大学生の3人に1人が利用・JASSOデータ集より
奨学金は、借金なのか。
平均323万円を、平均15年かけて返す国で。
「奨学金って、結局は借金なの?」——進路を考える高校生や、その保護者から必ず出てくる質問です。結論から言えば、貸与型の奨学金は借金です。借りた額に利子を付けて返す仕組みで、延滞すれば信用情報にも載ります。
ただし、その一言で終わらせると大事なことを見落とします。金利は民間ローンよりはるかに低く、返せなくなったときのセーフティネットが何重にも用意されており、そもそも返さなくていい「給付型」も大きく拡充されています。この記事では、日本学生支援機構(JASSO)の「奨学金事業に関するデータ集」(令和8年1月)などの公表データをもとに、奨学金のリアルな数字と、借りる前・返せなくなったときに知っておくべき制度を解説します。
数字で見る奨学金——3人に1人・平均323万円・返還15年
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 利用者 | 学生358万人のうち115万人=3人に1人(貸与26.4%・給付10.5%) |
| 平均貸与総額(大学・学部) | 323万円 |
| 平均返還年数 | 15年 |
| これまでの利用者 | 累計1,556万人・26兆円。現在返還中は435万人 |
| 3か月以上の延滞者 | 12万7千人=返還者の2.6%(延滞額723億円) |
| 新規返還者の返還率 | 97.2% |
大学昼間部の受給率は51.1%(令和6年度学生生活調査)。いまや奨学金は「特別な家庭の制度」ではなく、大学進学の標準装備に近い存在です。一方で、返還者の97.2%はきちんと返せており、「借りたら人生詰み」というイメージは数字の上では正確ではありません。問題は、残り2.6%に落ちたときに何が起きるか、そしてそれを避ける制度を知っているかどうかです。
奨学金は3種類——給付・第一種・第二種
JASSO奨学金の3タイプ
- 給付型:返さなくてよい。世帯収入などの要件あり。授業料・入学金の減免とセットの「高等教育の修学支援新制度」の柱。
- 第一種(無利子):借りた額だけ返す。学力・家計の基準あり。
- 第二種(有利子):利子付きで返す。基準は比較的ゆるやか。利率は貸与終了時に確定し、上限3%。
「奨学金=借金」の議論で主に問題になるのは第二種です。ではその「利子」はどれほど重いのでしょうか。
384万円借りると、いくら返すのか——第二種の返還例
JASSOの返還例で見ると、第二種で月8万円を4年間(貸与総額384万円)借りた場合、総返還額は453万7,973円。毎月18,907円を20年かけて返します。利子の総額は約70万円です。
ここで重要なのは利率の変化です。第二種の利率(固定方式)は、2020年3月に貸与終了した人で0.07%でしたが、2025年3月終了者では1.641%まで上がりました。低金利時代には「ほぼ無利子」だった第二種は、金利上昇とともに「利子が目に見える借金」に戻りつつあります。それでも民間の教育ローン(年2〜4%台が多い)や、ましてカードローンとは比較にならない低さです。
返せなくなったら——延滞する前に使える3つの制度
奨学金でもっとも避けるべきは「連絡せずに延滞する」ことです。延滞3か月で個人信用情報機関に登録され、クレジットカードや住宅ローンの審査に影響します。督促を放置すれば法的手続きに移行し、訴訟等への移行は年3,727件にのぼります。
その手前に、JASSOには申請すれば使える救済制度があります。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 減額返還 | 毎月の返還額を2/3・1/2・1/3・1/4に減らせる(期間は延びる)。収入要件あり |
| 返還期限猶予 | 失業・低所得・病気などの間、返還を止めて先送りできる |
| 返還免除 | 死亡・精神もしくは身体の障害で返還できなくなった場合など |
また、勤め先が本人に代わって返還する「代理返還」制度の利用企業は4,154社(2025年9月末)まで増えています。就職先選びの際、福利厚生として奨学金返還支援があるかを見るのも現実的な自衛策です。もうひとつ地味に重要なのが住所変更の届け出で、JASSOには住所不明で戻ってくる郵便が年20万件もあります。引っ越したら必ず届け出る——これだけで「知らないうちに延滞」の多くは防げます。
「借りない道」も広がっている——多子世帯の無償化と落とし穴
2025年4月から、子どもを3人以上扶養する世帯の大学等の授業料・入学金の減免は所得制限なしになりました(高等教育の修学支援新制度)。ただし見出しの「3人以上」には落とし穴があります。対象になるのは「扶養する子が3人以上いる間」で、第1子が就職して扶養から外れると、残り2人になった時点で対象から外れます。「3人きょうだいなら全員無料」ではない点は、進学計画の前に必ず文部科学省・JASSOの公式情報で確認してください。
よくある質問
Q. 奨学金は結局、借りないほうがいいのですか?
A. ケースバイケースです。進学で得られる生涯収入の増加と、平均323万円・月1.5〜2万円×15年程度の返還負担を比べて判断する問題です。判断の質を上げるコツは、借りる前に「月いくら・何年・総額いくら返すのか」をJASSOのシミュレーターで具体的な数字にしておくことです。金額が見えていれば、必要以上に借りすぎることも、漠然と怖がることも減ります。
Q. なぜ「返済」ではなく「返還」と呼ぶのですか?
A. 奨学金は先輩が返したお金を後輩が借りる循環型の制度で、返したお金は次の世代の奨学金の原資になります。「借りたものを元の場所へ戻し、次へ渡す」という意味を込めて、JASSOは一貫して「返還」という言葉を使っています。呼び方は違っても、法的には金銭債務であることに変わりはありません。
Q. 延滞するとどうなりますか?
A. 延滞金が加算され、延滞3か月で個人信用情報機関に登録されます。以後、クレジットカードの作成や住宅ローン・自動車ローンの審査に影響が出る可能性があります。督促に応じないと最終的には訴訟などの法的手続きに進みます。苦しくなったら延滞する前に、減額返還か返還期限猶予を申請するのが鉄則です。
Q. 保証人は必要ですか?
A. 人的保証(親などが連帯保証人になる)か機関保証(保証料を払って保証機関に依頼する)を選びます。人的保証では、本人が返せない場合に保証人へ請求が及びます。家族に負担を残したくない場合は、毎月数千円の保証料はかかりますが機関保証を選ぶ考え方もあります。
Q. 給付型奨学金は誰でももらえますか?
A. 世帯収入・資産の要件と学業要件があります。住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯が中心ですが、2025年4月からは多子世帯(扶養する子3人以上)への授業料等減免が所得制限なしで加わりました。要件は毎年のように拡充されているため、「うちは対象外」と思い込まず、進学のたびに最新の条件を確認することをおすすめします。
まとめ
奨学金は借金です。しかし、大学生の3人に1人が使い、97.2%が返せていて、返せないときの制度が何重にも用意された、もっとも条件のゆるい借金でもあります。金利上昇で第二種の利率は1.641%まで上がり、「ほぼ無利子」の時代は終わりつつありますが、それでも民間ローンとは比較になりません。
借りる前にやるべきことは2つ。総返還額と毎月の返還額を数字で見ること、そして給付型や多子世帯無償化など「借りない道」の対象かどうかを確認することです。返還が苦しくなったら、延滞ではなく減額返還・猶予の申請へ。制度を知っているかどうかが、323万円との付き合い方を決めます。
数字はJASSO「奨学金事業に関するデータ集」(令和8年1月)などの公表資料に基づきます。利率・制度の条件は年度により変わるため、実際の申し込み・手続きの際は必ずJASSO・文部科学省・進学先の公式情報をご確認ください。本記事は特定の借入や進学行動をすすめるものではありません。


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