JAPAN ZOO REPORT 2026
日本の動物園から、動物が消えていく
パンダ0頭の裏で起きていたこと
2026年1月、日本からジャイアントパンダがいなくなりました。大きく報じられたこのニュースの陰で、ほとんど報じられないまま国内飼育がゼロになった動物が何種もいます。そして「残り1頭」で踏みとどまっている動物も。園と行政の公式発表をたどって、いま日本の動物園で何が起きているのかを整理しました。
📋 国内ゼロ・残り1〜2頭を一覧化
📉 コアラ96頭→61頭の実データ
この記事のポイント(3行サマリー)
- 2026年1月28日、上野動物園のシャオシャオとレイレイが中国へ引き渡され、1972年の日中国交正常化以来はじめて国内のパンダがゼロになりました。2026年8月時点でも新たな導入は決まっていません。
- その直前、コジャコウネコ(2025年11月)とセンザンコウ(2025年12月)も国内飼育がゼロになっています。いずれも国内で最後の1頭が亡くなったもので、パンダほど報じられませんでした。
- 背景にあるのは中国との関係だけではありません。ワシントン条約・家畜伝染病予防法・感染症法という3つの規制を同時にクリアしないと1頭も輸入できないという制度上の構造と、飼育個体の高齢化が重なっています。
2026年、日本の動物園から静かに消えた動物たち
2026年1月、上野動物園のジャイアントパンダ、シャオシャオとレイレイが中国へ返還されました。最後の一般公開が1月25日、上野を出発したのが1月27日、中国側への引き渡しが完了したのが1月28日です。これで日本国内のジャイアントパンダはゼロになりました。1972年10月にカンカンとランランが来園して以来のことで、多くの報道は「54年ぶり」と伝えています。
先立って2025年6月28日には、和歌山県のアドベンチャーワールドが良浜・結浜・彩浜・楓浜の4頭を中国へ返還しています。契約の満了は8月末でしたが、猛暑を避けるために前倒しされました。
このニュースは大きく報じられました。しかし同じ時期、報道の量としてはるかに少ないまま、国内飼育がゼロになった動物が他にもいます。園の公式発表をたどって時系列に並べると、こうなります。
- 2024年3月24日 フォッサ(上野動物園)マダガスカル最大の肉食獣。オスの「ベザ」が18歳で死亡し、国内飼育がゼロに。死因は誤嚥による窒息でした。
- 2024年7月〜8月 キーウィ(天王寺動物園)ニュージーランドの国鳥。オス「ジュン」が7月5日に42歳で、メス「プクヌイ」が8月5日に35歳で相次いで死亡し、国内ゼロに。
- 2025年11月16日 コジャコウネコ(東山動植物園)推定14歳のメスが腫瘍で死亡。JAZA加盟施設で飼育されていたのはこの1頭だけで、展示そのものが終了しました。
- 2025年12月18日 センザンコウ(上野動物園)ミミセンザンコウのメスが19歳以上で死亡。上野動物園は「これにより国内の展示施設においてセンザンコウはいなくなりました」と発表しています。
- 2026年1月28日 ジャイアントパンダ(上野動物園)シャオシャオ・レイレイの返還が完了。54年ぶりに国内ゼロ。
コジャコウネコとセンザンコウについては、園が「国内で最後の1頭だった」と明言しています。センザンコウは全身がうろこで覆われた独特の姿で、世界で最も密猟されている哺乳類とも言われる動物です。その姿を日本国内で見る手段は、2025年12月18日をもって完全に失われました。
「国内ゼロ」と「その園でゼロ」は違います
ニュースを読むときに紛らわしいのがここです。たとえば2023年7月に上野動物園のオカピ「トト」が死亡し、園は「当園で飼育するオカピはいなくなりました」と発表しました。これは上野でゼロになったという意味で、オカピ自体はよこはま動物園ズーラシアと横浜市立金沢動物園で飼育が続いています。同様に2025年3月に平川動物公園のシロサイ「シノ」が46歳で亡くなりましたが、これも同園がゼロになったのであって国内ゼロではありません。本記事の「国内ゼロ」は、園または行政が国内全体についてそう明言しているものだけを挙げています。
残り1頭、残り2頭で踏みとどまっている動物
次に、いま日本で「あと1頭」「あと2頭」という状態にある動物を整理します。この一覧は、日本動物園水族館協会(JAZA)の飼育動物検索と、各園・各自治体の公式発表を突き合わせて作りました。
| 動物 | 国内の状況 | 飼育施設 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ラーテル | 1頭 | 東山動植物園(名古屋) | オスの「フラン」が2025年3月6日に死亡し、メスの「ザビー」のみに。飼育は約19年10か月でした |
| ジュゴン | 1頭 | 鳥羽水族館(三重) | メスの「セレナ」。1987年4月15日入館で、2026年4月に入館39周年 |
| アフリカマナティー | 1頭 | 鳥羽水族館(三重) | オスの「かなた」が2024年7月に死亡し、メスの「みらい」のみに |
| アマゾンマナティー | 1頭 | 熱川バナナワニ園(静岡) | 「じゅんと」。1969年4月に米マイアミから来園し、飼育55年超 |
| ラッコ | 2頭 | 鳥羽水族館(三重) | 2頭ともメスのため国内での繁殖は不可能。メイ(2004年生)は高齢で、2026年5月に食欲低下が公表されました |
| ベアードバク | 1頭+非公開1頭 | 横浜市立金沢動物園 | 公開個体はメスの「アグア」(1995年生)。オスの「ファビオ」(1996年生)は横浜市繁殖センターで非公開飼育されています |
| セスジキノボリカンガルー | 2頭 | よこはま動物園ズーラシア | オスのモアラとメスのタニ(2026年1月時点で19歳) |
| タスマニアデビル | 2頭 | 多摩動物公園(東京) | 姉妹のワイティーとパピティ。日本だけでなくアジアで唯一の飼育。2016年の飼育開始から2026年で10年 |
| ウンピョウ | 1施設 | よこはま動物園ズーラシア | かつては天王寺動物園(2018年)、熊本市動植物園(2020年)でも飼育。公式に確認できる個体はスパイダーとステイシー |
| コモドオオトカゲ | 1頭 | 東山動植物園(名古屋) | オスの「タロウ」。2024年7月に来園した国内唯一の個体。静岡のiZooがインドネシア政府の承認を得てペアの受け入れを準備中で、2026年秋以降の来園予定と告知しています |
| ヒゲワシ | 1羽 | 静岡市立日本平動物園 | メスの「クリッパー」。園の公式ページに「日本で見られるのは当園だけです」と明記されています |
| ホライモリ | 1匹 | 碧南海浜水族館(愛知) | 「小さなドラゴン」と呼ばれる洞窟性の両生類。2005年の愛・地球博でクロアチアから寄贈された個体です |
| パプアヒクイドリ | 1施設 | 愛媛県立とべ動物園 | JAZA加盟園ではとべのみ |
| キンシコウ | 1施設 | 熊本市動植物園 | JAZA加盟園では熊本のみ |
| ドール | 1施設 | よこはま動物園ズーラシア | アジアに生息する野生のイヌ。JAZA加盟園ではズーラシアのみ |
この表を作っていて痛感したのは、「国内唯一」と書かれている情報の多くが、実は古いか不正確だということでした。たとえばインドガビアルを「国内唯一」とする記事が今も残っていますが、実際には野毛山動物園と静岡のiZooの2施設で飼育されています。ヤンバルクイナも沖縄こどもの国だけでなく国頭村の展示施設にいます。本記事の表は、園や自治体が自ら「日本で唯一」と書いているものと、JAZAのデータで加盟園館の飼育が1施設と確認できたものを分けて記載しました。
そのうえで特に注目してほしいのが、ラッコです。国内2頭はいずれもメスで、国内で繁殖する可能性が、すでに数のうえで閉じています。海外から新たに個体を迎えられない限り、この2種が日本からいなくなるのは時間の問題ということになります。
ラッコについては、鳥羽水族館が2026年5月に「高齢による影響もあり、食事の量が減少するなど体力の衰えが見えはじめています」とメイの状態を公表しました。5月下旬にも「日によって食欲にムラがあり、体重がわずかに減少傾向」と続報が出ています。国内のラッコは1994年前後には120頭を超えていましたが、いまは2頭です。
一覧の作り方について
「1施設」と書いた種は、JAZAの飼育動物検索で飼育園館が1園のみと確認できたものです。JAZAのデータは加盟園館が対象なので、非加盟の施設(日本モンキーセンターなど)や、横浜市繁殖センターのような非公開施設は反映されません。頭数を書いた種は、園または自治体の公式発表で個体まで確認できたものに限っています。個体の状態は日々変わるため、お出かけ前には各園の公式サイトで最新の情報をご確認ください。
主要な人気動物の頭数は、この30年でこう変わった
「まだたくさんいる」と思われている動物も、数字を並べると状況が見えてきます。ここでは園や自治体の記者発表など、出どころのはっきりした数字だけを使います。
コアラ:ピーク96頭から61頭へ
横浜市立金沢動物園が2026年6月に出した記者発表資料によると、国内のコアラは2025年12月末時点で7園館61頭(オス27・メス33・不明1)です。ピークは1997年の9園96頭でしたから、およそ4割減ったことになります。一時は42頭まで落ち込んでおり、そこからは持ち直している形です。
コアラが減った理由としてよく挙げられるのが餌のユーカリです。コアラはユーカリしか食べず、しかも種類にも好みがあるため、園は自前で栽培するしかありません。東山動植物園は静岡・鹿児島・沖縄と名古屋市内の4か所で約3万5000本を育てており、確保に年間6000万円以上をかけています(2026年7月時点、飼育9頭)。神戸市立王子動物園でも2020年度予算でコアラの飼料代が約6000万円と、園内でもっとも高い費目でした。
この負担に耐えられず飼育をやめた園もあります。大阪の天王寺動物園は2019年、最後のコアラだったオスの「アーク」をイギリスのロングリート・サファリパークへ繁殖目的で送り出しました。ユーカリの飼料費が年約3200万円(園全体の餌代の約3割)かかっていたことが理由と報じられています。
よく見かける「コアラの餌代は月66万円」という数字について
この数字は元動物園獣医師の北澤功氏が2024年の著書やインタビューで紹介したもので、出典は東山動植物園のデータとされています。ただし動物園が正式に発表した数値ではありません。東山の「年6000万円以上」(2025年12月時点の飼育9頭)で割ると1頭あたり月56万円前後、王子動物園の「年約6000万円」(2020年度予算、当時8頭)で割ると月60〜80万円台となり、桁としてはおおむね符合します。本記事では、園や自治体が発表した「年間総額」の数字のほうを軸に使っています。
ゾウ:国内84頭、うち11頭は「ひとりぼっち」
アジアゾウは2024年12月31日現在で国内31園館84頭(天王寺動物園の公式発表)。数だけ見ればまだ余裕があるように思えますが、問題は中身です。
ゾウは本来、群れで暮らす社会性の高い動物です。ところが国内には1頭だけで飼育されている「単独飼育」のゾウが11頭います(2026年2月現在、動物福祉団体PEACEの調査)。宇都宮の宮子、日立かみね動物園のスズコ、いしかわ動物園のサニー、遊亀公園のテル、日本平動物園のダンボといった個体です。2026年2月にかみね動物園のミネコが亡くなったことで、スズコが新たに単独になりました。
群れで飼うには広い敷地が要ります。関西テレビの取材で岡山の池田動物園は、群れ飼育に必要な面積は既存施設の最低10倍規模で、整備には数億円かかると説明しています。JAZA顧問の成島悦雄氏も「4〜5頭を少なくとも飼って、1頭あたりそれなりの面積が必要とすると、大きな動物園でないとゾウは飼えない」とコメントしています。餌代だけでも1頭1日あたり約2万円かかります(姫路セントラルパークの例)。単独飼育を解消するには、動物を増やすのではなく施設を作り替えるしかないという構造になっています。
ゴリラ:6園館19頭、しかも高齢化
ニシローランドゴリラは2025年5月15日現在で6園館19頭(JAZA飼育動物報告。上野動物園と千葉市がそれぞれ記者発表で引用)。2025年5月15日時点の内訳は上野6頭、東山5頭、京都市4頭、千葉市2頭、浜松市1頭、日本モンキーセンター1頭でした。その後、園をまたいだ繁殖のための移動が続き、2025年11月時点では上野8頭、東山4頭、京都市3頭、千葉市2頭、浜松市1頭、日本モンキーセンター1頭という構成になっています(総数19頭は変わりません)。
日本モンキーセンターのオス「タロウ」は1973年4月生まれで、2026年8月現在53歳です。2026年3月に精巣の腫瘍が疑われることが公表され、高齢のため麻酔リスクを考慮した内服治療が続けられています。国内のゴリラは繁殖を進めるために園をまたいだ移動が行われており、2025年11月4日には東山動植物園のメス「アニー」が上野動物園へ移り、オスの「ゲンタロウ」との同居練習が続いています。
ホッキョクグマ:1995年の67頭から28頭へ
2026年4月時点で16施設28頭(FRIDAYデジタル報道)。1995年の67頭がピークで、そこから半分以下になりました。同じ報道で北海道大学の坪田敏男名誉教授が「将来的に動物園で見られなくなるかもしれない」と指摘しています。集計元によっては29頭とするものもあり、数字には多少の幅があります。
明るい話もあります。2025年12月4日に秋田県の男鹿水族館GAOでホッキョクグマの赤ちゃんが生まれ、2026年4月11日から一般公開、4月25日に「モモ太」と名づけられました。
アミメキリン:53施設181頭。ただし血は濃くなっている
アミメキリンは2024年末時点で53施設181頭(オス92・メス89)と、名古屋市の報道発表に記載があります。2022年末は55園195頭でしたから、2年で14頭減った計算です。
頭数以上に問題なのが亜種の偏りで、たとえばマサイキリンは国内に11頭しかいません。宮崎市フェニックス自然動物園の園長はUMKテレビ宮崎の取材に「血が濃くなっていくと、例えば繁殖しにくかったりすることもあり得る」と答えています。数が残っていても、繁殖に使える組み合わせが尽きていくというのが、いま各園が直面している問題です。
なぜ、新しい動物が入ってこないのか
ここからが本題です。減っているのなら海外から迎えればいい、と考えたくなります。ところが日本の動物園が海外から1頭を迎えるには、省庁の異なる3つの制度を同時にクリアしなければなりません。この構造が、あまり知られていない割に決定的です。
関門1:ワシントン条約(経済産業省・環境省)
ワシントン条約(CITES)は、絶滅のおそれの度合いに応じて動植物を附属書I・II・IIIに分類しています。附属書Iに載っている種は、商業目的の国際取引が原則禁止です。パンダ、ゴリラ、アジアゾウ、オカピなどが該当します。
ただし、まったく動かせないわけではありません。日本の輸入承認では「学術研究目的」「共同保護計画目的」といった区分が設けられています。そして、ここに日本の動物園にとって重い条件があります。経済産業省の輸入注意事項によると、共同保護計画目的での承認要件はこう書かれています。非商業目的で繁殖させた個体で、寄付・交換・貸与が利潤のためではなく、「輸入しようとする種の一以上の生息国の参加又は支援を受けて行われる共同保護計画による場合」に限って認められる、と。
つまり、欧米の動物園と話がついただけでは足りません。その動物の生息国が関わる保全計画でなければ、附属書I掲載種は入ってこないのです。学術研究目的のほうも、研究実績や研究計画書から学術目的が顕著だと認められる場合に限る、とされています。
よくある誤解:「動物園同士なら非商業だからOK」ではありません
条約には登録された学術機関の間で標本を非商業的にやりとりする際の免除規定(第7条6項)がありますが、この対象は博物館用の標本と生きている植物であって、生きた動物は含まれません。生きた動物の輸入は原則どおり第3条3項に戻り、輸入国の管理当局が「主として商業的目的でない」と認定し、科学当局が受け入れ側の飼育設備を適当と認める必要があります。「動物園への貸与だから」という説明だけで通る仕組みではありません。
関門2:家畜伝染病予防法(農林水産省)
キリン、シカ、ヤギの仲間のような偶蹄類は、口蹄疫の対象動物として動物検疫の規制を受けます。輸入が禁止されるのは牛疫・口蹄疫・豚熱・アフリカ豚熱・高病原性鳥インフルエンザの5疾病について、動物種ごとに地域を区切って指定する形です。偶蹄類と馬が輸入できるのは、指定された19の港・空港(港8か所、空港11か所)だけで、係留検査も義務づけられています(偶蹄類は15日、馬は10日が基準)。しかも、輸入可能とされている地域からでも、他の疾病の発生状況によって一時的に輸入が停止されることがあります。
関門3:感染症法と輸入届出(厚生労働省)
サルの仲間はさらに厳しく制限されています。エボラ出血熱やマールブルグ病の対策として、感染症法第54条でサルは輸入禁止動物に指定されており、「試験、研究又は動物園での展示用」に限って例外的に輸入が認められています。
その条件がかなり具体的です。輸入できるのはアメリカ、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、スリナム、ガイアナ、カンボジアの8か国のみ。輸出国側で30日の係留検査(米国のみ輸出国政府機関が指定する施設、それ以外は日本の農林水産大臣指定施設)を受け、日本到着後もさらに30日の係留検査が必要です。加えて、受け入れられる空港は成田・関西・鹿児島の3つだけで、飼育施設も厚生労働大臣と農林水産大臣の指定を受けていなければなりません。
アフリカに生息するゴリラやチンパンジーを、アフリカから直接迎えることは、この規定のもとでは不可能ということになります。
関門4:制度の外にある、もっと現実的な壁
法律をすべてクリアしても、相手が譲ってくれなければ話は進みません。ここで日本は不利な立場にあります。
日本経済新聞は2017年、JAZAの当時の専務理事の話として「欧米の動物園は日本に個体をなかなか貸してくれない」と報じています。理由として挙げられているのが、日本には動物園を包括的に定める法律がなく、飼育の基準が園ごとにばらばらであることです。同じ記事では、アフリカゾウが2015年の38頭から2030年に7頭に、ニシゴリラが13頭から6頭に減るという推計や、一部のペンギン類とバク類が2030年までに国内から消える可能性にも触れられています。
ヨーロッパ側の内部規定も壁になります。EAZA(欧州動物園水族館協会)の個体群管理マニュアルには、その種について他の地域協会(JAZAを含む)が個体群管理プログラムを持っている場合、EAZA域外の非会員がEEP(欧州の繁殖プログラム)に参加することはできないと明記されています。非会員が参加する場合も、動物福祉や獣医ケアがEAZAの基準に沿っていることが条件で、定期査察を受けない施設には「受け入れ可能な基準であるという一定の保証」が求められます。
ここは正確に:2015年のイルカ問題について
日本の動物園が国際的に孤立した例としてよく語られるのが、2015年のイルカ追い込み漁をめぐる一件です。ただし「JAZAが世界動物園水族館協会(WAZA)から除名された」というのは誤りです。2015年4月21日にWAZAがJAZAの会員資格を停止し、応じなければ除名すると通告。JAZAは5月20日の会員投票(WAZA残留99・脱退43)でWAZA残留を選び、それに伴って追い込み漁により捕獲されたイルカの入手を禁止することを決め、会員資格を維持しました。停止措置は同年7月9日に解除されています。またこの一件が原因で海外からの個体導入が実際に細ったと立証した報道は見当たりません。日本が個体を借りにくい理由としてはっきり報じられているのは、上に挙げた「飼育基準が統一されていない」ほうです。
お金がない、という身も蓋もない事情
さらに直接的な問題として、園には動物を買うお金がありません。朝日新聞が全国76自治体84園に情報開示請求をして調べたところ、園から搬出された動物の34%(1699頭)が「交換」によるものでした。「20年以上前から動物の購入予算がない」という園の実態も報じられています。取材に応じた業者は、動物を手に入れるための通貨単位が「1フラミンゴ」「1シマウマ」だと表現しました。実際に豊橋総合動植物公園は2017年、ミナミシロサイ1頭とジェンツーペンギン20羽を交換する契約を結んでいます。
園の財政そのものも楽ではありません。地方独立行政法人天王寺動物園の令和4年度事業報告書によると、経常収益16億2200万円のうち運営費交付金が9億1000万円で56.1%を占め、入園料収入は4億100万円で24.7%にとどまります。大阪市の計画書には、経費削減策は「いずれも頭打ち感がある」、施設整備には「多額の財源を要する」と率直に書かれています。
動物園自身が「もう迎えない」と書き始めた
ここまでの話は外から見た分析ですが、実は動物園の側が、この現実を公式文書ではっきり認めています。
札幌市円山動物園が2024年6月に公表した「コレクションプラン」がその一例です。この計画は園で飼育する動物を推進種15、継続種90、そして断念種26に分類しています。断念種についての記述はこうです。「当該動物が寿命を全うした後は、当該動物の新規導入を行わない」。
個別の種についての説明も具体的です。アムールトラについては「海外からの導入のためには国内の繁殖実績が必要となる」、ホッキョクグマについては「新規個体の導入は国内外ともに容易ではない」。複数の種で「現在の飼育個体は高齢であるため終生飼育する」と書かれています。
これは投げやりな話ではなく、限られた予算と施設をどこに集中させるかという経営判断です。すべての種を薄く抱え続けるより、繁殖の見込みがある種に資源を寄せるほうが、種の保存という目的には合っています。ただ結果として、私たちが動物園で会える動物の顔ぶれは確実に変わっていきます。
ブリーディングローンという仕組み
園同士が動物を融通し合う制度がブリーディングローン(繁殖貸与)です。JAZAは「希少な動物は、個人や動物園・水族館の持ち物ではなく、世界共通の財産であるという考えに基づく」と説明しています。借りる側はお金を払わず、所有権は貸した園に残ります。生まれた子の所有権は契約時に決めておくもので、秋田市大森山動物園の広報誌(2009年10月号)では「第1子は元の所有者、第2子は大森山、その後も同じ順番」という取り決め例が紹介されています。これはJAZA統一のルールではなく、園ごとの契約に基づく一例です。JAZAはこのほか、希少動物を11の群に分けて約150種の血統登録(動物の戸籍簿)を行っており、コアラ・ニシゴリラ・ホッキョクグマ・マレーバク・アジアゾウ・キリンなど本記事で扱った種はいずれも種別調整の対象になっています。
その一方で、日本の動物園が世界に誇れる成果もある
減少の話ばかりでは公平ではありません。日本の動物園は近年、海外の人気動物を集めることから、日本の生き物を絶滅から救うことへ軸足を移しつつあります。そしてこちらでは、はっきりした成果が出ています。
ライチョウ:動物園生まれの個体で、絶滅した山に個体群が戻った
環境省は2015年から、JAZAの協力を得てライチョウの生息域外保全を始めました。動物園で繁殖させた個体を、いったん絶滅した中央アルプスへ戻す取り組みです。2025年7月の発表で、中央アルプスの生息数は83なわばり・推定約190羽。前年の58なわばり130羽から1.4倍に増えました。動物園で生まれた鳥が、消えた山に群れを取り戻したことになります。
トキ:日本産絶滅から、野生576羽へ
2003年に日本産最後の「キン」が死んで日本産トキは絶滅しました。そこから中国由来の個体で繁殖を進め、2008年に佐渡島で放鳥を開始。野生下の推定は2024年12月末で576羽、飼育下は2026年7月27日現在で全国173羽です。2026年には石川県能登で本州初の放鳥が行われ、5月31日に8羽、6月14日に10羽の計18羽が放たれました。島根県出雲市での本州2例目も、2027年度上半期をめどに予定されています。
コウノトリ:野生絶滅から552羽へ
1971年に野生最後の1羽が死に、国内のコウノトリは野生絶滅しました。1988年に多摩動物公園が国内初の繁殖に成功し、兵庫県立コウノトリの郷公園が引き継いで2005年から放鳥を開始。2007年には野外でのヒナ誕生が43年ぶりに確認され、巣立ちも46年ぶりに実現し、2026年5月31日現在の野外個体数は552羽です。
ツシマヤマネコ:全国11施設36頭で繁殖
1999年に福岡市動物園の協力で飼育下繁殖事業が始まり、2000年4月に初繁殖に成功。2026年2月7日現在、全国11施設36頭が飼育されています。ズーラシアは2021年3月に腹腔鏡下卵管内人工授精による繁殖に国内で初めて成功しました。野生下は2026年4月公表の調査で上島に推定85頭、下島に17頭以上とされています。
生物多様性条約の第9条は、生息域外での保全を「主として生息域内における措置を補完するため」と位置づけ、そのための施設を設置し維持すること、適当な条件下で自然の生息地へ再導入することを締約国に求めています。ライチョウやトキで起きているのは、まさにこの条文どおりのことです。パンダがいなくなった動物園にできることは、まだたくさんあります。
よくある質問(FAQ)
Q. 日本でパンダはもう見られないのですか?
A. 2026年8月時点では見られません。2026年1月28日に上野動物園のシャオシャオ・レイレイの返還が完了し、国内の飼育はゼロになりました。仙台市・東京都・茨城県が誘致を続けていますが、日中関係の悪化を背景に停滞しており、仙台市は断念も含めた検討に入っていると報じられています。中国は2026年春に米国へ2頭を追加で貸与しており、パンダの頭数は対中関係を映す指標だという見方もあります。
Q. パンダのレンタル料はいくらですか?
A. 米国議会調査局の報告書には「受け入れ機関は通常、1ペアあたり年間100万ドルを支払う」と記載されています。東京都は「レンタル料」という表現を否定しており、生息地の保護や共同研究を支える支援金だと説明しています。
Q. 2025年から2026年にかけて国内でいなくなった動物は何ですか?
A. 園や自治体の発表で確認できるのは3件です。2025年11月16日に東山動植物園のコジャコウネコ(推定14歳・メス)が死亡し、JAZA加盟施設での飼育がゼロに。2025年12月18日には上野動物園のミミセンザンコウが死亡し、国内の展示施設からセンザンコウがいなくなりました。そして2026年1月28日にジャイアントパンダの返還が完了しています。少し前まで遡ると、2024年3月にフォッサ、2024年夏にキーウィも国内ゼロになりました。
Q. なぜ海外から新しい動物を連れてこないのですか?
A. 制度上の壁が三重になっているためです。ワシントン条約の附属書I掲載種は、共同保護計画目的で輸入する場合、その動物の生息国が参加または支援する計画である必要があります。偶蹄類は家畜伝染病予防法により輸入できる地域と港湾・空港が限られ、サルの仲間は感染症法により8か国からしか輸入できず、輸出国側・日本側それぞれで30日の係留検査が必要です。加えて、日本には動物園を定める法律がなく飼育基準が統一されていないため、欧米の園が個体を貸すことに慎重だとも報じられています。さらに園には動物の購入予算がほとんどなく、実際の入手手段は園同士の交換が中心になっています。
Q. ラッコは日本でまだ見られますか?
A. 三重県の鳥羽水族館で2頭(メイ・キラ)が飼育されています。2025年1月にマリンワールド海の中道のリロが死亡して以降、国内で見られるのはここだけです。2頭ともメスのため国内での繁殖はできません。メイは2004年生まれで高齢化が進んでおり、2026年5月に水族館が食欲の低下を公表しています。訪問を考えている方は、公開方法が変更される可能性があるため、事前に公式サイトの最新情報をご確認ください。
Q. ブリーディングローンとは何ですか?
A. 動物園・水族館同士が繁殖を目的に動物を貸し借りする制度です。借りる側に購入費はかからず、動物の所有権は貸した園に残ります。生まれた子の所有権は契約時にあらかじめ決めておきます。JAZAは「希少な動物は個人や施設の持ち物ではなく世界共通の財産である」という考えに基づく制度だと説明しており、これによりペア飼育や群れ飼育が進み、繁殖の成功例が増えました。
Q. 日本の動物園はこれからどうなるのですか?
A. 海外の人気動物を広く集める形は難しくなり、種を絞って繁殖に力を入れる方向へ移りつつあります。札幌市円山動物園は2024年のコレクションプランで飼育種を推進種15・継続種90・断念種26に分類し、断念種は寿命を全うした後に新規導入を行わないと明記しました。一方でライチョウ、トキ、コウノトリ、ツシマヤマネコのように、動物園の繁殖技術が日本の野生を実際に取り戻している分野もあります。見せる施設から守る施設へ、役割が移り変わっている途中だと言えます。
まとめ
パンダがいなくなったというニュースは大きく報じられました。けれど同じ数か月のあいだに、コジャコウネコもセンザンコウも、ほとんど気づかれないまま日本から姿を消しています。そしてラッコは2頭ともメス、ベアードバクは2頭ともオスという、数のうえですでに答えが出てしまっている種もあります。
理由は「中国が貸してくれないから」だけではありません。ワシントン条約、家畜伝染病予防法、感染症法という3つの制度を同時にクリアしなければ1頭も入ってこないという構造があり、その上に飼育個体の高齢化と、園に動物を買う予算がないという現実が重なっています。円山動物園が26種について「寿命を全うした後は新規導入を行わない」と書いたのは、その現実を正面から認めた文章です。
だからこそ、この記事で挙げた動物たちに会えるうちに会っておくことには意味があります。そして動物園に足を運ぶこと自体が、いま日本の野生を支えている取り組みを支えることにもつながります。ライチョウが中央アルプスに戻り、コウノトリが空を飛び、トキが本州で放たれるまでになったのは、動物園が積み上げた繁殖技術があったからです。
あわせて読みたい
- 動物の平均寿命一覧|一次データで見る寿命の長い動物・短い動物|園で暮らす動物たちがどれくらい生きるのか。
- 動物の自由研究テーマ25選|まとめ方とレポート例文つき|この記事のテーマは自由研究にも向いています。
- ナイトズー2026全国14施設|夜の動物園はここが違う|会いに行くならこちらも。
- 動物園の赤ちゃんラッシュ2026|全国で生まれた人気者たち|減るニュースの裏で、生まれている命もあります。
※本記事は2026年8月3日時点で各園・自治体・関係省庁が公表している情報をもとに作成しています。飼育頭数は日々変動し、個体の状態も変わります。お出かけの際は各施設の公式サイトで最新の情報をご確認ください。「国内ゼロ」「国内唯一」の表記は、園または行政が国内全体についてそう明言しているもの、およびJAZA飼育動物検索で加盟園館の飼育が1園のみと確認できたものに限っています。JAZAのデータは加盟施設が対象のため、非加盟施設や非公開施設は反映されていません。
主な参照先:東京都建設局・上野動物園(東京ズーネット)/アドベンチャーワールド/名古屋市 東山動植物園/鳥羽水族館/横浜市 よこはま動物園ズーラシア・金沢動物園/多摩動物公園/熱川バナナワニ園/地方独立行政法人 天王寺動物園/大阪市/札幌市 円山動物園 コレクションプラン/秋田市 大森山動物園/日本動物園水族館協会(JAZA)飼育動物検索・種の保存と自然保護/経済産業省 ワシントン条約 輸入注意事項/農林水産省 動物検疫所/厚生労働省 感染症法/環境省(ライチョウ・トキ・ツシマヤマネコ保護増殖事業)/兵庫県立コウノトリの郷公園/新潟県/米国議会調査局(CRS)/日本経済新聞/朝日新聞/神戸新聞/関西テレビ/UMKテレビ宮崎/FRIDAYデジタル/EAZA Population Management Manual
あわせて読みたい
動物の雑学・生態まとめ60選|犬猫の飼い方から珍獣まで一気読み

コメント