FX・アノマリー検証
ゴトー日は本当に円安?仲値199回を数えたら通説と逆だった
「ゴトー日は仲値に向けてドル円が上がりやすい」。FXで最も有名なアノマリーを、ドル円の1時間足でゴトー日199回・それ以外465回、午前8時から10時までの変化を1日ずつ計算して検証しました。結果は通説と逆で、ゴトー日の平均は-1.86pips(円高方向)、それ以外の日は+1.09pips。円安になった割合もゴトー日47.2%に対しそれ以外52.0%でした。なぜ成立しなくなったのかまで整理します。
この記事の結論
- ゴトー日の朝(8時→10時)の平均変化は-1.86pips。円高方向で、通説とは逆の結果でした。ゴトー日以外は+1.09pipsです。
- 円安になった日の割合はゴトー日47.2%、それ以外52.0%。ゴトー日のほうが円安になりにくいという結果です。
- 仲値のあと(10時→15時)もゴトー日は平均-1.27pips。「仲値で上げて午後に反落」も確認できませんでした。
- 曜日別では火曜+7.98pips、木曜-11.61pipsと大きな差が出ますが、サンプルは29日と30日しかなく偶然の範囲です。
- 一方で9時台の値幅が大きいこと自体は事実(平均31.9pipsで24時間中4番目)。動く時間帯ではあるが、方向は決まっていません。
結論:ゴトー日の朝はむしろ円高に傾いていた
「ゴトー日(5・10日)は仲値に向けてドル円が上がりやすい」。FXの解説記事で最も有名なアノマリーのひとつです。5日、10日、15日、20日、25日、30日は企業の決済日が集中し、輸入企業がドルを買うため、仲値が決まる午前9時55分に向けて円安になる――という説明がセットで語られます。
この通説を、ドル円の1時間足でゴトー日199回、それ以外の営業日465回を1日ずつ計算して検証しました。測ったのは午前8時の価格から、仲値決定直後の午前10時までの変化です。
結果は通説と逆でした。ゴトー日の朝は平均で1.86pipsの円高、ゴトー日以外は平均1.09pipsの円安。上昇(円安)した日の割合も、ゴトー日47.2%に対してそれ以外は52.0%で、ゴトー日のほうが円安になりにくいという結果です。
誤解のないように書くと、この1.86pipsという数字はスプレッドとほぼ同じ大きさです。ドル円のスプレッドは0.2銭(=0.2pips)前後の会社が多いものの、朝の時間帯は広がることがあります。加えて日々のばらつきは数十pips単位です。「逆方向に賭ければ勝てる」という話ではなく、「賭ける根拠がない」という話だと受け取ってください。
【実測】ゴトー日と通常日の比較
| 区分 | 日数 | 平均変化(8時→10時) | 中央値 | 円安になった割合 |
|---|---|---|---|---|
| ゴトー日 | 199日 | -1.86pips | -1.50pips | 47.2% |
| ゴトー日以外 | 465日 | +1.09pips | +1.60pips | 52.0% |
※集計期間は2023年11月末〜2026年9月。ゴトー日は5の倍数の日とし、市場が開いていない日は直前の営業日を繰り上げてゴトー日として扱いました(実務の慣行に合わせています)。
仲値のあとはどうなるか
「仲値で上げて、その後下げる」という説明もよく見ます。そこで午前10時から午後3時までも同じように測りました。
| 区分 | 平均変化(10時→15時) | 下落した割合 |
|---|---|---|
| ゴトー日 | -1.27pips | 45.2% |
| ゴトー日以外 | +0.58pips | 48.6% |
ゴトー日は午後も平均で1.27pipsの円高でした。ただし下落した日の割合は45.2%で、半分を下回っています。「午後は必ず反落する」わけでもありません。平均がマイナスなのは、下げた日の下げ幅が大きかったためです。
曜日で分けると数字は暴れる
ゴトー日を曜日別に分けると、面白い(そして危うい)数字が出ます。
| 曜日 | 日数 | 平均変化(8時→10時) |
|---|---|---|
| 月曜 | 17日 | -5.31pips |
| 火曜 | 29日 | +7.98pips |
| 水曜 | 29日 | -1.31pips |
| 木曜 | 30日 | -11.61pips |
| 金曜 | 94日 | -1.33pips |
火曜のゴトー日は平均+7.98pips、木曜のゴトー日は平均-11.61pips。一見すると「火曜のゴトー日だけ買えばいい」に見えます。ここが統計の罠です。
火曜のゴトー日は29日分、木曜は30日分しかありません。1日の値幅が数十pipsある市場で、30回程度の平均が±10pips動くのは偶然の範囲内です。しかも金曜が94日と突出して多いのは、ゴトー日が土日に当たった場合に金曜へ繰り上がるルールのためで、曜日ごとに条件がそろっていません。細かく切り分けるほど、それらしい数字は必ず出てきます。
なお、月末最終営業日の朝も測りました。34日で平均+0.68pips、円安になった割合は47.1%。月末に特別な傾向は見られませんでした。
なぜ通説は成立しなくなったのか
理屈そのものは間違っていない
ゴトー日アノマリーの根拠は実需にあります。企業間の決済が5の倍数の日に集中するのは事実で、輸入企業は円をドルに換える必要があります。国内の銀行は午前9時55分時点の市場実勢をもとに、その日の対顧客電信売買相場の仲値を決めます。この仕組み自体は今も変わっていません。
変わったのは、その情報が広く知られたこと
問題は、この話があまりに有名になったことです。「ゴトー日の朝は上がる」と知った参加者が先回りして買えば、上がるのは9時55分ではなく、その前になります。さらに先回りを見越した売りが入れば、効果は打ち消されます。誰でも知っているアノマリーは、その時点で優位性を失うという、相場では繰り返されてきた現象です。
実需の規模と投機の規模が釣り合わない
もう一つは規模の問題です。ドル円の1日の取引量に対して、特定の日の実需による買いが占める割合は限られます。同じ朝に金融政策の観測記事が1本出れば、実需の数十倍の資金が動きます。本記事の集計期間は日米の金融政策をめぐる思惑が相場を支配した局面で、実需のわずかな偏りはその中に埋もれた、と見るのが自然です。
別の集計では、日本時間9時台の平均値幅は31.9pipsで、24時間のなかで4番目に大きい時間帯でした。仲値に向けて取引が厚くなること自体は数字に表れています。ただし「厚くなる」ことと「一方向に傾く」ことは別です。動く時間帯ではあるが、方向は決まっていないというのが実測から言えることです。
この検証から実際に使えること
- やめることゴトー日だからという理由だけで買う199回の実測で平均は-1.86pips、円安になった割合は47.2%でした。根拠として成立していません。
- やめること曜日別の数字に飛びつく火曜+7.98pips、木曜-11.61pipsという数字は出ますが、サンプルは29日と30日です。細かく切るほど偶然の模様が見えてきます。
- 使えること9時台は値幅が出る時間帯として押さえる方向は読めなくても、9時台(平均31.9pips)と10時台(28.5pips)に東京時間の値動きが集中するのは事実です。損切り幅の設定や、指値を置く時間帯の判断には使えます。
- 使えること通説は必ず自分の手で検証する今回のゴトー日のように、広く信じられている話が実測では成立していないことがあります。出典のない「〜と言われています」は、根拠ではなく検証対象として扱ってください。
よくある質問
Q. ゴトー日は本当にドル円が上がりやすいのですか?
A. 今回の実測では逆の結果でした。ゴトー日199回の午前8時から10時までの平均変化は-1.86pips(円高方向)、ゴトー日以外の465回は+1.09pips(円安方向)です。円安になった日の割合もゴトー日47.2%に対しそれ以外は52.0%で、ゴトー日のほうが円安になりにくいという結果でした。集計期間は2023年11月末から2026年9月です。
Q. ゴトー日とは何日のことですか?
A. 5の倍数の日、つまり5日・10日・15日・20日・25日・30日を指します。企業間の決済がこれらの日に集中するためです。その日が土日祝で市場が開いていない場合は、直前の営業日に繰り上げて扱うのが実務の慣行で、本記事の集計もこのルールに従っています。
Q. 仲値とは何ですか?
A. 国内の銀行が顧客向けの外貨取引に使う基準レートで、原則として午前9時55分時点の市場実勢をもとに決められます。輸入企業などが円をドルに換える取引はこの仲値を基準に行われるため、9時55分に向けてドル買いの実需が集まる、というのがゴトー日アノマリーの理屈です。
Q. なぜ通説どおりにならないのですか?
A. 理屈そのものは今も成立していますが、あまりに広く知られた結果、先回りの売買が効果を打ち消していると考えられます。加えて、特定の日の実需の偏りは、金融政策をめぐる思惑で動く資金量に比べて小さすぎます。集計期間は日米の金融政策が相場を支配した局面で、実需の偏りはその中に埋もれたと見るのが自然です。
Q. 火曜のゴトー日は平均+7.98pipsとありますが、これは使えますか?
A. 使えません。火曜のゴトー日は29日分しかサンプルがなく、1日の値幅が数十pipsある市場で30回程度の平均が±10pips動くのは偶然の範囲です。また金曜が94日と突出して多いのは繰り上げルールによるもので、曜日ごとに条件がそろっていません。細かく切り分けるほど、それらしい数字は必ず現れます。
Q. では9時台は狙う価値がないのですか?
A. 方向を決め打ちする根拠にはなりませんが、値動きが集中する時間帯であることは事実です。別の集計では9時台の平均値幅は31.9pipsで24時間のうち4番目、10時台も28.5pipsでした。方向ではなく、値幅が出る時間帯として損切り幅の設定などに使うのが実用的です。
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出典・参考資料
- ドル円1時間足(2023年11月29日〜2026年9月16日/Yahoo Finance チャートAPI、JPY=X)を筆者が集計。午前8時の始値から午前9時台の終値(=午前10時時点)までの変化を1日ずつ算出
- FXは何時が一番動く?ドル円の時間帯別値幅を24時間ぶん実測(9時台の値幅の実測値)
- お盆相場のFXは危険?ドル円10年データで検証する夏枯れの実像
本記事の数値は筆者が1時間足データから独自に集計したものです。集計期間が異なれば結果も変わり得ます。過去のデータは将来の値動きを保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
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