り・カビ・老朽化した設備など建物の維持管理に問題がある状態での値上げ要求は不当とされやすいです。「値上げより先に修繕を」と主張することが正当な反論となります。
ケース④ 値上げの理由が不合理・説明がない場合
「物価が上がったから」「管理費が増えたから」など曖昧な理由では、法的な根拠として弱いです。値上げの具体的な理由と根拠資料の提示を求める権利が借主にはあります。
3. 家賃値上げを断りにくいケース
- 長期間、周辺相場より明らかに安い家賃で住んでいる場合:相場との乖離が大きければ、値上げの合理性が認められやすい
- 固定家賃特約の期間が終了した場合:「○年間は賃料を固定する」という特約期間が終了した後の値上げは正当とされやすい
- 税金・維持費の上昇など客観的根拠がある場合:固定資産税の大幅増加など具体的な数字を示された場合は交渉余地が狭まる
4. 具体的な断り方・交渉術
Step 1:現在の家賃と周辺相場を調べる

SUUMO・HOME’S・at homeなどで、同じ地域・同じ広さ・同程度の築年数の物件の家賃を5〜10件調べます。現在の家賃が相場と比較してどうかを客観的に把握することが、交渉の第一歩です。
Step 2:書面で回答する
口頭ではなく、内容証明郵便または書面(コピーを保管)で回答することをおすすめします。「現時点では値上げに同意できない旨、値上げの合理的根拠の説明を求める」という内容を丁寧に記載します。
Step 3:妥協点を探る
完全拒否だけでなく、「一部値上げなら応じられる」「値上げの代わりに設備修繕を求める」など柔軟な交渉姿勢も有効です。大家側も空室リスクを避けたいため、現実的な妥協点を見つけることが双方にとってベターな結果につながります。
5. 値上げを拒否した後の流れ
| 段階 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ①協議 | 大家・管理会社と話し合い | 書面でやり取りを記録 |
| ②調停 | 簡易裁判所での調停申し立て | 費用は数百円〜数千円程度 |
| ③裁判 | 賃料増減請求訴訟 | 裁判所が「相当賃料」を判断 |
重要:値上げ交渉が決着するまでの間も、借主は従来の家賃を払い続ける義務があります。「払わない」と決めると債務不履行になるため、必ず今の賃料は払い続けてください。
断ったあとの家賃はいくら払う?——「相当と認める額」と供託・年1割の精算ルール
値上げを断ったあとに一番迷うのが「では、いくら払えばいいのか」です。答えは借地借家法32条2項に書いてあります。増額を正当とする裁判が確定するまでは、借主は「相当と認める額」——通常はいままでどおりの家賃——を支払えば足ります。新しい金額で払い始める必要はありません。
大家さんが受け取りを拒否したら「供託」
「その金額では受け取らない」と言われた場合は、法務局に家賃を預ける「供託」という手続きがあります。供託すれば「払うべきものは払った」ことになり、家賃滞納にはなりません。受け取ってもらえないからと支払いを止めてしまうのが、いちばん危険です。
決着の順番は「話し合い→調停→裁判」——いきなり裁判はできない
家賃の増減をめぐる争いは、いきなり訴訟を起こすことができず、まず簡易裁判所の民事調停で話し合うルール(調停前置)になっています。それでも決まらなければ訴訟に進み、裁判所が「相当な家賃」を判断します。裁判で増額が確定した場合は、それまでの差額に年1割の利息を付けて精算します。
6. 追い出しを心配している方へ
「値上げを断ったら退去させられる?」という不安は多くの方が持ちますが、家賃値上げの拒否だけを理由に強制退去させることはできません。借地借家法は借主の居住権を強く保護しており、大家が正当な理由なく退去を迫ることは違法です。家賃をきちんと払い続けている限り、値上げ交渉の過程で追い出されることはありません。
よくある質問(FAQ)
Q. 値上げ通知に応じないと契約を解除されますか?
A. 値上げ拒否だけでは契約解除の正当な理由にはなりません。大家が契約解除(立ち退き要求)をするには「正当事由」が必要で、値上げへの不同意はこれに該当しません。ただし家賃の未払いが続けば解除理由になるため、現賃料の支払いは継続してください。
Q. 自分で交渉するのが不安な場合はどこに相談できますか?
A. 以下の機関が無料または低コストで相談を受け付けています。法テラス(0570-078374)・各都道府県の宅建業者協会・国民生活センター・弁護士費用保険なども活用できます。
Q. 値上げに同意してしまった後でも取り消せますか?
A. 一度書面で合意した場合、取り消しは基本的に困難です。ただし「脅迫や錯誤(勘違い)があった」と証明できる場合は取り消せる可能性があります。合意の前に必ず内容を確認し、納得できない場合は署名しないことが重要です。
Q. 大家さんが「値上げ後の家賃でないと受け取らない」と言ってきたら?
A. 法務局に家賃を預ける「供託」の手続きを使えば、「払うべきものは払った」ことになり滞納にはなりません。従来どおりの額を提供したうえで受け取りを拒否されたことが要件になるため、まず現金の用意と記録(振込やメッセージの控え)を残し、法務局または弁護士・消費者ホットライン188に相談してください。
Q. 定期借家契約でも同じように断れますか?
A. 定期借家契約は別ルールです。期間満了で契約はいったん終了し、再契約するかどうか・いくらにするかは貸主が自由に決められるため、「従来の家賃で住み続けられる」という本記事の説明はそのまま当てはまりません。契約書に「定期建物賃貸借」と書かれていないか、まず確認してください。
まとめ
- 家賃値上げ通知は借主が同意しない限り自動的には成立しない——借地借家法第32条が守っている
- 契約期間中の一方的値上げ・相場より高い値上げ・建物老朽化時の値上げは断れる可能性が高い
- 断る際は書面で記録を残し、周辺相場データを根拠に交渉することが鉄則
- 拒否後も現賃料の支払いは継続すること。未払いは絶対に避ける
- 値上げ拒否だけで強制退去させることはできない——法律は借主を強く保護している
家賃値上げ通知に「仕方ない」と応じてしまう前に、まず一度立ち止まってください。正しい知識があれば、理不尽な値上げから自分の生活と財布を守れます。不安な場合は法テラスや消費者センターへの相談を遠慮なく活用しましょう。

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