FX・リスク管理
国内FXにゼロカットがない理由|追証の実データを12か月分数えた
海外FX業者が宣伝する「ゼロカットだから追証なし」は、日本の登録業者にはできません。理由は業者の方針ではなく法律で、金融商品取引法39条が損失補塡そのものを禁じているからです。では国内で追証はどれだけ起きているのか。金融先物取引業協会が毎月公表している未収金データを直近12か月ぶん集計すると、合計123件・約688万円でした。月あたり10件です。ただし金額の78%は為替介入があった2026年7月の1か月に集中しています。平常時はほぼ起きず、起きるときは一斉に起きる。その構造を実データで示します。
この記事の結論
- 国内のFX会社はゼロカットを導入できません。金融商品取引法39条1項3号が、顧客に生じた損失を業者が補塡する行為そのものを禁じています。業者が「やらない」のではなく「やれない」構造です。
- その結果、国内FXではロスカットが間に合わなければ不足額を支払う義務が残ります。これが追証と未収金です。
- ただし実際の発生量は小さい。協会の月次データを直近12か月集計すると合計123件・約688万円、月平均10.2件でした。発生ゼロの月もあります。
- 問題は分布です。金額の78%、件数の40%が2026年7月の1か月に集中しました。7月30日の円買い介入でドル円が約5円動いた月です。
- 大きなショックでは桁が変わります。2015年1月のスイスフランショックでは1,229件・33億8,800万円、1件あたり約276万円が発生しました。
- 海外FXのゼロカットは法律上の保証ではなく業者が自分のルールとして掲げているサービスです。金融庁に登録していない業者は、日本の居住者への勧誘自体が違法です。
結論:やらないのではなく、法律でやれない
「海外FXはゼロカットで追証なし、国内FXは追証があるから危ない」という比較をよく見かけます。前半は業者のサービス説明として正しく、後半は制度の説明としてやや不正確です。国内FX会社がゼロカットを採用しないのは、リスクを客に押しつけたいからではなく、採用すると法律違反になるからです。
この記事では、まず条文でゼロカットが不可能な理由を確認し、次に実際に国内でどれだけ追証・未収金が発生しているのかを、業界団体の公表データで全部数えます。「追証が怖い」という話は感覚で語られがちですが、量が公表されているので数えられます。
金融商品取引法39条:損失の肩代わりは禁じられている
ゼロカットとは、相場の急変で口座残高がマイナスになったとき、業者がそのマイナス分を消して残高をゼロに戻す仕組みです。つまり顧客の損失の一部を業者が負担する行為です。ここが日本の法律に触れます。
金融商品取引法39条は「損失補塡等の禁止」という見出しで、金融商品取引業者に対し次の行為を禁じています。デリバティブ取引を含むと条文に明記されているため、FXも対象です。
「金融商品取引業者等は、次に掲げる行為をしてはならない」
第3号「有価証券売買取引等につき、当該有価証券等について生じた顧客の損失の全部若しくは一部を補塡し、又はこれらについて生じた顧客の利益に追加するため、当該顧客又は第三者に対し、財産上の利益を提供し、又は第三者に提供させる行為」
第1号は「損失を補塡すると約束すること」、第2号は「補塡を申し込むこと」、第3号は「実際に補塡すること」を、それぞれ別に禁じています。ゼロカットを制度として掲げれば第1号に、実際にマイナスを消せば第3号に該当します。約束した時点でも、実行した時点でも引っかかる構造です。
例外は「事故」による損失だけ
39条3項には例外があり、業者やその役職員の違法・不当な行為(条文上の「事故」)で生じた損失の補塡は禁止の対象外です。システム障害で約定できなかったといったケースがこれにあたります。相場が動いて損をしたことは「事故」ではないので、ゼロカットはこの例外に入りません。
日本証券業協会は損失補塡を「金融商品取引により顧客に生じた損失について協会員が穴埋めをすること」と定義し、「法令及び自主規制規則において、損失保証・利回り保証、損失補塡の申込み・約束及び損失補塡の実行を原則として禁止している」と説明しています。一部の顧客だけが損失を免れる状態は市場の公正を損なう、という考え方です。
【独自集計】直近12か月の未収金を全部数えた
では、ゼロカットがない国内FXで、実際に「払いきれない損失」はどれだけ出ているのでしょうか。金融先物取引業協会は「ロスカット等未収金発生口座数(月次・速報)」を毎月公表しています。個人・法人別、店頭取引・市場取引別に、件数と金額が載っています。ほとんど誰も見ていないデータですが、答えはここにあります。
2025年9月から2026年8月までの12か月ぶんを集計しました。金額は個人と法人の合計です。
| 年月 | 発生件数 | 発生金額 |
|---|---|---|
| 2025年9月 | 2件 | 1千円 |
| 2025年10月 | 4件 | 46千円 |
| 2025年11月 | 2件 | 1千円 |
| 2025年12月 | 8件 | 316千円 |
| 2026年1月 | 2件 | 26千円 |
| 2026年2月 | 20件 | 328千円 |
| 2026年3月 | 26件 | 281千円 |
| 2026年4月 | 6件 | 222千円 |
| 2026年5月 | 2件 | 19千円 |
| 2026年6月 | 0件 | 0円 |
| 2026年7月 | 49件 | 5,387千円 |
| 2026年8月 | 2件 | 255千円 |
| 12か月合計 | 123件 | 6,882千円(約688万円) |
協会の月次速報によれば、店頭FXの2026年8月の出来高は825兆7,164億円、取扱会員は46社です。この規模の市場で、12か月に発生した未収金の合計が約688万円。割合で見れば無視できるほど小さい数字です。「国内FXは追証で借金を背負う」というイメージと、実際の発生量には大きな開きがあります。
ただし7月だけが違った:介入の月に集中する
平均で語ると本質を見落とします。もう一度表を見てください。2026年7月だけが49件・538万円と突出しており、12か月合計の金額の78%、件数の40%をこの1か月が占めています。前後の6月は発生ゼロ、8月は2件です。
7月に何があったかははっきりしています。7月30日に政府が円買い介入に踏み切り、ドル円は162円台後半から一時157円台後半まで約5円動きました。翌31日には日米協調介入も実施されています。詳しい経緯はドル円はなぜ5円急落した?7月30日の為替介入の規模にまとめました。
12か月のうち11か月は、ほぼ何も起きていません。未収金は毎月じわじわ積み上がるものではなく、相場が数分で数円動いた日にまとめて発生するものです。だから「月平均10件だから安全」と読むのは誤りで、正しくは「普段は起きないが、動く日には自分もその49件に入りうる」と読むべきです。
過去4回のショックで何が起きたか
協会は、相場が大きく動いた日については月次とは別に「為替相場変動に係るロスカット等未収金発生状況」を個別に公表しています。公表されているのは次の4回です。
| 発生日と出来事 | 発生件数 | 発生金額 | 1件あたり |
|---|---|---|---|
| 2019年1月3日 フラッシュクラッシュ |
6,598件 | 9億4,300万円 | 約14万円 |
| 2015年8月24日 チャイナショック |
4,999件 | 9億1,900万円 | 約18万円 |
| 2021年3月22日 トルコリラ急落 |
3,458件 | 13億8,100万円 | 約40万円 |
| 2015年1月15日 スイスフランショック |
1,229件 | 33億8,800万円 | 約276万円 |
※金融先物取引業協会「ロスカット等未収金発生状況」の速報値。件数・金額は個人と法人の合計、店頭取引と市場取引の合計です。1件あたりは金額を件数で割った概算です。
件数が多い日より、1件が重い日のほうが怖い
この表で注目すべきは最後の列です。件数で最も多いのは2019年1月3日のフラッシュクラッシュ(6,598件)ですが、1件あたりは約14万円にとどまります。反対にスイスフランショックは1,229件と件数は最少なのに、1件あたり約276万円と20倍近い水準です。
理由は値動きの性質にあります。スイス国立銀行が対ユーロの上限を撤廃した2015年1月15日、スイスフランは数分で30%以上動き、ロスカット注文が成立しないまま価格が飛びました。ロスカットは「注文が約定して初めて止まる」仕組みなので、約定できないほど飛べば、ロスカット水準を大きく突き抜けたところで決済されます。そこが証拠金を超えていれば不足額が残ります。仕組みの詳細はFXのロスカットとは?で解説しています。
国内で追証が発生する条件
追証の基準は会社ごとに違います。DMM FXを例にとると、判定のタイミングと解消のルールが公式に示されています。
- 毎営業日マーケットクローズ時点で証拠金維持率を判定DMM FXは「毎営業日クローズ時点に証拠金維持率の判定を行い、この時点で証拠金維持率が100%を下回っていた場合には追加証拠金が発生します」と説明しています。取引時間中に一時的に下回っても、判定は1日1回です。
- 発生後新規取引と出金予約が止まる追加証拠金が発生すると、新規の取引と出金予約が停止され、注文中のものも解消されます。
- 解消期限まで入金するか、ポジションを減らす追加証拠金額以上の必要証拠金を減らすようポジションの一部を決済するか、入金して解消します。相場が戻って維持率が100%以上になっても、解消手続きをしなければ強制決済の対象だと明記されています。
- 期限超過マージンカット(強制決済)期限までに解消されなければ全建玉が強制決済されます。ここで不足額が出れば未収金になります。
維持率がどのくらいなら安全かの目安はFXの証拠金維持率の目安は何%?に、入金額の決め方はFXの入金はいくら必要?にまとめています。
海外FXのゼロカットをどう考えるか
ここまでを踏まえると、海外FXのゼロカットの位置づけがはっきりします。ゼロカットは法律が保証する制度ではなく、業者が自分の約款で掲げているサービスです。日本の法律が適用されないからこそ提供できている、という関係です。
裏を返せば、その約束を守らせる仕組みも日本側にはありません。国内の登録業者であれば、証拠金は信託銀行に信託することが義務づけられ、破綻しても分別された資産から返還されます。この仕組みはFX会社が倒産したら証拠金は戻る?で詳しく確認しました。海外業者にはこの義務が及びません。
金融庁は「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等」として、警告書を出した海外業者を一覧で公表しています。そこに載る業者は、日本の居住者に勧誘すること自体が違法です。ゼロカットの有無以前に、トラブルが起きたときに日本の法律や監督当局の枠組みが働かない点を先に見てください。
結論として、比較すべきは「追証があるかないか」だけではありません。国内は追証というリスクを残す代わりに、信託保全と当局の監督という守りを法律で確保している。海外は追証を消す代わりに、その守りが外れている。どちらの設計が自分に合うかという話です。
よくある質問
Q. 国内のFX会社はなぜゼロカットを導入しないのですか?
A. 導入すると金融商品取引法39条の損失補塡等の禁止に違反するためです。同条は顧客の損失を補塡すると約束すること、申し込むこと、実際に補塡することをそれぞれ禁じています。ゼロカットは制度として掲げた時点でも、実行した時点でも該当します。業者の方針ではなく法律上の制約です。
Q. 国内FXで実際に追証はどれくらい起きていますか?
A. 金融先物取引業協会の月次公表を2025年9月から2026年8月まで集計すると、合計123件・約688万円でした。月平均は10.2件で、発生ゼロの月もあります。ただし金額の78%は2026年7月の1か月に集中しており、相場が急変した月にまとまって発生する性質があります。
Q. 追証で借金を背負うことはありますか?
A. 理屈のうえではあります。ロスカットが約定しないまま価格が飛ぶと、証拠金を超える損失が残り、不足額の支払い義務が生じます。2015年1月のスイスフランショックでは1,229件・33億8,800万円の未収金が発生し、1件あたりは約276万円でした。ただし平常時の発生量は前問のとおり小さい水準です。
Q. ロスカットがあるのに、なぜ証拠金を超える損失が出るのですか?
A. ロスカットは反対売買の注文が約定して初めて止まる仕組みだからです。値が飛んで注文が成立しないと、ロスカット水準を大きく超えた価格で決済されます。スイスフランが数分で30%以上動いた2015年1月15日のようなケースがこれにあたります。
Q. 追証が発生したらどうすればいいですか?
A. 解消期限までに入金するか、ポジションの一部を決済して必要証拠金を減らします。DMM FXの場合、追加証拠金が発生すると新規取引と出金予約が停止され、相場が戻って維持率が100%以上になっても解消手続きをしなければ強制決済の対象になると明記されています。判定は毎営業日のマーケットクローズ時点です。
Q. 海外FXのゼロカットは信用できますか?
A. 法律が保証する制度ではなく、業者が約款で掲げているサービスです。日本の法律が適用されないため提供できているもので、履行を強制する仕組みも日本側にはありません。金融庁は警告書を出した無登録業者を一覧で公表しており、そこに載る業者は日本の居住者への勧誘自体が違法です。
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出典・参考資料
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 第39条(損失補塡等の禁止)
- 金融先物取引業協会「ロスカット等未収金発生口座数(月次・速報)」(2025年9月〜2026年8月分を集計)
- 金融先物取引業協会「ロスカット等未収金発生状況」(2015年1月15日・2015年8月24日・2019年1月3日・2021年3月22日の速報値)
- 金融先物取引業協会「店頭FX月次速報」(2026年8月の出来高・取扱会員数)
- 日本証券業協会「損失補塡」
- DMM FX「追加証拠金制度」
- 金融庁「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」
本記事は公的機関および業界団体の公表データと法令にもとづく解説であり、特定の取引や業者を推奨するものではありません。追証の基準や解消手続きは会社ごとに異なるため、実際の取引前に各社の最新の説明をご確認ください。データは2026年9月15日時点で公表されているものです。
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