南海トラフ地震で個人ができる対策は?
29.8万人を減らす3つの行動
想定される死者は最大29万8000人。この数字を見て「何をしても無駄だ」と感じた方へ。実はまったく同じ国の資料に、17万7000人という数字も載っています。差を生むのは、特別な装備ではなく家庭でできる3つの行動でした。
2025年3月31日、国(内閣府)は南海トラフ巨大地震の被害想定を13年ぶりに更新しました。ニュースで大きく報じられたのは「死者最大29万8000人」「経済被害292兆円」という数字です。あまりの規模に、備えをする気力そのものを失った方も多いのではないでしょうか。
しかし、同じ報告書を最後まで読むと、まったく違う顔が見えてきます。29万8000人は「誰も対策をしなかった場合」の数字であり、国は同時に「対策をすればここまで減る」という数値も公表しているのです。しかもその内訳は、耐震化・家具の固定・早期避難という、どれも家庭の中で完結する行動でした。
この記事では、南海トラフ地震が起きると実際に何が起きるのかを国の一次資料で確認したうえで、個人でできる対策を「最初の3分」「最初の30分」「その後の1週間」という時間の順に整理します。最後に、きょう15分で終わる3つの行動をまとめました。
この記事でわかること
- 南海トラフ地震で想定される揺れ・津波・ライフライン被害の具体的な数字
- 「29.8万人」と「17.7万人」という2つの数字がある理由
- 耐震化77%減・家具固定66%減という、国が公表した対策の効果
- 最初の3分・30分・1週間で、それぞれ何をすればよいか
- 火災保険では地震の被害が補償されないという見落としやすい事実
- 南海トラフ地震臨時情報が出たときに取るべき行動
南海トラフ地震が起きると、何が起きるのか
まず、国が想定している被害の規模を確認します。以下はすべて内閣府「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」が2025年3月31日に公表した被害想定によるもので、最も被害が大きくなる組み合わせ(冬の深夜・陸側ケース・風速8メートル)の数値です。
揺れ:震度7が149市町村、震度6弱以上は600市町村
強い揺れに襲われる範囲は、静岡県から宮崎県までの太平洋岸にとどまりません。国の想定では震度6弱以上の揺れが神奈川県から鹿児島県までの600市町村で発生し、そのうち149市町村で震度7に達するとされています。前回の想定(2012年)では震度7が143市町村だったので、地盤データの精緻化で6市町村増えた形です。
震度7は、耐震性の低い木造住宅が倒壊し、固定していない家具のほとんどが倒れる揺れです。立っていることはできず、自分の意思で動くことも困難になります。
津波:1メートルが最短2分、最大34メートル
津波の到達はきわめて早く、静岡市・焼津市、和歌山県太地町・串本町では、高さ1メートルの津波が地震発生からわずか2分で到達すると想定されています。高さ1メートルの津波は、大人でも流されて命に関わる高さです。
最大の高さは高知県黒潮町・土佐清水市の約34メートル。また、高さ3メートル以上の津波は福島県から沖縄県までの広い範囲に到達すると想定されており、「太平洋岸なら、どこでも自分の町の数字を確認する必要がある」というのが結論になります。
「2分」の意味を具体的に考える
- 揺れが収まるまでに1分前後かかることがある(長い揺れが特徴)
- テレビをつけて津波警報を確認する時間はない
- 靴を履き、貴重品をまとめ、家族に電話をかけたら、その時点で間に合わない
- 「揺れたら、その場から高いところへ」以外の選択肢がない地域が実在する
経済被害「292兆円」の内訳
報道でよく見る「292兆円」という数字は、実は3つの推計を足したものです。国の報告書では、資産等の被害(被災地)が約224.9兆円、生産・サービス低下による全国への影響が約45.4兆円と示されており、この2つで約270兆円。これに別立てで推計された交通寸断の影響(道路の機能停止6か月で5.2兆円、鉄道で2.7兆円、港湾の1年間停止で14.1兆円=約22兆円)を足すと、約292兆円になります。
国の一般会計予算は2025年度で約115兆円ですから、その2.5年分に相当する規模です。
生き延びたあと:半分の人は避難所に入れない
見落とされがちですが、揺れと津波を生き延びた後にこそ長い戦いが待っています。国の想定を時間の流れで並べると、次のようになります。
※表は横にスクロールできます
| 項目 | 最大の規模 | ピークの時期 | 1か月後 |
|---|---|---|---|
| 停電 | 2,950万軒 | 発災直後 | 東海・近畿・四国などで約9割が停電 |
| 断水 | 3,690万人 | 1日後 | 約460万人が水なし |
| 避難者 | 1,230万人 | 1週間後 | 約360万人 |
| うち避難所 | 650万人 | 1週間後 | 残り約580万人は在宅・車・親戚宅 |
| 災害関連死 | 2.6万〜5.2万人 | 避難生活中 | 上記の死者数には含まれない |
注目すべきは避難者1,230万人に対し、避難所に入れるのは650万人しかいないという点です。残りのおよそ580万人は、自宅や車、親戚の家で1週間をしのぐことになります。つまり「避難所に行けば何とかなる」という前提が、そもそも成り立ちません。家庭での備蓄が必要なのは、この計算からくる結論です。
さらに、避難生活の中で体調を崩して亡くなる災害関連死が2万6000人から5万2000人と、今回はじめて推計されました。これは29万8000人には含まれていない、別枠の数字です。
「29.8万人」は対策前の数字——同じ資料に17.7万人がある
なぜ2つの数字があるのか
ここからが本題です。29万8000人という数字は、以下の条件をすべて重ねた場合に計算されたものです。
29万8000人が成立する条件
- 発生時刻が冬の深夜(多くの人が就寝中で、逃げ遅れやすい)
- 揺れが陸側で強く出るケース(建物被害が最大になる想定)
- 風速8メートル(火災が広がりやすい)
- そして津波からすぐに逃げる人が少ない(早期避難の意識が低い状態)
逆に、国は同じ報告書の中で「早期避難の意識が高い場合」の数字も出しています。それが17万7000人です。条件のうち、変えられるのは最後の1つ、つまり「逃げるかどうか」だけ。それだけで12万人以上が変わる計算になります。
理由は死因の内訳にあります。29万8000人のうち21万5000人、およそ7割が津波による死者です。津波の犠牲は、逃げ始めるまでの時間に直結します。国の試算では、全員が発災直後に避難を開始した場合と現状の避難開始率を比べると、津波による死者数に2.9倍から最大14.1倍の差が生じるとされています。
対策をすると、どれだけ減るのか
国は、対策ごとの減災効果も具体的な人数で公表しています。これが「南海トラフの被害想定は答えつきの問題である」と言われる理由です。
※表は横にスクロールできます
| 対策 | いまの想定 | 対策後 | 減少 |
|---|---|---|---|
| 津波(早期避難+呼びかけ) | 21.5万人 | 9.4万人 | 約56%減 |
| 建物の耐震化 | 7.3万人 | 1.7万人 | 約77%減 |
| 家具の固定 | 5,300人 | 1,800人 | 約66%減 |
| 感震ブレーカーの設置 | 2.1万人 | 1.0万人 | 約52%減 |
耐震化は建物倒壊による死者を77%減らし、家具の固定は転倒・落下による死者を66%減らす。感震ブレーカー(揺れを感知して電気を自動で止める装置)は火災による死者を52%減らす。いずれも国の正式な試算です。
国の目標も「10年で8割減」
この試算を受けて、2025年7月に改定された「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」では、今後10年間の減災目標として想定される死者をおおむね8割減、建物の全壊・焼失をおおむね5割減という数値が設定されました。
そして、その8割減を実現する施策の中心に置かれているのが、住宅の耐震化、家具の固定、津波からの早期避難、家庭での備蓄です。国の減災目標の中身は、そのまま家庭でやることのリストになっている、というのがこの記事の出発点です。
ここから、その3つを時間の順に見ていきます。
対策① 最初の3分:揺れでけがをしない
けがの3〜5割は家具が原因、でも固定しているのは35.9%
津波から2分で逃げる地域であっても、その前に揺れでけがをしてしまえば逃げることはできません。だから順番として、家具の固定が最初に来ます。
東京消防庁の「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」によれば、近年の地震で発生したけがのうち、3割から5割は家具類の転倒・落下・移動が原因です。一方、内閣府「防災に関する世論調査」(令和4年9月調査)で家具・家電を固定していると答えた人は35.9%にとどまります。
さらに興味深いのが、固定していない理由の第1位です。「面倒だから」(22.3%)でも「お金がかかるから」(16.3%)でもなく、「やろうと思っているが先延ばしにしてしまっているから」が42.4%で最多でした。つまり多くの人は必要性を理解していて、着手していないだけ、ということになります。
同じ調査でわかった、日本の家庭の備えの現状
- 家具・家電を固定している:35.9%
- 食料・飲料水などを準備している:40.8%
- 避難場所・避難経路を決めている:34.5%
- 特に対策は取っていない:13.9%
寝室から始める、固定の優先順位
すべての家具を一度に固定する必要はありません。深夜に地震が起きる前提で考えると、優先順位ははっきりしています。
- 優先1寝室に「倒れてくる家具」を置かない固定するより、移動させるほうが確実で無料です。寝ている位置に向かって倒れる本棚・タンス・食器棚があれば、別の部屋に動かすか、向きを変えます。深夜に被災すると逃げ場がないため、ここが最優先になります。
- 優先2背の高い家具を上下で固定する突っ張り棒だけでは横揺れに弱いため、L字金具やベルト式の器具と組み合わせるのが基本です。賃貸で壁に穴を開けられない場合は、突っ張り棒に加えて家具の下の前側に「ストッパー式」を挟み、前に倒れにくくします。
- 優先3枕元に靴と懐中電灯を置く割れたガラスの上を歩けなければ、避難そのものができません。スリッパではなく底の厚い靴を、袋に入れて枕元へ。停電は最大2,950万軒ですから、明かりも手元に必要です。
- 優先4ガラスに飛散防止フィルムを貼る窓、食器棚の扉、テレビの前。飛散防止フィルムと扉の開放防止ラッチは、どちらも数千円で導入できます。
なお、感震ブレーカーは分電盤に取り付けるタイプのほか、コンセントに差すだけの簡易タイプも市販されています。火災による死者を52%減らせる対策として、国も普及を推進しています。
対策② 最初の30分:津波から「すぐ」逃げる
すぐ逃げる人は53.3%しかいない
南海トラフ地震の死者の7割が津波によるものである以上、最も効果が大きい対策は「すぐ逃げる」ことです。ところが、内閣府が2023年に実施した住民アンケートの結果は、次のようになっています。
※表は横にスクロールできます
| 行動 | 割合 | 内容 |
|---|---|---|
| すぐ避難する | 53.3% | 揺れが収まったら、その場から高いところへ向かう |
| 用事を済ませてから | 37.5% | 貴重品を取りに戻る、家族に電話する、車を出すなど |
| 避難しない | 9.2% | 大丈夫だと判断して動かない |
およそ半分の人は、すぐには動かない——これが現状です。そして「用事」として挙がる行動は、いずれも過去の津波災害で多くの命が失われた行動でもあります。
津波のときにやってはいけない3つ
- 持ち出し袋を取りに戻る:2分で到達する地域では、この時点で間に合わない
- 家族を探しに戻る:全員がそれぞれ逃げる「津波てんでんこ」が原則。集合場所は事前に決め、その場所で会う
- 車で逃げる:渋滞で動けなくなる。徒歩で行ける避難先を優先し、車は原則として使わない
「何メートル・何分」をきょう調べる
避難の判断は、自分の家の数字を知っているかどうかで決まります。必要な情報は2つだけです。
- 調べる1自宅に来る津波の高さ(何メートル)国土交通省の「重ねるハザードマップ」や、お住まいの自治体の津波ハザードマップで確認できます。住所を入れるだけで、浸水の深さが色分けで表示されます。
- 調べる2津波が来るまでの時間(何分)自治体のハザードマップには到達時間も記載されています。2分なのか、20分なのかで、取るべき行動がまったく変わります。
- 決める「その建物に残る」か「出る」かマンションの場合、浸水の深さより自分の階が十分に高ければ、その建物自体が避難先(津波避難ビル)になります。逆に足りなければ、2分で外に出る前提の準備が必要です。この判断を事前に済ませておくことが、当日の数十秒を生みます。
ハザードマップの確認は、国土交通省ハザードマップポータルサイトから無料で行えます。所要時間は5分ほどです。
対策③ その後の1週間:在宅避難を前提に備える
備蓄は「3日分」では足りない
一般的な防災の呼びかけは「最低3日分」ですが、南海トラフ地震については国の基本計画が「可能な限り1週間分程度の備え」と明記しています。被災範囲が超広域になるため、外からの支援が届くまでに時間がかかるためです。
先に見たとおり、避難者1,230万人のうち避難所に入れるのは650万人。残りは自宅などで過ごすことになるので、備蓄は「持ち出す」ものではなく「家に置いておく」ものとして考えます。
4人家族の「1週間分」を計算する
※表は横にスクロールできます
| 品目 | 1人1日 | 4人×7日 | 目安・ポイント |
|---|---|---|---|
| 飲み水 | 3リットル | 84リットル | 2リットルのペットボトルで42本 |
| 食料 | 3食 | 84食 | レトルト・缶詰・乾麺・米。加熱不要のものも混ぜる |
| 携帯トイレ | 5回 | 140回分 | 断水すると水洗トイレは使えない。最も不足しやすい |
| カセットボンベ | — | 約9〜12本 | 停電中の加熱・湯沸かし用。用途により15本前後 |
| 電源 | — | — | モバイルバッテリー、乾電池、手回しラジオ |
水42本と聞くと置き場所に困りますが、専用の備蓄品として一度に買う必要はありません。普段飲む水・普段食べるレトルト食品を少し多めに買い、古いものから使って買い足す「ローリングストック」なら、収納も賞味期限も無理なく回せます。
備蓄でいちばん見落とされるのが携帯トイレです。断水は最大3,690万人、1か月後でも460万人が水なしという想定を踏まえると、防災セットの中身で足りない3つで詳しく書いたとおり、市販の防災セットに入っている数では到底足りません。カセットボンベの必要本数はカセットボンベの備蓄は何本?で計算しています。
衛生用品も「生き延びたあと」の対策
- 断水中は手が洗えず、避難生活では感染症が広がりやすくなる
- 災害関連死の想定が2.6万〜5.2万人と別枠で示されたのは、この局面の被害
- ウェットティッシュ、マスク、口腔ケア用品は食料と同じ優先度で備える(防災の衛生用品リスト)
お金の対策:火災保険では地震の被害は補償されない
建物や家財が壊れたときのお金についても、思い込みが多い分野です。地震・噴火・津波を原因とする損害は、火災保険では補償されません。地震が原因で起きた火事も対象外です。補償を受けるには、火災保険に「地震保険」を付帯している必要があります。
※表は横にスクロールできます
| 項目 | 内容 | 数字 |
|---|---|---|
| 火災保険 | 地震・噴火・津波による損害(地震による火災を含む) | 対象外 |
| 地震保険の金額 | 火災保険の30〜50%の範囲。建物5,000万円・家財1,000万円が上限 | 建て直せない |
| 付帯率 | 新しく契約された火災保険のうち地震保険を付けた割合(2024年度) | 70.4% |
| 世帯加入率 | 全世帯のうち地震保険を契約している世帯(2024年度) | 35.4% |
| 保険料の割引 | 耐震等級・免震建築物・建築年による割引がある | 耐震化=割引 |
地震保険は「家を建て直すための保険」ではなく、当面の生活を立て直すためのお金という設計です。だからこそ上限が火災保険の半分までに抑えられています。損害保険料率算出機構の統計では、新規契約への付帯率は70.4%まで上がっている一方、全世帯で見た加入率は35.4%。3世帯に2つは、地震のときに保険金がゼロという計算になります(共済は含まない数字です)。
国からの支援金は最大300万円
公的な支援として「被災者生活再建支援金」があります。住宅が全壊した場合、基礎支援金100万円に加え、建設・購入をすれば200万円が加算され、合計で最大300万円。大規模半壊なら最大250万円、中規模半壊なら100万円です。世帯人数が1人の場合は、それぞれ4分の3の額になります。
住宅を建て直す費用には遠く及ばないため、地震保険の要否はこの金額を前提に考えることになります。災害後に受けられる支援の全体像は災害救助法が適用されるとどうなる?にまとめています。
保険はきょう確認する。地震のあとでは入れない
- 火災保険の証券を出して、地震保険が付いているかを見る
- 建物だけでなく家財にも付いているかを見る(家具の転倒で家電が壊れた場合に使える)
- マンションは共用部分が管理組合の保険。管理組合が地震保険に入っているかを確認する
- 臨時情報や大地震の発生後に、新規加入することはできない
南海トラフ地震臨時情報が出たら、何をするのか
もうひとつ知っておきたいのが「南海トラフ地震臨時情報」です。2024年8月8日に日向灘で発生したマグニチュード7.1の地震を受けて初めて「巨大地震注意」が発表され(同月15日に呼びかけ終了)、店頭から水が消えるなど混乱が起きました。情報の種類によって、取るべき行動はまったく違います。
※表は横にスクロールできます
| キーワード | 発表される条件 | 1週間以内に大地震が起きる頻度 | 住民が取る行動 |
|---|---|---|---|
| 巨大地震警戒 | 想定震源域でMw8.0以上(半割れ) | 十数回に1回 | 津波の到達が早い地域は1週間の事前避難 |
| 巨大地震注意 | Mw7.0以上、またはゆっくりすべり | 数百回に1回 | 1週間、備えを確認しつつ普段どおりの生活 |
| 調査終了 | 上記のいずれにも当たらないと評価された場合 | 平常時と同じ(千回に1回程度) | 日頃の備えを続ける |
表のMwはモーメントマグニチュードで、断層のずれの規模から精査して求める値です。頻度の数字は、世界の過去事例の統計に基づくものです。マグニチュード8クラスの地震が起きた後、隣の領域で1週間以内にマグニチュード8クラス以上が発生した事例は103例中7例(およそ十数回に1回)。マグニチュード7以上の後では1,437例中6例(およそ数百回に1回、約0.4%)でした。平常時の発生確率を1週間に換算するとおおむね千回に1回程度なので、「注意」は通常の数倍、「警戒」は通常の100倍程度に高まった状態、と理解すると判断しやすくなります。
重要なのは、「警戒」でも「注意」でも、地震が起きないことのほうが多いという点です。だからこそ国は「自分の行動を自ら決める」「臨時情報が出たときの行動をあらかじめ決めておく」ことを繰り返し求めています。
臨時情報が出たときのために、いま決めておくこと
- 「巨大地震注意」で、家族はどこに集まるか・連絡手段は何にするか
- 「巨大地震警戒」で事前避難の対象地域かどうか(自治体のサイトで確認できる)
- 1週間分の水・食料・携帯トイレを、平常時に買っておく(情報が出てからでは店頭にない)
きょうやる3つのこと
ここまでの内容を、所要時間の短い順に3つだけ選ぶと、次のようになります。どれも道具も費用もほとんど必要ありません。
- 5分ハザードマップで「何メートル・何分」を調べる自宅と職場の住所を入れて、津波の浸水深と到達時間を確認します。そのうえで「この建物に残る」か「すぐ出る」かを家族で決めます。判断を先に済ませておくことが、当日の数十秒になります。
- 5分火災保険の証券を出して、地震保険の有無を見る建物と家財の両方を確認します。マンションなら管理組合の保険も。付いていなければ、加入を検討する期限は「次の大地震より前」です。
- 今週末寝室の家具を、倒れない配置にする固定器具を買う前に、寝ている位置に倒れてくる家具を動かします。無料で、いちばん効果が大きい対策です。固定していない家庭は64%——先延ばしの側から抜けるだけで、国の試算では死者が66%減ります。
南海トラフ地震は、今後30年以内の発生確率が60〜90%程度以上(もう一つの計算方法では20〜50%)とされ、いずれも国の評価で最も高いⅢランクに分類されています。2025年9月に計算方法が見直され、従来の「80%程度」から2通りの併記に変わりましたが、地震調査委員会は「疑わしいときは行動せよ」の考え方から、値を示す必要がある場合は高いほうの確率を強調することが望ましいとしています。
前回の南海トラフ地震である昭和東南海地震(1944年)・昭和南海地震(1946年)から、すでに約80年が経過しました。29万8000人という数字は、確定した未来ではなく、いまの備えの状態を映した数字です。書き換える手段は、国の資料の中にすべて書かれています。
よくある質問
Q. 南海トラフ地震はいつ起きますか?
A. 発生時期を予測することはできません。地震調査委員会は2025年9月に計算方法を見直し、今後30年以内にマグニチュード8〜9クラスが発生する確率を「60〜90%程度以上」と「20〜50%」の2通りで公表しました。従来は「80%程度」という単一の値でしたが、どちらの計算方法でも最も高い「Ⅲランク」に分類される点は変わっていません。
Q. 死者29万8000人は、必ずそうなるということですか?
A. いいえ。29万8000人は、冬の深夜・陸側ケース・風速8メートル・津波からすぐ逃げる人が少ない、という最も厳しい条件をすべて重ねた場合の数字です。同じ報告書には、早期避難の意識が高い場合の17万7000人という数字も示されています。特に津波による死者は、全員が発災直後に避難した場合と現状を比べると2.9倍から最大14.1倍の差が生じると試算されています。
Q. 個人でできる対策で、いちばん効果が大きいのはどれですか?
A. 津波からの早期避難です。想定死者29万8000人のうち21万5000人が津波によるもので、早期避難と効果的な呼びかけがあれば9万4000人まで減るとされています。次いで建物の耐震化(建物倒壊による死者が約77%減)、家具の固定(約66%減)、感震ブレーカーの設置(火災による死者が約52%減)の順です。
Q. マンションの高層階に住んでいます。津波の避難は必要ですか?
A. ハザードマップの浸水深と自分の階を比べて判断します。浸水の深さより十分に高い階であれば、その建物自体が避難先(津波避難ビル)になり、無理に外へ出るほうが危険です。逆に浸水深が自分の階に達する場合は、津波到達までの時間内に外へ出る前提の準備が必要です。この判断を事前に済ませておくことが重要です。
Q. 備蓄は3日分では足りませんか?
A. 南海トラフ地震については、国の基本計画が「可能な限り1週間分程度の備え」を求めています。被災範囲が超広域になり支援が届きにくいこと、避難者1,230万人に対して避難所に入れるのが650万人で、半数近くが在宅などで過ごす想定であることが理由です。4人家族なら水84リットル(2リットル42本)、食料84食、携帯トイレ140回分が目安になります。
Q. 火災保険に入っていれば、地震で家が壊れても補償されますか?
A. 補償されません。地震・噴火・津波による損害は火災保険の対象外で、地震が原因の火災も含まれます。補償を受けるには地震保険の付帯が必要ですが、金額は火災保険の30〜50%の範囲(建物5,000万円・家財1,000万円が上限)で、生活再建の当面の資金という位置づけです。2024年度の世帯加入率は35.4%にとどまっています。
Q. 南海トラフ地震臨時情報が出たら、仕事や学校は休みになりますか?
A. 一律には決まっていません。「巨大地震注意」は1週間、備えを確認しながら普段どおりの生活を続ける情報です。「巨大地震警戒」の場合は、津波の到達が早く避難が間に合わない地域を対象に1週間の事前避難が呼びかけられます。対応は自治体や事業者ごとに定めることになっているため、お住まいの自治体と勤務先の方針を事前に確認しておくことが推奨されています。
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出典・参考
- 内閣府 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(被害想定・2025年3月31日公表)
- 内閣府 南海トラフ地震対策(防災対策推進基本計画・2025年7月改定/臨時情報防災対応ガイドライン)
- 地震調査研究推進本部 南海トラフの地震活動の長期評価(第二版一部改訂)のポイント(2025年9月26日)
- 気象庁 南海トラフ地震について/南海トラフ地震に関連する情報
- 内閣府 防災に関する世論調査(令和4年9月調査)
- 東京消防庁 家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック
- 損害保険料率算出機構 グラフで見る!地震保険統計速報(2024年度)
- 内閣府 被災者生活再建支援制度
- 国土交通省 ハザードマップポータルサイト
※本記事は公的機関の公表資料をもとに構成しています。津波の高さ・到達時間・避難場所は地域によって大きく異なるため、必ずお住まいの自治体のハザードマップと最新の気象庁情報をご確認ください。


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