ニュース|社会・くらし
タブネオスはなぜ新規投与中止?承認取り消し検討の理由と治験の疑義
難病の血管炎の治療薬「タブネオス」(一般名アバコパン)について、厚生労働省は2026年10月21日、新しい患者への投与を控えるよう医療機関などに求める通知を出しました。承認の根拠になった臨床試験(治験)の資料の信頼性に問題があり得るとして、年内をめどに承認取り消しを含む行政処分を検討すると報じられています。何が問題になったのかを、PMDAの審査報告書と米国の公式文書を突き合わせて検算し、副作用の報告や服用中の人が気をつけることと合わせて整理しました。
この記事の結論
- 厚労省は10月21日、タブネオスについて①新しい患者には投与を始めない ②投与中の患者は中止か別の治療への切り替えを原則に検討 ③続ける間は5月の安全性速報どおり慎重に使う、の3点を医療機関などに要請しました。承認時に出された資料の信頼性に問題があり得ることが理由です。
- 米国の公式文書によると、治験の結果が出た後、どちらの薬を飲んだか分かる立場の社員が9例を選んで判定をやり直させ、本剤群5例が「寛解維持」に変わりました。PMDAの審査報告書の数字から逆算すると、主要な評価の寛解維持率は再判定前62.7%→後65.7%。再判定前の結果は統計的に意味のある差になっていませんでした。
- 安全性の面では、肝臓の胆管が消えていく「胆管消失症候群」を含む重い肝機能障害が報告され、肝機能障害による死亡は10月時点で23例(報道)。5月の安全性速報に載った20例を数えると、19例は飲み始めて84日以内に起きていました。
- 服用中の人は、自己判断で中止しないでください。厚労省も、切り替えは患者ごとの病状を踏まえて検討するよう求めています。まず主治医に相談するのが原則です。
服用中の方へ(最初にお読みください)
この記事は報道と公的資料の内容を整理したもので、治療の判断をするものではありません。タブネオスを飲んでいる方は、自己判断で中止せず、必ず主治医に相談してください。製造販売元のキッセイ薬品工業は5月から「ご自身の判断で服用を中止せず、体調の変化があれば速やかに医師・薬剤師に相談を」と呼びかけています。厚労省も「患者ごとの病状、治療効果、他の治療選択肢」を踏まえて検討するよう求めています。問い合わせ先:キッセイ薬品工業 くすり相談センター(0120-007-622、平日9時〜17時40分)。
タブネオスの新規投与中止とは?10月21日に厚労省が決めたこと
タブネオスは、米国のケモセントリクス社(2022年に米アムジェンが買収)が創製し、日本では長野県松本市のキッセイ薬品工業が2022年6月から販売している飲み薬です。対象は、指定難病の顕微鏡的多発血管炎(MPA)と多発血管炎性肉芽腫症(GPA)。どちらも「ANCA関連血管炎」と呼ばれる病気で、腎臓や肺などの細い血管に炎症が起きます。
キッセイ薬品工業の10月22日の発表によると、10月21日の部会では、厚生労働大臣の「報告命令」に基づいて同社が出した回答書を、PMDAと厚労省が確認した結果が報告されました。そのうえで厚労省は、当面の対応として次の3点を医療機関などに求めています。
| 項目 | 内容(10月22日時点) |
|---|---|
| いつ・どこで | 2026年10月21日(水)18時からの薬事審議会 医薬品第二部会(非公開)に厚労省が報告。同日付で通知を発出 |
| 通知の宛先 | 都道府県、医師会、薬剤師会、学会など(日本経済新聞) |
| 要請① 新しい患者 | 投与開始を差し控える |
| 要請② 投与中の患者 | 中止または代替治療への切り替えを原則として検討。患者ごとの病状、治療効果、他の治療選択肢、治療変更に伴う影響を踏まえる |
| 要請③ 使い続ける場合 | 代替治療への切り替えまでの間などに使う場合は、5月21日の安全性速報(ブルーレター)を踏まえた適正使用を続ける(定期的な肝機能検査など) |
| 理由 | 承認審査のときに出された資料の信頼性に問題があり得ることが確認され、治療上の有益性がリスクを上回ると判断するのが難しいため |
| 今後 | 年内をめどに、承認取り消しの可能性を含む行政処分を検討(日本経済新聞・毎日新聞など) |
出典:キッセイ薬品工業「タブネオスに関する薬事審議会医薬品第二部会での報告・審議結果に関するお知らせ」(10月22日)、厚生労働省「薬事審議会 医薬品第二部会を開催します」、日本経済新聞(10月21日)、毎日新聞(10月21日)。厚労省の通知の本文は、10月22日朝の時点で同省サイトでは確認できませんでした。
注目したいのは、今回の判断の中心が「副作用が多いから」ではなく「効くことを示したはずの資料が信頼できない」という点です。毎日新聞によると、PMDAは10月、治験での不適切な操作や承認審査時にその説明がなかったことを確認し、「タブネオスの有効性が検証されたと判断することは困難」と厚労省に報告しました。効き目が確かめられていなければ、重い副作用のリスクと比べる土台がなくなります。
同じ「医薬品第二部会」が5年前に承認を了承
PMDAの審議結果報告書によると、タブネオスは2021年9月6日の医薬品第二部会で「承認して差し支えない」とされ、9月27日に承認されました。世界で最初の承認でした。今回、同じ部会に「資料の信頼性に問題があり得る」と報告されたことになります。
タブネオスとは?承認の根拠になった治験「ADVOCATE」
タブネオスは、白血球を炎症の場所に呼び寄せる「C5a」という物質の受け皿(受容体)をふさぐ、新しい仕組みの飲み薬です。ANCA関連血管炎の治療では、免疫抑制薬と大量のステロイドを組み合わせるのが標準ですが、ステロイドには感染症や糖尿病、骨粗しょう症などの副作用があります。タブネオスは「ステロイドを減らせる薬」として期待されました。
承認の根拠の中心は、1本の国際共同治験です。PMDAの審査報告書で確認できる承認時の概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請 | 2021年2月26日(キッセイ薬品工業) |
| 希少疾病用医薬品の指定 | 2019年3月4日 |
| PMDAの審査報告書 | 2021年8月26日。「有効性は示され、認められたベネフィットを踏まえると安全性は許容可能」 |
| 承認 | 2021年9月27日(米国の承認は同年10月7日。日本が世界初) |
| 発売 | 2022年6月7日(薬価収載は5月25日) |
| 効能・効果 | 顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症 |
| 用法・用量 | 成人は1回30mg(10mgカプセル3個)を1日2回、朝夕食後 |
| 根拠の治験 | 国際共同第Ⅲ相試験「ADVOCATE」(日本・ドイツ・米国など18の国・地域、2017年3月〜2019年11月)。331例を本剤群とステロイド(プレドニゾン)群に分け、二重盲検で比較。日本人は21例 |
| 主な結果 | 主要評価の52週後の寛解維持率:本剤群65.7%(109/166例)、プレドニゾン群54.9%(90/164例)。差12.5ポイント、p値0.0066(片側)で「優越性が検証された」 |
出典:PMDA「タブネオスカプセル10mg 審議結果報告書・審査報告書」、キッセイ薬品工業「国内における製造販売承認取得のお知らせ」(2021年9月27日)、同「新発売のお知らせ」(2022年6月6日)、米国連邦官報(2026年4月30日)
このとき、もう一つの評価である26週後の寛解率は本剤群72.3%(120/166例)、プレドニゾン群70.1%(115/164例)で、「ステロイドに劣らない(非劣性)」とされました。つまり、「ステロイドより優れている」と言えた根拠は52週の結果だけでした。米国の文書によれば、FDAは2016年の時点で「52週の寛解維持で優越性を示さなければ承認しない」と開発元に伝えていました。
対象の患者は約1万6,600人、7割超が70歳以上【独自集計】
難病情報センターが公表する「特定医療費(指定難病)受給者証所持者数」(衛生行政報告例)を見ると、2024年度末(2025年3月末)時点で顕微鏡的多発血管炎が12,922人、多発血管炎性肉芽腫症が3,682人、合わせて16,604人でした。承認直後の2021年度末(13,849人)から19.9%増えています。
年齢別に足し上げると、2つの病気を合わせた74.3%が70歳以上、顕微鏡的多発血管炎に限ると63.2%が75歳以上でした。一方、キッセイ薬品工業の推計では、タブネオスは2025年2月〜2026年1月の1年間で8,503人に使われています。受給者証を持つ人の数と単純に比べると約51%に当たり、発売から3年余りでこの病気の治療薬としてかなり広く使われていたことが分かります(受給者証を持たない軽症の患者もいるため、実際の割合はこれより低いとみられます)。
出典:難病情報センター「特定医療費(指定難病)受給者証所持者数」(令和6年度・令和3年度の年齢階級別表)を当サイトが集計。使用患者数は医薬品・医療機器等安全性情報No.430(2026年7月)の製造販売業者推計。
なぜ承認取り消しの検討に?治験「9例の再判定」を検算【独自】
問題の中身は、米FDAの医薬品評価研究センター(CDER)が2026年4月に公表し、4月30日の米国連邦官報に載った「承認取り下げの提案」に詳しく書かれています。要点は次のとおりです。
- 2019年11月5日、治験のデータを固め(データベースのロック)、どの患者がどちらの薬を飲んだかの「目隠し(盲検)」を外した。
- 11月8日の最初の解析では、主要評価の52週寛解維持で統計的に意味のある差が出なかった(両側p値0.1025)。
- その後、どちらの薬か分かる立場の開発元の社員が、判定を変えられそうな患者を探し、9例(本剤群6例、プレドニゾン群3例)を判定委員会の委員長に送って再判定を依頼した。社員は事前に「本剤群の5例が寛解維持に変われば有意になる」ことを試算していた。
- 再判定で本剤群6例のうち5例が「寛解維持」に変わり、11月20日に2回目のロック。この解析だけが申請資料として提出され、最初の解析は出されなかった。判定委員会の規程は、盲検を外した後の再判定を禁じていた。
連邦官報には、9例それぞれの判定が「再判定前」と「後」でどう変わったかの表(Table 1)が載っています。これをPMDAの審査報告書にある最終的な数字から差し引くと、再判定前の数字を逆算できます。
| 指標 | 再判定前(逆算) | 再判定後(申請資料) | 違い |
|---|---|---|---|
| 本剤群 52週寛解維持 | 62.7%(104/166) | 65.7%(109/166) | +5例 |
| プレドニゾン群 52週寛解維持 | 54.9%(90/164) | 54.9%(90/164) | 変化なし |
| 単純な差(ポイント) | 7.8 | 10.8 | 申請資料の調整後の差は12.5 |
| 統計的な判定 | 両側p値0.1025で有意差なし(FDA) | 片側p値0.0066で優越性あり(PMDA審査報告書) | 基準:片側2.5%(両側5%) |
| 本剤群 26週寛解 | 69.3%(115/166) | 72.3%(120/166) | +5例 |
| プレドニゾン群 26週寛解 | 68.3%(112/164) | 70.1%(115/164) | +3例 |
当サイトの計算:PMDA審査報告書の表41・脚注45の例数から、米国連邦官報(2026年4月30日)のTable 1で判定が変わった例数を差し引きました。日本の申請資料が米国と同じ解析結果を使っている前提です。p値は資料に書かれた値をそのまま載せており、当サイトでは計算していません(片側と両側で基準が異なります)。
本剤群の寛解維持率は、たった5例の判定の違いで62.7%から65.7%へ3ポイント上がり、ステロイドとの差は7.8ポイントから10.8ポイントに広がりました。166例のうちの5例でも、「有意差なし」と「優越性あり」を分けるには十分だったわけです。26週の寛解では両群とも判定が変わっていますが、52週の寛解維持で変わったのは本剤群だけでした。
日本経済新聞によると、厚労省も「9例の治療効果を外部の専門家委員会が再判定した際、患者がどちらの薬を投与されたか把握している人が候補症例を選んでいた」ことを問題視し、初回の解析結果や再判定に至る経緯が承認申請資料に適切に記載されていなかったとしています。なお、治験の結果を載せた2021年の論文(米医学誌NEJM)は、学術側の著者2人の申し出で2026年6月29日に撤回されました(Healio)。
開発元側の主張
連邦官報によると、米アムジェンは2025年8月のFDAへの回答で事実関係は認めつつ、「申請データは正確で、再判定は適切だった」と主張しています。FDAはこれに同意しておらず、アムジェン側には聴聞(ヒアリング)を求める機会が与えられています。キッセイ薬品工業の10月22日の発表によると、米国ではタブネオスは現在も提供されています。
肝機能障害の死亡は23例に 安全性速報の20例を集計【独自】
効き目の問題とは別に、日本では重い肝機能障害の報告が続いていました。厚労省の指示で2026年5月21日に出された安全性速報(ブルーレター)には、肝機能障害で亡くなった20例の一覧(発現年月・年代・性別・病名・副作用名・飲み始めから発現までの日数)が載っています。個人が特定されない形で集計しました。
| 集計項目 | 例数 | 補足 |
|---|---|---|
| 年代:70代 | 11 | 最多 |
| 年代:80代 | 6 | |
| 年代:60代 | 2 | |
| 年代:90代 | 1 | |
| 病名:顕微鏡的多発血管炎 | 18 | 多発血管炎性肉芽腫症は2例 |
| 胆管消失症候群 | 13 | ほかは肝機能異常・薬物性肝障害・急性肝不全など |
| 飲み始めから84日以内に発現 | 19 | 残る1例は245日。中央値は44日 |
| 発現が29〜56日(5〜8週目) | 12 | 最短は27日 |
| 発現年 | 20 | 2022年2・2023年5・2024年5・2025年8例 |
出典:厚生労働省/キッセイ薬品工業「安全性速報(ブルーレター)26-01号」の「肝機能障害死亡例の症例一覧」(2026年4月27日時点、本剤との因果関係が不明なものを含む)を当サイトが集計。
20例のうち18例が70歳以上で、19例は飲み始めて3か月以内に肝臓の異常が出ていました。このため5月の添付文書改訂では「警告」の欄が新設され、飲み始めから3か月は少なくとも2週間に1回、その後の3か月は4週間に1回、肝機能検査をするよう定められました。
その後の数字は報道で確認できます。時事通信によると、5月に公表された20例のうち1例は死因が異なると分かり、新たに4例の死亡が確認されて計23例になりました。毎日新聞は、厚労省の話としてこのうち6例は服薬との因果関係が否定できないと伝えています(7月の安全性情報No.430の時点では、20例のうち因果関係が否定できないのは2例でした)。
出典:時事通信(10月21日)、毎日新聞(10月21日)、医薬品・医療機器等安全性情報No.430。「因果関係が否定できない」は薬が原因と断定されたという意味ではありません。
いつ何が起きた?治験から承認取り消し検討までの流れ
- 2016年FDAが「52週の優越性」を承認の条件に開発元が当初考えた「劣らないこと(非劣性)」では承認しないと伝える。
- 2017年3月国際共同治験ADVOCATEが始まる日本も参加。2017年6月にキッセイ薬品工業が日本での開発・販売権を取得。
- 2019年11月最初の解析で有意差なし→9例を再判定5日に盲検解除、8日の解析はp=0.1025。20日に2回目のロック。
- 2021年2〜9月日本で申請・承認(世界初)2月26日申請、9月6日の医薬品第二部会で了承、9月27日承認。米国は10月7日。
- 2022年6月7日日本で発売2022年に米アムジェンが開発元を買収。
- 2025年5〜8月米国で「再判定」が明るみに株主訴訟の専門家報告書(5月29日)を受けFDAが照会(7月23日)、アムジェンが事実関係を回答(8月22日)。
- 2026年1月30日欧州医薬品庁(EMA)が審査を開始治験データの整合性への疑義を理由に。
- 2026年4月27日FDAのCDERが米国承認の取り下げを提案「有効性の十分な証拠がない」「申請資料に事実と異なる記載」。
- 2026年5月キッセイが新規投与を控えるよう要請→ブルーレター15日に要請、21日に安全性速報で死亡20例を公表。添付文書に「警告」を新設。
- 2026年6月EMAの委員会が取り消し勧告/論文撤回26日にEMAの委員会が勧告。29日にNEJMが学術側著者の申し出で論文を撤回。
- 2026年7月2日国内の研究班が診療ガイドラインから推奨を削除厚労科研の難治性血管炎研究班。
- 2026年8月4日欧州委員会がEUでの承認を取り消し英国は9月に新規投与を中止し、2027年3月に取り消す意向(日経)。
- 2026年10月21日厚労省が新規投与の差し控えを要請医薬品第二部会に報告し、同日付で通知。
- 年内(予定)承認取り消しを含む行政処分を判断へ報道による見通し。正式な決定はまだ出ていません。
出典:米国連邦官報、PMDA審査報告書、キッセイ薬品工業の発表(5月15日・5月21日・8月6日・10月22日)、EMA、難治性血管炎研究班、Healio、日本経済新聞
海外ではどうなった?米国・EU・英国と日本の対応
| 地域 | 当局の対応 | いまの扱い |
|---|---|---|
| 米国 | 2026年4月27日、FDAのCDERが承認の取り下げを提案。アムジェン側は反論し、聴聞の手続き中 | 現在も提供(キッセイの10月22日の発表) |
| EU | 6月26日にEMAの委員会が「治験はGCP(臨床試験の実施基準)に違反」として取り消しを勧告。8月4日に欧州委員会が取り消し | 承認取り消し済み(EMAの委員会は投与中の人の切り替えを勧告) |
| 英国 | 9月に新規投与を中止。投与中の患者に6か月の移行期間を設け、2027年3月に取り消す意向(日経) | 移行期間中 |
| 日本 | 10月21日に新規投与の差し控えを要請。年内をめどに承認取り消しを含む行政処分を検討(報道) | 投与中の人は中止・切り替えを原則に個別に検討 |
出典:米国連邦官報、EMA「EMA recommends revoking marketing authorisation for Tavneos」、キッセイ薬品工業(8月6日)、日本経済新聞(10月21日)
EMAは発表で、承認時に出された治験データは「誤っていて誤解を招くもの」で、効き目を示す根拠として使えないと結論づけました。市販後のデータや治験の事後解析も、効き目を示すには不十分としています。日本の判断も、この欧米の流れに沿う形になりました。
これからどうなる?承認取り消しの判断と服用中の人がすべきこと
年内に行政処分を判断、ただし「決定」ではない
報道によると、厚労省は年内をめどに、承認取り消しの可能性を含む行政処分の手続きを進める方向です。10月22日時点では承認は取り消されておらず、今回の通知は「当面の間」の対応です。正式な処分の中身や時期は、今後の厚労省の発表を待つ必要があります。
服用中の人は「主治医と相談」が原則
厚労省の要請は「中止または代替治療への切り替えを原則として検討」で、一律にすぐやめるよう求めるものではありません。キッセイ薬品工業の発表でも、対象の病気は重い希少疾病で、治療の変更は病状やほかの選択肢を踏まえて個別に判断する必要があるとされています。次のことを意識しておくとよいでしょう。
- 自己判断で中止しない。次の受診を待たずに不安なときは、主治医や薬剤師に連絡して相談する。
- 続けている間は肝機能検査を受ける。安全性速報では、飲み始めから3か月は少なくとも2週間に1回、その後の3か月は4週間に1回の検査が定められています。
- 体の変化に気をつける。添付文書では、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)やかゆみなど肝機能障害の徴候が投与中止の目安に挙げられています。気になる症状があれば早めに医師・薬剤師に相談する。
- 健康被害の救済制度がある。PMDAの安全性情報は、本剤で重い肝機能障害が起きた人は「医薬品副作用被害救済制度」の対象になる可能性があるとしています。
出典:キッセイ薬品工業(10月22日)、医薬品・医療機器等安全性情報No.430、PMDA「医薬品副作用被害救済制度」
診療ガイドラインからも推奨が消えた
厚労科研の難治性血管炎研究班は5月に「アバコパンの推奨は保留」とし、7月2日には、根拠の論文が撤回されたことを受けて「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023」からアバコパンの推奨を削除すると公表しました。
会社の業績にも影響
タブネオスの2026年3月期の売上高は115億2,400万円でした。キッセイ薬品工業は7月31日、タブネオスの売上が計画から大きく離れたとして、2027年3月期の売上高予想を70億円引き下げています(957億円→887億円)。10月22日の発表では、今回の件の業績への影響を精査中としています。参考までに、発売時の薬価(1カプセル1,403.90円)で1日6カプセルを1年続けると約307万円になり、高額な薬だったことも分かります(その後の薬価改定は反映していません)。
出典:キッセイ薬品工業(5月15日)、同「業績予想の修正に関するお知らせ」(7月31日)、同「新発売のお知らせ」(2022年6月6日)。年間の薬剤費は当サイトの単純計算で、実際の患者負担は医療保険や難病の医療費助成で大きく下がります。
タブネオスの新規投与中止に関するよくある質問
Q. タブネオスの新規投与中止とは何ですか?
A. 厚生労働省が2026年10月21日、血管炎の治療薬タブネオス(一般名アバコパン)について、新しい患者への投与開始を差し控えるよう医療機関などに通知したことです。投与中の患者は、中止または別の治療への切り替えを原則に、病状を踏まえて個別に検討するよう求めています。
Q. なぜ承認取り消しが検討されているのですか?
A. 承認の根拠になった国際共同治験で、結果が出た後に患者9例の判定がやり直され、その経緯や最初の解析結果が申請資料に書かれていなかったためです。厚労省は資料の信頼性に問題があり得るとし、年内をめどに承認取り消しを含む行政処分を検討すると報じられています。
Q. タブネオスを飲んでいますが、すぐにやめるべきですか?
A. 自己判断で中止しないでください。厚労省も、切り替えは患者ごとの病状や治療効果、ほかの治療の選択肢を踏まえて検討するよう求めています。まず主治医に相談し、続ける間は定期的な肝機能検査を受けることが大切です。
Q. どんな副作用が問題になっていますか?
A. 胆管消失症候群を含む重い肝機能障害です。肝機能障害による死亡は10月時点で23例と報じられ、5月の安全性速報に載った20例の多くは飲み始めて3か月以内に起きていました。
Q. 海外ではどうなっていますか?
A. EUでは2026年8月4日に承認が取り消されました。米国ではFDAの医薬品評価研究センターが4月27日に承認の取り下げを提案し、手続き中です。英国は2027年3月に取り消す意向と報じられています。
Q. タブネオスはどんな病気の薬ですか?
A. 指定難病の顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症(ANCA関連血管炎)の治療薬です。2021年9月に日本で世界に先駆けて承認され、2022年6月に発売されました。受給者証を持つ患者は2つの病気を合わせて約1万6,600人で、7割超が70歳以上です。
あわせて読みたい
出典・参考資料
- キッセイ薬品工業:薬事審議会医薬品第二部会での報告・審議結果に関するお知らせ(2026年10月22日)、タブネオスの適正使用について(5月15日)、安全性確保のための注意喚起について(5月21日)、欧州における販売承認の取り消しについて(8月6日)、業績予想の修正(7月31日)
- PMDA:タブネオスカプセル10mg 審議結果報告書・審査報告書(2021年)、医薬品・医療機器等安全性情報No.430(2026年7月)
- 厚生労働省:安全性速報(ブルーレター)26-01号(2026年5月)、薬事審議会 医薬品第二部会 開催案内(10月21日)
- 米国:Federal Register「Proposal To Withdraw Approval of New Drug Application for TAVNEOS」(2026年4月30日)
- 欧州:EMA recommends revoking marketing authorisation for Tavneos(2026年6月26日)
- 難病情報センター「特定医療費(指定難病)受給者証所持者数」、難治性血管炎研究班:5月18日のお知らせ・7月2日のお知らせ
- 報道:日本経済新聞(10月21日)、毎日新聞(10月21日)、時事通信(10月21日)、Healio(2026年7月10日)
再判定前の寛解率、死亡20例の集計、受給者証所持者数の合計・割合は、各資料をもとに当サイトが計算したものです。内容は2026年10月22日朝時点の情報で、医学的な助言ではありません。アイキャッチ写真:中央合同庁舎第5号館(厚生労働省が入る庁舎)/Lombroso・Wikimedia Commons(パブリックドメイン)、トリミング・文字入れあり。


コメント