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能登の放鳥トキ2羽が死亡、なぜ?佐渡530羽の記録で見る生存率
石川県の能登地域で10月7日に放鳥された国の特別天然記念物トキのうち、オス2羽が死んでいるのが見つかりました。県と環境省の発表では、どちらも何者かに捕食されて損傷が激しく、直接の死因も死亡した時期も特定できないとしています。本州初の放鳥から5か月。能登に放った27羽の内訳と、2008年から放鳥を続ける佐渡の記録(32回・530羽)を並べ、今回の2羽の死をどう受け止めればよいかを数字で整理します。
この記事の結論
- 石川県と環境省の発表(10月23日)によると、死んでいたのは10月7日に中能登町で放鳥した9羽のうちのオス2羽(2歳と13歳)。七尾市の山林付近と中能登町の農地付近で見つかり、いずれも捕食による損傷が激しく、死因と死亡時期は特定できないとしています。
- 能登で放鳥したトキは5月・6月の18羽と10月の9羽で計27羽。2羽を除く25羽には、GPSで同様の異常値は確認されていません。5〜6月に放した18羽については、10月27日時点で県の記者発表資料に死亡の発表はありません。
- 佐渡では2008年から32回で530羽を放鳥しましたが、放されたばかりのトキが1年生き延びる割合(年生存率)は2012〜16年の平均0.63から、2020〜24年は平均0.38に下がっています。放鳥直後の1年は、もともと死亡が出やすい時期です。
- 佐渡で2008〜2020年に回収された死体46件を集計すると、死因不明が31件(67%)。原因が分かった15件では猛禽類による捕食が10件で最多でした。今回のように「捕食されたが、捕食で死んだのかは分からない」ケースは珍しくありません。
- 環境省は2027年秋と2028年初夏にも能登で放鳥する計画を示しています。2030年度までの目標は「本州などの2地域以上で計50羽程度」です。

能登の放鳥トキ2羽の死亡、発表で分かっていること
石川県と環境省が10月23日に出した資料の内容を整理します。トキは国内希少野生動植物種で、国の特別天然記念物でもあります。
| 個体番号 | 性別・年齢 | 生まれた場所 | 見つかった場所 |
|---|---|---|---|
| 558 | オス・2歳 | 多摩動物公園 | 七尾市内(山林の付近) |
| 585 | オス・13歳 | 野生 | 中能登町内(農地の付近) |
出典:石川県・環境省「野生下でのトキの死亡個体の発見について」(2026年10月23日)。2羽とも第2回(中能登町)の放鳥個体で、足環から個体を確認。
- 見つかった経緯:脚に付けたGPS発信機のデータに「活動が見られない」異常値が出たため、県などが探索して死体を回収しました。共同通信の配信記事(デイリースポーツ)によると、位置情報が変わらなくなったのは18日と19日で、死体は23日午前に見つかりました。
- 死因:「何者かの捕食により損傷が激しい」ため、直接の死亡原因と死亡時期の特定は困難としています。何に捕食されたのかも発表には書かれていません。
- ほかのトキ:残る25羽については、同様の異常値は確認されていないとしています。
ここで押さえておきたいのは、「捕食された跡がある」ことと「捕食されて死んだ」ことは同じではない、という点です。病気や衰弱で死んだ後に、別の動物に食べられることもあります。発表が死因を「特定困難」としているのはそのためで、現時点で「天敵に襲われた」と決めつけることはできません。
13歳のオスは「野生生まれ」
移送時の個体リストによると、13歳の585番は飼育番号に「野生」とあり、生まれた場所も「野生」と記載されています。ほかの26羽は、佐渡トキ保護センターや多摩動物公園、いしかわ動物園などの飼育施設生まれです。27羽の年齢は25羽が1〜2歳で、10歳を超えるのは5月にハードリリースした12歳のオス(566番)と、今回死んだ585番の2羽だけでした。
本州初の放鳥から5か月、能登に放したトキ27羽の内訳
能登は本州で最後までトキが残った土地です。石川県の資料によると、本州最後のトキ「能里(のり)」は1970年1月に穴水町で捕獲され、佐渡へ移されました。環境省は2025年2月に能登での放鳥を決め、2026年5月31日、羽咋市で本州初の放鳥が行われました。
| 放鳥 | 日付・場所 | 羽数(オス・メス) | その後 |
|---|---|---|---|
| 第1回(ハード) | 5月31日・羽咋市 | 8羽(オス8) | 放鳥式でそのまま放す方式。死亡の発表なし |
| 第1回(ソフト) | 6月14日・羽咋市 | 10羽(オス2・メス8) | 仮設ケージで約2週間慣らしてから放鳥。死亡の発表なし |
| 第2回(ソフト) | 10月7日・中能登町 | 9羽(オス5・メス4) | 10月23日にオス2羽の死亡を確認。残り7羽 |
| 合計 | - | 27羽(オス15・メス12) | 25羽(オス13・メス12)に異常値なし |
出典:石川県「羽咋市で行われたトキ放鳥の結果及び放鳥個体について」(6月1日)、「能登地域におけるトキ放鳥(2回目)の結果について」(10月7日)、10月23日の発表。男女別の数は県の個体一覧から当ブログで集計。
10月の放鳥は「12羽」から始まっていた
第2回の放鳥は、出発点から数えると次のように絞り込まれてきました。
- 6月25日、佐渡の野生復帰ステーションで12羽の順化訓練を開始(環境省発表)
- 7月19日、1歳のメス1羽が訓練中に死亡。剖検で内臓に多数の寄生虫と臓器の病変が見つかり、何らかの原因で免疫が下がった可能性があるとされました(11羽)
- 11羽から10羽を選んで9月25日に中能登町の仮設ケージへ移送
- 9月29日、9歳のオス1羽が地面にうずくまって動かなくなるなどしたため、いしかわ動物園に収容し、放鳥を見送り(県発表、9羽)
- 10月7日に9羽すべてが飛び立ち、10月23日に2羽の死亡を確認(7羽)
県の発表によると、10月7日には4羽が眉丈山(びじょうざん)方向、3羽が石動山(せきどうざん)方向、2羽が七尾方向へ飛んでいきました。
GPSで見る27羽の居場所
環境省「本州におけるトキの生息情報」は、GPSで得た位置を市町村単位で公表しています。10月22日時点で、5〜6月に放した18羽は羽咋市5羽、宝達志水町3羽、金沢市2羽、氷見市2羽などに分かれ、4羽は富山県内(氷見市・高岡市・小矢部市)で測位されていました。10月に放した9羽は中能登町2羽、七尾市・宝達志水町・志賀町が各1羽、不明が4羽です。
環境省は「不明」について、機器の電圧低下でデータが取れない場合の表記で、トキの生存状況を表したものではないと注記しています。この「不明」の数から死んだ個体を推し量ることはできません。
佐渡の記録では、放鳥1年目の生存率は4割前後に低下
放鳥したトキがどれくらい生き残るのかは、佐渡に17年分の記録があります。環境省の「トキ野生復帰ロードマップ2025の取組評価」によると、佐渡では2008年9月の第1回から32回、計530羽を放鳥しました。この資料には、足環の読み取りなどから推定した年ごとの生存率が載っています。放鳥された年の1年間を生き延びた割合(新規放鳥個体)と、2年目以降の個体の割合を抜き出しました。
| 年 | 新規放鳥個体の年生存率 | 放鳥2年目以降の個体 |
|---|---|---|
| 2012年 | 0.53 | 0.89 |
| 2013年 | 0.64 | 0.90 |
| 2014年 | 0.64 | 0.86 |
| 2015年 | 0.60 | 0.85 |
| 2016年 | 0.72 | 0.90 |
| 2017年 | 0.64 | 0.92 |
| 2018年 | 0.47 | 0.90 |
| 2019年 | 0.49 | 0.86 |
| 2020年 | 0.41 | 0.82 |
| 2021年 | 0.49 | 0.89 |
| 2022年 | 0.28 | 0.85 |
| 2023年 | 0.35 | 0.76 |
| 2024年 | 0.39 | 0.83 |
出典:環境省「トキ野生復帰ロードマップ2025の取組評価」表1(統合個体群モデルによる推定値)。バーは最も高かった2016年の0.72を100%とした長さ。
新規放鳥個体の年生存率は2016年の0.72をピークに下がり、2022年は0.28でした。5年ずつ平均すると、2012〜16年の0.63に対し、2020〜24年は0.38です。一方、放鳥から1年を越えた個体は毎年0.8〜0.9前後で推移しており、「最初の1年」を越えられるかどうかが大きな分かれ目になっています。
環境省は低下の理由について、佐渡島内の個体数が増えたことで餌の奪い合いが起き、捕食者に見つかりやすくもなり、競争力や経験の乏しい放鳥トキの初期生存率に影響していると考えられる、と説明しています。トキがほとんどいない能登とは条件が違う点には注意が必要です。
参考:佐渡の数字を能登の27羽に当てはめると
2024年の新規放鳥個体の年生存率0.39を27羽にそのまま掛けると、1年後に生きている数は約10.5羽という計算になります。能登は5か月で27羽中2羽の死亡で、この計算よりは少ない数にとどまっています。ただし、放鳥時期も環境も個体の年齢も違い、10月の9羽は放鳥からまだ3週間です。あくまで目安として見てください。
佐渡のトキは何羽?野生下473羽、放鳥個体は91羽まで減少
同じ資料から、佐渡の野生下の個体数を「放鳥された個体」と「野生で生まれた個体」に分けて並べました。
| 年(12月末) | 野生下の推定個体数 | うち放鳥個体 | うち野生生まれ |
|---|---|---|---|
| 2019年 | 424羽 | 170羽 | 254羽 |
| 2020年 | 442羽 | 165羽 | 277羽 |
| 2021年 | 478羽 | 153羽 | 325羽 |
| 2022年 | 545羽 | 163羽 | 382羽 |
| 2023年 | 532羽 | 152羽 | 380羽 |
| 2024年 | 576羽 | 133羽 | 443羽 |
| 2025年 | 473羽 | 91羽 | 382羽 |
出典:環境省「トキ野生復帰ロードマップ2025の取組評価」表1。放鳥個体は12月末時点の「生存扱い数」。推定個体数は放鳥個体と野生生まれの合計と一致します。
佐渡の野生下のトキは2024年末の576羽が最多で、2025年末は473羽と1年で103羽(約18%)減りました。とくに放鳥個体は2019年の170羽から2025年は91羽まで減り、いまや野生下のトキの8割は野生生まれです。環境省は、推定個体数が2022年に500羽に達して以降は500羽前後で増減しており、増加の段階から安定の段階に移りはじめている可能性があるとしています。
放鳥のペースも変わりました。2012〜2020年は毎年30〜38羽(計320羽)でしたが、2021〜2025年の5年間は9回で132羽です。「トキ野生復帰ロードマップ2030」は、当面は本州などでの放鳥に重点を置き、佐渡では必要に応じて行う方針を示しています。
放鳥トキの死因は何が多い?佐渡の死体46件を集計
環境省の「トキ野生復帰の取組評価」(2021年)には、2008年12月から2021年1月までに佐渡などで回収されたトキの死体46件の一覧(表9)があります。死因の欄を当ブログで分類し直しました。死因は、解剖と現場の状況から推定したものです。
| 推定された死因 | 件数 | 内容 |
|---|---|---|
| 不明 | 31件 | 「衰弱死の可能性」「猛禽類の襲撃による衰弱死の可能性」などを含む |
| 猛禽類による捕食 | 10件 | トビによる捕食1件を含む |
| 溺死 | 2件 | 富山県黒部市で1件。もう1件はアカハライモリによる中毒の可能性 |
| 電線に接触 | 1件 | 電線に接触し落下した可能性 |
| 窒息 | 1件 | ドジョウの誤嚥(ごえん)による窒息死 |
| 動物による捕食 | 1件 | 2021年1月、羽茂地区 |
出典:環境省「トキ野生復帰の取組評価」(2021年7月)表9「トキ死体回収記録一覧(2021年1月7日時点)」を当ブログで集計。
46件のうち31件、約3分の2は死因が分かっていません。原因が分かった15件では猛禽類による捕食が10件で、こちらも約3分の2を占めます。佐渡島の外(新潟市・三条市・富山県黒部市)で見つかった死体も4件ありました。資料は、2019年12月から2020年1月にかけて羽茂地区で猛禽類による襲撃が続き、特定の捕食者がトキを狙った可能性にも触れています。
その後の期間も含めた2025年の取組評価では、2008〜2025年に死亡・保護収容された要因のうち判明したものとして、猛禽類による捕食・襲撃が21件と最も多く、人工物への衝突など人の活動が原因のものは6件(全体の7%)だったとしています。
能登の2羽も「捕食による損傷が激しく死因は特定困難」とされました。佐渡の記録に照らすと、放鳥トキの死因は分からないまま終わることが多く、分かった中では猛禽類が多い、というのが17年分のデータの傾向です。能登の2羽を捕食したのが何かは発表されておらず、今後の調査結果が示されるかが注目されます。
能登の放鳥はどうなる?今後の計画と見かけたときの注意
新潟日報によると、環境省は10月14日に出雲市で開いたトキ野生復帰検討会で、2027年秋と2028年初夏に能登地域、2028年秋に出雲市で放鳥したいとの考えを示し、大きな異論は出ませんでした。出雲市では2027年初夏の放鳥がすでに決まっています(環境省)。
2026年3月に策定された「トキ野生復帰ロードマップ2030」は、2030年度までの短期目標として「本州等で放鳥したトキが2つ以上の地域で合わせて50羽程度生息し、うち1つ以上の地域で繁殖が確認されている」ことを掲げています。能登の25羽は、この目標に向けた最初の群れということになります。
トキを見かけたら
環境省と石川県は、トキの定着を妨げないよう、離れた場所から観察するよう呼びかけています。詳しい放鳥場所や個体ごとの位置は、過度な観察圧を避けるため公表されていません。県は目撃情報の入力フォームで、野生のトキを見かけた人からの情報を集めています。
能登のトキ放鳥の経緯
- 1970年1月本州最後のトキ「能里」を捕獲穴水町で捕獲され佐渡へ。本州からトキが姿を消す
- 2008年9月佐渡で第1回放鳥以後2025年までに32回・530羽を放鳥
- 2026年5月31日本州初の放鳥(羽咋市)8羽をハードリリース。6月14日に10羽をソフトリリース
- 7月19日第2回に向けた訓練中に1羽死亡佐渡の順化ケージで訓練中の1歳メス。寄生虫と臓器の病変
- 9月25日〜29日10羽を中能登町へ移送9歳オス1羽は体調不良で放鳥見送り
- 10月7日第2回放鳥(中能登町)9羽すべてが飛び立つ
- 10月14日環境省が今後の放鳥計画案2027年秋・2028年初夏に能登、2028年秋に出雲(報道)
- 10月23日2羽の死亡を確認七尾市と中能登町で発見。捕食による損傷が激しく死因は特定困難
能登のトキ死亡についてよくある質問
Q. 能登で死んだトキは何羽ですか?
A. 10月7日に中能登町で放鳥した9羽のうち、オス2羽(2歳と13歳)です。10月23日に七尾市と中能登町で見つかりました。能登で放鳥した27羽のうち、残る25羽にはGPSで同様の異常値は確認されていません。
Q. トキの死因は何ですか?
A. 石川県と環境省は、2羽とも何者かの捕食で損傷が激しく、直接の死亡原因と死亡時期の特定は困難としています。何に捕食されたかは発表されていません。
Q. 放鳥したトキはどれくらい生き残りますか?
A. 佐渡の記録では、放鳥された年の年生存率(新規放鳥個体)は2012〜16年の平均0.63から2020〜24年は平均0.38に下がっています。放鳥から1年を越えた個体は0.8〜0.9前後で推移しています。
Q. 佐渡には今トキが何羽いますか?
A. 環境省の推定では、2025年12月末時点で野生下に473羽です。うち放鳥個体が91羽、野生生まれが382羽でした。飼育下には167羽がいます。
Q. 能登ではまた放鳥しますか?
A. 報道によると、環境省は10月14日の検討会で2027年秋と2028年初夏に能登地域で放鳥する案を示しました。2027年初夏には島根県出雲市での放鳥も予定されています。
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出典・参考資料
- 石川県・環境省:野生下でのトキの死亡個体の発見について(2026年10月23日)
- 石川県:羽咋市で行われたトキ放鳥の結果及び放鳥個体について(6月1日)/中能登町で行われるトキ放鳥の放鳥個体について(9月25日)/中能登町におけるトキ放鳥の放鳥個体について(10月2日)/能登地域におけるトキ放鳥(2回目)の結果について(10月7日)/トキの歴史/トキの目撃情報について
- 環境省:本州におけるトキの生息情報/第2回能登地域トキ放鳥に向けた順化訓練の途中経過について(9月11日、石川県転載)/石川県能登地域におけるトキの放鳥方針決定について(2025年2月14日)/トキ(保護増殖事業)
- 環境省:トキ野生復帰ロードマップ2025の取組評価/トキ野生復帰ロードマップ2030/トキ野生復帰の取組評価(2021年7月)
- 報道:デイリースポーツ(共同通信配信、2026年10月23日)、新潟日報(2026年10月14日の検討会)
数値は2026年10月27日時点で公表されていたものです。27羽の内訳、生存率・個体数の表、死因の分類は、上記の公的資料をもとに当ブログが作成しました。写真:belvedere04「Nipponia nippon 77371852」(Wikimedia Commons、CC BY 4.0、一部トリミング・明るさ調整・文字入れ)。
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