9月5日から6日にかけて、「イコールアース図法」という聞き慣れない言葉が検索トレンドの上位に入りました。きっかけは、国連総会が「メルカトル図法ではなく、面積が正しく伝わる世界地図を使おう」という決議を採択したというニュースです。学校の地図帳やスマートフォンの地図アプリで見慣れた世界地図は、実は面積という点で大きく歪んでいます。この記事では、イコールアース図法とは何か、メルカトル図法で何が起きているのか、国連はなぜ今この決議を出したのか、そして日本の教科書やGoogleマップは変わるのかを、表と時系列で分かりやすく解説します。
国連総会で何が決まったのか(2026年9月4日)
採択されたのは、決議文書番号A/80/L.104、通称「Correct the Map(地図を正そう)」決議です。西アフリカのトーゴがアフリカ諸国グループを代表して提案し、バハマなどカリブ諸国、さらにフランスも共同提案国に加わりました。投票結果は次の通りです。
| 投票 | 数 | 内訳・備考 |
|---|---|---|
| 賛成 | 164か国 | 日本、フランス、英国、中国、アフリカ・中南米諸国など大多数 |
| 反対 | 1か国 | 米国のみ。「思想的な決議で国際平和に役立たない」と主張 |
| 棄権 | 6か国 | ウクライナ、エストニア、リトアニア、ジョージア、モルドバ、セルビア |
決議の中身は、一言でいえば「大陸の大きさを比べる文脈では、面積が正しい図法、特にイコールアース図法を広く使いましょう」という各国・国際機関・学校・報道機関・IT企業への呼びかけです。国連広報センターの報道によると、決議は各国政府や学校に対し、平らな地図が球体の地球を完全には表せないことを生徒に教えることも求めています。
決議を主導したトーゴのロベール・ドゥセ外相は「公正な地図は世界の地理を変えるのではなく、私たちが世界をどう見るかを変える」と述べ、「アフリカと世界にとって歴史的な瞬間だ」と評価しました。一次情報は国連総会の会議記録(英語)とUN Newsの記事(英語)で確認できます。日本語では時事通信の記事が採択の経緯をまとめています。
イコールアース図法とは?3人の地図学者が2018年に作った「正積図法」
イコールアース図法(Equal Earth projection)は、2018年に発表された比較的新しい世界地図の描き方です。考案者は、地図ソフト大手Esriのボヤン・シャヴリッチ氏、米国立公園局のトム・パターソン氏、オーストラリア・モナシュ大学のベルンハルト・イェニー氏の3人。最大の特徴は「正積(せいせき)」、つまり地図上のどこを取っても実際の面積との比率が等しいことです。アフリカはアフリカの大きさで、グリーンランドはグリーンランドの大きさで描かれます。
正積図法自体は昔からいくつもあります。それでも新しい図法が必要だった理由は「見た目」でした。2017年に米ボストンの公立学校が、面積は正しいものの大陸が縦長に引き伸ばされて見える「ガル・ピーターズ図法」を教室に採用したところ、地図学者の間で「正確でも不自然に見える地図では子どもが地球の姿を誤解する」という議論が起きました。3人はこれに応える形で、多くの人が見慣れているロビンソン図法(ナショナルジオグラフィックが1988年から10年ほど採用していた、丸みのある世界地図)の親しみやすい輪郭を保ちつつ、数学的に厳密な正積を実現する図法を設計したのです。
- 図法の種類:擬円筒図法。緯線は水平な直線、経線はゆるやかな曲線で、外形は地球の丸みを感じさせる楕円に近い形
- 面積:全域で正積。大陸同士の大きさの比較がそのまま成り立つ
- 形の歪み:ガル・ピーターズ図法より高緯度の縦長・横長の歪みが小さく、ロビンソン図法に近い自然な見え方
- 利用条件:計算式が公開され、誰でも無料で使える。NASAゴダード宇宙研究所が2018年7月に気温分布図で初採用したのが最初の公的な利用例とされる
メルカトル図法はなぜ「アフリカが小さく」見えるのか
メルカトル図法は、1569年にフランドル(現在のベルギー)の地理学者ゲラルドゥス・メルカトルが航海用に考案しました。設計の目的は「地図上で引いた直線が、そのまま羅針盤の一定の方角になる」ことです。この性質(正角)のおかげで船乗りは地図上に定規で線を引くだけで進路を決められ、大航海時代の海図として爆発的に普及しました。

ただし、丸い地球を四角い紙に写す以上、何かを犠牲にしなければなりません。メルカトル図法が犠牲にしたのが面積です。角度を保つために、赤道から離れるほど東西も南北も同じ割合で引き伸ばす仕組みになっており、面積の拡大率は「緯度の余弦の2乗の逆数」で決まります。数字にすると、歪みの大きさが実感できます。
| 緯度 | 面積の拡大率(目安) | 該当する地域の例 |
|---|---|---|
| 0度(赤道) | 1.0倍 | ケニア、コンゴ民主共和国、インドネシア、ブラジル北部 |
| 30度 | 約1.3倍 | エジプト北部、米フロリダ州、上海 |
| 35度 | 約1.5倍 | 東京、地中海沿岸 |
| 45度 | 2.0倍 | フランス中部、北海道北端、米国北部の州 |
| 60度 | 4.0倍 | 北欧、アラスカ南部、サンクトペテルブルク |
| 72度 | 約10.5倍 | グリーンランド中央部 |
| 80度 | 約33倍 | 北極海の島々。極点そのものは描けない |
※拡大率は当ブログが図法の数式(1÷cos²φ)から算出した目安です。緯度80度以上の地域はほとんどの地図で省略されます。

この表が示すのは、赤道をまたぐアフリカや南米は「ほぼ実寸」で描かれる一方、グリーンランドやロシア、カナダ、北欧は数倍から10倍以上に膨らんで見えるということです。その結果、次のような「見た目と実際のギャップ」が生まれます。
| 地域 | 実際の面積 | メルカトル図法での見え方 |
|---|---|---|
| アフリカ大陸 | 約3,037万km² | グリーンランドと同程度に見える |
| グリーンランド | 約217万km² | アフリカと同程度に見える(実際は約14分の1) |
| コンゴ民主共和国 | 約234万km² | グリーンランドの数分の1に見えるが、実際はグリーンランドより広い |
| ロシア | 約1,710万km² | アフリカより大きく見えるが、実際はアフリカの約56% |
| ブラジル | 約851万km² | カナダ(約998万km²)よりかなり小さく見えるが、実際は8割強の大きさ |
| 日本 | 約37.8万km² | およそ1.5倍に膨らんで見える |

アフリカ諸国が問題にしたのは、この歪みが単なる図形の話にとどまらず、「アフリカは小さい」「周縁的な存在だ」という認識の歪みとして政策や教育、報道に長年影響してきたという点です。決議文はこれを「認知的な正義(cognitive justice)」の問題と位置づけました。フランスのバロ外相も「歪みはやがて人々の認識に根を下ろす。それを正すときが来た」と賛成の理由を述べています。
主な世界地図の図法を比較
「正しい世界地図」は一つではありません。何を正しく描くかによって図法が違い、それぞれ得意な用途があります。今回話題になった図法を含め、よく使われる5つを比べます。
| 図法 | 発表 | 正しく描けるもの | 主な使われ方・特徴 |
|---|---|---|---|
| メルカトル図法 | 1569年 | 角度(方位) | 海図・航空図、Web地図の標準(Webメルカトル)。高緯度が極端に拡大 |
| ミラー図法 | 1942年 | いずれも近似 | 日本の地図帳の世界全図で広く使われる。メルカトルの高緯度の膨張を抑えた折衷案だが、面積は正しくない |
| ロビンソン図法 | 1963年 | いずれも近似 | ナショナルジオグラフィックが1988〜1998年に採用。見た目のバランス重視 |
| ガル・ピーターズ図法 | 1855年/1973年 | 面積 | 正積だが大陸が縦長に見える。2017年に米ボストンの公立学校が採用し議論に |
| イコールアース図法 | 2018年 | 面積 | 正積かつロビンソン図法に近い自然な形。国連総会が2026年9月に推奨 |
- 船や飛行機の航路を引く
- スマホ地図で街を拡大して見る(狭い範囲では歪みが無視できる)
- 方位を正確に読みたいとき
- 大陸や国の大きさを比べる
- 人口・気温・森林面積などの分布を世界地図に塗る
- 教室の壁に貼る世界全図、ニュースの図解
なぜ今?「Correct the Map」運動から国連決議までの流れ
メルカトル図法への批判は半世紀以上前からありましたが、国連総会の決議にまで到達したのは今回が初めてです。450年の歴史を時系列で追います。
- 1569年メルカトルが航海用の世界地図を発表角度を正しく保つ図法として海図の標準になり、その後の世界地図の「見慣れた形」を作った。
- 1973年ペータースが「面積を正しく」と提唱ドイツの歴史家アルノ・ペータースが、メルカトル図法は欧米中心の世界観を助長すると批判し、正積の地図(ガル・ピーターズ図法)を発表。教育・開発分野で一定の支持を得た。
- 2017年米ボストン公立学校がガル・ピーターズ図法を採用「面積は正しいが形が不自然」と地図学者から異論が出て、新しい正積図法を求める声が高まった。
- 2018年イコールアース図法が発表、Googleマップも地球儀表示にシャヴリッチ、パターソン、イェニーの3人が発表し、NASAが7月に採用。同年8月にはパソコン版Googleマップがズームアウト時に平面図ではなく3Dの地球儀を表示するようになった。
- 2025年「Correct the Map」キャンペーン始動アフリカのNPO「Africa No Filter」と「Speak Up Africa」が、国際機関や教育機関、IT企業にメルカトル図法からの切り替えを求める運動を開始。アフリカ連合(AU)とカリブ共同体(CARICOM)が支持した。
- 2026/9/4国連総会が決議A/80/L.104を採択トーゴがアフリカ諸国グループを代表して提案。賛成164・反対1(米国)・棄権6で採択。トーゴは年内に学校の地理教材を切り替える方針、フランスも公的資料でメルカトル図法をやめると表明した。
反対した米国と棄権したウクライナの理由
ほぼ全会一致に近い採択の中で、唯一反対したのが米国でした。米国代表は決議を「より大きく急進的なイデオロギー的プロジェクトの一部」と位置づけ、国連の本来の仕事とは無関係で、機関の信頼性を損なうと主張しました。地図の技術論ではなく、国連の役割をめぐる姿勢の表明という色合いが濃い反対です。
一方、棄権したウクライナの理由はまったく別で、より具体的です。ウクライナ代表は決議の趣旨そのものには反対しないとしつつ、「イコールアース図法」として流通している世界地図の中に、ロシアが占領するクリミアなどウクライナ領を国連の関連決議と矛盾する形で描いたものがあると指摘し、「まったく受け入れられない」として棄権しました。エストニア、リトアニア、ジョージア、モルドバといった、ロシアとの領土問題を抱える国々が同じく棄権に回ったのも、この文脈で理解できます。
X(旧Twitter)での関連投稿
決議の採択を受けて、提案側のアフリカ連合と日本の報道機関がXで投稿しています。一次発信者の言葉と、日本での報じられ方をあわせて確認できます。
アフリカ連合(AU)の公式投稿。決議A/80/L.104の採択を祝い、「2月にAU総会が支持し、本日国連で正式に採択された」と説明しています。
Congratulations to the delegation of #Togo 🇹🇬 and the Africa Group on the adoption this morning by the #UNGA of resolution A/80/L.104, “Correct the Map.”
First endorsed by the African Union Assembly in February and officially passed at the United Nations today, this… pic.twitter.com/wHxblZ8d3K
— African Union (@_AfricanUnion) September 4, 2026
読売新聞オンライン。日本も賛成した点を報じています。
世界地図「メルカトル図法」ではなく「イコールアース図法」使用促す国連決議、日本も賛成…各国面積がより正確 : 読売新聞 https://t.co/bceNXoXIJ4 #メルカトル図法 #国連総会
— 読売新聞オンライン (@Yomiuri_Online) September 6, 2026
Yahoo!ニュースのトピックス投稿。
【メルカトル図法やめて 国連採択】https://t.co/Eefbev318X
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) September 4, 2026
ライブドアニュースの投稿。
【判明】アフリカが小さく見える「メルカトル図法」ではなく「イコールアース図法」へ…国連が採決https://t.co/ZgyaXTYBhH
国連総会は、世界の実際の面積を正確に反映した地図の採用を加盟国に促す決議案を賛成多数で採択した。米国が唯一反対し、ウクライナなど6カ国は棄権。法的拘束力はない。
— ライブドアニュース (@livedoornews) September 5, 2026
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日本の教科書やGoogleマップは変わるのか
日本政府は今回の決議に賛成しました。では、私たちの身の回りの地図はどう変わるのでしょうか。結論から言えば、決議に拘束力はないため、すぐに何かが切り替わることはありません。ただ、日本の地図がどの図法で描かれているかを知っておくと、ニュースの意味がよく分かります。
学校の地図帳:多くはメルカトルではなく「ミラー図法」
日本の中学校・高校の地図帳で世界全図によく使われているのは、実はメルカトル図法ではなく帝国書院が公開しているようなミラー図法です。ミラー図法はメルカトル図法の高緯度の膨張を抑えた改良版で、緯線と経線が直角に交わる見やすさを保ちながら極地方の歪みを小さくしています。ただし正積ではないので、グリーンランドやロシアはやはり実際より大きく見えます。地図帳には正積図法(モルワイデ図法など)の分布図も併載されており、「用途によって図法を使い分ける」という考え方自体は日本の地理教育にすでに根づいています。
Googleマップ:地上はWebメルカトル、宇宙から見ると地球儀
Googleマップをはじめ、ほとんどのWeb地図は「Webメルカトル」と呼ばれるメルカトル図法の変種を使っています。街を拡大して見る用途では歪みがほぼ無視でき、タイル画像を組み合わせる技術と相性が良いためです。一方、ズームアウトして世界全体を見たときの面積の歪みは長年批判されており、2018年8月にパソコン版Googleマップは、ズームアウトすると平面地図ではなく3Dの地球儀を表示するように変わりました。地球儀なら面積の歪みはそもそも生じません。決議はIT企業にも呼びかけていますが、街レベルの地図までイコールアース図法に置き換わることは、用途上まず考えにくいでしょう。
よくある質問
Q. イコールアース図法とは何ですか?
A. 2018年に米国とオーストラリアの地図学者3人(シャヴリッチ、パターソン、イェニー)が発表した世界地図の図法です。地図上のどこでも実際の面積との比率が等しい「正積図法」で、見慣れたロビンソン図法に近い自然な輪郭を保ちながら、大陸や国の大きさを正しく比べられるのが特徴です。計算式が公開され、誰でも無料で利用できます。
Q. 国連はメルカトル図法を禁止したのですか?
A. いいえ。2026年9月4日の国連総会決議に法的拘束力はなく、決議文も「海上・航空の航行におけるメルカトル図法の使用は否定しない」と明記しています。大陸の大きさを比べる文脈で、イコールアース図法などの正積図法を広く使うよう各国や学校、報道機関、IT企業に呼びかける内容です。
Q. なぜアフリカとグリーンランドが同じ大きさに見えるのですか?
A. メルカトル図法は角度を正しく保つために、赤道から離れるほど陸地を引き伸ばすからです。面積の拡大率は緯度72度前後のグリーンランドで約10倍以上になる一方、赤道をまたぐアフリカはほぼ実寸で描かれます。実際の面積はアフリカ約3,037万km²、グリーンランド約217万km²で、アフリカが約14倍広いです。
Q. 日本は決議に賛成したのですか?
A. はい。日本を含む164か国が賛成しました。反対は米国の1か国のみで、ウクライナ、エストニア、リトアニア、ジョージア、モルドバ、セルビアの6か国が棄権しています。
Q. 日本の教科書の地図は変わりますか?
A. 決議に拘束力はないため、すぐに変わる予定はありません。なお日本の地図帳の世界全図は多くがメルカトル図法ではなくミラー図法で、面積を比べる分布図にはモルワイデ図法などの正積図法がすでに使われています。今後の教科書改訂でイコールアース図法が採用されるかどうかは、出版社と文部科学省の判断に委ねられます。
まとめ:地図が変わるのではなく「見方」が変わる
「イコールアース図法」が急に話題になった背景と、知っておきたいポイントを整理します。
- 2026年9月4日、国連総会が賛成164・反対1・棄権6で「Correct the Map」決議(A/80/L.104)を採択。トーゴがアフリカ諸国を代表して提案し、日本も賛成した。
- メルカトル図法は1569年に航海用に作られ、赤道から離れるほど面積が膨らむ。グリーンランドは約10倍以上に見え、実際は約14倍広いアフリカと同じ大きさに映る。
- イコールアース図法は2018年発表の正積図法。面積を正しく描きつつ、見慣れた丸みのある形を保つ。
- 決議に拘束力はなく、航海用のメルカトル図法は否定していない。「大きさを比べる場面では面積が正しい地図を」という使い分けの呼びかけ。
- 日本の地図帳はもともとミラー図法が主流で、Googleマップはズームアウトすると地球儀になる。すぐに身の回りが変わるわけではないが、「見慣れた地図は面積が歪んでいる」と知っておく価値は大きい。
トーゴの外相が語ったように、公正な地図は地理を変えるのではなく、私たちの見方を変えます。次に世界地図を見るときは、アフリカの本当の大きさを頭の中で「約14倍」に戻してみてください。それだけで、ニュースの見え方が少し変わるはずです。


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