震災関連死 922人
その死因の 24%が肺炎
阪神・淡路大震災では、建物の倒壊などによる直接死とは別に、避難生活のなかで922人が亡くなりました。死因で最も多かったのが肺炎です。その背景には水が足りず、歯を磨けなかったという衛生環境の問題がありました。防災の衛生用品は「あれば快適」なものではなく、命に直結する備えです。この記事では必要な品目と量を、公的資料をもとに整理します。
衛生用品が「命に関わる」といわれる理由
阪神・淡路大震災の死者は6,434人。このうち家屋の倒壊による圧死や窒息死といった「直接死」が5,512人で、残る922人(総死亡者の14.3%)が震災関連死でした。地震そのものを生き延びたにもかかわらず、その後わずか2か月ほどの間に失われた命です。
日本口腔衛生学会などがまとめた報告集は、この関連死の内訳をこう記しています。
そして同じ報告集は、その原因についても踏み込んでいます。阪神・淡路大震災では極端に飲み水が不足していたため、口腔内および義歯の清掃ができなかったと指摘されているのです。
口の中の細菌が唾液とともに気管に入って起こる誤嚥性肺炎は、高齢者の肺炎の多くを占めます。逆にいえば、口の中を清潔に保つだけで防げる余地が大きいということです。実際、要介護高齢者を対象にした研究では、口腔ケアによって肺炎の発症率を約40%減らせたと報告されています。
①口腔ケア 水がなくてもできる方法を用意する
断水中でも口の中を清潔に保つ方法はあります。優先順位は次のとおりです。
必要量は1日2回×日数×人数で計算します。4人家族が1週間なら、歯みがきシートは56枚。90枚入りのパックが1つあれば足ります。
| 世帯人数 | 3日分 | 7日分 |
|---|---|---|
| 1人暮らし | 6枚 | 14枚 |
| 2人 | 12枚 | 28枚 |
| 4人 | 24枚 | 56枚 |
②手指の衛生 アルコールだけでは足りない
避難所で怖いのが、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の集団発生です。ここで知っておきたいのが、ノロウイルスにはアルコール消毒があまり効かないという事実です。厚生労働省の「ノロウイルスに関するQ&A」でも、エタノールや逆性石けんはノロウイルスの失活にあまり効果がないとされています。
厚労省が最も有効としているのは手洗いで、失活させる方法としては次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が挙げられています。断水時に備えるなら、次の組み合わせが現実的です。
| 用途 | 備えるもの | 目安の量(4人・1週間) |
|---|---|---|
| 食事前・トイレ後の手指 | ウェットティッシュ、アルコールジェル | 1人1日5回で140回分 |
| おう吐物・便の処理 | 塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)、使い捨て手袋、ポリ袋 | 漂白剤1本、手袋1箱 |
| 調理・配膳 | 使い捨て手袋、ラップ(食器に敷いて洗い物を減らす) | ラップ2〜3本 |
家庭用の塩素系漂白剤は、薄めれば消毒に使えます。使い方は製品の表示に従ってください。他の洗剤と混ぜると有害なガスが出るため、扱いには十分な注意が必要です。
③体を清潔に保つ 入浴できない期間を想定する
断水と停電が重なると、風呂に入れない期間が続きます。体を拭けないことは、皮膚トラブルだけでなく気力の低下にもつながります。
備えるものは大きく3つです。
④女性・乳幼児・要配慮者の用品
内閣府男女共同参画局の「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」(令和2年5月)には、自治体向けの備蓄チェックシートが付いています。「女性用品」の欄に並んでいるのは次の品目です。
- 生理用ナプキン(普通、長時間向け等)
- おりものシート
- サニタリーショーツ/女性用下着(各種サイズ)
- 防犯ブザー/ホイッスル
- 中身が見えないゴミ袋
このシートには令和7年8月25日に「使い捨て下着等」が追記されました。理由も明記されていて、避難所では物干し場がなかったり断水で洗濯ができなかったりするため、使い捨て下着やおりものシートがあると衛生を保ちやすいから、とされています。「中身が見えないゴミ袋」が公的なチェックリストに入っている点も、実際の避難所の事情を映しています。
これらは「避難所でもらえるだろう」と考えられがちですが、支援物資が届くまでには数日かかります。生理用品は1周期分を目安に、自宅と持ち出し袋の両方に分けて入れておくのが安全です。同じチェックシートには乳幼児用の紙おむつやおむつ用ビニール袋、授乳用品も挙げられており、小さな子どもがいる家庭ではこれらがそのまま生活の可否を決めます。
衛生用品チェックリスト(4人家族・1週間の目安)
| 分類 | 品目 | 目安 |
|---|---|---|
| 口腔ケア | 歯みがきシート/液体歯みがき | 56枚(1人1日2回) |
| 手指 | ウェットティッシュ、アルコールジェル | 140回分 |
| 汚物処理 | 塩素系漂白剤、使い捨て手袋、ポリ袋 | 各1 |
| 体 | 大判の体拭きシート | 28枚(1人1日1枚) |
| 髪 | ドライシャンプー | 1〜3本 |
| 衣類 | 使い捨て下着、着替え | 1人3〜7組 |
| 女性 | 生理用品 | 1周期分 |
| 乳幼児 | 紙おむつ、おしりふき、液体ミルク | 1週間分 |
| その他 | マスク、ゴミ袋、ラップ、常備薬 | 1週間分 |
この一覧のうち、多くの家庭で欠けているのが口腔ケア用品と汚物処理セットです。どちらも数百円から千円程度で用意できます。
買い足すならこの順番
優先度が高いのは、代わりが効かないものです。ウェットティッシュは他の用途でも使えますが、歯みがきシートやドライシャンプーは代用が難しく、断水してから買おうとしても店頭から消えています。
よくある質問
Q. 災害時の衛生用品で最優先は何ですか?
A. 口腔ケア用品です。阪神・淡路大震災では震災関連死922人の死因の24%が肺炎で、その背景に水不足で歯を磨けなかったことが指摘されています。高齢の家族がいる家庭ではとくに優先度が高くなります。
Q. 断水中に歯を磨くにはどうすればいいですか?
A. 歯みがきシートなら水が要りません。液体歯みがきを口に含んですすぐ方法も有効です。どちらもない場合は、コップ1杯の水を3回に分けてすすぐだけでも、何もしないよりは口腔内の細菌を減らせます。
Q. ノロウイルスにアルコール消毒は効きますか?
A. 厚生労働省の「ノロウイルスに関するQ&A」では、エタノールや逆性石けんはノロウイルスの失活にあまり効果がないとされています。最も有効な対策は手洗いで、失活には次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が挙げられています。避難所ではウェットティッシュに加えて塩素系漂白剤を用意しておくと安心です。
Q. 生理用品はどれくらい備えればいいですか?
A. 1周期分を目安に、自宅の備蓄と持ち出し袋の両方に分けて入れておくのが安全です。内閣府男女共同参画局のガイドラインでも、生理用品や女性用下着は早期に必要となる物資として挙げられていますが、支援物資が届くまでには数日かかります。
Q. 体拭きシートは何枚あればいいですか?
A. 大判タイプなら1人1日1枚が目安です。4人家族の1週間分で28枚、20枚入りのパックを2つそろえておく計算になります。夏場は汗をかくため、多めに見ておくと安心です。
Q. 衛生用品はどこに置いておくべきですか?
A. 持ち出し袋と自宅の備蓄に分散させるのが基本です。歯みがきシートや生理用品のようにかさばらないものは持ち出し袋に、体拭きシートや漂白剤など重くかさばるものは自宅の備蓄に置いておくと、避難する場合も在宅避難の場合も対応できます。
まとめ
衛生用品は、備蓄率が38.4%と低いにもかかわらず、避難生活の長さに比例して重要度が上がる備えです。阪神・淡路大震災の震災関連死922人のうち24%が肺炎だったという事実は、歯みがきシート1パックの意味を変えます。
まず口腔ケア用品、次に手指の衛生、そして体を拭くもの。この順番で買い足せば、数千円で「最も薄い備え」を埋められます。
参考にした一次情報
・内閣府「防災に関する世論調査(令和7年8月調査)」
・日本口腔衛生学会ほか「大規模災害時の口腔ケアに関する報告集」(PDF)
・厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
・内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」(令和2年5月)


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