NPB公示 2015〜2025年度|国内FA権保有者 延べ383人を集計
「国内FA権行使」という言葉がシーズン終盤の恒例になりました。ところがNPBの公示を11年ぶん数えると、国内FA権を持っている選手のうち実際に宣言するのは12.0%だけ。しかも宣言した選手の47%は、そのまま元の球団に残っています。
プロ野球のシーズンが終盤に入ると、必ず話題にのぼるのがFA(フリーエージェント)です。「FA権を行使」「FA宣言」という言葉は毎年飛び交いますが、権利を持っている選手が何人いて、そのうち何人が実際に使うのかを数字で見たことがある人は多くありません。
そこで、日本野球機構(NPB)が公示している「フリーエージェント有資格選手」と「フリーエージェント宣言選手」を2015年度から2025年度まで11年ぶん取得し、1人ずつ数えました。結論から言うと、FA権は「持っていても使わないのが普通」の権利です。この記事では、制度のしくみと、公示から見えた実際の使われ方をまとめます。
この記事の結論
- 2015〜2025年度の11年間で、国内FA権の保有者は延べ383人。うちFA宣言したのは延べ46人(12.0%)でした。
- つまり8人に7人は権利を使いません。権利は行使しなければ翌年以降に持ち越されます。
- 結果が出そろっている2016〜2025年度の国内FA宣言44人のうち、他球団へ移籍28人(63.6%)・宣言残留16人(36.4%)。
- ただし2016〜2018年は宣言10人が全員移籍。2019年以降の34人では16人(47.1%)が残留しており、「宣言=退団」ではなくなりました。
- 海外FA権はもっと使われません。保有延べ690人に対し宣言は26人(3.8%)。しかも宣言後にMLBへ渡ったのは22人中6人だけです。
- 契約がまとまる時期は12月が29件と最多。翌年1月までもつれたのは44件中5件でした。
1. FA権とは何か——145日×8シーズン
まずNPBの公式説明で条件を確認します。FA権は「勤続年数」ではなく一軍に登録されていた日数で決まります。
| 区分 | 条件 | 内容 |
|---|---|---|
| 国内FA | 8シーズン | 一軍に145日以上登録されたシーズンを1シーズンと数え、合計8シーズンで取得。2007年以降のドラフトで入団した大学生・社会人選手は7シーズン。NPBのいずれの球団とも契約できる権利です。 |
| 海外FA | 9シーズン | 同じ数え方で9シーズン。国内外どの球団とも契約できます(それ以前に国内FA権を行使した場合を除く)。 |
| 再取得 | 4シーズン | 一度FA権を行使してNPBの球団と契約した選手は、出場選手登録4シーズンで海外FA権を再取得します。 |
| 端数の扱い | 合算 | 145日に満たないシーズンは合算され、145日に達するごとに1シーズンと数えます。球団が変わっても通算されます。 |
加えて、故障者特例措置(2月1日〜11月30日のグラウンド上の故障による登録抹消は最大60日を加算)や、先発投手の登板間隔による抹消を救済する特例もあります。「あと少しで権利が取れるのに、けがで届かない」という事態を避けるための仕組みです。
宣言の手続きは「日本シリーズ終了の翌日から7日以内」
権利を持っていても、自動的にFAになるわけではありません。NPBの説明では、資格を取得した選手は日本シリーズが終了した日の翌日から、土日祝日を除く7日以内に、権利を行使するかどうかを表明します。その期間を経た翌日に「FA宣言選手」として公示され、公示の翌日から元の球団を含むすべての球団と交渉できるようになります。
「権利取得」と「権利行使」はまったく別ものです。シーズン中に「◯◯が国内FA権を取得」と報じられても、それは権利が発生したというだけ。実際に使うかどうかはシーズン終了後に決めます。行使しなければ権利は消えず、翌年以降に持ち越されます。ここを取り違えると、後で見る「12.0%」という数字の意味がわからなくなります。
2. 権利を使うのは12.0%だけ
ここからが本題です。NPBは毎年、その年に権利を保有している全選手(有資格選手)と、実際に宣言した選手の両方を公示しています。2015年度から2025年度までを並べると次のようになります。
| 年度 | 国内FA権 保有 | 国内FA宣言 | 宣言率 |
|---|---|---|---|
| 2015 | 29 | 2 | 6.9% |
| 2016 | 30 | 4 | 13.3% |
| 2017 | 25 | 3 | 12.0% |
| 2018 | 25 | 3 | 12.0% |
| 2019 | 35 | 5 | 14.3% |
| 2020 | 38 | 6 | 15.8% |
| 2021 | 40 | 2 | 5.0% |
| 2022 | 44 | 5 | 11.4% |
| 2023 | 36 | 5 | 13.9% |
| 2024 | 43 | 7 | 16.3% |
| 2025 | 38 | 4 | 10.5% |
| 合計 | 383 | 46 | 12.0% |
海外FA権はさらに使われません。同じ11年間で保有は延べ690人、宣言は26人(3.8%)。1年あたり2〜3人しかいない計算です。
3. 宣言した44人はどうなったか
NPBの宣言選手公示には、その後どの球団と契約したかまで記載されます。契約先まで公示されている2016〜2025年度の国内FA宣言44人を分類しました。
| 結果 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 他球団へ移籍 | 28人 | 63.6% |
| 宣言したうえで残留 | 16人 | 36.4% |
ここで面白いのが、この比率が時期によってまったく違うことです。
「宣言残留」は2019年からの新しい現象
- 2016〜2018年度の10人は、全員が他球団へ移籍しました。当時は「宣言したら出ていく」がほぼ等しかったことになります。
- 2019年度以降の34人では、16人(47.1%)が宣言残留。ほぼ半々です。
- 2020年度は宣言6人のうち4人が残留(熊代聖人・増田達至・松永昂大・小川泰弘)、2024年度は7人のうち3人(大山悠輔・原口文仁・木下拓哉)が残留しました。
- 「一度市場価値を確かめてから残る」という使い方が定着した、と読めます。球団側も、宣言残留を引き止め交渉の一部として受け入れるようになりました。
海外FA宣言選手(2016〜2025年度の22人)はさらに意外な結果です。MLBへ渡ったのは6人(27.3%)だけで、国内の他球団へ移籍が9人、残留が7人。海外FA権は「海外へ行くための権利」というより、国内移籍も含めた選択肢を最大化するための権利として使われている、というのが公示から読み取れる実態です。なお海外の球団へ移籍した場合、旧球団への補償制度は現在ありません。
4. なぜ8人に7人は権利を使わないのか
権利があるのに使わない理由は、精神論ではなく制度の設計そのものにあります。
- 理由1宣言した年の年俸は「現状維持」が上限FA規約により、FA宣言した選手の翌シーズンの年俸は現状維持が上限となります(減額は制限なし)。過度な獲得競争を防ぐための規定ですが、選手から見れば宣言そのものにリスクがあります。契約年数や出来高、2年目以降の上昇に制限はありません。
- 理由2補償が移籍のハードルになる2008年以降、旧球団での年俸順位により1〜3位がランクA、4〜10位がランクB、11位以下がランクCに区分されます。AとBの選手を獲得した球団は、旧球団へ金銭補償に加え、プロテクト28名を除く支配下選手から1名を差し出す人的補償が必要になります。獲得側にとって重い条件で、これが実質的に移籍先を絞ります。
- 理由3行使しなくても権利は消えない宣言しなければ権利は翌年以降に持ち越されます。「今年は様子を見る」という判断にコストがありません。逆に一度行使すると、再取得には出場選手登録4シーズンが必要です。
- 理由4そもそも交渉カードとして足りる権利を持っているという事実だけで、球団との契約交渉における立場は変わります。宣言せずに複数年契約を結ぶ——というのが、数字の上ではもっとも一般的なFA権の使い方です。
5. 決着はいつつくのか——12月が29件
宣言選手の契約が公示された日付を月別に数えると、次のようになりました(2016〜2025年度の国内FA宣言44人)。
| 時期 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 11月中 | 10 | 22.7% |
| 12月中 | 29 | 65.9% |
| 翌年1月 | 5 | 11.4% |
年内決着が88.6%。宣言から1か月半ほどで9割近くが決まります。ただし直近の2025年度は宣言4人のうち3人が翌年1月まで持ち越し(東浜巨が1月26日、辰己涼介が1月19日、石井一成が1月6日)と、例年より長引きました。
6. 2026年オフはいつ動くのか
2026年の日程はまだ確定していませんが、手続きの順番は毎年同じです。
- STEP 1レギュラーシーズン終了・クライマックスシリーズこの時点でその年の出場選手登録日数が確定し、権利の到達が決まります。CSでの登録日数もカウントされます。
- STEP 2NPBが「フリーエージェント有資格選手」を公示球団ごとに国内FA・海外FAの権利保有者が一覧で出ます。過去10年は国内25〜44人、海外55〜70人の規模でした。
- STEP 3日本シリーズ終了の翌日から、土日祝を除く7日以内に意思表明行使するか否かを選手がコミッショナーへ表明します。ここが「宣言」です。
- STEP 4「FA宣言選手」として公示公示の翌日から、元の球団を含む全球団と交渉できます。過去11年の実績では、ここに進むのは権利保有者の12.0%でした。
- STEP 5契約成立の公示、そして補償契約が公示された日を起点に、2週間以内に移籍先球団がプロテクト外の選手名簿を提示し、40日以内に補償を完了します。「人的補償で誰が動くか」が年明けの話題になるのはこのためです。
7. 「取得」と「行使」の違いがわかる直近の報道
この記事の要点である「権利を取っても、使うとは限らない」が、そのまま出ている報道を2本。オリックス・田嶋大樹投手はFA権取得のコメントで「行使についてはシーズンが終わったら考えたい」と話しています。広島・森下暢仁投手の取得を伝える記事も、今季すでに床田・坂倉・秋山の3選手が権利を得ていることに触れています。取得の報道が続いても、宣言に進むのはこのうちの一部——それが過去11年の12.0%という数字です。
デイリースポーツ @Daily_Onlineオリックス・田嶋 FA権取得「充実した9年間」 行使については「シーズン終わったら考えたい」
#野球 #デイリースポーツ #DailySportsXで元の投稿を見る
デイリースポーツ @Daily_Online広島 森下暢仁が国内FA権取得 今季に入り床田、坂倉、秋山も権利取得済み
#広島 #carp #カープ #デイリースポーツ #DailySportsXで元の投稿を見る
8. よくある質問
Q. 国内FA権は何年で取れますか?
A. 一軍に145日以上登録されたシーズンを1シーズンと数え、合計8シーズンです。ただし2007年以降のドラフトで入団した大学生・社会人出身の選手は7シーズンで取得します。海外FA権は9シーズンです。
Q. FA権を取得したら必ず宣言しないといけませんか?
A. いいえ。行使するかどうかは選手が選びます。2015〜2025年度の実績では、国内FA権保有者383人のうち宣言したのは46人(12.0%)だけでした。宣言しなければ権利は翌年以降に持ち越されます。
Q. FA宣言するといつ結果が出ますか?
A. 日本シリーズ終了翌日から土日祝を除く7日以内に意思表明し、その翌日に宣言選手として公示されます。契約成立は過去10年の集計で11月が10件、12月が29件、翌1月が5件でした。
Q. 宣言したのに元の球団に残ることはできますか?
A. できます。いわゆる「宣言残留」です。2016〜2025年度の宣言44人のうち16人(36.4%)が残留しており、2019年度以降に限れば34人中16人(47.1%)とほぼ半数になります。
Q. 人的補償とは何ですか?
A. ランクA・Bの選手がFAで移籍した場合、獲得球団は旧球団に金銭を支払うほか、プロテクトした28名などを除く支配下選手から旧球団が指名した1名を譲渡します。旧球団が人的補償を求めない場合は追加の金銭補償になります。ランクC(旧球団での年俸11位以下)の選手には補償がありません。
Q. FA宣言すると年俸は上がりますか?
A. 宣言した翌シーズンの年俸は現状維持が上限と定められています。減額に制限はありません。ただし契約年数や出来高、2年目以降の年俸に制限はなく、複数年契約で総額を確保するのが一般的です。
Q. 海外FA権を行使すればMLBに行けますか?
A. 権利としては国内外どの球団とも契約できますが、実際にMLBへ移籍するのは一部です。2016〜2025年度の海外FA宣言22人のうちMLB移籍は6人(27.3%)で、9人は国内の他球団、7人は残留でした。
この記事の数字について
本文の集計は、NPBが公示している「フリーエージェント有資格選手」(2015〜2025年度)および「フリーエージェント宣言選手」(同)の各ページを取得し、当ブログで人数を数えたものです。2015年度は宣言選手の契約先が公示されていないため、移籍・残留の分類は2016年度以降を対象としています。制度の条件はNPBの公示ページの説明によります。


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