空き家900万2,000戸・空き家率13.8%(いずれも過去最多・最高)
家は余っている。
それでも2025年に74万戸の新築が建った。
実家の隣も、その隣も空き家。なのに近所の畑だったところには、新築が3棟建っている——。多くの人が見ているこの風景は、統計でも裏付けられます。
総務省の住宅・土地統計調査(2023年10月時点・確報)によると、空き家は全国で900万2,000戸、空き家率は13.8%。いずれも過去最多・過去最高です。総住宅数6,504万7,000戸に対して世帯は5,621万5,000世帯で、1世帯あたり1.16戸。家はすでに余っています。それでも2025年には740,667戸の新築が着工されました(国交省・建築着工統計)。なぜ「余っているのに建つ」のか。この記事では、900万戸の内訳から順に、この矛盾の正体を解説します。
900万戸の内訳——半分は「募集中の空室」だった
「空き家900万戸」と聞いてイメージする、草に埋もれた廃屋。実はそれは900万戸の一部にすぎません。
| 区分 | 戸数 | 中身 |
|---|---|---|
| 賃貸用 | 443万6,000戸 | 入居者募集中のアパート・マンションの空室 |
| 売却用 | 32万6,000戸 | 売り出し中の物件 |
| 二次的住宅 | 38万4,000戸 | 別荘など |
| その他の空き家 | 385万6,000戸 | 相続した実家など、用途のない空き家。いわゆる「問題の空き家」はここ |
約半分の443万戸は「募集中の空室」で、市場に出ています。社会問題になっている放置空き家は「その他」の385万戸。そしてこの区分は、市場に出ていない——つまり、買いたくても買えない家です。「余っているのに建つ」の謎を解く鍵は、ここにあります。
理由① 場所が違う——空き家のある所に、住みたい人はいない
空き家率を都道府県別に見ると、高いのは徳島21.3%・和歌山21.2%・鹿児島20.5%・山梨20.4%。低いのは埼玉9.3%・沖縄9.4%・神奈川9.8%・東京10.9%です。空き家は職場や学校から遠い場所に偏って存在し、新築は人が集まる場所に建ちます。2025年の新設着工74万戸の内訳は持家20万戸・貸家32万戸・分譲21万戸。「家」は余っていても、「住みたい場所の家」は余っていません。
理由② 壊すと税金が上がる——住宅用地の特例
放置空き家がなかなか消えないのには、税の仕組みが関わっています。地方税法の「住宅用地の特例」により、家が建っている土地は固定資産税の課税標準が最大6分の1(200㎡まで)に軽減されます。つまり、老朽化した家でも「建てておいたほうが税金が安い」のです。
実家を相続した人が直面する計算(モデルケース)
- 木造30坪の解体費用の相場:100〜200万円程度
- 解体して更地にすると、住宅用地の特例が外れて固定資産税が上がる
- 残しておけば税は安いが、管理の手間と老朽化は進む
「壊すと損、残しても負担」の板挟みが、385万戸の放置を生む基本構造です。
なお2023年12月施行の改正空家対策特別措置法で、倒壊の恐れなどがある「特定空家」の手前の「管理不全空家」も、自治体の勧告を受けると特例が解除されるようになりました。「放置しておけば安い」は、少しずつ通用しなくなっています。あわせて2024年4月からは相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象です。
理由③ 中古を買う文化がまだ薄い——流通シェア日本14.5%
国土交通省の資料によると、住宅流通に占める既存(中古)住宅のシェアは日本14.5%。アメリカ81.0%、イギリス85.9%、フランス69.8%と比べると際立って低い数字です。
背景には、木造住宅の資産価値が20〜25年でほぼゼロと査定されてきた慣行、耐震基準の変遷(1981年・2000年)による品質の分断、そして「新築のほうが安心」という意識があります。売る側は「値段がつかないなら放置」、買う側は「中古は不安だから新築」。この両方が、空き家900万戸と新築74万戸の共存を支えています。
実家が空き家になったら——3つの選択肢
この構造の中で個人ができるのは、「実家が空き家になる前に方針を決めておく」ことです。選択肢は大きく3つあります。
| 選択肢 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 貸す | 立地に賃貸需要がある | 修繕・設備更新の初期投資が必要。家賃相場と空室リスクを先に確認 |
| 売る | 戻る予定がない | 早いほど建物に値が付きやすい。相続空き家の3,000万円特別控除など税制も確認 |
| 解体して土地活用・売却 | 建物の傷みが激しい | 解体費100〜200万円+固定資産税の上昇。自治体の解体補助金を確認 |
共通するコツは「早く動く」ことです。空き家は放置した年数だけ選択肢が減り、費用が増えます。多くの自治体には空き家バンクや解体補助の制度があり、相談窓口も設けられています。まずは相続の前に、親と「この家をどうするか」を一度話しておくことが、いちばんの空き家対策です。
よくある質問
Q. 空き家が増えているのに、なぜ家の値段は下がらないのですか?
A. 余っている家と、買われている家が別物だからです。空き家の多くは地方・郊外の古い戸建てで、価格が上がっているのは都市部の利便性の高い物件です。同じ「住宅」でも市場が分断されており、平均すると見えなくなりますが、地方の中古戸建てには実際に値が付かないものも多くあります。
Q. 誰も相続したがらない空き家はどうなりますか?
A. 相続放棄をしても、次の管理者が決まるまで管理責任が残る場合があります。2023年に始まった相続土地国庫帰属制度で土地を国に引き取ってもらう道もありますが、建物付きは対象外で、更地にして負担金を納める必要があります。「タダでも手放せない」事態を避けるには、建物に値が付くうちに動くのが現実的です。
Q. 新築を規制して中古を使わせるべきではないですか?
A. 新築着工はすでに市場の力で減っています。2025年の74万戸は3年連続の減少で、62年ぶりの低水準です。政策も中古活用へ動いており、住宅用地特例の解除対象拡大・相続登記義務化・リフォーム支援などが並びます。ただ、住みたい場所と空き家の場所のミスマッチという根本は規制では解けず、時間のかかる問題です。
Q. 空き家を放置すると、具体的に何がまずいのですか?
A. 倒壊・放火・不法侵入・草木や害獣のトラブルなど近隣への実害に加え、「特定空家」や「管理不全空家」に指定・勧告されると固定資産税の軽減が外れ、行政代執行で解体されれば費用は所有者に請求されます。管理不全の状態で他人に損害を与えれば、所有者の賠償責任も問われます。
まとめ
空き家900万戸の半分は募集中の空室で、問題の核心は市場に出てこない「その他の空き家」385万戸です。それでも新築が建つのは、①空き家と住みたい場所がずれている、②壊すと税金が上がる仕組みが放置を促してきた、③中古流通シェア14.5%という文化の3つが重なっているからでした。
制度は「放置が損」になる方向へ動き始めています。実家がある人にとっての結論はシンプルで、空き家になる前に、家族で方針を決めておくこと。それが900万戸の1戸を増やさない、最も確実な方法です。
数字は総務省「令和5年住宅・土地統計調査(確報集計)」、国土交通省「建築着工統計」などの公表資料に基づきます。解体費用・税額の例は一般的な相場のモデルケースであり、実際は物件・自治体により異なります。税務・不動産の判断は税理士・宅地建物取引士など専門家にご相談ください。


コメント