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恐竜の化石に赤血球の痕跡|1億1500万年前の骨からヘムを検出
結論
- ブラジルで見つかった1億1500万年前の肉食恐竜アラタサウルスの脚の骨から、赤血球のような微細な粒と、その内部にある「ヘム」(ヘモグロビンの部品で酸素を運ぶ分子)の化学的な痕跡が見つかりました。論文は11月2日に米科学アカデミー紀要(PNAS)に載りました。
- 恐竜の化石で、赤血球のような構造そのものの内部からヘムが検出されたのは初めてと研究チームは説明しています。周りの岩とは違う化学成分だったことから、恐竜自身に由来すると判断しました。
- ただし、核のふくらみが見られず大きさも小さいとして、本当に赤血球かどうかには異論もあります。DNAが見つかったわけでもありません。
PNAS論文、Sci.News、Live Scienceから。1μm(マイクロメートル)は1mmの1000分の1。
何が見つかった?骨の中の「赤血球のような粒」とヘム
研究チームはオーストラリアのカーティン大学を中心に、ブラジル、米国、ドイツ、そして日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者も加わっています(PubMed)。
| 調べたこと | わかったこと |
|---|---|
| 顕微鏡で骨の中を観察 | 血管が通っていた細い管(血管腔)の中に、楕円形の微細な粒がたくさんあった。平均で長さ約23μm・幅約20μm |
| 骨から抽出した成分の分析 | 主な成分はヘムB(ヘモグロビンに含まれるヘム)と、それが地中で変化した3,8-ジエチルヘムB |
| 周りの岩との比較 | 岩からは植物や細菌のクロロフィル由来の成分が出て、骨とは違った=恐竜自身に由来と判断 |
| 粒そのものの分析(ラマン分光・電子顕微鏡) | 粒の位置にヘムの信号と、ヘムを作る鉄・窒素・炭素があった。粒はハウスマン鉱(マンガン酸化物)で固められていた |
Grice et al., PNAS 2026(抄録)と各報道から当サイトが要約。
チームは、恐竜の死後に酸素の少ない場所で微生物の膜(微生物マット)に覆われ、早い段階でマンガンの鉱物が細胞の形を固めたことで、形と化学成分の一部が残ったと考えています(Live Science)。骨からはコラーゲンに由来するアミノ酸も見つかりました。
アラタサウルスとはどんな恐竜?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 学名 | Aratasaurus museunacionali(アラタサウルス・ムゼウナシオナリ) |
| 分類 | 獣脚類(コエルロサウルス類)。ティラノサウルスやヴェロキラプトルと同じ、二足歩行の主に肉食の恐竜のグループ |
| 時代 | 白亜紀前期、約1億1500万年前 |
| 産地 | ブラジル北東部、ロムアルド層のミナ・ペドラ・ブランカ産地 |
| 大きさ | 体長約3m |
| 調べた部位 | 後ろ脚の骨 |
Sci.News、Live Science、CNNから。
ロムアルド層は、保存状態のよい化石が多く出ることで世界的に知られる地層です。チームはもともと恐竜の血を探していたわけではなく、「化石化の過程で生き物本来の成分がどこまで残るのか」を調べる中でこの発見に至ったといいます。
恐竜の「血」の研究の歩み|年表
| 年 | 発表 | ポイント |
|---|---|---|
| 1990年代後半〜 | 恐竜などの化石に赤血球に似た構造があるとする研究が出る | 本当に赤血球かをめぐり論争が続く |
| 2015年 | 7500万年前(白亜紀)の恐竜の骨8点から有機質の構造(Nature Communications) | 核のある赤血球と考えられる構造。質量分析でエミューの血液に似たパターン |
| 2017年 | 1億9500万年前のルーフェンゴサウルスの骨にコラーゲン(Nature Communications) | 骨の血管の中に、ヘモグロビンなどが分解してできたとみられるヘマタイトの粒 |
| 2026年 | 1億1500万年前のアラタサウルスの骨(PNAS) | 赤血球のような粒の内部からヘムそのものを検出 |
2015年・2017年はNature Asiaの日本語リリース(2015年、2017年)、1990年代後半とその後の論争はCNNの記事から。
これまでは「形が赤血球に似ている」「血が分解してできた鉄の鉱物がある」という段階でした。今回は、粒の形・その位置での化学成分・周りの岩との違いを同じ骨の中で同時に示した点が新しく、チームは他の化石にも使える調べ方になるとしています(CNN)。
本当に赤血球?専門家の異論とDNAの誤解
恐竜の軟組織研究で知られる米ノースカロライナ州立大学のメアリー・シュバイツァー氏は、研究の厳密さを評価しつつ、赤血球の名残だとは納得していないと述べています(Live Science)。
- 核のふくらみがない:哺乳類の赤血球は核がありませんが、鳥や爬虫類の赤血球には核があり、真ん中がふくらんだ形になります。今回の粒はくぼんだ形で、核のふくらみが見られません。
- 小さすぎる:多くの哺乳類以外の動物の赤血球より小さいといいます。
DNAが見つかったわけではない
筆頭著者のクリティ・グライス教授は、細胞のような形やヘムの信号が残っていても、細胞にあったDNAが残っていることを意味しないとしています。「恐竜を復活させられる」という話ではありません。
恐竜の赤血球の痕跡のよくある質問
Q. 恐竜の化石から本当に血が見つかったのですか。
A. 1億1500万年前のアラタサウルスの骨から、赤血球のような粒と、その内部にあるヘム(ヘモグロビンの部品)の化学的な痕跡が見つかりました。液体の血が残っていたわけではなく、鉱物に置き換わった粒の中に成分の一部が残っていたという発表です。
Q. ヘムとは何ですか。
A. 赤血球の中で酸素を運ぶたんぱく質ヘモグロビンを構成する、鉄を含む分子です。今回はヘムBと、それが地中で変化した成分が検出されました。
Q. この研究に日本の研究者は関わっていますか。
A. はい。論文の著者には海洋研究開発機構(JAMSTEC)生物地球化学センターの研究者3人が含まれています。
Q. 恐竜のDNAも見つかったのですか。
A. 見つかっていません。筆頭著者は、細胞の形やヘムの信号が残っていてもDNAが残っていることにはならないと説明しています。
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出典・参考資料
- Grice K, et al. Heme signatures in mineralized red blood cells within vascular canals of a 115-million-year-old dinosaur bone. PNAS, 2026(PubMed)
- Live Science:Traces of ancient blood found in 115 million-year-old dinosaur fossil, new study claims(2026年11月2日)
- Sci.News:115-Million-Year-Old Dinosaur Bones Preserve Chemical Traces of Red Blood Cells
- CNN:恐竜の化石から赤血球の痕跡か、過去最も有力な証拠を発見(2026年11月7日)
- Nature Asia:7500万年前の恐竜の骨化石に保存されていた細胞(2015年)
- Nature Asia:骨化石にタンパク質が保存されていたことを示す最古の証拠(2017年)
アイキャッチはアラタサウルスの復元画です。画:Maurilio Oliveira/Wikimedia Commons(CC BY 4.0)。明るさ調整・文字入れあり。
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