同じ診察・同じ薬で、時計だけで最大4.0倍
子どもが夕方に熱を出した。今日のうちに連れて行くか、明日の朝にするか。判断材料のひとつが「いくら違うのか」ですが、この金額を時刻別に並べた表はほとんど見当たりません。2026年6月1日から適用されている診療報酬の告示(令和8年厚生労働省告示第69号)と調剤報酬の点数表を使い、受付時刻ごとの窓口負担を病院・薬局の合算で計算しました。
結論から書きます。受付時刻だけで変わる金額は、大人の初診で最大1,920円、就学前の子どもの初診で最大1,570円(薬局込み。大人は3割負担、就学前は2割負担)。再診にいたっては窓口負担が4.0倍になります。ただしこの記事でいちばん伝えたいのは「安い時間まで待ちましょう」ではありません。金額の構造を知ると、待つ意味がある場面と、待ってはいけない場面の線引きがはっきりするからです。
時間外加算・休日加算・深夜加算とは何か
病院や診療所が受け取る医療費は、国が決めた「点数」で計算します。1点=10円で、そのうち患者が窓口で払うのは原則3割です。小学校入学前の子どもは2割、75歳以上は所得に応じて1〜3割となります。この点数表に、受付時刻によって上乗せされる加算が3種類あります。
2026年6月1日から適用されている令和8年度改定後の点数表では、初診料は291点、再診料は76点。ここに全医療機関共通で「外来・在宅物価対応料」2点が加わります。そのうえで、初診の場合の上乗せは次のとおりです(医科点数表A000の注7)。
| 区分 | 対象時刻 | 初診(6歳以上) | 初診(6歳未満) | 再診(6歳以上) |
|---|---|---|---|---|
| 時間内 | 平日8〜18時/土曜8〜12時が標準 | 加算なし | 乳幼児加算75点 | 加算なし |
| 時間外 | 概ね18時以降・8時前(土曜は12時以降) | +85点 | +200点 | +65点 |
| 休日 | 日曜・祝日・12/29〜1/3 | +250点 | +365点 | +190点 |
| 深夜 | 22時〜翌6時(季節を問わず) | +480点 | +695点 | +420点 |
時間外・休日・深夜は併算定できません。日曜の深夜なら深夜加算だけ、日曜の昼なら休日加算だけです。また6歳未満で時間外・休日・深夜の加算がつく場合、通常の乳幼児加算75点(再診は38点)は算定されません。つまり子どもの「増える分」は表の数字そのままではなく、75点を差し引いた差額です。
見落とされがちなのが休日の定義です。通知では日曜と祝日法第3条の休日に加えて、1月2日・3日と12月29日・30日・31日も休日として扱うと明記されています。年末年始は法律上の祝日ではありませんが、診療報酬の世界では休日です。
【早見表】受付時刻別の窓口負担(薬局込み)
ここからが本題です。診療所(無床)で初診を受け、門前の薬局で内服薬を1剤受け取る、というモデルケースで計算しました。薬局側は調剤基本料1(47点)+薬剤調製料24点+調剤管理料10点+服薬管理指導料45点。薬局の時間外加算は点数の上乗せではなく倍率で、調剤基本料・薬剤調製料・調剤管理料の合計81点に対して時間外は100%、休日は140%、深夜は200%が加算されます。病院と薬局は別会計なので、それぞれ10円未満を四捨五入して合算しています。
| 受付時刻 | 医療機関 | 薬局 | 合計 | 時間内との差 |
|---|---|---|---|---|
| 時間内(平日9時など) | 880円 | 380円 | 1,260円 | — |
| 時間外(平日18時半) | 1,130円 | 620円 | 1,750円 | +490円(1.39倍) |
| 休日(日曜10時) | 1,630円 | 720円 | 2,350円 | +1,090円(1.87倍) |
| 深夜(23時) | 2,320円 | 860円 | 3,180円 | +1,920円(2.52倍) |
※大人(6歳以上)・初診・3割負担。医療DX推進体制整備加算や外来感染対策向上加算など医療機関ごとに異なる加算は、時間帯で変わらないため除いています。
同じ条件で6歳未満を計算すると次のようになります。小学校入学前なので負担割合は2割です。自治体の子ども医療費助成があれば窓口はもっと安くなりますが、助成に所得制限や1回あたりの自己負担がある地域もあるため、まず「助成がなければいくらか」を出しておきます。
| 受付時刻 | 医療機関 | 薬局 | 合計 | 時間内との差 |
|---|---|---|---|---|
| 時間内 | 740円 | 250円 | 990円 | — |
| 時間外 | 990円 | 410円 | 1,400円 | +410円(1.41倍) |
| 休日 | 1,320円 | 480円 | 1,800円 | +810円(1.82倍) |
| 深夜 | 1,980円 | 580円 | 2,560円 | +1,570円(2.59倍) |
倍率がいちばん跳ねるのは再診です。再診料76点+物価対応料2点の78点がベースなので、分母が小さいぶん加算の比重が重くなります。6歳未満の再診は、深夜だと時間内のちょうど4倍です。
| 受付時刻 | 大人の再診+薬(3割) | 倍率 | 6歳未満の再診+薬(2割) | 倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 時間内 | 610円 | 1.00 | 480円 | 1.00 |
| 時間外 | 1,050円 | 1.72 | 840円 | 1.75 |
| 休日 | 1,520円 | 2.49 | 1,160円 | 2.42 |
| 深夜 | 2,350円 | 3.85 | 1,920円 | 4.00 |
「1分の崖」は18時より22時のほうが深い
判定の基準は、医療機関側は診療が開始された時刻、薬局側は処方箋を受け付けた時刻です。つまり1分の違いで区分が変わる瞬間が1日に何度かあります。差額を計算すると、こうなりました。
※いずれも初診・薬局込み。大人は3割負担、6歳未満は2割負担。
世間では「18時を過ぎると高くなる」がよく知られていますが、金額の崖としては22時のほうが3倍近く深い。時間外加算85点から深夜加算480点へ一気に飛ぶためです。夜間外来の受付に間に合うかどうかを考えるなら、意識すべきは18時より22時です。
逆方向に誤解しないでください。深夜加算・休日加算は、救急医療機関を受診した場合か、急病などやむを得ない理由で受診した場合に限って算定できると通知に明記されています。計画的に夜を選んで受診するような使い方は想定されておらず、そもそも受け付けてもらえません。時間帯で変わるのは「やむを得ず行ったときの金額」だけです。
1年8,760時間のうち、割増がつかないのは29.7%だけ
「時間外なんてたまにしか当たらない」と思われがちですが、カレンダーで数えると逆でした。内閣府が公開している祝日CSVを使い、2026年の8,760時間を4区分に割り振ってみます(標準どおり平日8〜18時・土曜8〜12時を診療時間、22〜翌6時を深夜、日曜・祝日・年末年始を休日とした場合)。
| 区分 | 2026年の時間数 | 割合 |
|---|---|---|
| 時間内(加算なし) | 2,604時間 | 29.7% |
| 深夜 | 2,920時間 | 33.3% |
| 時間外 | 2,052時間 | 23.4% |
| 休日 | 1,184時間 | 13.5% |
1年の70.3%は、時計の上では割増がつく時間帯です。最大区分は深夜で、単独で1年の3分の1を占めます。休日に該当する日は2026年で74日(20.3%)、2027年は72日(19.7%)。「たまたま運が悪かった」のではなく、割増のほうが多数派だということです。
連続でみるとさらに極端です。2025年から2028年までの4年間で、休日扱いの日が最も長く連なるのは2025年12月28日〜2026年1月4日の8日間。次が2026年12月29日〜2027年1月3日の6日間でした。年末年始は丸1週間近く、法律上ずっと「休日加算の日」が続きます。ちなみにこの記事を公開している2026年9月20日から23日までのシルバーウィークも、日曜・敬老の日・休日・秋分の日が並ぶ4連休で、全日が休日加算の対象日です。
診療時間内なのに加算がつく3つのケース
ここが、市販の解説記事でいちばん取りこぼされている部分です。「診療時間内なら加算はつかない」は正確ではありません。
1. 夜間・早朝等加算(診療所・50点)
届出をしている診療所は、午後6時(土曜は正午)から午前8時まで、休日、深夜に、自院の診療時間内であっても50点を加算できます。窓口3割なら150円。時間外加算85点(3割で約250円)よりは軽いものの、「開いている時間に行ったのに少し高い」現象はこれです。
2. 小児科を標榜する医療機関の特例
小児科(小児外科を含む)を掲げる医療機関では、6歳未満の患者について、夜間・休日・深夜が自院の診療時間内であっても、時間外加算・休日加算・深夜加算をそのまま算定できます(A000注8)。夜間・休日の小児診療体制を確保するための特例で、診察した医師が小児科以外の担当でも算定できると通知に書かれています。「夜間診療をやっている小児科だから時間内のはず」と思っても、加算はつくということです。
3. 逆に、18時を過ぎても加算がつかないことがある
時間外の「標準」は概ね8時前と18時以降(土曜は12時以降)ですが、通知は同時にこう定めています。その時間帯でも、医療機関が常態として診療に応じる態勢をとり、診療時間内と同じ扱いで診療しているときは時間外として扱わない。午前と夜だけ開ける診療所のように標準になじまない場合は、掲示された診療時間以外が時間外になります。つまり「19時まで通常診療」と掲げている内科なら、18時半の受診で時間外加算がつかないことがある。時刻の一般論ではなく、その医療機関の掲示が答えです。
時間外加算・深夜加算は、やむを得ない事情を除き、医療機関側の都合で時間外に診療が始まった場合には算定できません。つまり17時半に受付を済ませたのに混雑で診察が18時を回った、というケースは医療機関側の事情なので加算の対象外です。
救急外来に行くと、さらに上乗せがある
同じ夜でも、診療所の夜間外来と病院の救急外来では金額が変わります。2026年度改定で「救急外来医学管理料」が新設され、救急車を使わずに自力で救急外来を受診した場合にも夜間休日救急医学管理料(600点/400点/50点の3区分)が算定されるようになりました。ここに院内トリアージ実施体制加算50点が乗ります。
| 受診先 | 深夜に大人が初診(薬局込み・3割) | 時間内との差 |
|---|---|---|
| 診療所の夜間診療 | 3,180円 | +1,920円 |
| 救急外来(管理料3+トリアージ) | 3,480円 | +2,220円 |
| 救急外来(管理料2+トリアージ) | 4,530円 | +3,270円 |
| 救急外来(管理料1+トリアージ) | 5,130円 | +3,870円 |
※検査・処置・投薬の内容によってさらに加わります。血液検査やCT・MRIを行った場合は救急外来緊急検査対応加算(300点または200点)が別に算定されます。
「夜間とは午後6時から午前8時まで」と通知が明示しているので、平日なら18時以降が対象時間帯です(ただしその時間帯がその病院の標榜時間に含まれている場合は算定できません)。救急外来は24時間体制を維持するための人員と設備を評価する仕組みなので、軽症でも同じ体制費用がかかる。金額差の正体は「診察の内容」ではなく「体制」です。
では、夕方に熱が出たらどうするか
ここまでの数字を踏まえた実務的な結論は、次の順番になります。
第一に、金額で受診を遅らせてはいけない症状がある。差額の上限は大人で約1,900円、就学前の子どもで約1,600円。重症化や脱水のリスクと比べれば小さい額です。とくに3か月未満の乳児の発熱、呼吸が苦しそう、けいれん、水分を受け付けず半日以上おしっこが出ない、意識がはっきりしない、といったサインがあるときは時刻を問わず受診か救急要請です。
第二に、迷ったら電話で相談できる。小児救急電話相談#8000は47都道府県すべてで実施されており(受付時間は都道府県ごとに異なります)、大人も含む救急相談窓口#7119は令和8年7月時点で全国41地域、人口カバー率は令和7年度末で86.6%。ただし公表資料の実施地域を都道府県と突き合わせると、秋田・三重・島根・佐賀・宮崎・鹿児島の6県は全域で未実施(秋田は令和8年度に導入予定)で、北海道は札幌市周辺、愛知県は名古屋市、和歌山県は田辺市周辺のみの一部実施です。#8000も受付時間が県ごとに違い、24時間つながるのは5県だけです。自分の県で何時までつながるか、つながらないときにどうするかは#8000・#7119は何時まで?都道府県別の受付時間と応答率の早見表に47都道府県分をまとめました。
第三に、待てる症状なら「翌朝いちばん」がいちばん得。金額が最安なだけでなく、平日日中は検査も専門科の対応も揃います。逆に、どうしても当日中に診てもらいたいなら18時前の滑り込みと22時前が二つの分岐点です。
第四に、かかりつけを持っておく。診療所が届け出る「時間外対応体制加算」は、診療時間外の電話問い合わせに応じる体制を評価するもので、再診時に2〜7点(6〜21円)しかかかりません。夜に電話がつながる先を1つ持っておくコストは、深夜受診1回の差額の10分の1以下です。
2026年6月1日適用の診療報酬点数表(令和8年厚生労働省告示第69号)と調剤報酬点数表に基づく、無床診療所・内服薬1剤のモデル計算です。負担割合は大人が3割、6歳未満が2割としています。実際の窓口負担は、検査や処置の内容、医療機関が届け出ている加算、自治体の医療費助成、負担割合によって変わります。正確な額は領収証と明細書でご確認ください。
よくある質問
Q. 時間外加算は何時からつきますか?
A. 標準は概ね午前8時前と午後6時以降、土曜日は午前8時前と正午以降です。ただしこれはあくまで「標準」で、都道府県の実態や医療機関の掲示した診療時間によって変わります。夜まで通常診療している医療機関では18時以降でもつかないことがあり、逆に小児科を標榜する医療機関では6歳未満に限り診療時間内でもつきます。
Q. 深夜加算は何時から何時までですか?
A. 季節を問わず午後10時から午前6時までです。初診で480点(6歳未満は695点)なので、上乗せ額は3割負担で1,440円、6歳未満は2割負担なので1,390円です。21時59分の受付と22時00分の受付では、薬局分も合わせて大人で約1,430円の差が出ます。
Q. 年末年始は休日加算になりますか?
A. なります。通知で1月2日・3日と12月29日・30日・31日は休日として取り扱うと定められています。祝日法上の祝日ではありませんが、診療報酬では休日です。2026年12月29日から2027年1月3日までは6日間連続で休日扱いになります。
Q. 薬局でも時間外料金はかかりますか?
A. かかります。しかも薬局は点数の上乗せではなく倍率で、調剤基本料・薬剤調製料・調剤管理料の合計に対して時間外は100%、休日は140%、深夜は200%が加算されます。モデルケース(合計81点)なら深夜で162点、3割負担で約490円の増加です。また開局時間内でも午後7時(土曜は午後1時)から午前8時までは夜間・休日等加算40点がつきます。
Q. 子どもの医療費が無料の自治体でも関係ありますか?
A. 窓口負担がゼロなら支払額は変わりません。ただし助成に所得制限や1回あたりの自己負担額を設けている自治体もあり、その場合は差が出ます。また助成があっても医療費そのものは同額が動いているため、夜間・休日の受診が地域の医療体制にかける負荷は変わりません。
Q. 安い時間を狙って深夜に受診するのはありですか?
A. 逆です。深夜加算・休日加算は救急医療機関を受診した場合か、急病などやむを得ない理由で受診した場合に限って算定できると通知に定められています。計画的な受診は対象外で、そもそも通常の外来として受け付けてもらえません。時間帯で変わるのは「やむを得ず行ったときの金額」だけです。
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参考資料
・厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」診療報酬の算定方法の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第69号、令和8年6月1日適用)別表第一 医科診療報酬点数表・別表第三 調剤報酬点数表
・厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日保医発0305第6号)別添1「医科診療報酬点数表に関する事項」・別添3「調剤報酬点数表に関する事項」
・内閣府「国民の祝日について」祝日CSV
・総務省消防庁「救急安心センター事業(#7119)関連情報」実施団体基本情報調査一覧 令和8年7月現在
・厚生労働省「子ども医療電話相談事業(#8000)について」


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