23区の新築平均は1億3,613万円・平均給与は478万円
年収の28年分のマンションは、
いったい誰が買っているのか。
夜、駅前のタワーマンションを見上げると、灯りのついている窓が半分もない。1部屋1億円で「完売」したはずなのに——。国税庁の民間給与実態統計調査によると、日本の平均給与は478万円です。23区の新築マンション平均価格1億3,613万円は、その約28年分。この価格で、2025年の首都圏では21,962戸が供給されました(不動産経済研究所)。
「みんな金持ちなのか」「みんな無理をしているのか」。答えはどちらでもありません。この記事では、公表されている契約者データをもとに、1億円マンションを買っている5種類の財布と、この相場を支える仕組み、そして灯りのつかない窓の正体を解説します。
数字で見る首都圏マンション——平均9,182万円の世界
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 首都圏の新築平均価格 | 9,182万円(東京23区は1億3,613万円) |
| 年間供給戸数 | 21,962戸 |
| 契約者の世帯年収 | 平均1,213万円(リクルート2025年契約者動向調査) |
| 既婚世帯の共働き率 | 78.2%(ペアローン利用は54.1%) |
| 購入理由の1位 | 「資産として有利だと思った」36.7% |
まず分かるのは、買っているのが「平均給与478万円の人」ではないことです。契約者の世帯年収は平均1,213万円。その多くは、夫婦2人の収入を合算した共働き世帯です。
買っている5種類の財布
1億円マンションの主な買い手
- ペアローンの共働き世帯:年収600万円×2人で世帯1,200万円。2人で借りて予算を倍にする。契約者の54.1%がペアローン利用
- 住み替え組:数年前に買ったマンションが値上がりし、売却益を頭金にして買い進む。東京都の中古マンション価格は2025年に+31.1%(東京カンテイ)
- 相続・贈与の資金を使う世帯:親世代の資産が頭金に化ける
- 法人・投資家:節税・資産保全・賃貸運用目的
- 海外マネー:円安で海外から見れば「割安」になった東京の不動産
共通するのは、給料だけで買っていないことです。2人分の与信、値上がり益、親の資産、法人の財布、外貨——。「年収478万円で1億円」という比較がそもそも成り立たない買い方が主流になっています。
「資産として有利」——価格を支える転売の数字
購入理由の1位が「住みたい」ではなく「資産として有利」(36.7%)である点は、いまの市場の性格をよく表しています。実際、東京カンテイの調査では、築5年以内に中古で売り出された23区マンションの価格は新築時の158.1(新築時=100)。中央区は201.1、港区は197.7と、5年で2倍の水準です。
「買って住んで、値上がりしたら売る」が成立してきたからこそ、実需に投資の財布が混ざり、価格はさらに上がる——この循環が「年収の28年分でも売れる」を支えています。灯りのつかない窓の一部は、この循環の中にある「投資用・セカンド用・転売待ち」の部屋です。
ただし、この輪に入る前に見るべき数字がある
では「乗り遅れる前に買うべき」なのでしょうか。輪に入る前に、価格の外側にある数字を確認する必要があります。
| 項目 | 数字と注意点 |
|---|---|
| 修繕積立金 | 国交省ガイドラインの目安は20階以上で月338円/㎡。段階増額方式では当初の平均3.58倍まで上がる計画が普通。70㎡なら最終的に月2万円台後半へ |
| 金利上昇 | 日銀は利上げ局面。ペアローン1億円で金利+1%は、返済額でおよそ月5万円級の負担増になる |
| ペアローンの前提 | 「2人とも定年まで今の収入で働き続ける」が返済計画の前提。産休・育休・転職・離婚で計画は大きく崩れる |
| 価格の地域差 | 2025年の中古価格は東京+31.1%に対し埼玉+3.3%・千葉+3.2%。「マンションは上がる」は東京の一部の話 |
とくに注意したいのは、値上がりの数字がすべて「これまで」の実績であることです。築5年で158という転売価格比は過去の統計であって、これから買う部屋の5年後を保証しません。転売益を前提にした資金計画は、相場が止まった瞬間に「高値づかみ+重いランニングコスト」に変わります。
よくある質問
Q. タワマンの灯りがつかない部屋は、本当に空き家なのですか?
A. すべてが空き家ではありません。投資用で賃貸募集中の部屋、海外オーナーのセカンドハウス、単身赴任や出張の多い世帯、そして引き渡し直後でまだ入居していない部屋が混ざっています。「完売」は売れたことを意味しますが、「全戸に人が住んでいる」ことは意味しません。
Q. 年収いくらあれば1億円のマンションを買えますか?
A. 一般に無理のない借入は年収の7倍程度までと言われ、1億円をローン中心で買うなら世帯年収1,400万円前後が一つの目安です。実際の契約者は世帯年収平均1,213万円+頭金(売却益・親の援助など)という組み合わせが多く、「年収だけ」で買っている世帯はむしろ少数派です。
Q. ペアローンは危険ですか?
A. 仕組み自体は共働き世帯の合理的な選択肢で、それぞれが住宅ローン控除を使えるメリットもあります。リスクは「2人分の収入が続く前提」にあります。どちらかの収入が減った場合に片方の収入だけで返せるか、団信の保障範囲はどうなっているか、離婚時に共有名義をどう処理するか——契約前にこの3点を確認しておくことが重要です。
Q. マンション価格はこれからも上がりますか?
A. 分かりません。建築費と人件費の高止まり、都心の希少性、海外マネーは上昇要因ですが、金利上昇・実需の限界・供給側の調整は下落要因です。確実に言えるのは、東京+31.1%に対して埼玉+3.3%という地域差が示すとおり、「どこでも上がる」相場ではなくなっていることです。
まとめ
年収478万円の国で1億円のマンションが売れ続ける理由は、買い手が「平均的な給与所得者」ではないからでした。世帯年収1,213万円の共働きペアローン、値上がり益で買い進む住み替え組、親の資産、法人、海外マネー——複数の財布が「資産として有利」という期待でつながり、築5年で価格158という転売実績がその期待を補強しています。
この輪に入るかどうかを決めるのは、価格ではなく自分の返済耐久力です。修繕積立金は3.58倍まで上がる計画が普通で、金利は上昇局面。「2人とも働き続けられて、相場が止まっても困らないか」——その問いに数字で答えられるなら買い時は人それぞれ、答えられないなら、灯りのつかない窓を見上げて焦る必要はありません。
数字は国税庁・不動産経済研究所・リクルート・東京カンテイ・国土交通省の公表資料(2026年8月時点)に基づきます。試算はモデルケースであり、実際の価格・金利・費用は物件・契約により異なります。特定の物件・企業を批判または推奨するものではなく、不動産購入の判断はご自身の条件で試算のうえ専門家にご相談ください。


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