独自集計・時刻データ
「介入は東京時間に来る」は本当か——。2022年9月から2026年8月の日米協調介入まで、円買い介入が発動した時刻を日本時間で一覧化。浮かび上がったのは、深夜23時40分、未明のニューヨーク、祝日の13時5分という意外な素顔でした。
「為替介入って、何時ごろに来るの?」——2026年7月30日の夜、ドル円が22時30分過ぎからわずか数十分で5円超も急落したのを目撃して、こう思ったFXトレーダーは多いはずです。
為替介入の「規模」や「仕組み」を解説する記事はたくさんあります。しかし、歴代の円買い介入が実際に何時何分に発動したのかを、日本時間で一覧にした情報はほとんど見当たりません。この記事では、2022年9月の24年ぶり円買い介入から2026年8月の日米協調介入まで(参考として1998年の日米協調も含む)、発動時刻を報道と値動きから特定し、1枚の表に整理しました。
結論を先に言うと、「介入は東京時間に来る」という通説は、円買い介入の時代にはほぼ通用しません。なぜそうなるのか、そして何時を警戒すべきなのか。時刻データから見えてくる「当局のクセ」を、FXトレーダー目線で解説します。
結論:為替介入は「東京時間」に来るとは限らない
かつて為替介入といえば「財務省・日銀が市場を監視できる東京時間の日中に行うもの」というイメージがありました。実際、円売り介入が主流だった2000年代まではその傾向があったとされます。
しかし、2022年以降の円買い介入10回の発動時刻を並べると、景色は一変します。
- 夜21時〜翌朝6時(欧米時間)が6回と過半数を占める
- 平日の東京市場のコアタイム(9〜15時)に「円安局面の1発目」が打たれた例はゼロ
- 東京時間の日中に来たのは、祝日(2024年4月29日)と、連日介入の「2発目以降」(2022年10月24日・2026年8月3日)だけ
つまり、初回介入はむしろ「日本人が寝ている時間・休んでいる日」を狙って発動されているのです。この「時刻の非対称性」こそ、本記事でいちばんお伝えしたいポイントです。
歴代円買い介入の発動時刻一覧【1998〜2026年】
それでは、歴代の円買い介入の発動時刻を一覧で見ていきましょう。覆面介入(当局が実施を公表しない介入)は正確な執行時刻が公表されないため、時刻は「相場が急変動した時点」を報道ベースで特定したものです。介入額は財務省「外国為替平衡操作の実施状況」の公表値、2026年分は市場推計を用いています。
| 発動日 | 曜日 | 発動時刻(日本時間) | 時間帯 | 状況と値動き |
|---|---|---|---|---|
| 1998年6月17日 | 水 | NY時間(日本の深夜) | 深夜 | 1ドル146円台まで円安が進んだ局面での日米協調円買い。介入後も8月に147円台まで円安が続き、本格反転は同年10月のLTCM危機による円買い戻しだった |
| 2022年9月22日 | 木 | 17時ごろ | 東京夕方 | 24年ぶりの円買い(約2.8兆円・公表介入)。日銀会合と黒田総裁会見の直後、145円90銭→一時140円台へ |
| 2022年10月21日 | 金 | 23時40分ごろ | 深夜 | 覆面介入5兆6,202億円(当時1日として過去最大)。151円94銭→約1時間で一時144円台へ約7円の急落 |
| 2022年10月24日 | 月 | 東京市場の早朝 | 東京朝 | 覆面介入7,296億円。週明けの戻りを叩く「2発目」。149円台→一時145円台 |
| 2024年4月29日 | 月・祝 | 13時5分ごろ | 祝日 | 昭和の日・GWの谷間を狙った覆面介入5兆9,185億円(1日として過去最大)。午前に160円24銭を付けた後、159円台から約40分で約4円急落、同日中に一時154円台へ |
| 2024年5月2日 | 木 | 未明(NY市場の午後) | 未明 | FOMC直後のNY市場午後を狙った覆面介入。157円台→1時間弱で一時153円台へ(4/29と合計9.8兆円) |
| 2024年7月11日 | 木 | 21時30分の米CPI発表直後 | 夜 | 弱い米CPIに便乗した覆面介入3兆1,678億円。161円台→30〜40分で157円台前半へ |
| 2024年7月12日 | 金 | 夜 | 夜 | 2日連続の覆面介入2兆3,670億円。前日の急落後の戻りを再度売り込む |
| 2026年7月30日 | 木 | 22時30分過ぎ | 夜 | 163円台から一時157円98銭へ5円超の急落(市場推計6〜8.5兆円。日銀当座預金ベースの推計は約8.4兆円)。NY連銀のレートチェックと同時進行 |
| 2026年7月31日 | 金 | NY時間(日本の深夜) | 深夜 | 米財務省も円買いに参加した28年ぶりの日米協調介入。160円台半ば→157円台へ |
| 2026年8月3日 | 月 | 週明け東京市場の午前 | 東京朝 | 3営業日連続とみられる円買いで157円台後半→一時155円21銭前後。「155円」を巡る攻防に |
こうして並べると一目瞭然です。青タグ(東京時間)は3回だけ、しかもうち2回は「2発目以降」。円買い介入の主戦場は、完全に夜〜未明の欧米時間に移っています。2026年7〜8月の介入の経緯は「ドル円はなぜ5円急落した?7月30日の為替介入の規模と今後の見通し」で詳しく解説しています。
発動時刻に隠れた4つのパターン
時刻の一覧から、当局が好んで選ぶ「4つの発動パターン」が浮かび上がります。ひとつずつ見ていきましょう。
①米重要指標の発表直後(21時30分・22時30分〜)
2024年7月11日の介入は、日本時間21時30分に発表された米CPI(消費者物価指数)が市場予想を下回り、ドル安方向に動き出した直後に発動されました。161円台だったドル円は30〜40分で157円台まで急落。指標による自然なドル売りに介入を重ねることで、同じ金額でも値幅を最大化できる「便乗型」の典型例です。
2026年7月30日の22時30分過ぎの介入も、FOMC通過後のドル軟化局面を捉えたもので、発想は同じです。米指標カレンダーの「21時30分・22時30分・翌3時(FOMC)」は、介入警戒局面で最重要のチェックポイントと言えます。
②日本の祝日・大型連休(東京市場の閑散日)
2024年4月29日(昭和の日)の13時5分ごろの介入は、「祝日介入」として市場に衝撃を与えました。GWの谷間で東京勢が不在、市場参加者が極端に少ないタイミングを狙い、介入直前の159円台からわずか40分で約4円押し下げました(同日午前には160円24銭の高値)。1日の介入額5兆9,185億円は、2022年10月21日を上回る過去最大です。
「祝日は介入が来ない」ではなく、「祝日こそ介入の効率が最も高い日」というのが当局の発想です。連休中にポジションを持ち越すリスクは、平時の何倍にもなります。
③日本時間の未明(NY市場の午後)
2024年5月2日の介入は、日本時間の未明。米FOMC後のNY市場午後という、1日のうちで最も流動性が細る時間帯でした。157円台から1時間弱で153円台へ、これも約4円の急落です。
日本の当局はニューヨーク連銀への委託を通じてNY時間でも介入を執行できるため、「日本が寝ている時間だから介入はない」という思い込みは通用しません。むしろ薄い流動性を狙って未明に来るのが現代の介入です。
④金曜の深夜(週末をまたがせる時間帯)
2022年10月21日の23時40分、2024年7月12日の夜、2026年7月31日の深夜——大型介入は金曜の夜に集中しています。週末を挟むことで、投機筋は損切りしたポジションを取り戻す時間を与えられず、介入効果が持続しやすくなります。2022年10月21日の5兆6,202億円は、まさにこの「金曜深夜」に投じられました。
なぜ流動性の薄い時間帯を狙うのか
POINT:介入の費用対効果は「流動性」で決まる
市場参加者が少ない時間帯は、同じ金額の円買いでも値段が大きく動きます。野村総合研究所などの解説でも、当局が祝日や海外市場など意図的に流動性の低いタイミングを選んでいることが指摘されています。限られた外貨準備で最大の効果を出すための、合理的な戦術なのです。
もうひとつの狙いは「心理的な不意打ち」です。覆面介入で時刻を読ませないことで、市場は24時間どこでも介入が来る可能性を織り込まざるを得なくなり、円売りポジション自体を抑制する効果が生まれます。介入資金がどこから出て、誰が執行しているのかは「為替介入とは?仕組み・効果・過去の実施一覧をわかりやすく解説」で詳しく整理しています。
「2発目以降」は東京時間の朝に来やすい
初回介入が夜〜未明に集中する一方で、興味深い例外があります。連日介入の「2発目以降」は東京時間に来やすいのです。
- 2022年10月24日(月):金曜深夜の5.6兆円介入の直後、週明け東京市場の早朝に7,296億円の追撃介入
- 2026年8月3日(月):7月30日・31日の大規模介入の後、週明け東京市場の午前に3営業日連続とみられる円買いで一時155円21銭前後まで押し下げ
初回の急落後には「押し目買い(ドルの買い戻し)」が入りやすく、当局はこの戻りの芽を東京時間のうちに摘みに来る傾向があります。「昨夜介入があったから今日はもう安心」ではなく、「昨夜介入があったからこそ今日の東京市場も警戒」が正解です。
注意:介入直後の「逆張りリバウンド狙い」は危険
介入による急落を見て「下がりすぎだから買い」と飛びつくのは、追撃介入に正面からぶつかりに行く行為です。2022年10月も2026年8月も、戻りを試した水準で2発目・3発目が炸裂しています。少なくとも介入当日から数営業日は、戻り買いに追撃が重なるリスクを前提にしてください。
FXトレーダーの実践対策|警戒すべき時間帯ランキング
ここまでの時刻データを、実際のトレードに落とし込みましょう。介入警戒局面(政府高官の口先介入が増え、ドル円が節目水準に接近している時期)で特に警戒すべき時間帯を、過去の実績ベースでランキングにしました。
- 1米重要指標の直後(21時30分・22時30分〜)CPI・雇用統計・FOMC後は介入の「便乗ポイント」。指標でドル安に振れた瞬間の追撃に注意。ポジションは指標前に軽くしておくのが基本です。
- 2金曜の夜〜深夜過去最大級の介入は金曜深夜に集中。週末をまたぐ円売りポジションの持ち越しは、介入警戒局面では最もリスクが高い選択です。
- 3日本の祝日・大型連休の日中「市場が閑散=介入の効率が最大」。祝日にレバレッジの高い円売りを放置するのは避けましょう。
- 4未明3時〜6時(NY市場午後)就寝中の急落に備え、逆指値(ストップ)は必ず入れておくこと。NY委託介入はこの時間帯に来ます。
- 5介入翌日〜数日の東京市場の朝「2発目は東京の朝」パターン。初回介入後の戻り局面こそ追撃に警戒が必要です。
MEMO:介入相場ではスプレッドと約定力も悪化する
介入の瞬間はスプレッドが平時の数倍〜数十倍に拡大し、逆指値も大きくすべる(スリッページ)ことがあります。「ストップを入れていたのに想定よりずっと悪い値段で約定した」は介入相場の定番です。そもそも介入警戒水準ではポジションサイズを平時の半分以下に落とすのが、時刻予測よりも確実なリスク管理です。
為替介入の時間帯に関するよくある質問
Q. 為替介入は必ず東京時間に行われるのですか?
A. いいえ。日本の通貨当局はニューヨーク連銀など海外の中央銀行に執行を委託できるため、24時間いつでも介入可能です。実際、2022年以降の円買い介入10回のうち6回は日本時間の夜21時〜翌朝6時に発動されており、「東京時間だけ警戒すればよい」という考え方は通用しません。
Q. 覆面介入の発動時刻はどうやって特定するのですか?
A. 覆面介入は当局が実施を公表しないため、正確な執行時刻は分かりません。ただし介入級の資金が入ると、明確な材料がないのに数十分で数円動くという特異な値動きが出るため、市場ではその急変動の時刻を「発動時刻」とみなします。実施の有無と金額は、後日財務省が公表する「外国為替平衡操作の実施状況」で確認できます。
Q. 介入が来やすい「日」はいつですか?
A. 時刻よりも「流動性が薄い日・瞬間」が本質です。具体的には、日本の祝日や大型連休、米CPI・雇用統計・FOMCなど重要イベントの直後、そして週末前の金曜夜が過去の実績では目立ちます。加えて、政府高官の円安けん制発言が急増しているときは、日付を問わず警戒レベルを上げるべきです。
Q. 介入の瞬間に取引するとどうなりますか?
A. スプレッドの急拡大とスリッページで、想定より大幅に不利な約定になりやすいです。数十分で数円動くため、高レバレッジの円売りポジションはロスカットや追証のリスクが現実になります。介入警戒局面では、ポジション縮小・逆指値の設定・指標時間の回避という基本の徹底が最善の防御です。
まとめ|「何時に来るか」より「どんな瞬間に来るか」
歴代円買い介入の発動時刻を並べて分かったことを、最後に整理します。
- 円買い介入の主戦場は夜〜未明の欧米時間。「東京時間に来る」という通説は過去のもの
- 当局が狙うのは時刻そのものではなく「流動性の薄い瞬間」——祝日・指標直後・NY午後・金曜深夜
- 初回は不意打ち、2発目以降は東京の朝に戻りを摘みに来る
- トレーダーの対策は時刻の的中ではなく、ポジション縮小と逆指値の徹底
介入は「いつ来るか」を完璧に予測することはできません。しかし「来やすい瞬間」を知っているだけで、最悪のタイミングで最大のポジションを抱える事故は避けられます。この記事の一覧表を、次の介入警戒局面でのチェックリストとして活用してください。
参考・一次ソース:財務省「外国為替平衡操作の実施状況」/野村総合研究所・木内登英「円安阻止に向けた日米協調の新たな局面」
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