くらし|セキュリティ
パスキーとは?しくみをやさしく解説|証券会社の設定案内は詐欺?
証券会社や銀行、スマホのアプリから「パスキーを設定してください」という案内が届くようになりました。「パスワードのすごく長いもの?」「顔の写真をサイトに送るの?」「スマホをなくしたらおしまい?」──どれもよくある思いこみです。パスキーは、パスワードのかわりにスマホの指紋・顔・PINでログインする「カギ」で、カギそのものはスマホの外に出ません。しくみ、偽サイトに強い理由、証券口座の乗っ取りが減った数字、設定のしかたと注意点まで、順番に解説します。
この記事の結論
- パスキーは、パスワードのかわりに、スマホやパソコンの指紋・顔・PIN(画面ロックの暗証番号)でログインするしくみです。覚える文字はありません。
- 中身は「カギ」と「錠前」のペアです。サイトにあずけるのは錠前(公開鍵)だけで、カギ(秘密鍵)はスマホから出ません。指紋や顔も、スマホの中で確かめるだけでサイトには送られません。
- パスキーは作ったサイトの住所(ドメイン)とセットで保存されるので、そっくりな偽サイトではカギが出てこない=フィッシング詐欺に強いのが最大の特長です。
- 証券口座の不正取引は2025年4月の3,033件から、2026年9月は2件まで減りました(金融庁)。パスキーの必須化と、監視などほかの対策が重なった結果です。
- 証券会社のパスキー案内そのものは詐欺ではありません。ただし「パスキー設定のお願い」をよそおう偽メールもあるので、設定はメールのリンクからではなく、いつもの公式アプリかブックマークから行いましょう。
(2025年4月・最多)
(約1,500分の1)
パスキー(FIDO推計)
通知を経験した人
パスキーとは?パスワードのかわりに使う「ログインのカギ」
パスキー(passkey)は、IDとパスワードを入力するかわりに、スマホのロック解除と同じ操作(指紋認証・顔認証・PIN)でログインするしくみです。業界団体のFIDO(ファイド)アライアンスと、Webの標準化団体W3Cが決めた規格(WebAuthn)にもとづいていて、iPhone・Android・Windows・Macのどれでも使えます。
「パスキー」という呼び名は、2022年にアップル・グーグル・マイクロソフトの3社がそろって対応を広げると発表してから一般に広まりました。FIDOアライアンスは2026年5月、世界で約50億のパスキーが使われていると推計しています(10か国・約11,000人の調査では、パスキーを知っている人が90%、1つ以上のサービスで使っている人が75%)。
パスキーについての、よくある3つの誤解
| よくある誤解 | ほんとうは |
|---|---|
| ものすごく長いパスワードのこと | 覚える文字はない。スマホの中にしまわれる「カギ」 |
| 指紋や顔の写真をサイトに送る | スマホの中で持ち主を確かめるだけ。外には出ない |
| スマホをなくしたら二度と入れない | ほかの端末・取りもどす方法・窓口での本人確認がある |
なぜパスワードではだめなのか?3つの弱点
パスワードのしくみは「合言葉」です。あなたとサイトが同じ文字を知っていて、それが合えば本人とみなします。コンピューターのパスワードは1960年代のはじめ、アメリカの大学の大型コンピューターで使われたのが始まりと言われ、60年以上ほとんど同じやり方が続いてきました。
| 弱点 | 何が起きる? | 長いパスワードで防げる? |
|---|---|---|
| ①使い回し | 1か所でもれると、同じパスワードのほかのサイトにも入られる | 防げない |
| ②サイトからの流出 | サイトも合言葉を知っているので、そこが盗まれると困る | 一部だけ |
| ③フィッシング | 偽サイトに自分で入力してしまう | 防げない |
長くて複雑なパスワードは、当てずっぽうの総当たりには強くなります。でも、偽サイトに自分で入力してしまえば、20文字でもそのまま相手にわたってしまいます。FIDOアライアンスの2026年の調査では、この1年でアカウントの乗っ取りや情報もれの通知を経験した人が33%(約3人に1人)いました。
ワンタイムパスワードも「中継」されることがある
SMSやメールで届く使い捨ての番号(ワンタイムパスワード)を足すと、守りはずっと強くなります。ただ、偽サイトが入力された内容をその場で本物のサイトに中継する手口では、届いた番号を偽サイトに入れた時点で、それも使われてしまいます。三菱UFJ eスマート証券も2026年10月15日の注意喚起で、メールによるワンタイムパスワードの認証方式を悪用されるケースを確認したとして、パスキー利用者には「パスキーのみでログイン可能」にする設定を呼びかけています。
人間が入力するものは、だまされればわたせてしまう
パスワードもワンタイムパスワードも、最後は人間が入力します。偽サイトが本物そっくりなら、人間の目では見分けきれません。この「人間がだまされる」弱点をふさぐために作られたのがパスキーです。
パスキーのしくみ|スマホの中の「カギ」と、サイトにあずける「錠前」
パスキーを作ると、あなたのスマホ(またはパソコン)の中で、カギ(秘密鍵)と錠前(公開鍵)のペアが生まれます。専門的には「公開鍵暗号」と呼ばれるしくみです。
- 作るときスマホの中でカギと錠前のペアができる錠前はサイトにあずけ、カギはスマホの中にしまったまま外に出しません。サイトにあるのは錠前だけなので、合言葉のような「秘密」はどこにも置かれません。
- ログイン①サイトが毎回ちがう「問題」を送るログインのたびに、サイトは使い回しのきかない問題(チャレンジ)を送ってきます。
- ログイン②指紋か顔で持ち主か確かめて、カギではんこを押すスマホは持ち主を確かめてからカギを取り出し、問題に電子署名(はんこ)をして返します。
- ログイン③サイトが錠前で、はんこが本物か確かめるあずかった錠前で確認できればログイン完了。カギそのものは一度もネットに流れません。
指紋や顔はサイトに送られる?
送られません。指紋や顔は、スマホの中でカギの引き出しをあけるときに、持ち主かどうかを確かめるためだけに使われます。照合はスマホの中で終わり、サイトが受け取るのは「はんこを押した答え」だけです。指紋や顔の登録がない機種では、画面ロックのPINやパスコードで代わりに確かめます。
なぜ偽サイトに強いのか|カギはサイトの住所とセット
パスキーは、作ったときのサイトの住所(ドメイン)とセットで保存されます。偽サイトは見た目が本物そっくりでも、住所はちがいます。だからスマホは偽サイトに対しては、そもそもカギを出しません。人間がだまされても、スマホはだまされない──これがパスキーが「フィッシングに耐性がある」と言われる理由です。
| 本物のサイト | そっくりな偽サイト | |
|---|---|---|
| 見た目 | 同じ | 同じ |
| 住所(ドメイン) | 作ったときと同じ | ちがう |
| パスキー | 出てくる→ログインできる | 出てこない→わたせない |
パスワードとパスキーの違い
| パスワード | パスキー | |
|---|---|---|
| 覚えるもの | 文字列(長いほど安全) | なし(指紋・顔・PIN) |
| 偽サイトに入力 | そのまま相手にわたる | カギが出てこない |
| サイトからもれたら | 合言葉がもれる | 錠前だけ=あけられない |
| 使い回し | ありがち | サイトごとに別のペア |
| 指紋・顔 | 使わない | スマホの中で使うだけ |
サイトから錠前(公開鍵)がもれても、錠前ではドアはあけられません。また、パスキーはサイトごとに別のペアが作られるので、使い回しも起きません。パスワードの3つの弱点が、しくみの段階でふさがれているわけです。
証券会社がパスキーを必須にした理由|乗っ取りは3,033件から2件へ
2025年の春、証券会社を名乗る偽メールから偽サイトにさそわれ、IDとパスワードを盗まれる被害が急増しました。盗んだ人は口座に入って持ち主の株を勝手に売り、その代金で国内外の小さな会社の株を買い付けます。株価をつり上げて自分がもうけるためと見られ、被害者の口座には値下がりしやすい株が残されます。
| 月 | 不正アクセス | 不正取引 |
|---|---|---|
| 2025年1月 | 144件 | 69件 |
| 2025年3月 | 2,321件 | 935件 |
| 2025年4月(最多) | 5,490件 | 3,033件 |
| 2025年5月 | 3,404件 | 2,440件 |
| 2025年12月 | 382件 | 116件 |
| 2026年6月 | 171件 | 104件 |
| 2026年9月 | 37件 | 2件 |
金融庁の集計では、2025年1月から2026年9月までの合計で、不正アクセスは19,252件、そのうち実際に勝手に取引されたのが10,642件、勝手に売られた株は約4,372億円分にのぼります(売買の合計額で、損失額とは一致しません)。
これを受けて金融庁は、証券会社や銀行への監督のルール(監督指針・事務ガイドライン)を改正し、ログインや出金などの場面でフィッシングに耐性のある多要素認証を入れるよう求めました。その代表がパスキーです。大手ネット証券は2025年秋からパスキーを提供し、2026年にはログイン時のパスキー必須化が進みました。2026年4月16日には、銀行・信用金庫・信用組合・労働金庫・証券会社と金融庁・警察庁が、そろってパスキーなどを呼びかける広報を始めています。
減ったのはパスキーだけの効果ではない
2026年9月の不正取引は2件で、いちばん多かった2025年4月のおよそ1,500分の1です。ただし、取引の監視や注意喚起など、ほかの対策も同じ時期に重なっています。また、ゼロになったわけではありません。
証券会社の「パスキー設定」の案内は詐欺?見分け方
証券会社や銀行がパスキーの設定を呼びかけること自体は、口座を守るための正規の案内です。金融庁も、強固な多要素認証の提供が始まったら「速やかに利用設定を行ってください」と呼びかけています。
ただし、この切りかえの時期をねらって、「パスキー設定のお願い」といった件名の偽メールも報告されています。本物か偽物かをメールの見た目だけで見分けるのはむずかしいので、次のルールを守るのがいちばん確実です。
| やること | |
|---|---|
| ✕ しない | メールやSMSのリンクから設定画面を開く |
| ○ する | いつもの公式アプリか、ブックマークしたサイトから開く |
| ○ する | 不安なら、カードや公式アプリに書いてある窓口に電話する |
ご家族に伝えるなら、この3つ
①パスキーの案内そのものは詐欺ではない ②設定はメールのリンクから開かず、いつもの公式アプリから ③わからなければ、カードやアプリに書いてある窓口に電話する。
パスキーの作り方|4ステップで1分ほど
画面の名前はサービスごとに少しちがいますが、流れはほぼ同じです。
- 1公式アプリかブックマークからログインメールやSMSのリンクは使いません。
- 2セキュリティの設定を開く「ログイン設定」「認証設定」などの名前のこともあります。
- 3「パスキーを登録」を選ぶ保存先(iPhoneならiCloudキーチェーン=パスワードアプリ、AndroidならGoogleパスワードマネージャー)をたずねられたら、ふだん使うものを選びます。
- 4指紋か顔(またはPIN)で確認して完了次回からは、ログイン画面で指紋か顔を使うだけになります。
自分のものではないパソコン(家族のパソコンなど)でログインするときは、画面に出るQRコードを自分のスマホで読み取ります。スマホが近くにあることをBluetoothで確かめるので、遠くにいる第三者がまねをするのはむずかしいしくみです。
機種変更やスマホをなくしたときは?
| 場面 | どうなる? |
|---|---|
| iPhone→iPhone | iCloudキーチェーンに保存されていれば、同じAppleアカウントで引きつがれる |
| Android→Android | Googleパスワードマネージャーに保存されていれば、同じGoogleアカウントで引きつがれる |
| iPhone⇔Android | 新しいスマホでパスキーを作り直すと考えておくと安心 |
| スマホをなくした | ほかの端末から使う/取りもどす方法・窓口で設定し直す |
いちばんの備えは、パスキーを2台以上の端末に登録しておくことです。スマホをなくしても、同じアカウントのパソコンやタブレットがあれば、そこからログインできます。サービスごとにメールの確認コードなどの取りもどす方法も用意されていて、最後は窓口で本人確認をして設定し直すこともできます。
新しいスマホで復元するときに前のスマホのパスコードが必要になる条件や、証券会社ごとの紛失時の手順は、パスキーのスマホを紛失したらどうなる?復元の条件と証券4社の手順でくわしく比べています。
パスキーのデメリット・注意点
| 注意点 | 対策 |
|---|---|
| 画面ロックが弱いと守りも弱い | ロックなし・推測しやすい番号はやめる |
| 対応していないサイトもある | そのサイトはパスワードを使い回さない |
| OSをまたぐ乗りかえ | 新しいスマホで作り直す・2台めにも登録 |
| 家族と共有している端末 | 自分のスマホにだけ登録し、ほかのパソコンはQRコードで |
パスキーに対応していないサイトでは、これまでどおりパスワードを使います。その場合も、同じパスワードを使い回さないことが基本です。
パスキーについてよくある質問
Q. パスキーとは何ですか?
A. パスワードのかわりに、スマホやパソコンの指紋認証・顔認証・PINでログインするしくみです。スマホの中に「カギ」、サイトに「錠前」をあずけるペアでできていて、覚える文字はありません。
Q. パスキーは危険ではないのですか?
A. パスワードより安全性は高いとされています。カギはスマホから出ず、偽サイトではそもそも使えません。ただし、スマホの画面ロックが弱い(ロックなし・推測しやすい番号)と守りが弱くなるので、画面ロックは必ずかけてください。
Q. 指紋や顔の情報はサイトに送られますか?
A. 送られません。指紋や顔は、スマホの中で持ち主かどうかを確かめるためだけに使われ、サイトが受け取るのは電子署名をした答えだけです。
Q. 証券会社から「パスキーを設定してください」と案内が来ました。詐欺ですか?
A. 証券会社がパスキーの設定を呼びかけること自体は正規の対策です。ただし「パスキー設定のお願い」をよそおう偽メールもあるため、メールのリンクからは設定せず、いつもの公式アプリかブックマークから開いてください。
Q. スマホをなくしたら、二度とログインできなくなりますか?
A. たいていはログインし直せます。同じアカウントのほかの端末があればそこから使えますし、サービスごとに取りもどす方法や窓口での本人確認も用意されています。パスキーを2台以上に登録しておくと安心です。
Q. 機種変更したらパスキーはどうなりますか?
A. iPhoneはiCloudキーチェーン、AndroidはGoogleパスワードマネージャーに保存されていれば、同じAppleアカウント・Googleアカウントでログインした新しいスマホに引きつがれます。iPhoneからAndroidのようにOSを乗りかえる場合は、新しいスマホで作り直すと考えておくと安心です。
Q. パスキーにしたらパスワードはいらなくなりますか?
A. パスキーに対応したサービスでは、ふだんのログインにパスワードを使わなくなります。ただし、対応していないサイトではパスワードが必要なので、使い回さないようにしましょう。
まとめ|パスキーは「だまされても、わたせないカギ」
パスキーは、長いパスワードでも、顔の写真をサイトに送るしくみでもありません。スマホの中から出ないカギで、サイトの住所とセットになっているため、人間が偽サイトにだまされても、スマホはカギを出しません。証券口座の乗っ取りが急減した背景にも、このしくみがあります。案内が届いたら、メールのリンクではなく、いつもの公式アプリから設定してみてください。スマホのロック解除と同じ操作で、口座を守ることができます。
参考資料
- 金融庁「インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引にご注意ください」(2026年10月9日更新)と「インターネット取引サービスでの不正アクセス・不正取引の被害状況」
- 金融庁「フィッシング耐性のある多要素認証等に係る官民一体・業界横断的な広報について」(2026年4月16日)
- FIDO Alliance「FIDO Alliance Reports Accelerating Global Passkey Adoption on World Passkey Day 2026」(2026年5月7日)
- W3C「Web Authentication: An API for accessing Public Key Credentials Level 2」
- 三菱UFJ eスマート証券「【注意喚起】不正アクセス被害防止のためのお願い」(2026年10月15日)
「1,500分の1」は金融庁の月別件数から筆者が計算しました。数字は2026年10月時点です。設定手順や必須化の時期はサービスごとに異なるため、各社の公式案内をご確認ください。


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