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ネパールでまた土石流、原因は土砂ダム決壊か|10月の被害を15年検証
ネパール中部のゴルカ郡で10月11日、ブディガンダキ川沿いに土石流が押し寄せ、5人が行方不明になりました。上流の土砂崩れでできた「せき止め湖(土砂ダム)」の決壊が原因とみられ、発生時に雨は確認されていません。8月26日の大洪水からわずか1か月半。秋のトレッキングシーズンのさなかで、外国人観光客100人以上が足止めされました。何が起きたのかを整理し、ネパール政府の災害データベースから「10月の土砂・洪水被害」を15年分集計しました。
この記事の結論
- 10月11日の早朝、ネパール中部ゴルカ郡のブディガンダキ川沿いで土石流が発生しました。羊の放牧に出ていた住民5人が行方不明で、住宅45軒が全壊、橋4本と水力発電所3か所が被害を受けました。
- 原因は、支流の上流で土砂崩れが川をふさいでできたせき止め湖(土砂ダム)の決壊とみられています。時事通信によると、発生時に現場一帯で雨は確認されていません。
- 現場はマナスル山群をめぐるトレッキングルートの途中で、外国人観光客100人以上が足止めされました。在ネパール日本大使館によると、日本人が巻き込まれたという情報はありません(10月12日時点の報道)。
- 8月26日には、同じトリシュリ川の上流で氷河の崩落による大洪水が起き、死者は1,457人に達しています(ロイター)。この災害でも日本人5人の安否が分かっておらず、日本政府はネパールに捜索の継続を求めています。
- ネパール政府の災害データベースで10月の土砂・洪水による死者・行方不明者を数えると、2011〜2020年の10年間は計51人でしたが、2021〜2025年の5年間は計267人。モンスーン明けの10月でも、大きな被害が出る年が増えています。
足止めの人数はマナスル保全地域事業(MCAP)の担当者の説明(Kathmandu Post)、8月の死者はロイター(10月12日)による。10月の死者・不明はネパール政府の災害情報ポータルBIPADの地滑り・洪水・大雨の記録から当サイトが集計。
ネパールの土石流、10月11日に何が起きた?
現地紙Kathmandu Post(10月12日)とロイター、時事通信、テレビ朝日(ANN)の報道をもとに、10月12日時点で分かっていることをまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生 | 10月11日(日)の早朝。当局の報告書では5時30分ごろに地滑りが起き、6時15分ごろにせき止められた水が流れ出した。濁流は約15分続いては引き、午前中に何度も繰り返した |
| 場所 | ネパール中部ゴルカ郡の北部(チュムヌブリ村、ダルチェ村)。カトマンズの西約100km、ブディガンダキ川の上流域 |
| 原因(推定) | シュリンギ・ヒマール(山)で起きた地滑りが支流のウンギルン(ウィンギルン)川をせき止め、それが決壊した(ネパール災害当局)。発生時に雨は確認されていない |
| 行方不明 | 5人(男性3人・女性2人)。羊の放牧で川沿いの小屋に泊まっていた住民 |
| 救助 | ネパール軍のヘリ4機で、11時までに95人(うち外国人9人) |
| 住宅 | 全壊45軒、一部損壊27軒 |
| インフラ | 車が通れる橋2本、つり橋2本、水力発電所3か所、家畜小屋34棟が被害 |
| 足止め | ジャガットに約115人、ロクパに約40人の観光客。ツム谷へのトレッキング道は閉鎖 |
| 日本人 | 在ネパール日本大使館によると、巻き込まれたという情報は入っていない |
当局の報告書でたどる10月11日の朝
ネパールの国家災害リスク軽減管理局(NDRRMA)が10月12日にまとめた報告書の時系列を、Kathmandu Postが伝えています。
- 4時45分地元に警告の電話上流から「地滑りで川がせき止められた」と運転手に電話があり、4時59分にはFacebookで警告が投稿されました。公式の時系列より前の動きです。
- 5時30分シュリンギ・ヒマールで地滑り崩れた土砂が支流のウンギルン(ウィンギルン)川をせき止めました(報告書の時刻)。
- 6時15分せき止めた水が流れ出すたまった水が土砂のすき間から流れ出し始めました。
- 6時30分下流の水位が上昇、SMSで警報アルガートの水位計は3.66m(警戒水位は4.5m)。水位の上昇を受けて、約20万人に携帯電話のSMSで警報が送られました。
- 7時50分危険水位を超える水位は5.01mと、危険水位の5mを上回りました。8時40分には8.43mまで上がっています。
- 11時までヘリで95人を救助ネパール軍のヘリコプター4機で、外国人9人を含む95人が救助されました。
報告書は原因の調査のため、地質の専門家を含む3人のチームを現地に送ったとしています。地元の住民が電話で知らせ合ったことが、早い避難につながった集落もありました。
死者は10月12日時点で確認されていません。ただ、被災したチュムヌブリ村の行政の責任者は、村全体が孤立して入れるのは空路だけだと話しており、上流の様子はまだ十分に分かっていません。当局は下流のトリシュリ川沿いの住民にも警戒を呼びかけています。

観光客の足止めと救助
現場はマナスル山群を一周するトレッキングルートと、その途中から分かれるツム谷のルートにあたります。ジャガットとロクパに足止めされた観光客は宿で無事とされていますが、道や橋が流されて下山できない状態です。ゴルカ郡の副郡長(Assistant CDO)は、観光客の救助ヘリについては事前の許可がなくても飛ばせるようにしたと説明しています(Onlinekhabar)。観光客からは、移動できないうちにビザの期限が切れないか心配する声も出ています。
原因の「土砂ダム(せき止め湖)決壊」とは?雨がなくても起きる理由
土砂ダムは、山の斜面が崩れて谷を埋め、川の流れをせき止めてできる「天然のダム」です。日本では「天然ダム」や「河道閉塞」とも呼ばれます。せき止められた水は上流側にたまり続け、土砂の壁が水の重さに耐えられなくなったり、水があふれて壁を削ったりすると、一気に決壊して土砂と水が下流へ押し寄せます。
やっかいなのは、決壊のきっかけが雨とは限らないことです。土砂崩れそのものは前日までの雨や地盤のゆるみで起きても、決壊はせき止めた水がたまりきったタイミングで起きます。今回も時事通信によると、土石流の発生時に現場一帯で雨は確認されていません。
Kathmandu Postによると、ツム谷の入り口ロクパでホテルを営む男性は、支流のシャールコラ川が少なくとも6回せき止められては決壊したとみています。「川がせき止められると、音がしなくなる」と話し、宿泊客を高台へ誘導しました。濁流が約15分ごとに何度も押し寄せたという住民の証言とも合います。国際山岳総合開発センター(ICIMOD)も、ロイターの取材に、一時的なせき止めが崩れた可能性を指摘しています。
ネパールでは2014年にも土砂ダムで156人
ネパールでは、2014年8月2日にカトマンズ北東のシンドゥパルチョーク郡(ジュレ)で大規模な地滑りが起き、スンコシ川がせき止められました。ネパール政府の災害データベースBIPADには、この地滑りの被害が死者33人・行方不明123人(計156人)と記録されています。土砂ダムは、崩れた直後の被害に加えて、その後の決壊でも下流に被害を広げるおそれがあります。
8月26日の大洪水との関係は?同じトリシュリ川の流域
ネパールでは8月26日、中国チベット自治区との国境付近から大規模な洪水と土石流が発生しました。外務省のスポット情報(9月3日)によると、ラスワ郡、ダディン郡、チトワン郡などを流れるボテコシ川(トリシュリ川)沿いの約150kmで、交通網や通信網が断たれる甚大な被害が出ました。2015年のネパール大地震以来の大災害と報じられています。
| 8月26日の大洪水 | 10月11日の土石流 | |
|---|---|---|
| 発生日 | 2026年8月26日 | 2026年10月11日 |
| 場所 | ラスワ郡・ダディン郡・チトワン郡などを流れるボテコシ川(トリシュリ川)沿いの約150km | ゴルカ郡北部のブディガンダキ川(トリシュリ川の支流)上流 |
| 原因 | 中国との国境付近での氷河の崩落による洪水・土石流(ロイター) | 土砂崩れでできたせき止め湖の決壊とみられる |
| 死者 | 1,457人(ロイター、10月12日) | 確認されていない(10月12日時点) |
| 行方不明 | 数千人。ネパール政府は9月1日時点で「4,000人近く」と発表 | 5人 |
| 日本人 | 5人の安否が不明。政府がネパールに捜索継続を要請 | 巻き込まれた情報なし(在ネパール日本大使館) |
中国側でも、外務省のスポット情報によると、チベット自治区シガツェ市のキドン検問所で外国人を含む多数の死傷者が出ており、中国政府は9月2日時点で死者21人、行方不明者541人と発表しています。
今回のブディガンダキ川は、8月に氾濫したトリシュリ川に下流で合流する支流です。別々の災害ですが、同じ流域で1か月半のうちに2度の大きな土石流が起きたことになります。
8月の災害では、日本人5人の安否が分かっていません。時事通信によると、ネパール政府が救助活動の原則打ち切りを決めたことを受け、木原稔官房長官は10月6日、不明の邦人5人の捜索を続けるよう外交ルートで要請し、ネパール側から「しかるべく対応する」との回答があったと明らかにしました。
行方不明者があまりに多いため、ネパール政府は、行方不明者を死亡とみなすまでの期間を、現行の12年から45日に短縮する案を示したと報じられています(Malay Mail、10月8日)。
10月の土砂・洪水被害は増えている?15年分を集計
ネパール政府の災害情報ポータルBIPADには、地滑りや洪水が起きた場所と、死者・行方不明者の数が1件ずつ登録されています。2011年以降の地滑り・洪水・大雨の記録(計13,351件)から、月別と年別に死者・行方不明者を数えました。
月別:被害の中心は7〜8月、10月は5番目
2011〜2025年の15年間の合計。死者と行方不明者の合計。
ネパールの雨季(モンスーン)は6〜9月で、被害の大半は7月と8月に集中しています。10月はモンスーンが明けて晴れの日が増え、トレッキングの最盛期に入る時期ですが、それでも15年間で318人と、年間の約8%を占めました。
年別:2021年以降、10月の大きな被害が3回
| 年 | 10月の記録 | 死者 | 行方不明 |
|---|---|---|---|
| 2011年 | 9件 | 6人 | 5人 |
| 2012年 | 5件 | 6人 | 0人 |
| 2013年 | 8件 | 4人 | 4人 |
| 2014年 | 4件 | 1人 | 3人 |
| 2015年 | 2件 | 7人 | 0人 |
| 2016年 | 9件 | 8人 | 0人 |
| 2017年 | 4件 | 5人 | 2人 |
| 2018年 | 2件 | 0人 | 0人 |
| 2019年 | 4件 | 0人 | 0人 |
| 2020年 | 4件 | 0人 | 0人 |
| 2021年 | 141件 | 120人 | 28人 |
| 2022年 | 122件 | 47人 | 20人 |
| 2023年 | 10件 | 0人 | 0人 |
| 2024年 | 28件 | 6人 | 0人 |
| 2025年 | 172件 | 40人 | 6人 |
| 2026年 (12日まで) |
68件 | 3人 | 6人 |
2011〜2020年の10年間、10月の死者・行方不明者は合わせて51人で、ゼロの年も3回ありました。ところが2021年に148人、2022年に67人、2025年に46人と、直近5年のうち3年で大きな被害が出ています。5年間の合計267人は、その前の10年間の約5倍です。
2021年は10月中旬、2022年と2025年は10月上旬に、モンスーン明け前後の大雨で各地に土砂崩れが起きました。今年の10月11日の土石流は、雨のない日に土砂ダムが決壊したもので、起き方が違います。秋だから安全とは言い切れない状況が続いています。
BIPADのデータを読むときの注意
BIPADは、自治体や警察からの報告を積み上げたデータベースです。地滑りの登録件数は2011年の126件から2024年は1,001件、2026年は10月12日までで1,750件と増えており、報告の網羅性が年々上がっている面もあります。また、8月26日の大洪水は、10月12日時点でBIPADの個別の記録には含まれていません(2026年8月の記録で最も大きいのは死者・行方不明者6人)。年ごとの死者数は、ネパール政府の公式発表や報道の数字と一致しない場合があります。
秋のネパール旅行・トレッキングは大丈夫?確認しておきたいこと
10〜11月はネパール観光のハイシーズンで、マナスルやアンナプルナ、エベレスト街道をめざすトレッキング客が増える時期です。今回足止めされたのも、マナスル一周やツム谷を歩いていた観光客でした。これから渡航する人は、次の点を確かめておくと安心です。
- 外務省の危険情報:ネパールの危険情報(2026年7月9日更新)は、一部の山岳地帯を除く全土が「レベル1:十分注意してください」です。ただし、これはデモや犯罪など治安面の情報で、土石流などの自然災害は別にスポット情報で注意喚起が出ます。
- たびレジへの登録:3か月未満の旅行でも、外務省の「たびレジ」に登録すると、現地の大使館から災害時の連絡を受け取れます。8月の災害の後、外務省は被災地周辺への渡航が本当に必要か、あらためて検討するよう呼びかけています。
- ルートの通行状況:ブディガンダキ川沿いの道や橋が流され、ツム谷へのルートは閉鎖されています。マナスル方面は現地の旅行会社を通じて手配するのが一般的なので、出発前に最新の通行状況を確認してください。
- 保険の救援費用:山岳地帯で道が断たれると、下山の手段はヘリコプターに限られます。海外旅行保険の救援者費用・ヘリの搬送が補償の対象になっているかを確認しておくと安心です。
- 川沿いでの過ごし方:土砂ダムの決壊は雨がなくても起きます。川の水が急に減った、濁った、ふだんと違う音がする(逆に音が消える)といった変化があれば、すぐに高い場所へ移動するのが原則です。
ネパールの土石流のよくある質問
Q. ネパールの土石流はいつ、どこで起きましたか?
A. 2026年10月11日の夜明けごろ、ネパール中部ゴルカ郡北部のブディガンダキ川沿いで起きました。カトマンズの西約100kmで、マナスル山群をめぐるトレッキングルートの途中にあたります。
Q. 土石流の原因は何ですか?
A. 上流の支流で土砂崩れが起き、川がせき止められてできた「せき止め湖(土砂ダム)」が決壊したことが原因とみられています。時事通信によると、発生時に現場一帯で雨は確認されていません。
Q. 日本人は巻き込まれていますか?
A. 在ネパール日本大使館によると、10月11日の土石流で日本人が巻き込まれたという情報は入っていません(10月12日時点の報道)。一方、8月26日の大洪水では日本人5人の安否が分かっておらず、日本政府がネパールに捜索の継続を要請しています。
Q. 8月のネパールの大洪水とは何ですか?
A. 2026年8月26日に中国チベット自治区との国境付近で起きた氷河の崩落をきっかけに、ボテコシ川(トリシュリ川)沿いの約150kmで洪水と土石流が起きた災害です。死者は1,457人に上り(ロイター)、2015年の大地震以来の大災害と報じられています。
Q. ネパールでは10月にも土砂災害が起きますか?
A. 起きます。ネパール政府の災害データベースで数えると、10月の土砂・洪水による死者・行方不明者は、2011〜2020年の10年間で計51人でしたが、2021〜2025年の5年間では計267人でした。2021年、2022年、2025年は季節外れの大雨で大きな被害が出ました。
Q. ネパール旅行は今行っても大丈夫ですか?
A. 外務省の危険情報は、一部の山岳地帯を除く全土が「レベル1:十分注意してください」です(治安面の情報)。災害については、被災地周辺への渡航が本当に必要か検討するよう呼びかけるスポット情報が出ています。渡航前に最新情報を確認し、たびレジに登録しておくのがおすすめです。
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出典・参考資料
- ネパール政府 内務省 国家災害リスク軽減管理局:災害情報ポータル BIPAD(地滑り・洪水・大雨の個別記録、2011年1月〜2026年10月12日取得)
- 外務省 海外安全ホームページ:ネパール中部で発生した大規模な土石流災害に関する注意喚起(2026年9月3日)、同 中国における注意喚起(9月4日)、ネパールの危険情報(7月9日)
- Kathmandu Post「Torrent of black mud and rocks engulfs settlements along Budhigandaki」(10月12日)、同「Budhigandaki flood: What the report says about the gap between local warnings and official records」(10月12日)
- ロイター「More than 100 foreign trekkers stranded in flood-hit region of Nepal」(10月12日)
- 時事通信「ネパールで新たな土石流、5人不明」(10月11日)、同「ネパールに邦人捜索継続を要請」(10月6日)
- テレビ朝日(ANN)「ネパールで再び土石流が発生」(10月12日)
- Onlinekhabar「Tourists stranded in Chum Valley」(10月12日)、Malay Mail(10月8日)
10月の死者・行方不明者の集計は当サイトによるもので、ネパール政府の公式統計ではありません。写真:Jay Ramji/Wikimedia Commons(アイキャッチ・本文、いずれもCC BY-SA 2.0)。アイキャッチはトリミング・文字入れあり。


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