2026年9月19日開幕|愛知・名古屋アジア大会の「メダルのお金」を一次資料で整理
アジア大会でメダルを取った日本選手は、いくら報奨金をもらえるのでしょうか。答えは「国やJOCからは一律の報奨金がなく、競技団体しだい」です。日本陸連は金メダルに100万円、トライアスロンジャパンは200万円。一方でシンガポールは個人の金に約2,460万円、インドネシアは約2,640万円を用意しています。この記事では、日本の競技団体が発表した金額、アジア10か国・地域の比較、そして意外に知られていない「アジア大会の報奨金は課税される」という事実を、法令と各団体の公表資料で解説します。
第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)が9月19日に開幕しました。オリンピックなら「金メダルはJOCから500万円」とよく知られていますが、アジア大会については意外なほど情報がまとまっていません。当ブログで各競技団体の発表と各国政府・オリンピック委員会の公式資料を集め、9月19日時点でわかることを一つの表にしました。
この記事の結論
- 日本では国もJOCも、アジア大会のメダルに一律の報奨金を出していません。スポーツ庁が案内するJOC報奨金(金500万円・銀200万円・銅100万円)はオリンピックが対象です。
- 報奨金を出すかどうかは競技団体ごとの判断。9月19日時点で公表を確認できたのは、日本陸連(金100万円、リレーは1人50万円)とトライアスロンジャパン(個人の金200万円・銀100万円・銅50万円)の2団体です。
- アジア各国・地域と比べると日本は下位。円換算の金メダル報奨金はインドネシア約2,640万円、シンガポール約2,460万円、香港約2,000万円、台湾約1,480万円、インド約820万円で、日本陸連の100万円はベトナム(国の分約170万円)より少なく、韓国(政府分約14万円)よりは多い順位です。
- アジア大会の報奨金は課税対象。所得税法で非課税と定められているのはオリンピック・パラリンピックの報奨金だけです。陸連の100万円なら一時所得として25万円が課税所得に加わります。
1. 日本にはアジア大会の「国・JOCの報奨金」がない
まず前提から確認します。スポーツ庁の解説ページによると、オリンピックのメダリストには日本オリンピック委員会(JOC)から金500万円・銀200万円・銅100万円(金は2016年リオ大会から300万円を増額)、パラリンピックには日本パラスポーツ協会(JPSA)から金300万円・銀200万円・銅100万円が支給されます。ところがこのページにアジア大会の記載はなく、JOCが公表している報奨金制度もオリンピックを対象にしたものです。
つまりアジア大会では、メダルを取っても国やJOCから自動的に振り込まれるお金はありません。あるのは、各競技の国内統括団体(陸連・水連・卓球協会など)が独自に決める報奨金と、所属企業や自治体からの祝い金だけです。競技団体が制度を持っていなければ、金メダルでも報奨金はゼロになります。
2. 日本の競技団体が発表したアジア大会2026の報奨金一覧
当ブログが9月19日時点で公表(公式サイトまたは理事会決定の報道)を確認できたのは次の2団体です。他の団体は発表がないか、内規として非公表のため、表に入れていません。
| 競技団体 | 金 | 銀 | 銅 | 備考・出典 |
|---|---|---|---|---|
| 日本陸上競技連盟 | 100万円 | なし | なし | 優勝者のみ。リレーは予選・決勝に出た全選手に半額の50万円。2006年ドーハ大会から導入、2018年・2023年も100万円で据え置き。6月14日の第112回理事会で決定(月刊陸上競技) |
| トライアスロンジャパン(個人) | 200万円 | 100万円 | 50万円 | 前回杭州大会(金50万円)の4倍。9月3日承認、公式サイトで公表 |
| トライアスロンジャパン(ミックスリレー) | 1人40万円計240万円 | 1人15万円計90万円 | 1人6万円計36万円 | 出場4選手と補欠2名の計6名が対象 |
| JOC | なし | なし | なし | 報奨金制度はオリンピック(金500万円・銀200万円・銅100万円)のみ |
同じ「アジア大会の金メダル」でも、陸上なら100万円、トライアスロンなら200万円、制度がない競技なら0円と、競技によって差が出るのが日本の特徴です。前回の杭州大会では、陸上で男子200mの上山紘輝選手と男子110mハードルの高山峻野選手が金メダルを獲得し、陸連の報奨金の対象になりました。トライアスロンは杭州で金3つを取りましたが、当時の報奨金は個人の金で50万円でした。
なぜトライアスロンは4倍にしたのか
トライアスロンジャパンは今回、個人の金を50万円から200万円へ引き上げ、報奨金の総額も前回の約3.5倍にしました(時事通信)。地元開催で注目が集まる大会に合わせて選手のモチベーションを上げる狙いと報じられています。陸連が2006年から100万円を据え置いているのとは対照的で、団体の財政力や大会の位置づけによって金額の考え方が分かれています。
3. アジア各国・地域の金メダル報奨金を円換算で比較
次に、各国政府やオリンピック委員会が公表している金メダル報奨金を、2026年9月19日時点の為替レートで円に換算しました。日本と違い、多くの国では国または国内オリンピック委員会が一律の制度を持っています。
| 国・地域 | 金メダル | 円換算 | 誰が払うか・条件 |
|---|---|---|---|
| 1インドネシア | 30億ルピア | 約2,640万円 | 政府。プラボウォ大統領が9月9日の壮行会で表明。前回杭州の15.75億ルピアから約2倍 |
| 2シンガポール | 20万シンガポールドル | 約2,460万円 | 国内オリンピック委員会(SNOC)のMAP制度。銀10万ドル・銅5万ドル。団体競技の金は60万ドル(約7,380万円)。課税され、20%を競技団体へ拠出 |
| 3香港 | 100万香港ドル | 約2,000万円 | 香港ジョッキークラブの奨励金制度(香港スポーツ学院が運営)。団体種目の金は200万香港ドル(約4,000万円) |
| 4台湾 | 300万台湾ドル | 約1,480万円 | 国光体育奨章(法令)。銀150万・銅90万台湾ドル。陸上・体操・水泳は1.5倍(金450万台湾ドル=約2,220万円)。中華オリンピック委員会が別に2,000米ドルを上乗せ |
| 5インド | 50万ルピー | 約820万円 | 中央政府(青年スポーツ省)。2026年8月に30万ルピーから引き上げ。銀30万・銅25万ルピー。州政府の上乗せは別 |
| 6フィリピン | 200万ペソ | 約500万円 | 共和国法10699号で法定。銀100万・銅40万ペソ。大統領の上乗せを検討中(8月25日時点) |
| 7マレーシア | 8万リンギット | 約310万円 | 国家スポーツ評議会の奨励制度(SHAKAM)。バスケットボール協会はマンション1戸と5万リンギットを別途用意 |
| 8日本(トライアスロン) | 200万円 | 200万円 | 競技団体のみ。国・JOCの分はなし |
| 9ベトナム | 2億8,000万ドン | 約170万円 | 政令349/2025号。銀1億7,000万・銅1億1,000万ドン。選手団の「即時ボーナス」2億ドン(約120万円)と、次回大会まで月2,000万ドンの手当が別に付く |
| 10日本(陸上) | 100万円 | 100万円 | 競技団体のみ。制度のない競技は0円 |
| 11韓国 | 120万ウォン | 約14万円 | 政府の一時金(銀70万・銅40万ウォン)。ただし金メダルで兵役の代替服務(芸術・体育要員)の資格を得る。年金ポイント制度と競技団体の上乗せも別 |
為替は9月19日のドル円156.9円、シンガポールドル122.9円、香港ドル20.0円、台湾ドル4.93円、インドルピー1.63円、フィリピンペソ2.49円、リンギット38.4円、ドン0.006円、ウォン0.113円、ルピア0.0088円で計算しています。
日本の100万円は「アジアで下から数えたほうが早い」
表を見ると、日本の陸連100万円は調べた11の枠のうち下から2番目です。日本より少ないのは韓国の政府一時金だけですが、韓国には後述するとおり兵役の特例という日本にはない見返りがあります。ベトナムでさえ国の報奨金だけで約170万円、即時ボーナスを合わせると約290万円で、日本のトライアスロンを上回ります。
ただし、この差は単純な「日本がケチ」という話ではありません。シンガポールやインドネシアのように金メダルが年に数個しか出ない国では、高額の報奨金でも総額は限られます。一方の日本は前回杭州大会で金52個・メダル188個を取っています。仮に52個の金すべてにシンガポールの個人レート(約2,460万円)を払うと単純計算で約12.8億円、インドネシアのレートなら約13.7億円になります。陸連の100万円レートでも5,200万円です。メダル大国ほど1個あたりの単価は下がる、という構造があります。
4. 韓国は14万円でも「兵役免除」がある
韓国の政府一時金は金120万ウォン(約14万円)と、表の中では最も少ない金額です。しかし韓国の男子選手にとってアジア大会の金メダルは、お金より大きな意味を持ちます。アジア大会の金メダル(オリンピックは銅以上)で「芸術・体育要員」として兵役の代替服務が認められるからです。約1年半〜2年の現役服務の代わりに、基礎軍事訓練と社会奉仕活動で済み、競技を続けられます。
さらに、韓国には国民体育振興公団の「競技力向上研究年金」というポイント制度があり、アジア大会の金は10点、銀2点、銅1点。累計20点以上で毎月の年金が始まり、110点以上で月100万ウォンが支給されます。20点に届かない選手でも、アジア大会の金なら450万ウォン(約51万円)の特別奨励金が一時金で出ます(世界日報 2026年8月28日)。競技団体の上乗せも大きく、韓国のMMA協会は金メダル1人3億ウォン(約3,400万円)を約束しています。
「金メダルの価値」は国の事情で決まる
- 韓国:現金は少ないが兵役の特例が最大の報酬。オリンピック銅と同じ扱いになるのはアジア大会の金だけ
- シンガポール・香港:人口が少なくメダルが希少なため、1個あたりの単価が高い。香港は競馬の収益を原資にしている
- ベトナム・インドネシア:政府が国威発揚として増額。ベトナムは月々の手当まで法令で定めている
- 日本:メダル数が多く、国の一律制度は五輪に限定。アジア大会は各競技団体の裁量
5. アジア大会の報奨金は課税される(五輪との決定的な違い)
ここが最も見落とされやすいポイントです。オリンピックの報奨金が非課税なのは、所得税法第9条第1項第14号が「オリンピック競技大会又はパラリンピック競技大会において特に優秀な成績を収めた者を表彰するもの」としてJOC・JPSAとその加盟団体から交付される金品を非課税と定めているからです。参議院法制局の解説によれば、1992年バルセロナ五輪で当時中学2年生の岩崎恭子選手の報奨金に課税されたことがきっかけで1994年に非課税規定が設けられ、2020年度税制改正で加盟団体の分も金500万円・銀200万円・銅100万円まで非課税になりました。
条文にあるのは「オリンピック」と「パラリンピック」だけです。アジア大会は含まれていません。したがって、日本陸連やトライアスロンジャパンからのアジア大会の報奨金は、原則として一時所得として課税されます。
| 受け取る報奨金 | 一時所得の計算 | 課税所得に加わる額 | 五輪なら |
|---|---|---|---|
| 陸連の金100万円 | (100万円−特別控除50万円)×1/2 | 25万円税率20%なら所得税・住民税で約5万円 | 非課税 |
| トライアスロンの金200万円 | (200万円−50万円)×1/2 | 75万円税率20%なら約15万円 | 非課税 |
| リレーの1人50万円 | (50万円−50万円)×1/2 | 0円特別控除の範囲内。ただし同じ年の他の一時所得と合算 | 非課税 |
一時所得には年間50万円の特別控除があり、控除後の金額の2分の1が給与などと合算されます。したがってリレーの50万円だけなら税金はかかりませんが、同じ年に他の一時所得(保険の満期金など)があれば合算されます。また、所属企業から「祝い金」として受け取る場合は給与所得(賞与)扱いになり、社会保険料の対象にもなり得ます。なお、シンガポールのMAP制度も公式に「課税対象」と明記しており、報奨金が課税されるのは日本だけの話ではありません。
6. 大会中に確認しておきたいこと
- 日本のアジア大会陸上競技は9月23日〜29日。ここで金メダルが出れば陸連の100万円が確定します。トライアスロンは9月20日〜21日で、大会序盤に200万円の対象者が決まる可能性があります。
- 他の競技団体(水泳・体操・卓球・柔道など)は、大会後に理事会で報奨金を決めるケースもあります。前回杭州で日本は金52個。競技別では自転車11・水泳5・レスリング5・柔道5でした。
- 各国の報奨金は大会中に上乗せが発表されることがあります。フィリピンは大統領の上乗せを検討中、マレーシアのバドミントン協会も特別報奨を検討中です。
7. よくある質問
Q. アジア大会で金メダルを取ると日本選手はいくらもらえますか?
A. 国やJOCからの一律の報奨金はなく、競技団体しだいです。2026年愛知・名古屋大会では、日本陸連が優勝者に100万円(リレーは1人50万円)、トライアスロンジャパンが個人の金に200万円・銀100万円・銅50万円を公表しています。制度のない競技では、所属企業などの祝い金を除けば0円です。
Q. オリンピックの500万円はアジア大会にも出ますか?
A. 出ません。JOCの金500万円・銀200万円・銅100万円はオリンピックのメダリストが対象で、スポーツ庁の解説ページにもアジア大会の記載はありません。
Q. アジア大会の報奨金に税金はかかりますか?
A. かかります。所得税法第9条第1項第14号で非課税とされているのはオリンピック・パラリンピックの報奨金だけです。アジア大会の報奨金は原則として一時所得で、年間50万円の特別控除を引いた額の2分の1が課税所得に加わります。陸連の100万円なら25万円が加算されます。
Q. アジアで金メダルの報奨金が一番高い国はどこですか?
A. 当ブログが公表資料で確認できた範囲では、インドネシア政府の30億ルピア(約2,640万円)が最高で、シンガポールの20万シンガポールドル(約2,460万円)、香港の100万香港ドル(約2,000万円)が続きます。シンガポールの団体競技(60万ドル=約7,380万円)や香港の団体種目(200万香港ドル=約4,000万円)は個人よりさらに高額です。
Q. 韓国選手の報奨金が少ないのはなぜですか?
A. 政府の一時金は金120万ウォン(約14万円)ですが、韓国ではアジア大会の金メダルで兵役の代替服務(芸術・体育要員)が認められ、年金ポイントや競技団体の上乗せも別にあります。現金より制度上の見返りが大きい仕組みです。
8. まとめ
- 日本のアジア大会の報奨金は「国・JOCなし、競技団体しだい」。公表済みは陸連の金100万円とトライアスロンの金200万円。
- アジア各国と比べると日本は下位。インドネシア約2,640万円、シンガポール約2,460万円、香港約2,000万円、台湾約1,480万円、インド約820万円。
- 韓国は現金14万円でも兵役の特例があり、単純な金額比較では測れない。
- アジア大会の報奨金は五輪と違って課税対象。陸連の100万円なら一時所得25万円が課税所得に加わる。
参考資料:スポーツ庁「オリンピック・パラリンピック競技大会の報奨金」/トライアスロンジャパン「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)報奨金」(2026年9月3日)/月刊陸上競技「名古屋アジア大会優勝者に報奨金100万円 日本陸連が発表」(2026年6月14日)/e-Gov法令検索「所得税法」第9条第1項第14号/参議院法制局「もしメダリストになったら―賞金と税金のはなし―」/シンガポール国内オリンピック委員会「Major Games Award Programme 2025-2028」(PDF)/RTHK「Athlete cash incentive renewed ahead of Asian Games」(2026年8月12日)/ANTARA「Indonesia sets sights on Aichi-Nagoya Asian Games with bonus boost」/台湾 全国法規資料庫「國光體育獎章及獎助學金頒發辦法」/Republic World「Centre Revises Cash Awards For Medalists」(2026年8月2日)/Daily Tribune「PSC boosts gov’t incentive」/Tuổi Trẻ「Thể thao Việt Nam sẽ thưởng ‘nóng’ cho VĐV giành huy chương Asiad 20」/Free Malaysia Today「BAM considers special incentive for Asian Games gold」/世界日報「아시안게임 ‘메달값’의 비밀」(2026年8月28日)/杭州大会のメダル数はJOC・大会公式集計。為替レートは2026年9月19日のYahoo!ファイナンス終値ベース。


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