動物|イノシシ・人身被害
イノシシに襲われる事故はなぜ秋に多い?全国10年531件をクマと比較
2026年10月16日、静岡県掛川市で散歩中の60代男性がイノシシに襲われて重傷を負い、同じ日の夜には徳島県那賀町の民家でも60代男性がかまれました。17日夜にはJR大和路線の電車がイノシシと接触しています。イノシシの事故は本当に多いのか、なぜ秋に目立つのか。環境省と県の公表データを集計して確かめました。
この記事の結論
- 環境省の速報値では、イノシシによる人身被害(狩猟や捕獲作業中の事故を除く)は2016〜2025年度の10年間で531件・667人、うち死亡4人。最多は2024年度の71件でした。
- 同じ10年間のクマ類は1,182件で、件数ではクマがイノシシの約2.2倍。ただし被害人数では2022年度と2024年度にイノシシがクマを上回り、都府県別では46都府県のうち23都府県でイノシシの件数の方が多いという結果でした。
- 香川県の月別データ(2019〜2025年度)では、市街地への出没1,757件のうち45.8%が10〜11月に集中し、人身被害40件のうち18件(45%)も10〜11月でした。7年とも出没が最も多い月は10月か11月です。
- 兵庫県は、イノシシは本来おくびょうな動物だとしたうえで、発情期(晩秋〜冬)や子を産んだ後、興奮しているとき、至近距離で出会ったときは注意が必要だとしています。
- 出会ったら刺激せず、背中を見せずにゆっくり離れる。近づいてきたら建物や車の中、高い場所に避難し、反撃しない。これが兵庫県・香川県の呼びかけです。
10月16〜17日に何があった?相次いだイノシシの事故
報道で確認できた主な出来事を時系列で並べます(いずれも2026年10月)。
- 11日夜兵庫・南あわじ市で149キロの雄を捕獲果樹園に仕掛けた箱わなにかかった体長150センチの雄。市の鳥獣対策室によると、駆除されるイノシシの多くは40キロ以下で、大型でも100キロ余りだといいます(神戸新聞)。
- 16日 午前6時半静岡・掛川市で散歩中の60代男性が重傷山林沿いの市道で襲われ、頭部と頰を十数針縫うけが。イノシシの足には有害鳥獣捕獲用の「くくりわな」の金属器具が付いており、わなにかかった後に引きちぎるなどして逃れた可能性があると市と警察はみています(静岡新聞)。男性は両手足と顔をかまれ、近くの住宅に逃げ込んだと報じられています(テレビ静岡/FNN)。
- 16日 午後8時半徳島・那賀町の民家で60代男性がかまれる民家の倉庫にいたイノシシをつかまえようとして左腕と右の太ももをかまれ、数針を縫いました。イノシシは体長約1メートルで、その場から逃げています(徳島新聞)。警察は17日朝からパトロールを行い、住民に注意を呼びかけました(四国放送)。
- 17日 午後7時12分JR大和路線の電車がイノシシと接触木津〜平城山間で京都発奈良行きの普通電車が接触して停車。乗客約60人にけがはなく、午後8時26分に運転を再開しましたが、3本が運休し、約1,700人に影響しました(関西テレビ)。
同じ週には、ラジオ番組に出演した動物行動学者の新宅広二さんが、猟師として野生動物に向き合う経験から「事故件数はクマよりもイノシシのほうが多い」と話した内容も記事になりました(TOKYO FM+)。クマの被害が大きく報じられる今年、イノシシの事故はどのくらい起きているのでしょうか。

イノシシの人身被害は全国で年何件?環境省の10年分
環境省は2016年度から、都府県への聞き取りでイノシシによる人身被害を集計しています。最新の速報値(2026年10月13日)と、クマ類の速報値(10月14日)を年度ごとに並べました。
| 年度 | イノシシ | 人数 | クマ | 人数 |
|---|---|---|---|---|
| 2016 | 49件 | 64人 | 101件 | 105人 |
| 2017 | 55件 | 76人 | 100件 | 108人 |
| 2018 | 50件 | 52人 | 51件 | 53人 |
| 2019 | 59件 | 75人 | 140件 | 157人 |
| 2020 | 51件 | 59人 | 143件 | 158人 |
| 2021 | 44件 | 55人 | 80件 | 88人 |
| 2022 | 68件 | 85人 | 71件 | 75人 |
| 2023 | 47件 | 65人 | 198件 | 219人 |
| 2024 | 71件 | 94人 | 82件 | 85人 |
| 2025 | 37件 | 42人 | 216件 | 238人 |
| 10年計 | 531件 | 667人 | 1,182件 | 1,286人 |
色付きの行は、被害人数でイノシシがクマを上回った年度。イノシシは狩猟や捕獲作業に伴う事故を除く。2026年度はイノシシが8月末時点で20件・26人、クマが9月末時点で64件・68人(いずれも暫定値)。
イノシシの人身被害は年40〜70件ほどで、10年間で531件・667人。亡くなった人は2018年度に2人、2021年度と2022年度に各1人の計4人です。1件あたりの被害者が1人を超えるのは、1頭が複数の人を続けて襲う例があるためで、兵庫県によると2024年11月には姫路市で6人が襲われています。
どこで起きている?10年間の都府県別
| 都府県 | 件数 | 人数 |
|---|---|---|
| 1. 広島 | 69件 | 79人 |
| 2. 兵庫 | 61件 | 70人 |
| 3. 香川 | 51件 | 68人 |
| 4. 福岡 | 36件 | 38人 |
| 5. 千葉 | 33件 | 40人 |
| 6. 栃木 | 28件 | 29人 |
| 7. 愛媛 | 23件 | 30人 |
| 静岡(掛川市) | 8件 | 9人 |
| 徳島(那賀町) | 9件 | 14人 |
2016〜2025年度の合計。北海道はイノシシの目撃・捕獲実績がないため集計の対象外。
最も多いのは広島県の69件で、2022年度だけで16件・18人(うち死亡1人)が起きています。2位の兵庫県は六甲山周辺の市街地を中心に毎年事故が起きているとされ、2016年度14件・2017年度15件と2年続けて全国最多でした。3位の香川県も51件・68人と多く、上位3県はいずれも瀬戸内海に面した県です。静岡県は10年で8件ですが、2018年度に1人が亡くなっています。
環境省がまとめた2017〜2023年度の分析では、事故の起きた場所は住宅地などの市街地・集落と屋内を合わせて全体の65%を占め、被害の種類は「咬みつき」が最も多いとされています。山の中より、人の暮らす場所で起きている事故だということです。
「イノシシの事故はクマより多い」は本当?
環境省の数字で全国を比べると、2016〜2025年度の10年間の件数はクマ類1,182件、イノシシ531件で、クマの方が約2.2倍多くなっています。死亡者もクマが38人、イノシシが4人です。年度ごとに見ても、件数でイノシシがクマを上回った年はありませんでした(2018年度はイノシシ50件・クマ51件の1件差)。
ただし、被害を受けた人の数で見ると、2022年度(イノシシ85人・クマ75人)と2024年度(94人・85人)はイノシシの方が多くなっています。クマの被害が東北や長野などに集中しているのに対し、イノシシの被害は西日本を中心に広く分かれているため、都府県別に見ると印象が変わります。
10年間の件数を都府県ごとに比べると
- イノシシの件数がクマを上回ったのは46都府県のうち23都府県
- 広島(イノシシ69件・クマ7件)、兵庫(61件・14件)、香川(51件・0件)、千葉(33件・0件)、栃木(28件・20件)など
- 九州・沖縄の8県はクマの集計対象外(近年の目撃・捕獲実績なし)で、福岡36件・長崎17件などの事故はすべてイノシシ
- 静岡はイノシシ8件・クマ3件、徳島はイノシシ9件・クマ0件
つまり「全国の件数」ではクマの方が多い一方、クマのいない地域やクマの少ない西日本・関東の多くの県では、イノシシが人身被害のいちばんの相手になっています。
猟の現場の事故は、この統計に入っていない
新宅さんの発言は、わなにかかったイノシシを仕留める際に安易に近づくと反撃される、という猟の現場の話として紹介されています。一方、環境省のイノシシの集計は狩猟や捕獲作業に伴う事故を除いた数字です。猟師がけがをするような事故をイノシシとクマで比べた全国の公表データは見つからず、この発言そのものを数字で確かめることはできませんでした。掛川市の事故のように、わなから逃れたイノシシが散歩中の人を襲うケースは、統計上は一般の人身被害として数えられることになります。
なぜ秋に多い?香川県の月別データで見る
全国の人身被害には月別の内訳が公表されていません。そこで、市街地への出没と人身被害を月別に毎月公表している香川県の資料(2026年9月30日現在)から、2019〜2025年度の7年分を合計しました。
| 月 | 市街地への出没 | 人身被害 |
|---|---|---|
| 4月 | 41件 | 1件 |
| 5月 | 40件 | 0件 |
| 6月 | 78件 | 0件 |
| 7月 | 113件 | 4件 |
| 8月 | 129件 | 3件 |
| 9月 | 123件 | 2件 |
| 10月 | 366件 | 12件 |
| 11月 | 438件 | 6件 |
| 12月 | 193件 | 4件 |
| 1月 | 97件 | 4件 |
| 2月 | 77件 | 4件 |
| 3月 | 62件 | 0件 |
| 7年計 | 1,757件 | 40件 |
香川県「市街地でのイノシシ出没状況について」の2019(令和元)〜2025(令和7)年度を合計。人身被害の年度別件数は環境省の速報値の香川県分と一致します。
10月と11月の2か月だけで出没は804件、全体の45.8%。人身被害も40件のうち18件(45%)が10〜11月で、10月だけで12件ありました。7年のどの年度でも、出没が最も多い月は10月か11月です。香川県も県のページで「10月から11月はイノシシが市街地に出没しやすい時期」と注意を呼びかけています。
公的資料が挙げる「秋に気をつけたい理由」
- 発情期に入る:兵庫県は、発情期(晩秋〜冬)や分娩後で攻撃的になっているときは注意が必要だとしています。
- 人里のエサ:農林水産省は、収穫しないままの果実や収穫後の稲の「ひこばえ」、生ごみなどが、知らないうちに野生鳥獣のエサになっていると指摘しています。実りの季節の秋は、こうしたエサが人里に増える時期でもあります。
- 朝夕の行動:香川県のパンフレットは、早朝と夕方に目撃が多いとしています。農林水産省も、人里の周辺では人を警戒して夜間にも活動するとしています。掛川市の事故は午前6時半、那賀町は午後8時半でした。
このうち「秋にエサが増える」の部分は、農水省の指摘と季節を重ねた本記事の見立てで、月別の被害を直接説明した公的な分析ではありません。
香川県は今年度、上半期だけで人身被害7件
2026年度の4〜9月、香川県では市街地への出没が109件、人身被害が7件ありました。人身被害7件は、2019年度以降の同じ時期(4〜9月)の最多4件を上回り、2024年度の1年分(7件)に並んでいます。例年はこれから10〜11月の山場を迎えます。
イノシシは増えている?捕獲数と農作物被害
環境省の捕獲数の統計と速報値から、イノシシの捕獲頭数(狩猟と許可捕獲などの合計)を並べます。
| 年度 | 捕獲頭数 |
|---|---|
| 2000年度 | 14.8万頭 |
| 2016年度 | 62.0万頭 |
| 2018年度 | 60.5万頭 |
| 2020年度 | 67.9万頭 |
| 2021年度 | 52.9万頭 |
| 2022年度 | 59.0万頭 |
| 2023年度 | 52.2万頭 |
| 2024年度 | 64.3万頭 |
環境省の数値は十の位で四捨五入。2018〜2024年度は速報値。
捕獲数は2000年度の約15万頭から、近年は52万〜68万頭と3.5〜4.6倍の水準です。環境省の資料によると、イノシシの分布域は1978年度から2020年度で約1.9倍に広がり、これまで少なかった東北や北陸の積雪地域でも見られるようになっています。全国の推定個体数は2021年度末で約72万頭(中央値)とされています。
農林水産省の野生鳥獣による農作物被害状況では、イノシシの被害額は2010年度の68.0億円をピークに減り、2023年度は36.3億円まで下がりました。ところが2024年度は44.6億円と前年度から23%増え、2025年度も44.0億円と同じ水準です。2025年度の獣類の被害額では、シカ(76.2億円)に次ぐ2位です。
地域の捕獲の現場でも数字は動いています。神戸新聞によると、南あわじ市のイノシシの捕獲数は2024年度1,721頭、2025年度1,708頭だったのに対し、今年は9月末までで1,801頭に達しました。
イノシシに出会ったらどうする?県の呼びかけ
兵庫県と香川県のパンフレットが挙げている対処をまとめます。
出会ってしまったら
- 刺激しない:慌てずゆっくり後ずさりして、その場を離れる。急に走り出さない
- 背中を見せない:興奮したイノシシは、後ろを向くと襲ってくることがある
- 棒を振り上げたり物を投げたりしない:興奮させて襲われるおそれがある
- 隠れる・高い所へ:近づいてきたら、建物や車の中、塀の上など、イノシシから見えない場所や登れない場所に避難する
- 反撃しない:香川県は、反撃するといつまでも攻撃してくるとし、体をかがめて足を閉じ、太ももの内側を守る姿勢を勧めている
- 犬を連れているとき:近づいてきたらリードを放して、犬と分かれて避難する
兵庫県は、イノシシがけがをしているときや市街地に迷い込んでいるときは、興奮している可能性が高いとしています。掛川市のように、わなの器具を付けたまま逃げたイノシシを見かけたときは、近づかずに市町村や警察に連絡するのが安全です。
寄せつけないために
香川県は、草むらややぶを刈って見通しをよくすること、ごみを夜に出さないこと、家庭菜園を柵で囲むことを挙げています。兵庫県は、エサを与えると人への警戒心が下がり、人が食べ物をくれると学習させてしまうとして、餌付けをしないよう求めています。食べ物の入った袋を持っているときに近づかれたら、袋を体から遠ざけて逃げるようにとも呼びかけています。
イノシシの人身被害の報道(X)
静岡新聞は10月16日、掛川市の山林沿いの市道で散歩中の男性がイノシシに全身をかまれ、重傷を負ったと伝えました。徳島新聞は翌17日、那賀町で男性がイノシシにかまれたと報じています。
イノシシに襲われ男性重傷 山林沿いの市道で全身かまれる 掛川市|静岡新聞DIGITAL 静岡県のニュース https://t.co/S00tJ3olZu
— 静岡新聞DIGITAL(編集部からおすすめ記事をお届けします) (@shizushin) October 16, 2026
那賀町で男性がイノシシにかまれるhttps://t.co/7Mdpvy1YTn
— 徳島新聞 (@tokushimapress) October 17, 2026
イノシシの事故のよくある質問
Q. イノシシの人身被害は全国で年に何件ありますか?
A. 環境省の速報値では、2016〜2025年度は年37〜71件で、10年間の合計は531件・667人です。最多は2024年度の71件・94人でした。狩猟や捕獲作業に伴う事故は含みません。
Q. イノシシの事故はクマより多いのですか?
A. 全国の件数ではクマの方が多く、10年間でクマ類1,182件に対しイノシシ531件です。ただし被害人数では2022年度と2024年度にイノシシが上回り、都府県別では46都府県のうち23都府県でイノシシの件数の方が多くなっています。
Q. イノシシの事故はなぜ秋に多いのですか?
A. 香川県の7年分の月別データでは、市街地への出没の46%、人身被害の45%が10〜11月に集中しています。兵庫県は発情期(晩秋〜冬)は注意が必要だとしており、農林水産省は収穫しないままの果実などが野生鳥獣のエサになると指摘しています。
Q. イノシシに出会ったらどうすればいいですか?
A. 慌てず、背中を見せずにゆっくり後ずさりして離れます。走り出したり、棒を振り上げたり物を投げたりはしないでください。近づいてきたら建物や車の中、塀の上などに避難し、反撃はしないよう兵庫県・香川県は呼びかけています。
Q. 犬の散歩中にイノシシに出会ったら?
A. 香川県と兵庫県は、犬を連れていると特に危険だとしています。イノシシが近づいてきたらリードを放して、犬と分かれて避難するよう呼びかけています。草むらの多い散歩道では、リードをしっかり持つことも大切です。
Q. イノシシはどのくらい大きくなりますか?
A. 神戸新聞によると、10月に兵庫県南あわじ市で捕獲された雄は体重149キロ・体長150センチでした。市の鳥獣対策室は、駆除されるイノシシの多くは40キロ以下で、大型でも100キロ余りだとしています。
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出典・参考資料
- 環境省:イノシシによる人身被害について[速報値](2026年10月13日)/クマ類による人身被害について[速報値](2026年10月14日)
- 環境省:捕獲数及び被害等の状況等(狩猟及び許可捕獲等による主な鳥獣の捕獲数・ニホンジカ・イノシシ捕獲数速報値)。2021年度は2022年8月17日時点の速報値(同資料の旧版)
- 環境省:イノシシの保護及び管理に関する最近の動向(2024年1月)
- 農林水産省:全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(参考4 被害状況の推移)/aff 2022年1月号 特集 野生鳥獣被害
- 香川県:市街地でのイノシシ出没状況について(2026年9月30日現在)/イノシシ対策/イノシシへの正しい対処法
- 兵庫県:イノシシによる人身被害防止について
- 報道:静岡新聞/テレビ静岡(FNN)/徳島新聞/四国放送/関西テレビ/神戸新聞/TOKYO FM+
数値は2026年10月17日時点で公表されていたものです。環境省の人身被害は都府県から聞き取った速報値で、変更されることがあります。香川県の資料は毎月更新されます。写真:アイキャッチ=Show_ryu「Sus scrofa in Tenjo-gawa river, Hyogo, Japan」(兵庫県神戸市の天上川、CC BY-SA 3.0、トリミング・背景の延長・明るさ調整あり)/本文=urasimaru「Sus scrofa leucomystax」(CC BY 2.0)。いずれもWikimedia Commons。
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