停泊中の漁船にクマが乗り込み、海へ転落。クマは何キロ泳げるのか
2026年9月19日夜、宮城県塩竈市の港で、停泊中のマグロ漁船にクマが1頭、タラップを伝って乗り込みました。翌20日未明に海へ転落し、約1キロ離れた海岸で見つかったあと行方不明です。クマは泳げるのか、どのくらいの距離を渡った記録があるのか。そして宮城県のクマ出没1,228件を全部数えると、塩竈市はこれまで0件でした。
2026年9月20日時点。出典は共同通信・宮城県・利尻富士町・環境省・USGS
泳いだとみられる距離
国内記録(最短ルート)
2026年度(9月18日まで)
今年度ここまで
港に停泊していた漁船に、クマがタラップを上って乗り込む。船首の甲板で寝ていたところを見つかり、やがて海に落ちて泳いで岸へ向かう——。2026年9月19日から20日にかけて宮城県塩竈市で実際に起きた出来事です。
この一件は「クマは泳げるのか」「どのくらいの距離なら渡れるのか」という素朴な疑問を突きつけます。この記事では、経過を時系列で整理したうえで、国内外に残るクマの遊泳記録を確認し、さらに宮城県が公表しているクマ目撃等情報1,228件をすべて数えて、港町にクマが現れた背景を見ていきます。
塩竈の漁船で何が起きたのか
共同通信の報道によると、経過は次のとおりです。
- 9/18周辺でクマの目撃情報港の周辺では18日からクマの目撃情報がありました。その後に漁船へ入り込んだクマと同一個体とみられています。
- 19日
19:35港近くの住宅から110番港に近い住宅から、クマの出没を知らせる通報が入りました。 - 19日
20:30停泊中のマグロ漁船にクマが乗り込む塩竈市新浜町1丁目の港で、体長約1メートルのクマ1頭がタラップを伝って漁船に入り込みました。船内にいた3人は鍵のかかる部屋に避難し、けがはありませんでした。クマは船首部の甲板で寝ていた様子だったといいます。 - 20日
1:00過ぎ漁船から海に転落クマは漁船から海へ転落しました。港には海面から高さ2メートル以上の岸壁があるため、市は海に落ちたクマが泳いで海岸まで移動したとみています。 - 20日
2時ごろ約1キロ北東の海岸で発見、その後行方不明転落から約1時間後、1キロほど北東の海岸の茂みで見つかりましたが、その後行方が分からなくなりました。近くには事業所や住宅が多く、県警と市が捜索と警戒を続けています。
クマは何キロ泳げるのか——記録に残る距離
クマが泳ぐのは珍しいことではありません。問題は距離です。国内外の記録を、確認できるものだけ並べます。
| 記録 | いつ・どこ | 距離・内容 |
|---|---|---|
| ヒグマが利尻島に渡る | 1912年(明治45年)5月24日 北海道・利尻島 |
体長2.4m・体重300kgの雄。海を泳いで島に渡り、上陸後に再び海へ。海岸に向かって泳いでいるところを発見された。対岸の最短ルートでも直線20km(言い伝えの天塩からだと約50km) |
| 利尻島でヒグマの痕跡 | 2018年5月30日〜 北海道・利尻島 |
足跡が発見され、その後も糞や食跡が各所で見つかる。1912年以来106年ぶり。7月12日以降は痕跡が途絶え、2019年6月28日に町が終息宣言 |
| 海を泳ぐクマを発見 | 2025年11月13日 青森県野辺地町沖の陸奥湾 |
午前9時半ごろ、帰港中の漁師が海面を泳ぐクマを発見。漁協から数百メートル沖合。ハンターが漁船に乗り込み、海上で駆除。雄の成獣 |
| 石狩川を泳ぐヒグマ | 1856年(安政3年)5月 北海道・石狩川 |
探検家の松浦武四郎が、川を泳ぐヒグマを3回目撃したと記録 |
| ホッキョクグマの長距離遊泳 | 2008年 アラスカ・ボーフォート海 |
GPS首輪の雌が9日間で687kmを連続して泳いだ。同じ研究で確認された50回の長距離遊泳は53.7〜687.1km、0.7〜9.7日 |
利尻島の記録は、島の郷土資料館が解説シートとして公開しているものです。そこには「クマは“泳ぎの名手”といわれていますし水浴びも好きで」とあり、知床五湖や大雪山の沼に水浴びのためのヒグマの足跡が必ず見られた、という記述が続きます。クマにとって水辺は日常の一部で、海を渡ることも例外的ではあれ起こり得る、というのが記録の示すところです。
【独自集計】宮城県のクマ目撃1,228件を全部数えた
宮城県は、市町村からの報告を取りまとめた「クマ目撃等情報」をエクセルで公開しています。2026年度分(2026年9月18日9時時点)の全1,228件を数えると、次のようになりました。
| 項目 | 件数 | 割合・補足 |
|---|---|---|
| 合計 | 1,228件 | 2026年4月1日〜9月18日9時 |
| 内訳:目撃 | 1,127件 | 91.8% |
| 内訳:痕跡(足跡・フン・食跡) | 78件 | 6.4% |
| 内訳:その他 | 23件 | 1.9% |
| 市街地(住居集合地域等)での確認 | 129件 | 全体の10.5% |
| 複数頭での出没 | 77件 | 1頭が1,070件、不明81件 |
月別にみると、山は6月でした。
| 月 | 件数 | 備考 |
|---|---|---|
| 4月 | 141件 | 19日から県内全域に「クマ出没警報」 |
| 5月 | 318件 | 警報を6月18日まで継続 |
| 6月 | 347件 | 今年度の最多 |
| 7月 | 222件 | 17日に警報を解除し、18日から注意報へ |
| 8月 | 132件 | 13日に仙台市青葉区で人身被害、同区に警報 |
| 9月(18日まで) | 68件 | 8月31日に警報・注意報とも解除 |
全国のクマ出没は秋、とくに10〜11月に集中します。ところが宮城県は春から初夏にかけてが山で、夏に落ち着いたというのが今年度の形です。県も8月31日、「8月の目撃等件数は例年並みの水準で推移している」として、県内全域の注意報と仙台市青葉区の警報をそろって解除していました。塩竈の一件は、その解除から19日後の出来事です。
市町村別では仙台市青葉区が最多、塩竈市はゼロだった
| 順位 | 市区町村 | 件数 |
|---|---|---|
| 1 | 仙台市青葉区 | 169件 |
| 2 | 大崎市 | 116件 |
| 3 | 栗原市 | 109件 |
| 4 | 大和町 | 99件 |
| 5 | 富谷市 | 86件 |
| 6 | 仙台市泉区 | 79件 |
| 7 | 川崎町 | 64件 |
| — | 塩竈市 | 0件 |
上位は内陸の市町村が占めます。そして塩竈市は、今年度ここまで1件も報告がありませんでした。隣の多賀城市が1件、七ヶ浜町は0件です。海沿いの16市区町村(塩竈・多賀城・七ヶ浜・松島・利府・東松島・石巻・女川・名取・岩沼・亘理・山元・仙台市宮城野区・仙台市若林区・気仙沼・南三陸)を合計しても171件で、県全体の13.9%にとどまります。
環境省の統計でも、宮城は全国平均より増え方が大きい
環境省が都道府県から聞き取ってまとめている速報値(2026年9月9日時点)で、2026年度の4〜7月を前年同期と比べると、次のようになります。
| 区分 | 2025年度 4〜7月 |
2026年度 4〜7月 |
倍率 |
|---|---|---|---|
| 全国 | 12,712件 | 17,364件 | 1.37倍 |
| 宮城県 | 538件 | 1,028件 | 1.91倍 |
| 岩手県 | 2,639件 | 4,302件 | 1.63倍 |
| 秋田県 | 2,362件 | 3,017件 | 1.28倍 |
宮城県の1.91倍は、前年同期に100件以上の報告があった県のなかで栃木県の2.01倍に次ぐ2番目の伸びです(当サイトが47都道府県分を集計)。件数そのものは岩手・秋田が桁違いに多いものの、増え方でみると宮城は全国平均を大きく上回っています。
水辺・海辺でクマに出会ったら
「泳いで逃げる」は選択肢になりません。クマは泳げますし、今回のように港の中を1キロ移動することもできます。水辺だから安全という考え方は捨てたほうが確実です。
・走って逃げない。背中を見せず、クマの様子を見ながらゆっくり距離をとる
・水に飛び込んで逃げようとしない。クマは泳げる
・船や車、鍵のかかる建物など、あいだに壁がある場所に入る。塩竈の乗組員3人は鍵のかかる部屋に避難して無事だった
・すぐに110番または市町村に通報する。海上なら漁協や海上保安庁にも
・見かけた場所と時刻を具体的に伝える。自治体の出没情報はこうした通報の積み重ねでできている
2025年9月からは、市町村長の判断で市街地でも「緊急銃猟」ができる制度が始まっています。ただし今回のように相手が海に入ってしまうと、追跡そのものが難しくなります。塩竈のクマも、海岸の茂みで見つかったあと行方が分からないままです。
よくある質問
Q. クマは泳げますか?
A. 泳げます。利尻島の郷土資料館の解説シートにも「クマは“泳ぎの名手”といわれていますし水浴びも好きで」と書かれています。2026年9月の塩竈市の事例では、海に転落したクマが約1キロ離れた海岸まで泳いだとみられています。
Q. クマは何キロくらい泳げますか?
A. 国内で確認できる記録としては、1912年に北海道の利尻島へ渡ったヒグマがあります。対岸からの最短ルートでも直線で20kmあり、言い伝えにある天塩からだと約50kmになります。クマ類全体でみると、アラスカのホッキョクグマがGPS首輪の記録で9日間に687km泳いだ例があります。ただしホッキョクグマは水中生活に適応した別の種です。
Q. 塩竈のクマはどうなりましたか?
A. 2026年9月20日未明に漁船から海へ転落し、約1時間後に1キロほど北東の海岸の茂みで見つかりましたが、その後行方が分からなくなっています。近くには事業所や住宅が多く、県警と市が捜索と警戒を続けています。
Q. 宮城県は今、クマの警報が出ていますか?
A. 県内全域の「クマ出没注意報」と仙台市青葉区の「クマ出没警報」は、8月の目撃等件数が例年並みだったことから2026年8月31日にそろって解除されています。警報・注意報が出ていない時期の出来事でした。
Q. 塩竈市ではこれまでクマが出ていたのですか?
A. 宮城県が公表している2026年度のクマ目撃等情報(9月18日9時時点、1,228件)を当サイトで数えたところ、塩竈市の報告は0件でした。隣の多賀城市が1件、七ヶ浜町は0件です。
Q. 海辺や港でクマを見たらどうすればいいですか?
A. 走って逃げたり水に飛び込んだりせず、船内や車、鍵のかかる建物などクマとのあいだに壁ができる場所へ移動し、110番または市町村に通報してください。海上であれば漁協や海上保安庁にも連絡します。
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共同通信「マグロ漁船にクマ、海転落 宮城、岸まで泳いだか」(2026年9月20日配信)
宮城県「令和8年度クマ目撃等情報」(集計表エクセル、2026年9月18日9時時点)
宮城県「「クマ出没警報・注意報」を解除します」(2026年8月31日)ほか一連の記者発表
環境省「クマ類の出没情報について[速報値]」(2026年9月9日時点)
利尻富士町「利尻島郷土資料館解説シート 利尻の自然II 海を泳ぎ渡ったヒグマ」
利尻富士町「利尻島におけるヒグマ生息の終息宣言について」(2019年6月28日)
東奥日報「海泳ぐクマ発見/青森県・野辺地沖の陸奥湾」(2025年11月13日)
U.S. Geological Survey「Long-distance swimming by polar bears (Ursus maritimus) of the southern Beaufort Sea during years of extensive open water」
※市町村別・月別・市街地判定の集計と、都道府県別の前年同期比は、上記の公表データをもとに当サイトで計算したものです。
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