FX・仕組み
国内FXは呑み行為?DD・NDDの違いと未カバー率を9社で確認
「国内FXはDD方式だから客の注文を呑んでいる」という説明が、海外FX業者の記事を中心に大量に出回っています。ところがこの論点は、推測で語る必要がありません。2019年9月から、国内の店頭FX業者は「未カバー率」を毎月公表することが内閣府令で義務づけられているからです。どれだけ市場に流さず自社で抱えているかが、数字で毎月出ています。9社の公式開示を集めると、最新の未カバー率は0%から39%までと大きく開いていました。同じ「国内FX」でも中身はまったく違います。
この記事の結論
- 「呑んでいるか」は毎月公表されています。金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項28号の2により、店頭FX業者は未カバー率・カバー取引の状況・平均証拠金率を、翌月20日までに公表しなければ取引契約を締結できません。
- 9社の最新の未カバー率はSBI FXトレードの0%から、DMM.com証券の39%まで。三菱UFJ eスマート証券0.1%、楽天証券1%、外為どっとコム1%、松井証券4%と、1桁台が多数派です。
- 数字は月ごとに動きます。DMM.com証券の直近8か月は28%から54%の間で、平均37.8%。逆にみんなのFXは13か月すべて4.99%から10.54%の範囲に収まっています。
- 未カバー率が高いこと自体は違法でも不正でもありません。店頭FXは業者が取引相手になる相対取引で、カバー取引は義務ではないからです。高いほど業者が為替リスクを抱えるため、自己資本や信託保全と合わせて見る指標です。
- 証券用語の「呑み行為」は取引所取引で顧客注文を取引所に取り次がない行為を指します。最初から相対取引である店頭FXは、この定義に当てはまりません。
結論:推測する必要がない論点だった
「DD方式」「NDD方式」という言葉は、海外FX業者とその紹介サイトが好んで使います。DD方式はディーリングデスクを通す方式、NDD方式は通さない方式で、「DDは業者が客の注文を呑んでいる」「NDDは透明」という説明が定番です。
この構図には決定的な穴があります。DD方式かNDD方式かは業者の自己申告にすぎませんが、日本の登録業者については実際にどれだけカバーしていないかが公的に開示されているのです。宣伝文句ではなく数字で確認できます。
未カバー率とは何か:条文と計算式
そもそもカバー取引とは
店頭FXでは、あなたの注文の相手方になるのはFX会社そのものです。会社は顧客から引き受けたポジションを、そのまま抱えることもできますし、銀行など外部の金融機関と反対の取引をしてリスクを打ち消すこともできます。この外部との取引がカバー取引です。
カバーせずに残ったポジションが未カバーポジションで、その割合が未カバー率です。各社が公表している計算式は共通です。
未カバー率 =(未カバーポジション ÷ |顧客の買い建玉 − 顧客の売り建玉|)× 100
未カバーポジションとは「顧客の建玉のうち、顧客の建玉同士で売り買いが対当しておらず、かつカバーされていない顧客の建玉」。計測は23時・25時・27時の3時点のうち、未カバーポジションの額が最大となる時点で行います。
注意したいのは分母です。顧客の買いと売りの差額が分母になっています。顧客同士の売り買いが相殺されている部分は、そもそも会社のリスクにならないため除かれます。つまり未カバー率は「会社が最終的に自分で背負っている為替リスクの割合」を表します。
公表義務の根拠
この開示は業界の自主的な取り組みではなく、法令上の義務です。金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項28号の2は、店頭FX業者が毎月の基準時点における未カバー率などを「その翌月二十日までにインターネットの利用その他の方法により、投資者が常に容易に閲覧することができるよう公表することなく」店頭FX取引の契約を締結する行為を、禁止行為として定めています。公表しなければ営業できない建て付けです。
金融庁は2018年2月に「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」を設置し、6回の検討を経て同年6月13日に報告書を公表しました。金融先物取引業協会の解説によれば、報告書は課題として①ストレステストを通じた自己資本の拡充 ②取引データの報告制度の充実 ③未カバーポジションの情報開示を挙げています。背景には、年間取引規模が5,000兆円程度まで拡大した店頭FXで業者が破綻すれば、顧客やカバー取引先だけでなく外国為替市場や金融システムにも影響が及ぶという問題意識がありました。
【集計】9社の未カバー率と平均証拠金率
各社が公表している最新のリスク情報を、2026年9月15日時点で集めました。未カバー率の低い順ではなく、高い順に並べています。
| 会社 | 未カバー率 | 平均証拠金率 | 計測日 |
|---|---|---|---|
| DMM.com証券 | 39% | 14% | 2026年8月31日 |
| ソニー銀行 | 22.0% | 20.9% | 2026年7月31日 |
| GMOクリック証券 | 6.26% | 12.08% | 2026年7月31日 |
| みんなのFX(トレイダーズ証券) | 6.25% | 16.70% | 2026年7月31日 |
| 松井証券 | 4% | 14% | 2026年8月31日 |
| 外為どっとコム | 1% | 22% | 2026年8月31日 |
| 楽天証券 | 1% | 13% | 最新公表分 |
| 三菱UFJ eスマート証券 | 0.1% | 10.7% | 2026年8月31日 |
| SBI FXトレード | 0% | 16.99% | 2026年7月31日 |
※各社が自社サイトで公表している「店頭FX取引に係るリスク情報に関する開示」より。表記の桁数は各社の公表どおりです。計測日は会社によって直近の公表月が異なります。
9社のうち6社が1桁台、うち3社は1%以下です。「国内FXは客の注文を呑んでいる」という一般化は、少なくともこの6社には当てはまりません。一方でDMM.com証券の39%とソニー銀行の22.0%は、顧客ポジションの相応の部分を自社で抱えていることを示しています。
数字は月ごとに動く:3社の時系列
1か月だけを見て判断するのは早計です。複数月を公表している会社を並べると、性格の違いがはっきりします。
| 会社 | 公表月数 | 平均 | 最小〜最大 |
|---|---|---|---|
| DMM.com証券 | 8か月 | 37.8% | 28%〜54% |
| ソニー銀行 | 4か月 | 32.8% | 10.6%〜49.9% |
| みんなのFX | 13か月 | 7.00% | 4.99%〜10.54% |
読み取れるのはぶれ幅の違いです。みんなのFXは13か月すべてが5%前後から10%台前半に収まっており、運用方針が一貫しています。対してソニー銀行は4か月で10.6%から49.9%まで振れており、月によって性格が変わります。DMM.com証券も28%から54%と幅があります。
今回の表でDMM.com証券は39%ですが、直前の7月末は54%、6月末は34%でした。たまたま見た月の数字が、その会社の常態とは限りません。各社とも過去分を並べて公表しているので、比較するなら数か月分を見てください。
未カバー率が高いと何が問題なのか
ここを誤解している記事が多いので、丁寧に整理します。未カバー率が高いこと自体は、違法でも不正でもありません。
店頭FXは、もともと業者が相手方になる取引
店頭FXは取引所を通さない相対取引です。あなたの注文の相手方は最初からFX会社であり、それを前提に金融商品取引法上の登録を受けています。カバー取引を行うかどうかは会社のリスク管理の判断であって、法令上の義務ではありません。
証券用語の「呑み行為」とは別物
日本証券業協会が定義する「呑行為」は、取引所取引において顧客の注文を取引所に取り次がず、自己がその相手方となる行為を指します。取引所に流すべき注文を流さないことが問題なのであって、最初から取引所を経由しない店頭FXはこの定義に当てはまりません。「国内FXは合法的な呑み行為」という言い回しは、異なる制度の用語を持ち込んだものです。
本当のリスクは業者の側に生じる
では未カバー率の高さは何を意味するのか。会社が自分で為替リスクを抱えている割合です。顧客が儲かれば会社が払い、顧客が損すれば会社に残ります。相場が大きく動いたとき、未カバーポジションを大量に抱えた会社は損失を被る可能性があります。金融庁が開示させているのも、顧客との利益相反ではなく業者の決済リスクを投資家に見えるようにするためです。
未カバー率は、自己資本規制比率や信託保全の体制と合わせて見る指標です。リスクを抱えていても、それに耐える資本があるかどうかが問題になります。自己資本規制比率の読み方と各社の水準、信託保全の仕組みはFX会社が倒産したら証拠金は戻る?で確認しました。会社が破綻しても顧客の証拠金は信託銀行から返還される建て付けになっています。
もうひとつの指標、平均証拠金率
同じ開示にある平均証拠金率は「実預託額 ÷(顧客の買い建玉+顧客の売り建玉)× 100」で計算され、取引終了時点で計測されます。低いほど顧客がレバレッジを高くかけていることを意味し、各社は「証拠金率が低い場合には、顧客未収金リスクが大きくなります」と説明しています。今回の9社では10.7%から22%の範囲でした。国内の個人向けレバレッジ上限25倍は証拠金率4%に相当するので、平均ではかなり余裕を持って使われていることがわかります。
この開示をどう使うか
- STEP 1使っている会社の開示ページを見る「会社名+店頭FX取引に係るリスク情報」で検索すれば公式ページが出ます。法令上、翌月20日までに公表する義務があるので、必ずどこかにあります。
- STEP 21か月ではなく数か月を並べる多くの会社が過去分も残しています。平均と振れ幅を見れば、その会社の運用方針が見えます。
- STEP 3自己資本規制比率と合わせて読む未カバー率が高い会社ほど、それを支える資本が問われます。両方を公表しているので、セットで確認してください。
- STEP 4数字より先に、登録業者かを確認するそもそもこの開示義務があるのは金融庁に登録した業者だけです。金融庁は警告済みの無登録業者を一覧で公表しています。海外業者にはこの開示も、信託保全の義務もありません。
よくある質問
Q. 国内FXは客の注文を呑んでいるのですか?
A. どれだけ自社で抱えているかは、未カバー率として毎月公表されています。今回集計した9社の最新値は0%から39%で、6社は1桁台でした。一律に「呑んでいる」とは言えません。なお店頭FXは最初から業者が取引相手になる相対取引なので、取引所取引で禁止されている「呑み行為」とは制度上別のものです。
Q. 未カバー率はどこで確認できますか?
A. 各社の公式サイトの「店頭FX取引に係るリスク情報に関する開示」です。金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項28号の2により、毎月の基準時点の数値を翌月20日までに公表しなければ取引契約を締結できないと定められています。公表がない登録業者は存在しません。
Q. 未カバー率が高い会社は避けるべきですか?
A. 高いこと自体は違法でも不正でもありません。カバー取引は法令上の義務ではなく、会社のリスク管理の判断です。高い場合は会社が為替リスクを自分で抱えているため、自己資本規制比率や信託保全の体制と合わせて見てください。なお顧客の証拠金は信託銀行への信託が義務づけられており、会社の財務とは分離されています。
Q. DD方式とNDD方式の違いは何ですか?
A. DD方式はディーリングデスクを経由する方式、NDD方式は経由せずカバー先へ直接流す方式とされます。ただしどちらを採っているかは業者の説明に依存します。国内の登録業者については、実際のカバー状況が未カバー率として数字で開示されているため、方式の呼び名より公表値を見るほうが確実です。
Q. 平均証拠金率は何を表しますか?
A. 実預託額を顧客の買い建玉と売り建玉の合計で割った値で、取引終了時点で計測されます。低いほど顧客が高いレバレッジで取引していることを示し、各社は「証拠金率が低い場合には、顧客未収金リスクが大きくなります」と説明しています。今回の9社では10.7%から22%の範囲でした。
Q. 海外FX業者にも同じ開示はありますか?
A. ありません。この開示義務は日本の内閣府令にもとづくもので、金融庁に登録した業者だけが対象です。海外業者が掲げるNDD方式などの説明は自己申告であり、第三者が検証できる公表値はありません。金融庁は警告書を出した無登録業者を一覧で公表しています。
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出典・参考資料
- 金融商品取引業等に関する内閣府令(e-Gov法令検索) 第117条第1項第28号の2
- 金融先物取引業協会「店頭FX業者の決済リスク管理へ対応」
- 日本証券業協会 用語集
- 各社の開示:DMM.com証券/ソニー銀行/GMOクリック証券/みんなのFX(トレイダーズ証券)/松井証券/外為どっとコム/楽天証券/三菱UFJ eスマート証券/SBI FXトレード
- 金融庁「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」
本記事は各社の公表資料と法令にもとづく解説であり、特定の会社の優劣を評価するものではありません。未カバー率は月ごとに変動し、公表値は毎月更新されます。実際の判断にあたっては各社の最新の開示をご確認ください。
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