ドイツで「戦後の転機」と呼ばれる選挙が行われています。9月6日投票のザクセン・アンハルト州議会選挙で、極右政党AfDが第1党になることがほぼ確実視されているためです。AfDはすでに2024年のテューリンゲン州で州議選の第1党になっていますが、そのときは他党が結束して政権入りを阻みました。今回は支持率が40%を超えており、単独で議席の過半数を取る初のケースになる可能性があります。そうなれば主要政党の「AfDとは組まない」という取り決めは意味を失い、戦後ドイツで初めて極右政党の州首相が誕生します。この記事では、AfDとはどんな政党か、なぜこの州でこれほど強いのか、州首相誕生の条件は何か、そしてメルツ政権と欧州にどう波及するのかを、ドイツ連邦政治教育センター(bpb)と各種世論調査の数字で解説します。
ドイツ州議会選挙投票始まる 「極右」政党が第1党の見通しhttps://t.co/RdiV6beLWQ #nhk_news
— NHKニュース (@nhk_news) September 6, 2026
ザクセン・アンハルト州議会選挙2026の基本データ
ザクセン・アンハルト州は旧東ドイツに位置し、州都はマクデブルクです。人口は約212万人、有権者数は約169万人で、ドイツ16州の中では小さめの州ですが、今回はドイツ全体の政治の行方を占う選挙として国内外の注目を集めています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投票日 | 2026年9月6日(日)。投票は現地8時から18時まで(日本時間15時から翌1時) |
| 議席数 | 83議席。過半数は42議席。2021年は超過議席で97議席だった |
| 選挙制度 | 二票制。第1票は41の小選挙区で候補者に、第2票は政党に投じる。得票率5%未満の政党は議席を得られない(5%条項) |
| 現在の州政権 | CDU・SPD・FDPの3党連立。州首相はスヴェン・シュルツェ氏(CDU、2026年1月28日就任)。前任のライナー・ハーゼロフ氏は約15年在任し、2025年8月に引退を表明 |
| AfDの筆頭候補 | ウルリヒ・ジークムント氏。州憲法擁護庁はAfD州支部を「確実な右翼過激主義」と分類している(AfDが提訴し、訴訟は休止中) |
| 結果の判明 | 現地18時に出口調査、その後に推計値が随時更新。暫定確定結果は現地7日早朝=日本時間7日昼頃 |
2021年の選挙結果と今回の世論調査を比べる
5年前の2021年はCDUが37.1%で圧勝し、AfDは20.8%で2位でした。それが今回は逆転どころか、AfDがCDUの2倍近くまで伸びています。以下は投票直前に公表された世論調査の一覧です。
| 調査機関 | AfD | CDU | 左派党 | SPD | 緑の党 | FDP | BSW |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2021年選挙結果 | 20.8 | 37.1 | 11.0 | 8.4 | 5.9 | 6.4 | — |
| FGW(9/3) | 41 | 23 | 11.5 | 8.5 | 6 | 3 | 4 |
| INSA(9/2) | 43 | 22 | 12 | 7 | 5 | 3 | 4 |
| FGW(8/28) | 40 | 23 | 13 | 9 | 6 | 3 | 3 |
| Infratest(8/26) | 42 | 22 | 11 | 8 | 6 | 3 | 4 |
| pollytix(8/12) | 43 | 23 | 13 | 7 | 5 | 2 | 4 |
単位は%。FGW=Forschungsgruppe Wahlen、Infratest=Infratest dimap、BSW=ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟。出典はwahlrecht.deの集計です。
上の図は投票直前のFGW調査(9月3日公表)の数値です。灰色のBSWとFDPは5%条項を下回っており、このまま議席を失うと、その票は「死票」として他党の議席に振り分けられます。これが次に説明する「41%でも過半数に届く可能性」のカギです。
AfDとは?なぜザクセン・アンハルトでこれほど強いのか
AfDの成り立ちと現在の位置
AfD(Alternative für Deutschland、ドイツのための選択肢)は2013年に、ユーロ危機下の南欧支援に反対する経済学者らが結成した政党です。その後、2015年の難民危機を経て反移民・反イスラムを前面に出す右派ポピュリズム政党へと性格を変え、現在は移民の大量送還を意味する「再移民(レミグレーション)」、原発への回帰、脱石炭の停止、ロシアとの経済関係正常化などを掲げています。連邦レベルでは2025年5月に連邦憲法擁護庁が「確実な右翼過激主義」と分類しましたが、AfDが提訴し、裁判所の仮処分によって公式にはこの呼称を使えない状態が続いています。一方で州レベルでは、ザクセン、テューリンゲン、ブランデンブルク、ザクセン・アンハルト、ニーダーザクセンの5州の憲法擁護庁が同じ分類を行っています。分類は監視の対象になることを意味しますが、選挙に立候補する権利や当選の効力には影響しません。
連邦議会(国政)の世論調査でもAfDは2026年に入って首位を走っており、9月上旬の集計ではAfDが27〜28%、メルツ首相のCDU・CSUが21%前後です。つまりザクセン・アンハルトの状況は、東部の一州の特殊事情というより、ドイツ全体の政治地図の変化が最も濃く表れた場所と見るべきです。
AfDの州支部は文化政策でも既存の価値観と衝突しています。州内デッサウに本拠を置く芸術学校バウハウスをめぐり、AfD州支部の主張にバウハウス側が反論した経緯を毎日新聞が伝えています。
「われわれこそが多様性」 矛先向けられたバウハウスの反論https://t.co/CNWDfiXyGw
ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」ザクセン・アンハルト州支部は、州議会選挙の公約で、「モダニズム建築」で有名な美術学校「バウハウス」を「反ドイツ的」と名指しで批判しました。
— 毎日新聞 (@mainichi) September 3, 2026
旧東ドイツで強い3つの理由
- 人口流出と経済の停滞。ザクセン・アンハルト州の人口は2000年から約50万人減り、2040年には約183万人まで減ると予測されています。2025年の州経済は0.2%のマイナス成長で、製造業は1.8%減でした。企業の85%は従業員10人未満の零細企業で、若者が西側の都市へ出ていく構図が続いています。
- 既成政党への不信。統一後30年以上たっても東西の賃金や資産の格差が残り、「西の政党に決められてきた」という感覚が根強くあります。メルツ政権に対する不満は全国で75%ですが、東部では79%とさらに高くなっています。
- 移民・エネルギー・ロシア。AfDは移民制限、電気代の上昇を招いたとする脱原発・脱石炭の見直し、ウクライナ支援の縮小とロシアとの関係修復を主張しており、これらが東部の有権者の関心と重なっています。
「防火壁」とは?なぜ第1党でも政権を取れないのか
ドイツの不文律「ブラントマウアー」
ドイツの主要政党には、AfDとは連立を組まず、AfDの票に頼って議案や人事を通さないという不文律があります。これを防火壁(Brandmauer)と呼びます。ナチスの台頭を許した歴史の反省から、極右政党を政治権力から遠ざけるための取り決めで、CDUは党大会決議でAfDおよび左派党との協力を禁じています。
この防火壁が実際に機能した例が2024年のテューリンゲン州です。AfDは32.8%で州議選の第1党になりましたが、他党はAfD抜きで政権を組み、AfDは政権入りできませんでした。逆に防火壁が破られかけた例が2020年2月の同じテューリンゲン州で、FDPのトーマス・ケメリヒ氏が州議会の州首相選出の投票でCDUとAfDの票を得て45票対44票で当選しました。極右の票で州首相が決まったことに国内外から批判が集中し、ケメリヒ氏は翌日に辞意を表明して短期間で退任しています。防火壁を破ることの政治的コストがいかに大きいかを示した出来事でした。
過半数を取れば防火壁は無意味になる
ただし防火壁は、AfDが単独で過半数を持たないことが前提です。83議席のうち42議席をAfDが単独で取れば、他党がどれだけ結束しても州首相の選出を止められません。投票直前のFGW調査の41%では過半数にわずかに届かない計算ですが、東洋経済オンラインの分析が指摘するように、FDPとBSWが5%条項で議席を失うと死票が増え、42〜43%の得票で議席の過半数に届く可能性があります。つまり結果を見るときは、AfDの得票率だけでなく「小政党が5%を超えたかどうか」が重要になります。
選挙後の4つのシナリオ
| シナリオ | 条件 | 何が起きるか |
|---|---|---|
| AfD単独過半数 | AfDが42議席以上 | 戦後初の極右州首相(ジークムント氏)が誕生。防火壁は事実上崩壊し、国政にも衝撃 |
| AfD第1党だが過半数割れ | AfDが41議席以下 | 他党がAfD抜きでまとまれるかが焦点。最終投票で対立候補を一本化できなければAfD首相の可能性が残る |
| CDU少数政権 | CDUが州首相選出で左派党などの支持を得る | CDUは左派党との協力も党決議で禁じており、「黙認」の形をどう作るかが課題。政権は不安定 |
| 4党連立 | CDU・SPD・緑の党・左派党が合意 | ドイツで前例のない組み合わせ。政策の隔たりが大きく、実現しても短命と見られる |
bpbの分析では、現在のCDU・SPD・FDP連立の継続は世論調査上ほぼ不可能で、CDUの少数政権かBSWを交えた枠組みが取り沙汰されています。いずれにしてもAfDを除く政党だけで安定した過半数を作るのは難しく、選挙後の政権づくりは数週間から数か月かかる可能性があります。
メルツ政権と欧州への影響 9月20日にもう2つの選挙
- 9月6日ザクセン・アンハルト州議会選挙AfDが41〜43%で第1党確実。単独過半数なら戦後初の極右州政権。日本時間7日午前1時に出口調査。
- 9月7日〜政権協議が始まるAfD抜きの枠組みが組めるか、CDU内部で「AfDとの協力容認論」が強まるかが焦点。防火壁をめぐるCDUの党内対立が表面化する可能性。
- 9月20日メクレンブルク・フォアポンメルン州とベルリン市の議会選挙メクレンブルク・フォアポンメルン州はSPDの牙城でしたが、直近のForsa調査ではAfDが37%、SPDが28%、左派党が11%。2021年はSPD39.6%、AfD16.7%だったため、ここでも逆転が予想されています。
- 秋以降「メルツ降ろし」と欧州への波及2025年5月に発足したメルツ政権(CDU・CSUとSPDの大連立)は支持率が2割を切っており、3連敗なら与党内で首相交代論が強まると時事通信は伝えています。EU最大の経済大国での極右政権誕生は、フランスやオーストリアの右派勢力を勢いづけ、対ロシア制裁やウクライナ支援の足並みにも影響します。
市場への影響はあるのか
州議会選挙そのものが金融市場を大きく動かすことはまれです。ただし、AfDの躍進がメルツ政権の不安定化につながれば、ドイツ国債とユーロの「政治リスク」として意識されます。AfDはユーロ懐疑を出発点とする政党で、EUの財政ルールやウクライナ支援に否定的なため、連邦レベルでの影響力拡大は中長期のユーロ売り材料になり得ます。ユーロと円の関係については、米国はなぜユーロを売って円買い介入したのかで扱っています。
選挙結果【判明次第追記】
この項目は日本時間9月7日未明以降に、出口調査と開票速報の数字で更新します。確認すべきポイントは次の3つです。
- AfDの得票率と議席数。42議席以上なら単独過半数
- FDPとBSW(それぞれ3〜4%)が5%条項を超えたか。超えなければAfDの議席率が上がる
- CDUのシュルツェ州首相の去就と、AfD抜きの枠組みへの各党の反応
本記事は日本時間9月6日夜時点の情報です。結果と政権協議の動きは【追記】で更新します。
ザクセン・アンハルト州議選とAfDに関するよくある質問
Q. AfDとはどんな政党ですか?
A. 2013年にユーロ危機対応への反対を掲げて結成された「ドイツのための選択肢」です。2015年の難民危機以降は反移民を前面に出す右派ポピュリズム政党となり、移民の大量送還、原発回帰、ロシアとの関係正常化などを主張しています。連邦憲法擁護庁と5つの州の憲法擁護庁が「確実な右翼過激主義」と分類しています(連邦の分類は裁判で係争中)。国政の世論調査では2026年に入り27〜28%で首位です。
Q. ザクセン・アンハルト州議会選挙はいつで、結果はいつ分かりますか?
A. 投票日は2026年9月6日(日)です。現地18時、日本時間7日午前1時に出口調査が出て、その後推計値が随時更新されます。暫定の確定結果は現地7日早朝、日本時間では7日昼頃までに判明する見込みです。
Q. AfDが第1党になると州首相になれるのですか?
A. 自動的にはなれません。州首相は州議会の投票で選ばれ、1回目と2回目は議員総数の過半数が必要です。AfDが83議席中42議席以上を単独で取れば確実に州首相を出せますが、届かない場合は他党が結束して対立候補を立てれば阻止できます。ただし最終投票は投じられた票の多数で決まるため、他党が一本化できなければAfD候補が選ばれる可能性が残ります。
Q. 「防火壁」とは何ですか?
A. ドイツの主要政党がAfDと連立や協力をしないという不文律で、ドイツ語でブラントマウアーと呼びます。ナチスの台頭を許した歴史への反省が背景にあり、CDUは党決議でAfDとの協力を禁じています。2024年のテューリンゲン州ではAfDが第1党になりましたが、この防火壁によって政権入りを阻まれました。
Q. なぜ旧東ドイツでAfDの支持が高いのですか?
A. 統一後も続く東西の経済格差、人口流出と高齢化、既成政党への不信、移民政策やエネルギー価格への不満が重なっているためです。ザクセン・アンハルト州は2000年から人口が約50万人減り、2025年はマイナス成長でした。メルツ政権への不満は東部で79%に達しています。
Q. この選挙は日本や為替に影響しますか?
A. 州議会選挙単体で為替が大きく動くことはまれです。ただしAfDの躍進がメルツ政権の不安定化や早期退陣につながれば、EU最大の経済大国の政治リスクとしてユーロやドイツ国債が意識されます。9月20日のメクレンブルク・フォアポンメルン州とベルリンの選挙まで含めて、ドイツ政局は当面の欧州リスク要因です。
参考にした一次情報
- ドイツ連邦政治教育センター(bpb) Landtagswahl in Sachsen-Anhalt 2026(選挙制度・候補者・現政権・州経済)
- wahlrecht.de ザクセン・アンハルト州の世論調査一覧
- ザクセン・アンハルト州選挙管理官 公式結果ページ
- bpb Landtagswahl Thüringen 2024(AfD32.8%・阻止少数の事例)
- CORRECTIV 各州憲法擁護庁のAfD分類一覧(2026年6月)
- 時事通信 初の極右政権焦点、6日州議選(2026年9月5日)/東洋経済オンライン 9月、戦後ドイツの転機が訪れる/第一生命経済研究所 揺らぐドイツ極右排除の「防火壁」
- メクレンブルク・フォアポンメルン州議会 Landtagswahl 2026(9月20日)


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