名前はだれもが知っているのに、日本のどの動物園にもいない動物がいます。カモノハシ、カカポ、ウミイグアナ、バビルサ。教科書や図鑑では定番なのに、日本国内では1頭も飼育されていません。この記事では、この4種がなぜ日本で見られないのか、世界のどこへ行けば会えるのか、そしてそれぞれの規格外の生態をまとめました。
豪州外はサンディエゴのみ
世界のどの園にもいない
飼育例はごくわずか
国内飼育ゼロ
カモノハシ|オーストラリア国外で飼育しているのは世界で1園だけ
名前はだれもが知っているのに、日本のどの動物園にもいない動物の代表がカモノハシです。それどころか、オーストラリア国外でカモノハシを飼育しているのは、アメリカのサンディエゴ動物園サファリパークだけです。
2019年11月22日、シドニーのタロンガ動物園から2頭(EveとBirrarung)が渡り、オーストラリア以外でカモノハシが飼育されるのは50年以上ぶりのことでした。生きた水生の無脊椎動物を大量に与え続ける必要があること、ストレスに弱いこと、そしてオーストラリアが持ち出しを厳しく管理していることが、飼育例が広がらない理由です。
卵を産む哺乳類という時点で規格外
カモノハシは1回に1〜3個(ふつうは2個)の卵を産み、約10日あたためてふ化させます。卵を産む哺乳類は、カモノハシとハリモグラの仲間(単孔類)だけです。
メスには乳首がありません。おなかの毛におおわれた2つの部分からミルクがにじみ出し、赤ちゃんはそれをなめて育ちます。
オスの後ろ足には毒のとげがある
オスの後ろ足には毒のとげがあります。人間の命を奪うほどではありませんが、刺されると「耐えがたい」と表現されるほどの激痛が走り、痛みに敏感な状態が数日から数か月続くことがあります。
目・耳・鼻を閉じて、電気でエサを探す
水にもぐるとき、カモノハシは目・耳・鼻をすべて閉じます。かわりに使うのがくちばしで、圧力を感じる受容器と、電気を感じる受容器が並んでいます。獲物の筋肉の動きが生む微弱な電気をとらえて、川底のエサを探し当てるのです。IUCNレッドリストでは準絶滅危惧(NT)に分類されています。
カカポ|世界のどの動物園にもいない、飛べないオウム
ニュージーランドのカカポ(kākāpō)は、世界のどの動物園にもいません。生き残っている約235羽はすべて野生で、捕食者のいない島と柵で囲われた保護区だけで暮らしています。
ニュージーランド保全省(DOC)が世界でもっとも手厚く管理している鳥のひとつで、1羽ずつに発信機がつけられ、居場所も活動量も記録されています。展示することが選択肢に入らないほど、個体数が少ないのです。
世界で唯一の「飛べないオウム」
カカポはオウムの仲間では最も重く、オスの体重は最大4kg。夜行性で、地面を歩いて暮らします。寿命は60〜90年とされ、鳥類でもっとも長生きな種のひとつと考えられています。さらに、レック(集団求愛場)で繁殖する唯一のオウムでもあります。
繁殖するかどうかは、木の実の豊作で決まる
繁殖のタイミングを決めるのは、リムという木の実です。実が豊作になった年にしか繁殖せず、チャンスは数年に一度しか訪れません。前回の繁殖は2022年で、2026年の繁殖は4年ぶりでした。
そして2026年はリムの記録的な豊作となり、95羽のヒナがふ化。保全省が「観測史上最大の繁殖シーズン」と発表しました。保護プログラムが始まったころ、確認されていたカカポはわずか51羽。一時は252羽まで回復し、2026年2月時点で235羽となっています。
ウミイグアナ|海にもぐる世界で唯一のトカゲ
ウミイグアナはエクアドルのガラパゴス諸島だけにすむトカゲです。日本の動物園では会えません。世界的にも飼育例はごくわずかで、飼育下で繁殖に成功した記録はまだないとされています。海そうという特殊な食性を再現するのが極めて難しいためです。
海の中で暮らす時間を持つ唯一のトカゲ
現生のトカゲの中で、海の中で生活する時間を持つのはこの種だけです。食べるのはほぼ海そうだけで、赤や緑の藻類を海底からかじり取ります。かたい海そうの消化には、おなかの中の共生細菌の力を借りています。
大きなオスは水深30mまで潜り、最長で1時間ほど水中にとどまることができます。メスや体の小さい個体は、潮だまりなど浅い場所でエサをとります。
くしゃみで塩を吹き、飢えると体が20%縮む
海水と一緒に取りこんでしまう塩は、鼻にある特別な腺から排出します。そのようすはくしゃみそっくりで、頭が白っぽく見えるのは吹き出した塩が体についたものです。
そして最も驚かされるのが、体が縮むこと。エルニーニョでエサが減った年には、体の大きさが最大20%も縮んだ個体が記録されています。エサが戻ると、また元の大きさまで育ちます。骨まで含めて縮む脊椎動物は、きわめて例外的です。IUCNレッドリストでは危急種(VU)に分類されています。
バビルサ|キバが自分の顔を突き破って生えてくる
バビルサはインドネシアのスラウェシ島、トギアン諸島、スラ諸島、ブル島など、ごく限られた島にしかすんでいないイノシシの仲間です。名前はマレー語の「babi(ブタ)」+「rusa(シカ)」で、意味は「ブタ鹿」。
上あごのキバは、鼻の皮ふを突き破って伸びる
ふつうの動物のキバは口の外へ向かって伸びますが、バビルサの上の犬歯は上あごから真上に伸び、鼻の皮ふを内側から突き破って外に出てきます。そのまま後ろへカーブし、自分の額のほうへ向かって伸びていきます。メスはキバが小さいか、まったくありません。
このキバは一生伸び続けます。ふだんは動き回るうちに自然にすり減りますが、削れないままだと、まれに自分の頭蓋骨にとどくことがあるといわれています。オス同士の戦いでは、上のキバで相手の攻撃を受け止め、下のキバで突くという役割分担があります。
地面を掘れないブタ
もうひとつの変わった特徴が鼻です。ほかのブタの仲間が持つ鼻先の骨(吻骨)がないため地面を掘り返すことができず、掘れるのはやわらかい泥だけ。一方でアゴの力は強く、かたい木の実を割ることができます。葉、根、果実、小動物などを食べる雑食性です。
スラウェシ島の洞窟には、少なくとも3万5千年以上前に描かれたバビルサとみられる壁画が残っています。ワシントン条約では最も規制の厳しい附属書Iに掲載され、IUCNレッドリストでも全種が危急種(VU)以上。日本では飼育されておらず、会えるのは地元インドネシアのほか、シンガポール動物園、イギリスのチェスター動物園、アメリカの一部の動物園などに限られます。
なぜ日本では飼育できないのか|3つの共通する壁
4種に共通するのは、次の3点です。
- 原産国が持ち出しを厳しく制限している/カモノハシもカカポも、国の象徴として扱われ、輸出そのものが例外的です。
- 飼育技術のハードルが高い/カモノハシは生きた餌を大量に必要とし、ウミイグアナは海そう食で、飼育下繁殖の成功例がありません。
- ワシントン条約と国内法の壁/附属書Iの種は商業目的の輸入ができず、家畜伝染病予防法や感染症法にもとづく検疫も必要です。
この構造は、日本の動物園で1頭しかいない動物が「補充できないまま国内ゼロになる」流れとまったく同じものです。
よくある質問(FAQ)
Q. カモノハシは日本の動物園にいたことがありますか?
A. 日本の動物園でカモノハシが常設飼育された例はありません。オーストラリア国外での飼育自体が歴史的にごくわずかで、現在はサンディエゴ動物園サファリパークだけです。
Q. カカポはどこへ行けば見られますか?
A. 一般の人が見られる場所はありません。全個体が保護管理下の島や保護区で暮らしており、立ち入りが制限されています。ニュージーランド保全省が公開する映像や発信機データが、事実上いちばん近い「観察」手段です。
Q. ウミイグアナは水族館で飼えないのですか?
A. 主食が特定の海そうで、消化を共生細菌に依存しているため、餌と水温の再現が非常に難しい種です。世界的にも飼育例はごくわずかで、飼育下繁殖の成功例は報告されていません。
Q. バビルサに近い動物なら日本で見られますか?
A. バビルサそのものは国内にいませんが、同じイノシシ科ではイノシシやカワイノシシなどが飼育されています。バビルサ特有の「上に突き抜けるキバ」を持つ種はほかにありません。
Q. 将来、日本に来る可能性はありますか?
A. 可能性が比較的あるのはバビルサで、欧米やシンガポールの動物園が飼育しているため、園館同士の血統管理の枠組みに入れば道はあります。カカポとウミイグアナは、制度と飼育技術の両面から現実的ではありません。
まとめ|知名度と「会いやすさ」は一致しない
カモノハシは図鑑の定番、カカポは動画で話題、ウミイグアナはガラパゴスの顔。知名度が高いことと、実際に会えることはまったく別です。むしろ有名な動物ほど原産国が保護に力を入れており、国外へ出ない傾向があります。
逆に言えば、日本の動物園で当たり前に見られる動物も、世界的には貴重なことがあります。国内で「ここだけ」になっている動物も少なくありません。
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