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9.11被告の司法取引、なぜ最高裁は退けた?公判は2028年
2001年の米同時多発テロ(9.11)を計画したとして起訴されているハリド・シェイク・モハメド被告ら3人が、2024年に軍の検察側と結んだ司法取引(有罪を認める代わりに死刑を求めない合意)の復活を求めていた件で、米連邦最高裁は現地時間10月19日、上告を受理しない決定をしました。これで取引の撤回が確定し、死刑が求刑されうる公判へ進むことになります。軍事委員会は公判の開始を2028年6月5日と決めています。なぜ取引は消えたのか、なぜ20年以上も裁判が終わらないのかを、裁判所と国防総省の公開記録から整理します。
この記事の結論
- 米最高裁は10月19日(月、米国時間)、モハメド被告ら3人の上告を理由を示さずに退けました。反対意見はなく、カバノー判事はモハメド被告側の事件(26-13)の審理に加わっていません。
- 3人は2024年7月31日に「全起訴事実で有罪を認める代わりに死刑を求めない」という合意を結びましたが、わずか2日後の8月2日に当時のオースティン国防長官が撤回しました。
- 2025年7月、DC巡回区控訴裁は2対1で「国防長官には撤回する権限があった」と判断。最高裁がこれを見直さなかったため、撤回が確定しました。撤回から最高裁の決定まで808日かかっています。
- 軍事委員会の公開記録は14,698件(2026年10月20日取得)。2012年の起訴(付託)から、2028年6月5日の公判開始まで約16年、9.11からは約27年かかる計算です。
- グアンタナモ収容所の収容者は、2009年1月の242人から15人まで減りました。そのうち7人が軍事委員会で審理中(2025年1月の国防総省発表)です。
公開記録の件数は米軍事委員会(Office of Military Commissions)のサイトの検索で当サイトが集計。非公開・未掲載の書面は含みません。
9.11被告の司法取引、最高裁は何を決めた?
米最高裁が10月19日に出した命令一覧(Order List)と、事件記録(26-13)・同(25-1335)をもとに、決まったことを整理します。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 決定日 | 2026年10月19日(月、米国時間)。日本時間では19日夜 |
| 裁判所 | 米連邦最高裁(同日の命令一覧=Order List) |
| 事件 | 26-13(モハメド被告ら)/25-1335(ビン・アタッシュ被告)。いずれもDC巡回区控訴裁の事件番号25-1009の判断に対する上告 |
| 結論 | 上告を受理しない(certiorari denied)。理由は示さず、反対意見の記載もなし |
| 判事 | 26-13について「カバノー判事は審理と決定に加わらなかった」と記載 |
| 意味 | 2024年8月2日の国防長官による合意撤回を有効とした控訴裁の判断が確定 |
| 今後 | 軍事委員会での公判へ。開始は2028年6月5日(2026年8月26日の公判日程命令) |
上告を求めたのは、ハリド・シェイク・モハメド(Khalid Shaikh Mohammad)被告、ムスタファ・ハウサウィ(Mustafa al Hawsawi)被告、ワリード・ビン・アタッシュ(Walid bin ‘Atash)被告の3人です。モハメド被告とハウサウィ被告が1つの申し立て(26-13)、ビン・アタッシュ被告が別の申し立て(25-1335)を出していました。
最高裁が「上告を受理しない」と決めても、控訴裁の判断が正しいと認めたことにはなりません。ただ、事件としてはこれで控訴裁の判断が最終的なものになり、司法取引の撤回が確定しました。CBS News(10月19日)も、最高裁の決定で取引の撤回が維持されたと伝えています。
同じ日に退けられた74件の一つ
10月19日の命令一覧で「上告不受理」の欄に並んだ事件番号は、当サイトが数えたところ74件でした。最高裁が審理を受け入れるのは上告のごく一部です。今回の2件も、ほかの事件と同じく短い一文の決定で退けられました。
事件記録を見ると、2件はいずれも9月28日の協議(conference)に回されたあと2回延期され、10月9日分も延期、10月16日の協議を経て19日に決定が出ています。延期の理由は記録には書かれていません。
司法取引はなぜ2日で撤回された?
経緯は、DC巡回区控訴裁の判決(2025年7月11日)に詳しく書かれています。
合意の中身
軍事委員会の「招集権者(Convening Authority)」は、起訴するかどうかや取引を結ぶかどうかを決める役職です。2023年8月21日に国防長官から任命されたスーザン・エスカリエ氏(退役准将)が、2023年10月から2024年7月まで弁護側と交渉しました。
- 3人は2024年7月29日・30日に、署名した合意案を提出
- 3人はすべての起訴事実で有罪を認める。政府は死刑を求めない
- 遺族が被告に直接問いかけ、被告が正直に答える公開の量刑審理を受ける
- 7月31日、招集権者が3人の合意に署名
CBS Newsは、合意の内容を「終身刑に服する」ものだったと伝えています。同じく起訴されているアンマル・アル・バルーチ(本名アリ・アブドゥル・アジズ・アリ)被告は、この取引を結んでいません。
国防長官が「自分が決める」と撤回
合意が明らかになった直後の8月2日、当時のロイド・オースティン国防長官は、招集権者に宛てた覚書で3人との合意から手を引くと表明しました。判決によると、長官は「これほど重い決定の責任は、上位の招集権者である自分が負うべきだ」という趣旨を述べ、招集権者から取引を結ぶ権限を取り上げています。
争点は「被告はもう約束を守り始めていたか」
軍事委員会の規則では、招集権者が合意から手を引けるのは「被告が合意の約束を果たし始める前」までです。弁護側は、8月1日・2日の審理で3人がFBI捜査官への尋問をしなかったことなどが「約束の履行」にあたると主張しました。軍事委員会の判事(2024年11月6日)と軍事委員会審査裁判所(同12月30日)はこの主張を認め、撤回は無効だとしました。
しかし控訴裁は2025年7月11日、2対1で政府側の訴えを認めました。多数意見は、国防長官には撤回する権限が「議論の余地なく」あったとし、合意文書のどこにも「証人に尋問しない」という約束は書かれていないので、履行はまだ始まっていなかったと判断しています。ウィルキンズ判事は一部反対の意見を書きました。控訴裁は2026年1月6日に再審理の申し立ても退け、被告側は最高裁へ上告していました。
- 2024年7月31日招集権者が3人の合意に署名死刑を求めない代わりに全起訴事実で有罪を認める内容。
- 2024年8月2日オースティン国防長官が撤回招集権者の権限を取り上げ、自らが判断すると表明。
- 2024年11月6日軍事委員会の判事「撤回は無効」被告はすでに約束を果たし始めていたと判断。
- 2024年12月30日審査裁判所も撤回を認めずその後、判事は有罪答弁の手続きを2025年1月10日から開くと決定。
- 2025年1月9日DC巡回区控訴裁が手続きを一時停止政府の申し立てを受け、有罪答弁の前日に止めた。
- 2025年7月11日控訴裁が2対1で撤回を有効と判断2026年1月6日には再審理の申し立ても退けた。
- 2026年10月19日最高裁が上告を受理せず撤回が確定し、取引は復活しないことになった。
9.11の裁判はなぜ20年以上終わらないのか
9.11では2,976人が亡くなりました(控訴裁判決の記載)。CBS Newsによると、被告らは2003年に拘束され、CIAの秘密施設で「強化尋問」と呼ばれる手法を受けたあと、2006年にグアンタナモへ移され、2008年に正式に起訴されました。
2009年11月13日には当時のホルダー司法長官が、5人をニューヨークの連邦裁判所で裁くと発表しましたが、実現しませんでした。軍事委員会の記録では、改めての起訴(付託)は2012年4月4日です。そこから14年以上、公判前の手続きが続いています。
公開記録は14,698件、公判前の書面が積み上がる
軍事委員会のサイトで公開されている9.11事件(KSM II)の書面を、提出日の年ごとに数えました(2026年10月20日取得)。2013年の1,702件が最多で、2013〜2025年の平均は年1,051件です。
2026年は10月19日まで。合計14,697件+日付不明1件=14,698件。申し立て・回答・決定・審理記録などを含み、非公開の書面は数えていません。
長引いている理由の一つが、被告の供述を証拠に使えるかどうかの争いです。控訴裁判決によると、2007年(ビン・アタッシュ被告は2008年も)にFBIが被告から聴いた内容をまとめた記録(LHM)があり、2026年の公判日程の命令でも、このLHMの証拠排除を求める申し立ての決着が、公判開始の前提として扱われています。当初の被告5人のうちラムジ・ビン・アル・シブ被告は別の事件として扱われており、2026年8月の命令に名前が並ぶ被告は4人です。
公判は2028年6月5日から
検察側は2027年1月11日の公判開始を求めていましたが、軍事委員会の判事は2026年6月1日、未解決の申し立てが多すぎるとして日程の決定をいったん見送りました。そして8月26日の命令(AE 989BB)で、検察側の求めた日付を退け、2028年6月5日(月)から陪審にあたる審判員(パネル)の選任を始めると決めました。冒頭陳述は選任の30日後です。命令には2027年12月から2028年2月にかけての準備の期限も並んでおり、この日程は各期限が守られることが前提になっています。
「死刑求刑あり」の公判に戻る
控訴裁判決によると、3人はそれぞれ7つの罪で起訴されており、そのうち5つは法律上、死刑を科すことができる罪です。取引が消えたことで、検察側は死刑を求めることができます。ただ、死刑判決が出るか、出た場合に執行されるかは、公判と上訴の結果しだいで、10月20日時点では分かりません。
グアンタナモ収容所にはいま何人いる?242人から15人へ
9.11の被告が収容されているキューバのグアンタナモ米海軍基地の収容所について、公表された人数を時系列で並べました。
| 時点 | 収容者 | 出典 |
|---|---|---|
| 2009年1月22日 | 242人 | 司法省タスクフォース最終報告 |
| 2014年12月7日 | 136人 | 国防総省 発表 |
| 2017年1月19日 | 41人 | 国防総省 発表 |
| 2018年5月2日 | 40人 | 国防総省 発表 |
| 2021年7月19日 | 39人 | 国防総省 発表 |
| 2024年12月18日 | 27人 | 国防総省 発表 |
| 2025年1月6日 | 15人 | 国防総省 発表 |
| 2026年10月16日 | 15人 | アムネスティ・インターナショナル |
2009年1月22日(オバマ大統領が収容所の閉鎖を命じる大統領令に署名した日)に242人いた収容者は、2025年1月6日に11人がオマーンへ移されて15人になり、2026年10月16日のアムネスティの報告でも15人のままです。減少率は93.8%です。
2025年1月6日の国防総省の発表では、15人の内訳は次のとおりでした。
- 移送可能と判断済み:3人
- 定期審査(PRB)の対象:3人
- 軍事委員会で審理中:7人
- 軍事委員会で有罪確定・服役:2人
移送可能と判断された3人について、アムネスティ(10月16日)は、いずれも20年以上拘束されたまま移送が実現していないとしています。
これまでに移送された人は739人
米国家情報長官室(ODNI)の報告によると、2024年10月1日時点で、グアンタナモからほかの国などへ移送された元収容者は739人です。このほか9人が収容中に死亡し、1人は米ケンタッキー州で服役しています。報告は、移送された人のうち137人(18.5%)がテロ活動に再び関わったことが確認されたとしています。
日本の読者にとっての意味は?日本人24人が犠牲に
9.11では日本人も犠牲になっています。外務省は「米国同時多発テロにおいては、24名の日本人も犠牲になった」としています。今回の決定で、被告の有罪答弁によって裁判が早く終わる道は閉じ、遺族は2028年からの公判を待つことになります。最高裁の事件記録によると、9.11の遺族でつくる団体「September Eleventh Families for Peaceful Tomorrows」と66の遺族も、この上告について意見書(アミカス・ブリーフ)を出していました。
日本の「司法取引」とは仕組みが違う
日本にも「合意制度」と呼ばれる司法取引がありますが、仕組みは今回の米国の合意と大きく違います。刑事訴訟法350条の2の条文を読むと、次の点が分かります。
| 項目 | 米国(今回の合意) | 日本(合意制度) |
|---|---|---|
| 何と引き換えか | 被告自身がすべての起訴事実で有罪を認める | 他人の犯罪について供述や証拠の提出で協力する |
| 検察側の約束 | 死刑を求めない | 起訴しない・特定の罪名で起訴する・特定の刑を求めるなど |
| 死刑を科せる罪 | 含まれる(7つの罪のうち5つ) | 死刑・無期拘禁刑にあたる罪は対象外 |
日本の合意制度は、容疑者や被告が他人の犯罪について供述や証拠の提出で協力し、その見返りに検察官が起訴を見送るなどの仕組みです。対象になる「特定犯罪」も、死刑または無期拘禁刑にあたる罪を除くと条文に書かれています。自分の罪を認める代わりに死刑を避けるという今回のような取引は、日本の制度にはありません。
米国の列は、今回の合意についての控訴裁判決の記載にもとづきます。日米の比較は条文の範囲での整理で、個別の事件の扱いを示すものではありません。
最高裁の決定の報道(X)
CNNと最高裁の専門サイトSCOTUSblogは10月19日(現地時間)、連邦最高裁が9.11の被告らの司法取引をめぐる上告を受理しなかったと伝えました。
Supreme Court declines to review Pentagon decision to throw out plea deals for 9/11 alleged conspirators that had ruled out death penalty. https://t.co/Tnmf3htcRi pic.twitter.com/wyXVKySGWT
— CNN Breaking News (@cnnbrk) October 19, 2026
Supreme Court declines to take up cases on vehicle seizures in Chicago, 9/11 plea disputes, and the president’s removal of National Labor Relations Board membershttps://t.co/HuVuNxfUFC
— SCOTUSblog (@SCOTUSblog) October 19, 2026
9.11被告の司法取引のよくある質問
Q. 9.11被告の司法取引の上告を最高裁が退けたのはいつですか?
A. 米国時間の2026年10月19日(月)です。最高裁は同日の命令一覧で、ハリド・シェイク・モハメド被告ら(26-13)とワリード・ビン・アタッシュ被告(25-1335)の上告を受理しないと決めました。理由は示されていません。
Q. 司法取引の内容はどんなものでしたか?
A. 2024年7月31日に結ばれた合意で、3人がすべての起訴事実で有罪を認める代わりに、政府は死刑を求めないというものです。遺族が被告に直接問いかけられる公開の量刑審理も含まれていました。
Q. なぜ司法取引は撤回されたのですか?
A. 当時のオースティン国防長官が2024年8月2日、これほど重い決定の責任は上位の招集権者である自分が負うべきだとして、合意から手を引いたためです。2025年7月、DC巡回区控訴裁は2対1で長官に撤回の権限があったと判断し、最高裁もこれを見直しませんでした。
Q. 9.11の裁判はいつ始まりますか?
A. 軍事委員会の判事は2026年8月26日の命令で、公判を2028年6月5日(月)から始めると決めました。審判員(パネル)の選任から始まり、冒頭陳述はその30日後です。日程は準備の期限が守られることが前提です。
Q. 被告は死刑になるのですか?
A. 取引が消えたため、検察側は死刑を求めることができます。起訴された7つの罪のうち5つは死刑を科すことができる罪です。ただ、判決や執行がどうなるかは今後の公判と上訴しだいで、2026年10月20日時点では決まっていません。
Q. グアンタナモ収容所には今何人いますか?
A. 15人です。2009年1月の242人から減り、2025年1月6日に11人がオマーンへ移されて15人になりました。2026年10月16日のアムネスティの報告でも15人で、そのうち3人は移送可能と判断されたまま収容されています。
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出典・参考資料
- 米連邦最高裁:Order List(2026年10月19日)、Docket No. 26-13、Docket No. 25-1335
- 米DC巡回区控訴裁:In re United States of America, No. 25-1009(2025年7月11日)
- 米軍事委員会:Military Commissions Cases(9/11: Khalid Shaikh Mohammad et al. (2))、AE 989O(2026年6月1日)、AE 989BB(2026年8月26日)
- 米国防総省:Guantanamo Bay Detainee Transfer Announced(2025年1月6日)、同(2024年12月18日)ほか2014・2017・2018・2021年の発表
- 米司法省:Guantanamo Review Task Force 最終報告(2010年1月22日)、司法長官の発表(2009年11月13日)
- 米国家情報長官室「Summary of the Reengagement of Detainees Formerly Held at Guantanamo Bay, Cuba」
- Amnesty International「USA: Three cleared to leave Guantánamo, still waiting」(2026年10月16日)
- CBS News「Supreme Court turns away appeal from alleged 9/11 mastermind Khalid Sheikh Mohammed」(2026年10月19日)
- 外務省「アフガニスタン情勢と日本の支援」、e-Gov法令検索「刑事訴訟法」
公開記録の年別件数・上告不受理の件数・日数の計算は当サイトによる集計です。被告は起訴された段階で、有罪は確定していません。写真:アイキャッチ=Daderot/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)、本文=Farragutful/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)。アイキャッチはトリミング・文字入れ・明るさ調整あり。


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