動物|ニホンリス・絶滅危惧種
ニホンリスが山口で45年ぶり確認|なぜ消えた?中国・九州の現状
山口県は2026年10月20日、県のレッドリストで最も絶滅の可能性が高い「絶滅危惧ⅠA類(CR)」に指定しているニホンリスを、山口市の山林で確認したと発表しました。県内で確実な記録が残るのは1981年の捕獲が最後で、県は「45年ぶりの発見の可能性がある」としています。中国地方と九州の各県が、このリスをどう評価しているのかもあわせて整理しました。
この記事の結論
- 県立山口博物館と山口大学大学院の合同調査チームが、県内13か所に置いた自動撮影カメラのうち1台で、2025年11月7日にニホンリスの姿を記録しました。2026年4月からの追加調査では複数の個体が見つかっています。
- 山口県での確実な記録は1981年に岩国市錦町で捕獲されたのが最後です。撮影まで44年、発表の2026年で数えて45年が空いていました。
- 中国地方5県のレッドリストを並べると、東の鳥取・島根は準絶滅危惧、岡山・広島は絶滅危惧Ⅰ類、西端の山口は最上位のⅠA類と、西へ行くほど評価が厳しくなります。広島は2011年版で一度「絶滅」としたあと、再確認で絶滅危惧Ⅰ類に戻しています。
- 環境省は「九州地方のニホンリス」を絶滅のおそれのある地域個体群に挙げていますが、福岡・宮崎の現行リストに名前はなく、熊本は「確かな証拠がない」として評価を「保留」にしています。島根県のレッドデータブックは「現在は九州での生息確認はない」と書いています。
- 山口の個体群は数も繁殖状況もまだ分かっていません。主なすみかのアカマツ林が減っており、県は情報提供とモニタリングの継続を呼びかけています。
山口県で何があった?自動撮影カメラにニホンリス
山口県の発表によると、調査したのは県立山口博物館の動物部門と山口大学大学院 創成科学研究科の合同チームです。野生動物の生息状況を調べるため、県内13か所に自動撮影カメラを設置していました。経過は次のとおりです。
- 1959年岩国市錦町で捕獲県のレッドデータブックに残る記録の一つ目。
- 1981年同じ岩国市錦町で捕獲これを最後に、県内で確実な目撃・捕獲の情報が途絶えます。
- 2018年山口県レッドリスト2018で絶滅危惧ⅠA類(CR)2002年の初版から続けてCR。「37年間目撃情報はなく、絶滅が懸念される」と書かれました。
- 2025年11月7日山口市内の森林のカメラにリスが写る詳しい場所は、生息地を守るため公表されていません。
- 2026年4月〜同じ地点で追加調査、複数の個体を検出カメラを増やし、誘引用の巣箱(飲み水と、加熱処理したオニグルミのえさ付き)も設置しました。
- 10月20日山口県が発表「45年ぶりの発見の可能性がある」としています。
- 10月27日〜県立山口博物館の常設展示室でリスの展示を始める予定発表資料に記載された予定です。
発表は「かろうじて生き残った個体群を発見したと思われる」と表現する一方で、繁殖しているかどうか、何頭いるかはまだ分かっていないとしています。「45年ぶり」も「可能性があります」という書き方で、断定はしていません。
自動撮影カメラと誘引巣箱とは
自動撮影カメラは、赤外線センサーで動きを感じたときに動画を撮る装置で、24時間動き続けます。動物を捕まえたり傷つけたりせずに調べられるのが特徴です。誘引巣箱は、リスなど木の上で暮らすネズミの仲間を呼び寄せるための巣箱で、今回は飲み水とえさを備えたものが使われました(いずれも県の発表資料の用語解説より)。
ニホンリスとはどんな動物?

ニホンリス(学名 Sciurus lis)は日本にしかいない固有種のリスです。山口県の発表資料と県のレッドデータブックでは、次のように紹介されています。
- 大きさ:頭胴長16〜22cm、尾の長さ13〜17cm、体重210〜280g
- 見た目:背中は夏毛が赤褐色、冬毛が灰褐色。おなかは一年中白い。冬毛では耳の先にふさ毛が生える
- 暮らし:昼に活動し、主に木の上で過ごす。種子、果実、キノコ、昆虫などを食べ、小枝や樹皮で球形の巣を木の上に作る
- 繁殖:初春から秋にかけて年1〜2回、1回に2〜6頭を産む。妊娠期間は39〜40日
- 行動圏:約10ヘクタールで、メスどうしの行動圏は重ならない
環境省の解説によると、冬眠はせず、冬に備えて食べ物を地中に埋める習性があります。山口県のレッドデータブックは、県内ではアカマツ林に多いとしています。
中国地方5県と九州の評価を並べた
ニホンリスは国全体としては絶滅危惧種ではありません。ただ環境省レッドリスト2020は、「中国地方のニホンリス」と「九州地方のニホンリス」を「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」に挙げています。哺乳類のLPは全国で26集団あり、そのうち2つがニホンリスです。
では、地元の県はどう評価しているのか。中国地方5県と、九州で現行リストを確認できた3県の最新版を集めました。
| 県 | リスト(版) | ニホンリスの評価 | メモ |
|---|---|---|---|
| 鳥取県 | レッドデータブックとっとり第3版(2022年) | 準絶滅危惧 | 県東部を中心に中部・西部でも確認。近年は島根県境の近くでも複数の痕跡 |
| 島根県 | しまねレッドデータブック2026 | 準絶滅危惧 | 2004年版・2013/14年版は「情報不足」。2019年以降、県東部・中部で死んだ個体や写真が見つかっている |
| 岡山県 | 岡山県版レッドリスト2025 | 絶滅危惧Ⅰ類 | 環境省の「中国地方」の地域個体群にあたると併記 |
| 広島県 | レッドデータブックひろしま2021 | 絶滅危惧Ⅰ類 | 2011年版では「絶滅」。その後の調査で生息を再確認し、Ⅰ類に変更 |
| 山口県 | 山口県レッドリスト2018 | 絶滅危惧ⅠA類 | 2002年版からCR。1981年の捕獲が最後の確実な記録だった |
| 福岡県 | 福岡県レッドデータブック2024 | 掲載なし | 2011年版の哺乳類リストにも名前がない |
| 熊本県 | レッドリストくまもと2024 | 保留(選定せず) | 生息している(した)ことを示す確かな証拠がなく、どのカテゴリーにも選べないとして「保留」 |
| 宮崎県 | 宮崎県版レッドリスト2025年度改訂版 | 掲載なし | 哺乳類24項目に名前がない。絶滅はツキノワグマとニホンカワウソの2種 |
各県が公表しているリスト・レッドデータブックの本文から確認(2026年10月20日時点)。県によってカテゴリーの区切り方が少し違い、山口はⅠ類をⅠA類とⅠB類に分けています。鹿児島県の選定種一覧(動物、絶滅危惧Ⅰ類〜情報不足)にもニホンリスはありません。佐賀・長崎・大分は今回確認できていません。
西へ行くほど厳しくなる「中国地方のニホンリス」
表を東から西へ読むと、鳥取・島根は準絶滅危惧、岡山・広島は絶滅危惧Ⅰ類、山口は絶滅危惧ⅠA類です。中国山地の東側では生息の情報が増えており、山口県のレッドデータブックも「広島県・島根県の東部中国山地での個体群の回復がみられている」と書いています。島根県は2026年版で、ずっと「情報不足」だった評価を準絶滅危惧に改めました。
一方、中国地方の西の端にあたる山口では、記録が37年以上途絶えていました。今回の山口市での発見は、東から広がってきた個体群なのか、県内でひっそり残っていた個体群なのかが気になるところですが、発表資料はこの点に触れていません。「かろうじて生き残った個体群」という表現から、県内に残っていたとみているようですが、確かなことは今後の調査を待つ必要があります。
広島は一度「絶滅」にしてから戻した
広島県の資料(2022年4月)によると、レッドデータブックひろしまの2011年版でニホンリスは「絶滅」でした。2014年度から進めた改訂の調査の中で生息が再確認され、2021年版では「絶滅」から「絶滅危惧Ⅰ類」に変更されています。絶滅とされたあとで見つかった例は、山口が初めてではありません。
九州のニホンリスはどうなっている?
環境省は九州地方のニホンリスを地域個体群としてリストに残していますが、九州の各県の現行リストを開くと、様子はかなり違います。
- 福岡県:レッドリスト2024にも、2011年版の哺乳類リストにもニホンリスの名前はありません(同じリス科のムササビは準絶滅危惧、ニホンモモンガは絶滅危惧ⅠA類で掲載)。
- 熊本県:レッドリストくまもと2024は、ニホンリスについてもっとも踏み込んで書いています。1994年に狩猟鳥獣から外されるまでの狩猟報告には「リス類」の記録があるものの、ニホンモモンガやヤマネ、外来のクリハラリスを見間違えた可能性があり、信頼できる情報とは言えない。県の補完調査でも捕獲や目撃は一度もない。そのため「生息している(した)ことを示す確かな証拠は得られていない」として、どのカテゴリーにも選ばず「保留」にしています。国土交通省 九州地方整備局の資料が引く1998年のレッドデータくまもとも、「生息するという確実な情報は得られていない」としていました。
- 宮崎県:2026年3月公表のレッドリストの哺乳類24項目にニホンリスはありません。
- 鹿児島県:選定種一覧(動物)の哺乳類(絶滅危惧Ⅰ類〜情報不足)に名前はありません。
しまねレッドデータブック2026のニホンリスの解説には「本州・四国に広く分布するが、現在は九州での生息確認はない」とあります。九州の個体群は、国のリストには「絶滅のおそれがある」として残っている一方で、県のレベルでは生息そのものが確認されていない、というのが2026年10月時点の公的資料から読み取れる姿です。
「絶滅」とされていないのはなぜ?
福岡・熊本・宮崎のリストは、ニホンリスを「絶滅」の欄にも載せていません。理由を書いているのは熊本だけですが、熊本の説明のとおり、そもそも県内で確かな記録が乏しいことが背景にあるとみられます。一方で、山口や広島のように長く記録が途絶えた後に見つかる例もあり、「いない」と言い切るのは難しいのが野生動物の調査です。
なぜ山口のニホンリスは消えかけた?
山口県のレッドデータブックは、減った理由として次の3つを挙げています。もともと生息密度が低かったと考えられることに加え、
- スギ・ヒノキ・カラマツなどの造林で、えさになる木が減った
- 松枯れでアカマツ林が減った
- 道路で生息地が分断された
今回の発表でも、アカマツ林の減少が「予断を許さない状況」の理由に挙げられています。アカマツは山口県の「県の木」ですが、マツノザイセンチュウという線虫による松枯れと、人が山林を使わなくなったことによる植生の移り変わりで、県内のアカマツ林は60千ヘクタール(6万ヘクタール)以下まで減ったとされています。
鳥取県のレッドデータブックも、ニホンリスは完全な森林性の動物で、孤立した林にはすまないため、森のつながり(コリドー)と、すみかに適したマツ林を守ることが大切だと書いています。
外来のクリハラリス(タイワンリス)との見分け方
日本の野山や公園で見かけるリスには、外来種のクリハラリス(タイワンリスとも呼ばれます)もいます。クリハラリスは外来生物法の特定外来生物で、ニホンリスとの競合や農作物・樹木への食害が心配されています。環境省の解説をもとに違いをまとめます。
| 見るところ | ニホンリス | クリハラリス |
|---|---|---|
| 耳 | 冬毛になると耳先に毛が生え、とがって見える | 耳が短く丸い |
| おなか | 白色 | 名前のとおり栗色 |
| 季節の毛 | 夏毛と冬毛で見た目が変わる | 夏毛と冬毛のはっきりした違いがない |
| 法律の扱い | 日本固有種。中国・九州の個体群は環境省のLP | 外来生物法の特定外来生物 |
九州では、熊本県のレッドリストくまもと2024が、宇土半島のクリハラリスについて「効果的な捕獲が進み、根絶の見込みが高くなっている」と書いています。外来のリスの対策が進む一方で、在来のニホンリスは九州で確認されていない、という対照的な状況です。
山口県でリスを見かけたら
山口県は、県内でのニホンリスの情報提供を広く求めています。問い合わせ先は発表資料に載っている県立山口博物館(動物部門)です。なお、生息地を守るため、今回の発見地点は公表されていません。
山口のニホンリスのよくある質問
Q. 山口県でニホンリスが見つかったのはどこですか?
A. 山口市内の森林です。詳しい場所は、生息地を守るため公表されていません。2025年11月7日に自動撮影カメラに写り、2026年4月からの追加調査で複数の個体が確認されました。
Q. なぜ「45年ぶり」なのですか?
A. 山口県での確実な記録は、1981年に岩国市錦町で捕獲されたのが最後だったためです。撮影された2025年までは44年、発表した2026年で数えると45年になります。県は「45年ぶりの発見の可能性がある」と表現しています。
Q. ニホンリスは絶滅危惧種ですか?
A. 国全体では絶滅危惧種ではありません。ただし環境省レッドリスト2020は、中国地方と九州地方のニホンリスを「絶滅のおそれのある地域個体群」にしています。県のリストでは、山口が最上位の絶滅危惧ⅠA類、岡山・広島が絶滅危惧Ⅰ類、鳥取・島根が準絶滅危惧です。
Q. 九州にニホンリスはいますか?
A. 2026年10月時点の公的資料では、生息は確認されていません。福岡・宮崎の現行のレッドリストにはニホンリスの名前がなく、熊本は「生息を示す確かな証拠がない」として評価を保留しています。また、しまねレッドデータブック2026は「現在は九州での生息確認はない」としています。
Q. ニホンリスとタイワンリス(クリハラリス)はどう見分けますか?
A. おなかの色がいちばん分かりやすい違いです。ニホンリスは白、クリハラリスは栗色です。ニホンリスは冬毛になると耳先に毛が生えてとがって見え、クリハラリスは耳が短く丸い、と環境省は説明しています。
Q. 見つかったリスは今後どうなりますか?
A. 山口県は、主なすみかのアカマツ林が減っていることから予断を許さない状況だとして、モニタリングの継続と生息地の保全が必要としています。繁殖の状況や頭数はまだ分かっていません。県立山口博物館では10月27日からリスの展示を始める予定です。
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出典・参考資料
- 山口県:45年ぶりのリス生息確認について(2026年10月20日)/レッドデータブックやまぐち2019 ほ乳類(山口県レッドリスト2018)
- 環境省:環境省レッドリスト2020の公表について(別添資料3 環境省レッドリスト2020)/エコジン いきものクイズ(ニホンリスとクリハラリス)/特定外来生物等一覧
- 中国地方:レッドデータブックとっとり第3版 哺乳類/しまねレッドデータブック2026/岡山県版レッドリスト2025/広島県 レッドデータブックひろしまの改訂について(2022年4月19日)
- 九州地方:福岡県の希少野生生物 レッドリスト2024/レッドリストくまもと2024/宮崎県版レッドリスト(2025年度改訂版)/鹿児島県 レッドリスト 動物(選定種一覧)/国土交通省 九州地方整備局 川辺川ダム関連資料
数値・評価は2026年10月20日時点で公表されていたものです。写真はWikimedia Commonsのフリーライセンス画像(一部リサイズ・明るさ調整あり)。アイキャッチ:松原卓二「ニホンリス.jpg」(静岡県裾野市、CC BY-SA 3.0)。本文の写真:Wich'yanan L「Sciurus lis 86968412.jpg」(CC BY 4.0)。いずれも今回山口県で確認された個体ではありません。
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