国際・シンガポール
シンガポールの徴兵制|永住権で息子が対象になる条件を公式資料で確認
シンガポールには徴兵制があります。ただし「永住権を取ると自分が兵役に行く」わけではありません。移民庁(ICA)と兵役当局(CMPB)の公式文書を読むと、対象になるのは親の扶養や留学で永住権を得た息子です。仕事で永住権を取った親本人は、原則として対象になりません。この記事では、13歳・16.5歳・18歳という3つの節目、海外に出るときの7万5,000シンガポールドルの保証金、逃れたときの罰則、そして永住権を返上しても家族の申請にまで影響が及ぶという公式の記述まで、一次資料だけで確認します。
この記事の結論
- 永住権を取った親本人は、原則として兵役の対象ではありません。ICAが対象として名指ししているのは「外国人学生として、または親のスポンサーで」市民権・永住権を得た男性です。つまり扶養家族として永住権を得た息子が対象になります。
- 節目は3つです。13歳で出国許可(Exit Permit)の対象になり、16.5歳で兵役登録の義務が生じ、18歳で入隊します。海外に住んでいても同じです。
- 13歳以上の対象者が3か月以上国外に出るには出国許可が必要で、保証金はS$75,000(約912万円)か、両親の前年の合計年収の50%の高いほうです。
- 二重国籍でも免除されません。CMPBは「息子が二重国籍でも13歳になれば兵役の対象であり続ける」と明記しています。
- 永住権を返上して逃れる道もふさがれています。ICAは、兵役を終えずに永住権を失うと本人だけでなく家族の長期滞在申請や再入国許可の更新にも重大な悪影響があると公式に書いています。
- 兵役の中身は全日制2年と、その後およそ10年の予備役。義務が終わるのは40歳(士官などは50歳)です。
結論:対象は「親」ではなく「息子」
「シンガポールに移住すると徴兵されるのか」という問いには、はっきりした答えがあります。働きに来た大人の永住権保持者は、原則として兵役に取られません。取られるのは、その息子です。
根拠はシンガポール移民庁(ICA)の永住権申請ページにあります。同ページの「National Service Liability(兵役義務)」の項には、次の2つの文が並んでいます。
「1970年徴兵法(Enlistment Act 1970)のもと、免除される場合を除き、すべての男性シンガポール市民および永住権保持者は兵役に服する義務がある」
「外国人学生として、または親のスポンサーのもとでシンガポール市民権または永住権を付与された男性の申請者はすべて兵役の対象であり、16歳半に達したときに兵役登録を行い、18歳に達したのち最も早い機会に全日制の兵役に入隊する予定が組まれる」
前半だけを読むと「永住権保持者は全員対象」に見えますが、後半が実際の線を引いています。親が就労実績で自分の永住権を取った場合、その親は入隊しません。一方で、その親のスポンサーで永住権を得た息子は、生まれた場所や住んでいる場所にかかわらず対象になります。この構造が、日本語の解説記事でしばしば「永住権を取ると徴兵される」と雑にまとめられている部分です。
13歳・16.5歳・18歳:3つの節目で何が起きるか
兵役の話は18歳から始まると思われがちですが、実際には13歳から行政上の管理が始まります。CMPBの公式ページにそって時系列で並べます。
- 13歳出国許可の対象になる。通知の手紙が届くCMPBは「1970年徴兵法のもと、13歳以上のすべての男性シンガポール市民および永住権保持者は出国許可の要件に従う必要がある。13歳になったときに、この要件を知らせる手紙を送る」と説明しています。海外に住んでいる場合も同じです。
- 16.5歳兵役登録の義務が生じる「1970年徴兵法のもと、すべての男性シンガポール市民および永住権保持者は16歳半に達した時点で兵役登録の対象となる」。登録通知の手紙が届き、指示に従って登録します。海外在住者にもオンライン登録の通知が送られます。
- 17〜18歳健康診断と職種の希望、進学による延期の申請健康状態によって配属先が決まります。進学中の場合は延期を申請でき、ICAは「Aレベル、ポリテクニックのディプロマ、または同等の高等教育前の資格までは取得を認める」としています。
- 18歳全日制の兵役に入隊「18歳に達したのち最も早い機会に入隊」。進学のために延期していた場合は、その課程を終えた時点か18歳になった時点の遅いほうで入隊します。
- 20歳前後除隊し、予備役へ全日制の2年を終えると予備役(NSman)になります。CMPBの保護者向けページは、その後の標準的な流れを「7回の主要な年次訓練と10年の予備役期間」と示しています。
CMPBの海外在住者向けページは「すべての男性シンガポール市民および永住権保持者は、その時点でシンガポールに居住していなくても、13歳になった時点で兵役の対象となる。18歳に達した時点で、最も早い機会に入隊する」と明記しています。日本で生まれ育った場合でも、永住権を持っていれば同じ扱いです。
3か月以上の出国には許可と保証金がいる
ここが、日本の家庭にとって最も現実的に効いてくる部分です。13歳を超えた対象者が一定期間シンガポールを離れるには、出国許可(Exit Permit)と保証金が必要になります。
CMPBは制度の目的を「若いうちに海外に居住する、または海外に留学した兵役対象者が、兵役の責任を果たすためにシンガポールに戻ってくることを確実にするため」と説明しています。保証金の額も公式に示されています。
S$75,000、または両親の前年の合計年収の50%に相当する額の、いずれか高いほう。
S$75,000は1シンガポールドル121.64円(2026年9月14日のレート)で換算すると約912万円です。両親の年収合計がS$150,000(約1,824万円)を超える家庭なら、その50%のほうが適用されます。
申請にあたっては、両親の就労状況と前年の所得税評価通知書を提出するよう求められます。つまり世帯の収入が高いほど保証金も高くなる設計です。駐在員として高い給与を得ている家庭ほど、負担が大きくなります。
逃れたときの罰則は年齢で段階が変わる
CMPBの「Offences(違反)」ページは、違反の種類と罰則を明記しています。注目すべきは、16歳半を境に罰則が跳ね上がることです。
| 違反の内容 | 対象 | 罰則 |
|---|---|---|
| 出国許可なしの海外滞在 | 13歳〜16歳半 | 罰金のみ S$2,000以下。禁錮刑なし |
| 出国許可なしの海外滞在 | 16歳半超 | 禁錮あり S$10,000以下の罰金、または3年以下の禁錮、またはその両方 |
| 兵役通知・報告命令に従わない | 対象者全員 | 禁錮あり S$10,000以下の罰金、または3年以下の禁錮、またはその両方 |
| 兵役そのものを履行しない | 対象者全員 | 禁錮あり 同上。40歳未満の違反者は処罰を受けたうえで結局兵役に服する必要がある |
最後の行が重要です。CMPBは「すべての兵役違反者は、有罪判決を受けた場合S$10,000以下の罰金または3年以下の禁錮、またはその両方に処せられる。40歳未満の兵役違反者は、それでもなお兵役に服さなければならない」と書いています。罰を受ければ免除されるわけではなく、罰と兵役の両方が課されます。
CMPBの海外在住者向けページは、はっきりこう書いています。「あなたの息子が二重国籍を持っている場合でも、13歳になれば兵役の対象であり続け、16歳半に達したときに兵役登録を行うことは依然として義務である。18歳になれば、最も早い機会に全日制の兵役に入隊することになる」。日本国籍を併せ持っていることは、免除の理由になりません。
永住権を返上すれば済む話ではない
「兵役が嫌なら永住権を返せばいい」という説明をよく見かけます。しかしICAの公式サイトは、その先に何が起きるかを2文で書いています。
「兵役に服さず、または全日制の兵役を終えずに永住権を放棄または喪失することは、現在であれ将来であれ、シンガポールで就労・就学する申請や、あらゆる長期の在留資格の申請に重大な悪影響を及ぼす」
「兵役に服さず、または全日制の兵役を終えずに永住権を放棄または喪失することは、あなたの家族の長期在留資格の申請、そうした資格をスポンサーする能力、および再入国許可の更新にも悪影響を及ぼす」
つまり影響は本人だけにとどまりません。父親や母親の再入国許可の更新、きょうだいの在留資格にまで及ぶと、政府が自ら書いています。永住権の返上は「きれいに縁を切る」手続きではなく、家族全体の将来のシンガポールとの関係に影を落とす選択だ、というのが公式の立場です。
市民権についても同様で、ICAは「兵役義務を果たしていない男性シンガポール市民が市民権の放棄を希望しても、政府はその申請を保留することがある」としています。
兵役の中身:2年の全日制と、40歳まで続く予備役
全日制は2年
CMPBは「あなたは全日制国民兵役要員(NSF)として2年間、現役として勤務する」と説明しています。1967年の制度開始当初は2年半でしたが、現在は2年です。
除隊後も10年ほど訓練が続く
全日制を終えると「作戦即応国民兵役要員(NSman)」になります。CMPBの保護者向けページが示す標準的な流れは、7回の主要な年次訓練(High-Key In-Camp Training)と10年の予備役期間です。義務が終わる年齢も明記されています。
士官および上級の軍事専門家は50歳、それ以外の階級は40歳で予備役の義務が終わります。18歳で入隊してから、20年以上にわたって関係が続く制度です。
手当は階級で決まる
全日制の期間中は給与ではなく「手当(allowance)」が支給されます。国防省(MINDEF)は2025年3月に改定を発表し、2025年7月1日から支給額が引き上げられました。主な階級は次のとおりです。
| 階級(陸軍/警察/民間防衛) | 改定前(月額) | 改定後(月額) |
|---|---|---|
| 新兵(Recruit)・二等兵 | S$755 | S$790(約9万6,000円) |
| 上等兵(Lance-Corporal) | S$775 | S$815 |
| 伍長(Corporal) | S$825 | S$865 |
| 三等軍曹(3rd Sergeant) | S$1,075 | S$1,130 |
| 少尉(2nd Lieutenant) | S$1,275 | S$1,340 |
| 中尉(Lieutenant) | S$1,455 | S$1,530 |
※MINDEF「Factsheet: Updates to Initiatives for NSFs and NSmen」(2025年3月3日)の表より。金額には月額S$75以上の職種手当が含まれます。潜水士や警察戦術部隊員、消防要員など一部の職種にはさらに上乗せがあり、伍長でも月S$1,290になる例が公式に示されています。円換算は1シンガポールドル121.64円(2026年9月14日)で計算しました。
日本人にとって、これはどれくらい身近な話か
外務省が毎年10月1日時点で公表している「海外在留邦人数調査統計」によれば、シンガポールに住む日本人は3万3,397人で、都市別では世界で4番目に多い場所です。前年の3万2,565人から2.55%増えました。ロサンゼルス都市圏、バンコク、ニューヨーク都市圏に次ぐ規模で、日本人全体の2.6%がこの1都市に集中しています。
なぜ日本人家庭は「市民権」ではなく「永住権」を選ぶのか
ここで日本の法律が関わってきます。国籍法11条1項は「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」と定めています。シンガポール国籍を取得すれば、その時点で日本国籍を失います。
だから長期に滞在する日本人家庭の多くは、市民権ではなく永住権を選びます。永住権であれば日本国籍は保持できるからです。ところがその選択の結果として、扶養家族として永住権を得た息子に兵役義務が生じます。日本の国籍法とシンガポールの徴兵法が、家族の進路の上で交差するのがこの制度の本質です。
ICAは永住権の申請ページで「男性の申請者はすべて、この申請を進める前に兵役について www.cmpb.gov.sg で情報を確認すること」と求めています。息子を扶養家族に含めて申請するかどうかは、その子の18歳以降の2年間を決める判断になります。
よくある質問
Q. シンガポールに移住すると徴兵されますか?
A. 就労などで自分の永住権を取った大人の男性は、原則として徴兵されません。対象になるのは、外国人学生として、または親のスポンサーで永住権・市民権を得た男性です。実際には、親の扶養家族として永住権を得た息子が該当します。ICAが公式サイトでこの区別を明記しています。
Q. 永住権を持つ息子が日本に住んでいても対象になりますか?
A. なります。CMPBは「シンガポールに居住していなくても、13歳になった時点で兵役の対象となる」と明記しています。海外在住者にも登録通知が送られ、3か月以上の海外滞在には出国許可と保証金が必要です。
Q. 日本国籍を持っていれば免除されますか?
A. されません。CMPBは「息子が二重国籍を持っている場合でも、13歳になれば兵役の対象であり続け、16歳半での登録は依然として義務である」と書いています。なお日本の国籍法11条により、シンガポール国籍を自分の意思で取得した場合は日本国籍を失います。
Q. 永住権を返上すれば兵役から逃れられますか?
A. 手続き上は可能ですが、代償が明示されています。ICAは、兵役を終えずに永住権を放棄・喪失すると、本人の将来の就労・就学・長期在留の申請に重大な悪影響があり、さらに家族の長期在留資格の申請やスポンサー能力、再入国許可の更新にも悪影響が及ぶと公式に警告しています。
Q. 出国許可の保証金はいくらですか?
A. S$75,000、または両親の前年の合計年収の50%に相当する額の、いずれか高いほうです。S$75,000は2026年9月14日のレートで約912万円にあたります。申請時には両親の就労状況と前年の所得税評価通知書の提出を求められます。
Q. 大学進学のために入隊を遅らせることはできますか?
A. 一定の範囲でできます。ICAは、Aレベル、ポリテクニックのディプロマ、または同等の高等教育前の資格までは取得を認めるとしています。それらを終えた時点か18歳になった時点の遅いほうで入隊します。大学の学部課程まで無期限に延期できるわけではありません。
あわせて読みたい
出典・参考資料
- シンガポール移民庁(ICA)「Apply for Permanent Residence」National Service Liability
- 中央人力基地(CMPB)「Exit Permit and bond」(2026年4月13日更新)/「Offences」/「Registration and documentation」/「Overseas pre-enlistees」/「Discover NS」/「Your son’s NS commitments」
- シンガポール国防省(MINDEF)「Factsheet: Updates to Initiatives for NSFs and NSmen」(2025年3月3日)
- 外務省「海外在留邦人数調査統計」令和7年(2025年)10月1日現在
- 国籍法(e-Gov法令検索) 第11条(国籍の喪失)
本記事はシンガポール政府および日本政府の公開情報にもとづく解説であり、個別の申請結果や法的な判断を保証するものではありません。制度は変更されることがあるため、実際の申請や手続きの前にICAおよびCMPBの最新の案内をご確認ください。個別の事情については、シンガポールの弁護士や当局に直接ご相談ください。


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