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キオクシア株価はなぜ暴落?信用買い残9200億円が戻りを阻む理由
半導体メモリ大手キオクシアホールディングス(285A)の株価が、6月の高値から大きく下げています。ブルームバーグ(10月18日)は、将来の売り圧力になり得る信用取引の買い残高が約9,200億円と全銘柄で最大で、株価の戻りを阻んでいると報じました。この記事では、日本取引所グループ(JPX)が公表している全銘柄の信用取引残高を当サイトで集計し、キオクシアの買い残がどれほど突出しているのか、なぜ買い残が多いと上値が重くなるのかを、信用取引の仕組みから解説します。
この記事の結論
- JPXの公表データでは、10月15日申込時点のキオクシアの信用買い残は4,880万株・9,209億円。全約4,250銘柄の中で最大で、2位のソフトバンクグループ(2,429億円)の約3.8倍です。
- 東京市場の信用買い残の合計(6.79兆円)のうち、13.6%、およそ7分の1がキオクシア1銘柄に集まっています。2位から7位までの6銘柄を足しても(8,611億円)届きません。
- 買い残の金額を株数で割ると、信用で買った人の平均の買値は約18,870円。15日の終値12,880円では約32%の含み損(合計で約2,923億円)にあたる計算です。
- 含み損を抱えた買い残は、株価が戻る場面で「やれやれ売り」に、さらに下がる場面では追証(追加保証金)や6か月の返済期限による投げ売りにつながりやすく、これが上値を重くする理由です。
- 売り残は1週間で約3割減り、信用倍率は8日の23.9倍から15日は38.0倍に上がりました。この記事は特定の銘柄の売買をすすめるものではありません。
キオクシア株価の暴落と信用買い残9,200億円|何が起きているのか
キオクシアHDの株価は、AI向けの記憶装置(SSD)の需要拡大を背景に大きく上がり、6月22日に高値37,566円(10月1日の株式分割を考慮した値、株探の時系列による)を付けました。その後は値下がりが続き、10月に入ってからも13日に前営業日比13.3%安、15日に12.3%安と大きく下げる日がありました。15日の終値は12,880円で、高値から65.7%下の水準です。ブルームバーグ(19日朝の更新版)によると、19日も一時前週末比5%下げ、高値からの下落率は66%を超えたと伝えています。
ブルームバーグ(10月18日)は、JPXのデータをもとに、キオクシアの信用買い残が15日申込時点で約9,200億円と全銘柄で最大になっていること、信用倍率が38倍と1カ月前の約18倍から急上昇したことを報じ、買い残の解消に時間がかかり、株価の低迷が長引く可能性があると指摘しました。株価は6月下旬の高値の後、AI相場の調整とともに売り込まれたとしています。
では、9,200億円という数字はどのくらい大きいのでしょうか。JPXの公表データを自分で集計して確かめます。
信用買い残ランキング|キオクシアは2位の3.8倍、市場全体の13.6%
JPXは毎営業日、信用取引の残高がある銘柄ごとの残高(売り残・買い残の株数と金額)を「銘柄別信用取引残高」として公表しています。10月15日申込分のPDF(東京市場、全4,250銘柄)を当サイトで読み取り、買い残の金額が大きい順に並べました。
| 銘柄 | 買い残(金額) | 信用倍率 | 上場株数比 |
|---|---|---|---|
| 1. キオクシアHD | 9,209億円 | 38.0倍 | 3.0% |
| 2. ソフトバンクグループ | 2,429億円 | 12.1倍 | 0.7% |
| 3. 東京エレクトロン | 1,445億円 | 24.7倍 | 0.5% |
| 4. 三菱UFJ FG | 1,389億円 | 26.3倍 | 0.4% |
| 5. フジクラ | 1,258億円 | 34.5倍 | 1.3% |
| 6. アドバンテスト | 1,104億円 | 2.3倍 | 0.4% |
| 7. JX金属 | 985億円 | 45.5倍 | 2.6% |
| 8. 三菱重工業 | 835億円 | 28.1倍 | 0.6% |
| 9. 三井住友FG | 827億円 | 22.8倍 | 0.4% |
| 10. 古河電気工業 | 763億円 | 34.9倍 | 2.5% |
日本取引所グループ「銘柄別信用取引残高」2026年10月15日申込分を当サイトで集計(個別株のみ。ETFでは「NEXT FUNDS 日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信」が1,511億円で、ソフトバンクグループに次ぐ規模)。信用倍率は買い残株数÷売り残株数。上場株数比はJPXの表示(買い残株数÷上場株数)。
キオクシアの買い残は9,209億円で、2位のソフトバンクグループ(2,429億円)の約3.8倍です。3位以下の東京エレクトロン、三菱UFJ、フジクラなどは1,000億円台にとどまり、キオクシアだけが桁違いに大きいことがわかります。
東京市場全体の信用買い残は、同じ15日申込時点で6.79兆円(JPX公表の総合計)。このうち13.6%をキオクシア1銘柄が占めています。市場全体の買い残のおよそ7分の1が、ひとつの会社の株に集まっている状態です。
ここで使った「金額」とは
JPXの信用取引残高の金額は、建てたとき(売買が成立したとき)の約定代金で集計されています(JPX「信用取引現在高」の注記。10月9日申込分で、銘柄別の総合計と信用取引現在高の東京市場の合計が一致することを確認)。いまの株価で評価した金額ではないため、金額÷株数で「信用で買った人たちの平均の買値」を逆算できます。
信用買い残が多いとなぜ株価の戻りが鈍いのか|3つの理由
信用取引は、証券会社に保証金(担保)を預けて、お金や株を借りて売買する取引です。JPXの説明資料によると、新しく信用取引をするときは約定代金の30%以上(最低30万円)の保証金が必要で、保証金のおよそ3倍まで取引できます。信用で買った株は、いずれ売って(反対売買)お金を返す必要があります。つまり買い残は「将来いつか売られる予定の株」と言いかえられます。

理由1:平均の買値より株価が3割低く「戻り売り」が出やすい
買い残の金額 920,943,036,588円 ÷ 買い残の株数 48,805,000株 = 平均の買値 約18,870円
15日の終値 12,880円 ÷ 18,870円 − 1 = 約-31.7%(16日の終値13,375円なら約-29.1%)
含み損の合計(15日終値で評価)= 9,209億円 − 48,805,000株×12,880円 ≒ 約2,923億円
JPXの公表値と株探の終値(分割考慮後)から当サイトが計算。株価の上下で毎日変わります。金利や手数料は含みません。
信用で買った人の多くが損をしている状態では、株価が少し戻ると「買値に近づいたところで売って損を小さくしたい」という売り(いわゆるやれやれ売り)が出やすくなります。買い残が大きいほど、戻る途中で待ち構える売りも大きくなるため、上値が重くなります。
理由2:値下がりで追証が発生し、投げ売りを招く
信用取引の保証金は、値下がりによる評価損の分だけ目減りして計算されます。保証金が証券会社の決めた一定の率を下回ると、保証金の追加の差し入れ(追証)が必要になります。追証を入れられなければ、持っている株を売って精算することになります。
試算:保証金30万円で100万円分を信用買いした場合
株価が20%下がると評価損は20万円で、保証金は30万円から10万円に減ります(保証金率10%)。株価が30%下がれば保証金はほぼゼロです。キオクシアの信用買いは平均で約3割の含み損を抱えている計算なので、保証金に余裕のない人の一部は、すでに追証や強制的な決済に直面しているとみられます。
保証金率30%ちょうどで建てた単純な例です。実際には代用有価証券の評価や証券会社ごとの維持率で変わります。
追証による売りはさらに株価を下げ、別の人の追証を呼ぶ連鎖になりやすいのが特徴です。10月13日や15日のような急落の日に、この連鎖が起きていた可能性があります。
理由3:制度信用には「6か月」の返済期限がある
信用取引には、取引所が条件を決める制度信用取引と、証券会社が条件を決める一般信用取引があります。JPXの資料では、制度信用の返済期限は最長6か月、一般信用の期限は証券会社が決めます。キオクシアの買い残4,880万株のうち、制度信用が3,147万株(64.5%)、一般信用が1,733万株です。
制度信用で買った株は、6か月以内に売るか、お金を払って現物として引き取る(現引き)必要があります。たとえば高値をつけた6月下旬に制度信用で買った人の期限は12月下旬です。期限が近づくと、損が出ていても売らざるを得ない人が出てくるため、期限の集中も需給の重しとして意識されます。
信用倍率38倍の見方|売り残が減って倍率が上がった
信用倍率は「買い残÷売り残」で計算します。1倍より大きいほど、信用で買っている人が売っている人より多い状態です。倍率が高い銘柄は、将来の売り(買い残の解消)が多く控えている一方、株価を押し上げる買い戻し(売り残の解消)は少ない、と読みます。JPXが日々公表しているデータで、キオクシアの直近5営業日の動きを並べました。
| 申込日 | 買い残(前日比) | 売り残 | 信用倍率 |
|---|---|---|---|
| 10月8日 | 4,351万株 −116万 |
182万株 | 23.9倍 |
| 10月9日 | 4,480万株 +129万 |
150万株 | 29.8倍 |
| 10月13日 | 4,950万株 +470万 |
91万株 | 54.2倍 |
| 10月14日 | 4,969万株 +18万 |
140万株 | 35.5倍 |
| 10月15日 | 4,880万株 −88万 |
128万株 | 38.0倍 |
日本取引所グループ「銘柄別信用取引残高」10月8日〜15日申込分(PDF)から当サイトが作成。株数は10月1日の株式分割(1株→3株)後の値。12日はスポーツの日で休場。
8日から15日までの1週間で、買い残は12.2%増え、売り残は29.6%減りました。信用倍率が23.9倍から38.0倍に跳ね上がったのは、買い残が増えたことに加えて、売っていた人が買い戻して売り残が減ったことも効いています。とくに株価が13.3%下げた13日には、買い残が1日で約470万株増えました。値下がりした場面で新たに信用で買う動き(押し目買いや買い増し)が入ったとみられ、結果として、含み損を抱えた将来の売り予備軍がさらに積み上がった形です。
市場全体の買い残に占めるキオクシアの割合も、8日の13.3%から13日には14.3%まで上がり、15日は13.6%でした。
回転日数と「売買の細り」
信用買いがどのくらいの速さで入れ替わっているかを見る指標に信用回転日数があります。一般に「(前回の買い残+今回の買い残)÷(期間中の新規の買い+返済)×期間の日数」で計算し、日数が長いほど、買った人が売れずに残っている(しこりになっている)と読みます。ただ、JPXの銘柄別の公表データには新規と返済の内訳がないため、ここでは代わりに売買の量と比べました。
| 月 | 1日平均の出来高 | 1日平均の売買代金(概算) |
|---|---|---|
| 6月 | 11,431万株 | 約32,749億円 |
| 7月 | 14,040万株 | 約29,384億円 |
| 8月 | 12,711万株 | 約21,993億円 |
| 9月 | 7,926万株 | 約14,268億円 |
| 10月(1〜16日) | 4,807万株 | 約7,855億円 |
株探の時系列データ(株式分割を考慮した株価・出来高)から当サイトが計算。売買代金は「終値×出来高」の概算で、実際の売買代金とは一致しません。
6月には1日平均で約3.3兆円(概算)あった売買が、10月は約7,855億円と約76%減っています。9,209億円の買い残は、10月の1日平均の売買代金のおよそ1.2日分にあたります。ブルームバーグが「売買減で解消に時間」と伝えたように、買い手が減るなかで大量の売り予備軍をこなすには時間がかかる、というのが今の需給の構図です。
キオクシアの決算・株式分割・自社株買い|会社側の動き
株価の需給とは別に、会社の業績や株主還元の方針も整理しておきます。いずれも会社の適時開示とIR資料によるものです。
- 6月2日Investor Dayで株主還元の方針を説明余剰のフリー・キャッシュ・フローを成長投資と株主還元に配分し、配当(ベース)は累進配当政策を開始、追加還元も検討するとの方針を示しました。具体的にいつから、どの程度の配当や自社株買いを行うかは、この時点では示していません。
- 6月22日株価が高値37,566円株式分割を考慮した値(株探)。終値は36,232円でした。
- 7月31日第1四半期決算・株式分割・自社株買い枠を発表2027年3月期第1四半期(4〜6月)の売上収益は1兆7,671億円(前年同期比415.5%増)、営業利益は1兆2,700億円。あわせて1株を3株にする株式分割と、上限8,000億円の自己株式取得を決めました。
- 8月3〜10日自社株買い8,000億円を完了16,133,500株(分割前)を799,997,689,000円で取得し、取得を終了しました(分割後に換算すると1株あたり約16,529円)。
- 10月1日株式分割(1株→3株)の効力発生基準日は9月30日。会社の開示では、分割後の発行済株式数は約16.4億株(6月末の株数をもとにした値)です。
- 10月30日第2四半期決算の発表予定IRカレンダーでは18時45分の予定です。
会社が7月に出した中間期(4〜9月)の予想は、売上収益4兆1,571億円、営業利益3兆1,600億円です。ここから第1四半期の実績を引くと、第2四半期(7〜9月)単独では売上収益2兆3,900億円、営業利益1兆8,900億円を見込んでいる計算になります(当サイトの計算)。配当は、2027年3月期の中間配当の予想を0円としており、期末は未定です。
なお、8月の自社株買い(8,000億円)と、いまの信用買い残(9,209億円)はほぼ同じ規模です。会社の自社株買いはすでに終わっているため、当面の需給は、信用で買った人たちの売りをだれが吸収するかにかかっていると言えます。
この記事の立場
本記事は、公表データから信用取引の需給を読み解くための解説で、キオクシア株の売買をすすめたり、株価の先行きを予想したりするものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。
信用買い残・信用倍率を自分で確認する方法
- 銘柄別の残高:JPXの「銘柄別信用取引残高」に、全銘柄の売り残・買い残(株数と金額)が毎営業日16時ごろを目安に掲載されます。10月16日申込分は19日に公表される見込みです。
- 市場全体の残高:「信用取引現在高」は毎週火曜日16時ごろに掲載されます。10月9日申込時点の東京・名古屋の二市場の買い残は約6兆7,081億円でした。
- 見るポイント:買い残の金額と株数(平均の買値の目安)、売り残との比率(信用倍率)、制度信用と一般信用の内訳(期限のある買い残の量)、そして株価・出来高との関係です。
買い残は、株価が上がって買った人が利益を確定したり、下がって損を確定したりすることで減っていきます。買い残が減って倍率が下がる=将来の売り予備軍が減ることなので、需給の改善を確かめるときは、株価だけでなく残高の推移もあわせて見るのが基本です。
ブルームバーグの報道(X)
ブルームバーグは10月19日朝、キオクシアHD株の信用買い残が積み上がり、売買が細るなかで解消に時間がかかるとの見方を伝えました。本文の残高の数字は、日本取引所グループの公表データから当サイトが集計したものです。
キオクシアHD株の完全復活拒む信用買い残の山、売買細り解消に要時間 https://t.co/LcupPI3X6w
— ブルームバーグニュース (@BloombergJapan) October 18, 2026
キオクシアの信用買い残についてよくある質問
Q. 信用買い残とは何ですか?
A. 信用取引で株を買い、まだ売って(返済して)いない株の残高です。信用で買った株はいずれ売られることが多いため、「将来の売り圧力」として見られます。JPXが銘柄ごとに株数と金額を公表しています。
Q. キオクシアの信用買い残はいくらですか?
A. JPXの公表データでは、2026年10月15日申込時点で4,880万株、金額で9,209億円です。全銘柄で最大で、東京市場の信用買い残の合計の13.6%を占めます。
Q. 信用倍率38倍とはどういう意味ですか?
A. 買い残の株数が売り残の約38倍あるという意味です。キオクシアは10月8日の23.9倍から15日には38.0倍に上がりました。買い残が増えたことに加え、売り残が約3割減ったことも倍率を押し上げています。
Q. 信用で買った人の平均の買値はいくらですか?
A. JPXの残高の金額は建てたときの約定代金なので、金額を株数で割ると約18,870円になります(分割後の株数ベース)。10月15日の終値12,880円と比べると約32%の含み損にあたる計算です。
Q. 制度信用の6か月の期限とは?
A. 制度信用取引は、返済期限が最長6か月と決められています。期限までに売るか、現引きで決済する必要があります。キオクシアの買い残のうち約3分の2が制度信用です。
Q. キオクシアの次の決算発表はいつですか?
A. 会社のIRカレンダーでは、2027年3月期第2四半期の決算発表を2026年10月30日18時45分に予定しています。
あわせて読みたい
出典・参考資料
- 日本取引所グループ:銘柄別信用取引残高(2026年10月8日・9日・13日・14日・15日申込分を当サイトで集計)/信用取引現在高
- 日本取引所グループ:信用取引制度の概要(委託保証金・返済期限)
- キオクシアホールディングス:2027年3月期 第1四半期決算短信/株式分割に関するお知らせ/自己株式の取得状況及び取得終了に関するお知らせ/Investor Day 2026 資料/IRカレンダー
- 株探:キオクシアHD 時系列株価(株式分割考慮後)
- Bloomberg:キオクシア株の戻り阻む信用買い残9200億円、全銘柄最大-売買減で解消に時間(2026年10月18日)
アイキャッチはキオクシア岩手北上工場(写真:掬茶/Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0、文字入れ・明るさ調整あり)。データは2026年10月19日時点で取得したもので、信用残高・株価は日々変わります。


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